酒寄さんちの今日のご飯 作:通りすがりの匿名さん
金曜日の朝。
カチッとしたスーツを身に纏った彩葉に、ランチバッグを手渡す。
「はいこれ、お弁当!」
「ありがとう、かぐや」
「今日はめちゃくちゃ忙しいんでしょ? 片手でも食べられるおにぎらずにしといたよ!」
「助かる〜! 今日はうち主導の発表会だからね。ゆっくりご飯食べる間無さそうだし、めちゃくちゃありがたい」
カバンの中にお弁当をしまう彩葉に、訊く。
「そうだ。今日は何食べたい?」
「ん〜、何でもいいよ。かぐやの作る料理はみんな美味しいからね」
……ん?
「……ねえ、彩葉」
「ん?」
「"何でもいい"は一番困るやつっていつも言ってるじゃん?」
「あ、はい」
「いってらっしゃい」
「はい。行ってきます」
ーーー
――かぐやの作る料理はみんな美味しいからね。
くっ、買い物中だってのに、彩葉の言葉を思い出すと顔がニヤける……!
まあ? 何でもいいって言われて困ってますけど? あんな事言われたら? 美味しいの作ってやりますよこんにゃろう! 待ってろ彩葉!
さてさて、気を取り直して今日晩ごはんは何にしようか。
今日の発表会に向けてここ最近ずっと忙しそうだったし、今夜は何かご馳走でも作ってあげたいけど……うーむ。
とりあえず精肉コーナーに行ってきます何か良いお肉無いか見てみる。
およ? なんかガラスケースの方に良いお肉があるぞ?
ほほう、F1のB5ですかぁ。これは良いお肉じゃないですか。
F1とは交雑牛のこと。
脂とお肉が美味しい黒毛和牛と、身体の大きい乳牛を交雑させて、身体が大きくて美味しいお肉がとれるのが交雑牛だ。
脂身の風味とかは黒毛和牛より一段落ちるけど、比較的安価で良質な肉質が特長かな。
そして肉の格付け。
A5とかのランクだけど前のA〜Cのアルファベットは歩合等級と言って、牛1頭からどれだけのお肉がとれたかのランク。
後ろの数字は、肉質等級。
サシの入り方や肉と脂の光沢、肉質の締まり具合で評価されるランクで1〜5に分けられる。
A5とかAランクの方が良いみたいに思われてるけど、ぶっちゃけ食べる側としては後ろの数字の方が大事だよね。農家さん的にはAランクの方が絶対良いんだけど。
そんなわけで、マイバッグに入ってるこのF1のB5ランクのサーロインは、普通にめちゃ良いお肉なわけです。
黒毛和牛の〜とか、ブランド牛の〜とかだと、彩葉の高校時代に染み付いた貧乏性が発動して緊張しちゃうからこれくらいで丁度良い。
今夜はステーキだよ彩葉!
メインはサーロインステーキ。となると、付け合わせに定番のくし切りのフライドポテト、ニンジンのグラッセは確定。
後は、サラダはドレッシングで酸味を効かせて、口の中をさっぱりさせたり、お肉の消化を助ける為に、オレンジを入れたやつにしよう。
スープはポタージュが良いかな。ステーキは塩、サラダが酸味でちょっと刺激強めになるから甘いトウモロコシのポタージュにしよう。
それから、ライスか、パンか……あっ、彩葉たぶんお酒飲むよね。ステーキだから赤ワインかな。となるとパン一択だね。帰りにパン屋さんでバゲットを買っておこう。
よし。メニューは決まった。
ーーー
家に帰って、調理開始だ。
最初に野菜の下処理から始めていく。
ポタージュにするトウモロコシは包丁で真っ二つに切ってから実を芯から外す。断面を下にすると安定して外しやすい。
トウモロコシの芯は後で使うので取っておく。
玉ねぎは薄くスライス。半分はポタージュに入れよう。サラダにする分は水にさらしておく。
サラダに使う野菜は玉ねぎ、フリルレタス、ベビーリーフ、ラディッシュ、オレンジ。
ラディッシュは薄くスライス。フリルレタスは食べやすい大きさにちぎって、ベビーリーフと一緒にさっと水で洗って、しっかりと水気を切っておく。
オレンジは皮を剥いて、房からも取り出す。サラダには果肉のみを使う。
残った皮は後で何か別の料理に使おう。
ステーキの付け合わせ。
ニンジンは皮を剥いて食べやすい大きさにカット。縦に4等分して面取りする。
