白薔薇家の秘蔵っ子   作:八田里

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1話 想定外のエンカウント

 さてさて、皆さまはトラ転という言葉をご存知でしょうか。そうです、なろう系で有名な転生ものです。といっても、私の場合は過労死だったのですが。

 

 享年30歳。

 仕事も人生もこれからというときでした。稼いだお金を全部趣味につぎこんで、おかげで自宅には溢れんばかりの百合漫画に百合小説。家族はびっくりしているだろうな。

 

 死んだ人は賽の河原にいくというけれど、私は白い光に満ちた空間で大きな女神様と相対していた。

 

 「あなたは今回で9回目の人生を過ごしました。そういうわけで、途中面接をさせていただきます。」

 猫の命は9つあるというけれど、それって人間にも適応されるのだろうか。

 

 「いえ、魂は等しいですから猫や人とか関係ないですよ。思ったことはすぐに伝わるので、遠慮なく相談しちゃってください。」

 えらいフランクというか親しみやすい女神様だ。女神様は手元の書類をパラパラ捲ると、説明を始めた。

 

 「次にあなたが生きるのは、『マリアさまが見てる』に酷似した世界です。」

 え、本当に。

 学生時代のバイブルで小説も漫画も全て網羅していたあの世界にいくことができるの?

 

 「だが、肝に命じなさい。今からあなたが生まれるのは現実。お伽噺ではないのだから。」

 それはどういうことでしょうか?

 

 「そうね。簡単に言えばあなたが知っていることと違う運命が待ち受けているということよ。例にあげると、この世界では久保栞の両親は生きていて彼女はリリアンに入学しない。」

 え、それなら大幅な原作変更があるのでは?。

 私の驚きを見透かしたように女神は微笑む。

 

 「ただ思いのままに生きればいいの。一つ助言をすれば未来に縛られず今を見ること。」

 さあ、いきなさい。

 その言葉を最後に私の意識は暗闇に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで、はいバーン。

 JR のM駅が最寄りの女学校がここリリアン女学園です。

 

 今日は入学式ということもあって校門前は新入生とその家族で大変賑わっております。私は両親が外国に行っているので叔母と一緒に来ています。

 

 イヤーここまで長かった。

 なんせ生まれたときから記憶があるのでね。精神年齢が実年齢+30で、楽しくも色々気の遣う日々でした。

 

 桃組のクラス表を見て名前を探すとありました。

 大島桜、それがこの世界での私の名前です。

 

 

 「あ。」

 

 後ろのほうに「支倉令」の名前もある。

 支倉令とは言わずと知れたミスターリリアン。黄薔薇ファミリーの一員で、常に面白いものに飢えている姉と、イケイケGo-Goな妹に挟まれている苦労人。

 

 凛々しい剣士の姿とは裏腹に乙女な内心のギャップがたまらない罪な美少年(美少女)だ。

 1年後に起きる黄薔薇革命では強く生きてほしい。

 

 まあ、入学早々に黄薔薇のつぼみに目をつけられたとあったから、深く関わることはないだろう。山百合会と剣道部で忙しいだろうし。

 

 みんな大好き祥子さまは原作通り松組で、その下にはなんと「蟹名静」の名前が。「お」の次は「か」だから少しもおかしくないのだけれど、これは期待せずにはいられない。

 あるか、あるのか?

 祥子さまつながりで蟹名静が佐藤聖の妹になる未来を夢みてもいいのかな。選挙のあとに告白する静さんの場面好きだったなぁ。「餞別」と言ってキスを送る聖さまカッコよすぎだし。

 

 まあその後の志摩子さんの涙に全部持っていかれたけれど。

 お姉さまに会って安心して泣くとか、母性に目覚めましたね。

 

 あ、今さらですが白薔薇ファミリー推しです。

 なんなら前の家は志摩子さんの家の近くでした、とまあそれは置いておいて。

 

 教室にはいると、私の席は窓際の列の中央だった。窓から校庭の桜がみえる。

 そういえば、リリアンと言えば桜よりも銀杏が思い浮かぶのはなぜだろうか。乙女の園に銀杏って奥ゆかしい感じがする、のかなぁ。いとおかし。

 

 全員が席に座るとまもなく担任の先生が入ってきて入学式が始まった。作中でも何度も登場する講堂に内心テンション爆上がりだ。

 

 在校生の挨拶は蓉子さまの姉の紅薔薇さまだった。

 チラッと来賓の席のあたりをみると白薔薇様と黄薔薇様も座っている。前世の年も合わせたら年下なのに、あのオーラは何だろう。全校生徒の憧れなのも納得だ。あれじゃあ神格化されても仕方ない。

 

 

 美人を鑑賞しているうちに式典はつつがなく終わった。教室でホームルームが終われば即解散。叔母には先に帰って腕によりをかけて夕飯の入学祝いの仕込みをすると行ったので、この後は暇だ。

 

 一旦、家に帰ってお昼ごはんを食べに行ってもいいし、クラスメイトと親睦を深めてもいい。

 

 待てよ。

 鞄の中に配られたプリントをつめているときにいいことを思いついた。せっかくリリアンに入学できたのだから、自分へのご褒美に聖地巡礼をしよう。単なる読者だった頃、私もこういう校舎に通いたいと夢みていた純粋な気持ちに報いようぞ。

 

 放課後の予定が決まったので、今度はどこへ行こうか考える。

 マリア像は朝見たし、これからも見ると思うのでカット。薔薇の館も一般生徒が1人で彷徨くと目立つので除外。残る選択肢は温室や音楽室、いや講堂もいいかも。普段はあまり使われない灰色の脳細胞が活性化する。

 

 チーン、整いました。

 

 一般通過白薔薇ファミリー好きの回答。

 それはずばり御聖堂だ。

 敬虔なクリスチャンの志摩子が祈りを捧げる場所、そして聖が生涯忘れられない人と出会う場所。入学式の日に出会ったとは書いてなかったから、むしろ今日こそ行くべきだ。思い立ったが吉日とはまさにこのこと。ステンドグラスをじっくり見てみたかったんだよなー、プリーツを乱さないように気をつけて意気揚々と教室を出た。

 

 

 緑の銀杏並木を歩くと近づいてくる大きな建物。中にいる人を驚かせないように重厚な飾り扉をあける。

 

 真っ先に目に飛び込んでくるのが磔にされたイエス様。右にはお目当てのステンドグラス、左にはリリアンを象徴する聖母像があった。天井の天使の絵はまるで学園に通う生徒のよう。

 シスターも生徒もいないようで、とても静かだ。

 

 綺麗だな。信仰心をもっていないけれど、鮮やかなステンドグラスの光がイエス様を照らしている光景は、自然と私を跪かせた。どうか。この先の学園生活がよいものになりますように、ファンとしてでしゃばらず壁になれますように。祈りを捧げていると後ろからガタガタと物音がした。

 

 「誰?」

 

 振り返ると、髪の長い欧米人のような美人がこちらを見ていた。原作では白薔薇様、今は白薔薇のつぼみの佐藤聖だ。まさか此処でエンカウントするなんて。大御堂で寝ているのは早朝だけじゃないのか?

 

 原作だと、春のある日、珍しく早起きした聖が大聖堂で寝ながら物思いに耽っていると祈りを捧げていた栞と出会うのだ。

 

 窓から射しこむ朝日に照らされた栞は純白で神々しく、やさぐれていた聖の心にスッと入りこむ。面影をしっかり胸に刻みつけられた聖は以後、この出会いを何度も反芻するのだ。

 

 作中屈指の名シーン。

 久保栞がリリアンにいない以上観られないと血涙を飲んだが、まさか此処でその埋め合わせを?