ジャガイモはこの時期の新じゃがを使うから皮剥きは無し。4等分にカットして一旦水にさらした後、水気をしっかり拭き取っておく。
野菜の下処理が終わったら次はお肉だ。
スジや分離しそうな所をトリミングして、肉の重さの1%の塩を振って常温で20分放置。
お肉の表面に浮いた水分はしっかり拭き取る。
さてさて、それじゃあ我が家自慢の4口もあるコンロフル稼働のお時間です。
ステーキに使うのは鉄フライパン。冷たい状態のそれにレンチンして溶かした牛脂を引く。
お肉を入れたら、弱火でじっくり火入れを開始。表面温度が60度を越えないよう、こまめに返しながらお肉の中心温度50度を目指す。
表面の色が変わってきたら、一度火を止めてお肉を休ませる。
フライパンの上にバット網を乗せて、その上にステーキを置いて余熱で火を通していく。フライパンの上に置くのは、お肉を急激に冷まさないようにするためだ。
休ませたら表面の水分を拭き取って、再度火入れをしていく。
ステーキの火入れと同時進行でポタージュを作る。
まずは鍋に水を入れてトウモロコシの芯を投入。火にかけて芯から出汁をとる。
沸騰してきたら芯を取り出して、トウモロコシの身と、スライスした玉ねぎを投入。生のトウモロコシは火が通りやすいから3分くらい加熱したらOK。
これをミキサーに入れて、牛乳も入れたら、滑らかになるまでミキサーをオン。
最後に舌触りが滑らかになるよう、裏漉したら塩で味を整えてトウモロコシのポタージュ完成。
揚げ物はフライドポテトだけだから揚げ物用の鍋じゃなくて、スキレットを使う。
新じゃがは水分が多いからしっかり表面の水分を拭き取って素揚げにしていく。
表面が彩葉色……こほん。きつね色になったらOK。
最後に塩を振って完成。
ニンジンのグラッセはフライパン……は場所が無いのでコンパクトな卵焼き器を流用。
水、砂糖、バターを入れて加熱。ぐつぐつと沸いてきたらニンジンを入れて弱火にする。
水分が飛んで1割を下回るくらいになったら火を強めて、焦げないように揺すりながら一気に水分を飛ばせばニンジンのグラッセの完成。
さて、ステーキに戻りまして、そろそろ良い具合に日が通ってるはず。
お肉の内部温度を調べるには鉄串を刺して下唇に当てて温度を見たりするけど、確実性を重視して料理用温度計を使う。先端をお肉に真上から刺して内部温度を測ってみれば内部温度は52度。よし、ステーキもばっちりだ。
「ただいま〜」
丁度晩ごはんが出来たタイミングで彩葉が帰ってくる。ナイスタイミングだ。
「おかえり〜! ごはんもうすぐ出来るよ!」
「お、タイミングばっちりじゃん。何かやる事ある?」
「んー、じゃあワイン選んどいて。今日はステーキです!」
「おおっ、ご馳走じゃん。じゃあ赤ワインだな。前にかぐやが色々届けてもらったやつから選んでいいの?」
「いいよ〜」
彩葉がワインを選んでる間にバゲットをトースターに入れて焼きながら、晩ごはんの盛り付けをする。
サラダを盛り付けて、ドレッシングを手早く作る。
オリーブオイルに、リンゴ酢、レモン汁、はちみつ、塩を混ぜてはちみつが溶けたらいったん味見。よし、酸味で爽やか。
ポタージュを器に入れて、メインのステーキは平皿の中心に置いて、フライドポテトとニンジンのグラッセを添える。
お、丁度良いタイミングでバゲットが焼けた。
「ワインとグラスの準備かんりょ〜♪」
「こっちも晩ごはんの準備もかんりょ〜♪」
2人でその場限りの歌を歌いながら席に着く。
ワインのコルク栓を抜いて、彩葉のグラスに、続いてかぐやのグラスに注ぐ。
ちょっと彩葉のグラスのワイン多くない? こりゃガッツリ飲むつもりだなこれ。後でワインに合うおつまみ作ってあげよーっと。
「それじゃあ、彩葉。発表会、お疲れ様でした。ということで!」
「「乾杯〜!」」
チン、とグラス同士を軽く合わせて、ワインをひと口。そしてステーキをひと口。
「あぁ〜、美味しい。疲れた身体にお肉とお酒が染みる〜」
「にへへへ」
感想たくさんありがとうございました。
ストックは割とあるんですが、こっちに書く間が中々取れず申し訳ないです。
ゆっくり続けていきますので、お付き合いお願いします。