 

 神様、ちょっと待ってください。私は後方腕組み保護者面ポジが一番美味しいと思う厄介原作厨なのです。強火なのです。

 それとも自分の尻は自分でふけという啓示なのでしょうか。

 

 「誰と聞いているんだけど。」

 なかなか答えないことに痺れを切らしたのか、苛立ったように尋ねてくる。

 

 「ごきげんよう、白薔薇のつぼみ。私は今年入学した1年です。」

 でも、やっぱり推しに認知されたくない。自意識過剰かもしれないけれど、お聖堂エンカウントは警戒したほうがいい。

 

 「お邪魔してすみません。失礼いたします。」

 いくら祐巳ちゃんにセクハラ三昧だった聖さまといえど、この頃は人間不審だったはず。お聖堂から出ても跡を追いかけてくることはなかった。しゃぁ、逃げ切ったぜ。

 

 家に帰ると留守電に伯母さんからの伝言がはいっていた。今日は従姉も早く帰ってくるそうで、準備ができたら早くきなさいとのこと。現在住んでいるのは引っ越したばかりの新居だ。私を残していくことを心配した両親がセキュリティばっちりのところを選んだので、なかなかいい物件。少なくとも前世の私の給料では住めないグレードだ。

 

 従姉は原作に名前は出てこないけれど、リリアンに幼少期から通っているチャキチャキのリリアン生だ。入学前からリリアン女学園独特のルールをレクチャーしてくれた。令さんと由乃ちゃんほどではないけれど、お互い一人っ子同士だった私たちは姉妹のように仲がいい。

 

 「桜は外部生だから困ることが多いと思うわ。何かあったら三年の松組に来なさい。」

 「ハーイ。ありがとうございます。何かあったら頼りにします。」

 私の軽い返事に久仁子さんは苦笑いしていた。

 

 「学園では言葉遣いに気をつけるのよ。」

 「わかってる。」

 それから話題は入学式にうつった。

 

 「入学式の紅薔薇さま、素敵だったわ。」

 「久仁子さんは同じクラスになれたの?」

 「いいえ。でも、黄薔薇様と同じクラスよ。」

 

 久仁子さんは紅薔薇さま推しらしく山百合会の話はかなり熱がはいっていたことをここに記す。聞けばファンクラブなるものがあるらしい。一般人でこんなに人気を集めるなんてパねえす薔薇様方。従姉に白薔薇のつぼみと会ったことは内緒にしとかないと。言えば、洗いざらい吐くまで帰してもらえそうにないことは容易に想像できた。

 

 次の日。

 朝、マリアさまに祈りを捧げて教室にはいると聞こえてきたのはお馴染みの挨拶。

 

 「ごきげんよう。」

 「ごきげんよう。」

 わー、本当に挨拶が「ごきげんよう」なんだ。前世の女子校だと皇族御用達の目白の学校レベルじゃないと聞かないぞ。

 

 「ねえ、桜さんはおメダイをどなたにかけていただきたい?」

 お昼休みの話題は近々行われる新入生歓迎会についてがほとんどだった。確か、来年は祥子さまがアヴェマリアを演奏するんだよなぁ。それで祐巳ちゃんがファンになって。

 2人で連弾するシーンは何度も読み返した。

 

 「私はどなたでも。」

 「どなたも素敵だものね。わかるわ。」

 適当に返事をしたのに、いいように解釈してくれたらしい。山百合会の幹部はアイドル視されているって作中でもあったけれど、それはマジだった。前世よりも娯楽の少ない時代。スマホもなくて携帯電話すら珍しい社会では、身近なものに関心がいきやすいのかもしれない。

 

 クラスメイトたちはこちらが調べようとしなくても色々教えてくれる。

 幹部以外の学年の有名人、とくに綺麗所の情報は充実していた。

 

 「桜さんは綺麗な赤毛で可愛らしいから、きっと姉妹の申し出がたくさんくるでしょうね。」

 私は今世は日本では目立つ赤毛に緑色の目を持って生まれてきた。父親が北欧の人なのだ。若い頃、日本の文化に興味を持っていた父は大学のときに渡来して母と出会った。そして、結婚して今はフリーの通訳として世界を飛び回っている。娘の前でもイチャイチャするおしどり夫婦だ。

 

 放課後、私はまた一人で校内をうろうろしていた。

 

 「これが桜の木か。」

 やっぱりね。白薔薇家好きにとってはこの桜の木はマストなわけで、舌の根も乾かぬうちにまた聖地に赴いていました。

 

 「そして秋になったら銀杏でいっぱいになると。」

 ビニール袋と割りばしを持った志摩子さんが銀杏拾いをしている姿を想像する。心底幸せという顔で一つ一つ、丁寧に拾いあげるんだろうな。そうだ、来年のために身を隠せるところを探しておくか。決してやましい気持ちからではない。うん。

 

 少し歩いて、1年組のたまり場になっていたところに腰を落ち着けると、どこからか猫が現れた。

 もしかしてゴロンタ?

 嘘、めっちゃかわいい。

 

 「ニャンちゃんこっちおいで。」

 自分でも気持ち悪いほどの甘い声で呼ぶ。警戒心が薄いようで差し出した手をペロペロ嘗めてきた。

 

 「名前は何て言うの?」

 「ゴロンタよ。」

 ふざけて尋ねると後ろから返事がかえってきた。聞き覚えのある声。ゆっくり振り返ると、そこにいたのは聖さまだった。

 エンカウント率高すぎない?

 

 「ごきげんよう。お聖堂で会って以来ね。」

 「ごきげんよう。白薔薇のつぼみ。」

 

 しかめっ面ながら、気さくに手を挙げる聖さま。原作開始よりもクールとはいえ、なんだか風当たりが柔らかくないですか。確か、この時期の聖さまはナイフみたいに切れて、触ろうとする人を全員遠ざけるような繊細な内面を抱えているはず。

 

 「猫が好きなの?」

 「はい、犬よりも猫派です。」

 「家で飼ってるの?」

 「いえ、ペットはいません。」

 

 聖さまは隣に腰をかけるとポケットから猫用のおもちゃをだして、子猫相手に遊び始めた。美人と猫の戯れマジで眼福です。ありがとうございます。この美しい光景を邪魔しないようにソッと腰をあげると、

 「待って。」

 腕を掴まれた。ちょ、痛。これ絶対、跡になってるよ。そのまま肩が触れるほど近くに座らされる。

 

 「あなたの名前を教えてよ。私だけ知られているのはズルいわ。」

 「名無しの権兵衛です。」

 「ハ、何それ。教えたくないの?」

 「はい。わざわざ覚えていただく必要のない名前ですから。」

 

 生意気なことを言ってすみません。でも、どうしても認知されたくないんです。名前さえ知られていなければ、あとで呼び出しづらいだろうと考えてのこと。聖さまが苦労して人に関わるタイプでないからこそ、この作戦は活きる。ふっ、勝ったな。

 

 「じゃあ、あなたのクラスは?」

 「そうしたら名前がすぐにわかってしまうじゃないですか。内緒でございます。」

 「中等部にはいなかったわよね。」

 「はい。今年度から通うことになりました。」

 「ふうん。」

 

 わあ、祐巳ちゃんの言う通り近くでも綺麗な顔立ち。これは興味をもたれていますね。確定演出きちゃったよ。どこが琴線を触れたというのだ。この頃のあなたは手負いの獣並みの警戒心じゃありませんでしたっけ?

 

 「中学はどこだったの?」

 「他県の公立です。父親が海外に行くので、親戚の家が近い都内に引っ越しました。」

 「そうなの。どこに住んでいるの?ご親戚の家?」

 「リリアンから徒歩30分のところです。親戚の家ではなく父が借りたマンションに住んでいます。」

 母が父についていったので実質独り暮らしなのは言わなくていいだろう。

 

 「もう、よろしいでしょうか。」

 久保栞も自分から会話を切り上げたはずだ。だったら、私から終わりにしても大丈夫なはず。

 

 「どうしても、名前を教えてくれないのね。わかったわ。私はこれからあなたのことをモーディーと呼ぶ。モンゴメリの愛称よ、権兵衛よりは似合うんじゃない?」

 流石、白薔薇の蕾。よくそんな洒落た名前が出てくるものだ。

 掴まれていた手が放される。さすることはしないけどジンジン痛む。

 

 「それでは失礼いたします。」

 素早く、しかし丁寧に頭を下げて校舎のほうへ逃げた。

 

 フー。

 あっぶね。

 あれ以上近くにいたら化けの皮が剥がれそうだった。愛想笑いに疲れた頬をむにむに動かす。てか、あだ名をつけられるって名前を知られるよりも不味いのでは?

 

 「それにしても、とんでもない美人だったなぁ。」

 失態は横にナイナイして、間近でみた推しの顔を思い出す。さすが、人気上位キャラクターである。エキゾチックな顔立ちは幼さが残るもののとんでもなく色っぽかった。

 

 しかも、自分の顔の良さを自覚しているのがイイ。お姉さまに「顔で選んだ」と言われて喜ぶなんて可愛すぎてつらい。卒業まで信じているなんて純粋過ぎだし、強者だろ。

 

 「ついでに、とんでもない馬鹿力。」

 人目につかないようにトイレで腕をまくると掴まれていたところが赤くなっていた。聖さまもやれば林檎を潰せるんじゃないかしら。

 

 肝は冷えたけど収穫は大きい。名前は教えていないし、クラスも言わなかったし、こんな失礼な1年探すどころか関わりたくもないだろう。推しとの会話は嬉しかったけれど、少しだけ後ろめたかった。本当ならアレは久保栞が過ごす時間だったのだから。この世界のリリアンには久保栞はいないけれど、蟹名静さんはいるし、蓉子さまや先代白薔薇様など聖さまを大切に思っている方はたくさんいる。

 

 わざわざ私が関わらなくていいのだ。女神さまも好きに生きなさいと言ったし、私はこの三年間を推し活に捧げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、思っていた時期が私にもありました。

 

 「モーディー、今日のお弁当は何?」

 「おにぎりです。」

 「ふうん。」

 どうして私は白薔薇様にお昼を集られているのでしょう。いや、お金を払ってくれるからタカりではないのだけど。

 私と聖さまは若葉萌える銀杏の下でお昼をご一緒しています。

 

 「あ、梅干しはいってる。」

 「嫌いでしたか?」

 「ううん、逆。好きなほう。でも、ピクルスは得意じゃないわ。」

 

 聖さまはピクルスが苦手っとメモメモ。タルタルソースを作るときは前もって聞いてみよう。

 

 どうしてこうなったのか。

 話は数日前まで遡る。

 

 

 「ゲ。」

 「また貴女ね。ごきげんよう、失礼なモーディー。」

 「ごきげんよう、白薔薇のつぼみ。山百合会のほうはいいのですか?」

 「私がいなくても大丈夫よ。」

 

 食べ損ねたお弁当を食べようと人気のないベンチを探してうろうろしていたら、お昼寝中の聖さまを見つけた。

 

 「何でランチボックスを持ってるの?」

 「委員会で時間がなかったんです。」

 図書委員になった私はさっそく、委員会の集まりに行っていた。

 

 「へー。」

 「興味なさそうですね。」

 「まあね。食べないの?」

 「食べますよ。」

 

 これだけ話して場所を変えるのも変なので、空いているところに座ってお弁当と水筒を取り出す。認知されたくないだけで、傷つけたいわけじゃないんだ。避けて、聖さまの心を暗くするのは嫌だった。それにこの方は嫌だったら別の場所に行くか、追い払うだろうと思った。

 

 「ホットサンドなんてお母様は手の込んだものを作るのね。」

 「母は父について行ってるのでいませんよ。自分で作ってます。」

 「え。じゃあ、あなたは今、家で1人なの?」

 「はい。他の人には言わないでくださいね。」

 「言わないけど。女の子が1人で住んでいるって危ないわ。親戚の家に下宿するわけにはいかなかったの?」

 「親戚といっても他所の家に寝泊まりするのは息が詰まるじゃないですか。それに高校生なんですからか家事くらいできますよ。」

 

 外見はともかく中身は2度目の成人式越えてんだぞ。まだ何か言いたそうな聖さまに指を突きつける。

 

 「どうせいつかは1人で生きて行くんです。それが早いか遅いかの違いだけですよ。」

 親のすねは齧っているがな。

 言うだけ言ってホットサンドを食べる。中身はトマトとチーズ、それにハムを一枚。目玉焼きとマヨネーズだけのものも美味しい。バナナと蜂蜜のデザート風もなかなか合う。ところで、さっきから聖様がこちらをみたまま動かないんだけど、どうすればいい?叩けばなおる?

 

 「1人は淋しいでしょう?」

 ポツリと呟いた言葉に手が止まる。

 

 「私だって人と付き合うのは苦手。でも、私には近くに両親がいるし、お姉さまがいるし、薔薇の館にいけば他にも頼れる人はいる。あなたに身近に頼れる人はいるの?」

 琥珀色の瞳にポカンと口をあけた間抜け面が映っている。

 淋しい、か。

 そういえば家族が全員そろう食事はこの一年であったっけ。父さんは仕事で忙しいし、母さんは父さんの仕事の手伝いをしてるし。料理はつくってくれるけれど、中学にあがってから一人ですませることが多くなっていった。

 

 ふと、前世の自分の誕生日を思い出す。

 小学校高学年の頃、冷蔵庫に冷蔵庫に苺のショートケーキがホールサイズではいっていた。「おめでとう」と書かれたホワイトチョコのプレートと箱に添えられた蝋燭。静かな家で八つに等分して一切れ食べた。次の日、学校から帰ってきても手付かずだった七切れのケーキ。おやつと夕飯にわけて全部一人で食べた。

 

 「淋しくないですよ。子どもじゃないんですから。」

 

 どうして突然こんなことを思い出してしまったのだろう。

 もう三十年も前のことなのに。

 

 「まだ子どもよ、貴女も私も。だから、そんな顔しないで。」

 白薔薇のつぼみは優しい顔をしていた。

 

 「、、、どんな顔をしていますか?」

 「見ているとこっちまで気が滅入るような酷い顔。」

 「失礼ですね。」

 

 ホットサンドを一口齧る。

 味は変わらず美味しい。なのに、なぜかしょっぱい。

 やだな、しんみりしちゃう。

 

 「貴女は寂しんぼね。それに泣き虫。仕方がないから側にいてあげるわ。」

 「いいですよ。白薔薇の蕾は忙しいと聞きますよ。それに何も返せるものがありません。」

 「なら、お弁当を作ってよ。これから購買で買う代わりに貴女からお弁当を買うことにする。そして、一緒に食べましょう。学校にいる間は一人で食べることを禁止するわ。」

 「お金もらったらお返しにならないじゃないですか。」

 「あら、その代わり注文をたくさんつけるから。覚悟していてね。」

 

 佐藤聖が他人に興味が無いなんて嘘じゃないか。

 ああ、違うな。こんなに温かくて優しい人だから、自分の殻に閉じこもってしまったのか。

 

 「一つ条件があります。」

 「なあに?」

 

 親切にしてくれるのはありがたいけれど、それが自分に向けられているのはやっぱり違和感がある。私如きが独占していいものではないという後ろめたさがついてまわるのだ。

 

 「期限を設けましょう。私に姉が、聖様に妹ができたら関係は終りということで。」

 「まあ、それも仕方がはないわね。のみましょう。」

 

 こうして不思議なランチタイムが始まったのだ。

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