白薔薇家の秘蔵っ子   作:八田里

10 / 10
10話 存在の耐えられない割り切れなさ

 私の身に起こったことをありのまま話すぜ。

 白薔薇の蕾と志摩子ちゃんに挟まれたと思ったら、知らないお家で寝ていた。

 

 何を言っているのかわからないだろう?

 私もわからないんだ。

 

 覚えているのは聖さまに「姉妹になってほしい」と耳元で囁かれたということ。そして、志摩子ちゃんに「妹にしてください」と約束を乞われたこと。思い出すだけで憤死してしまいそうだけど。

 

 あ、もしかして私は自分に都合のいい夢を見ていたのではないだろうか。そうだ、きっとそうに違いない。女神さまってば最初からずっと大盤振る舞いだったから、調子にのった脳みそが妄想したのだろう。

 

 「あ、起きた?」

 「ぎゃふん。」

 

 目を開けると令が顔をのぞき込んでいた。

 寝起きに面のいい少女の安堵顔は致死量だぜ。ハッピープライスパラダイス。ああ、私の人生は二度目は幸福につつまれて終わるそうです。南無。

 

 「何よ。その鳴き声。」

 呆れた声。ここはまだ地上のようだ。

 

 「あ、あれ。令、どうして令がここにいるの。」

 「どうしても何もここは私の家だからよ。」

 

 な、なんだって。

 私がいるのは島津家とほぼ2世帯住宅の支倉家だと。ということは実質由乃ちゃんのお家にもいるということじゃないですか。

 

 「聞かせてもらったわ。あなた、聖さまと中等部の美少女に攻められて気絶したんだって?」

 ニヤニヤしながら令が尋ねる。

 

 「そういえば聖さまと志摩子ちゃんは?」

 「白薔薇さまに一喝されて反省中。今ごろは同じ人を狙う同士で仲良く帰っているんじゃない?」

 

 令、曰く。たまたま通りがかった白薔薇さまと令が、気絶した桜を前に慌てている聖さまと志摩子ちゃんを発見。事情を聞いた白薔薇さまは呆れながら薔薇の館に連れて行って説教。

 

 桜の身柄は学園から徒歩圏内の支倉家に引き渡されたらしい。今日は由乃ちゃんの通院で丁度お父さん(島津の方)が来ていたから一緒に連れてきたと。

 

 えっ。ということは同じ車に由乃ちゃんもいたということ?なんで寝ていたんだ私、オタクならたとえ無理やりでも起きるところだろう!

 

 「でも申し訳ないよ。保健室でよかったのに。」

 「今日は養護教諭がいないって朝のHRで言っていたでしょ。」

 「そうだっけ?」

 「そうよ。だから、怪我には気をつけるようにって注意されたじゃない。さては聞いていなかったな。」

 「面目ない。」

 

 呆れながらお茶のはいった湯呑みを渡してくれる令。乾いた喉に沁みるぜ。上手い。もう一杯。原作で祐巳ちゃんも言っていたけど、家事能力が高いし、面倒見がいいし、令って家庭的だよね。

 

 将来いい奥さんになりそう。いや、男性でもいい旦那さんとしてモテモテだろう。由乃ちゃんの心労を考えたら令は令ちゃんでよかったのかも。

 

 ん?誰かが部屋に近づく足音がする。

 

 「ただいま。」

 「お帰り、由乃。」

 

 えっ。由乃?

 

 「もう目が覚めたのね。安心したわ。」

 「由乃が来るついさっきに起きたのよ。」

 

 中等部の制服を着た由乃ちゃんが桜の寝ているベッドの側にやってきた。

 

 「桜は初めてだよね。前に学校で話した年下の従妹よ。」

 「はじめまして。桜さま。私は中等部3年の島津由乃と申します。支倉令の従妹です。」

 ぺこりとお辞儀をする由乃ちゃん。

 初めてみる由乃ちゃんは長いおさげ髪が可愛らしい。夏の渓谷に咲く白百合のような儚げな美少女だった。

 

 「こちらこそ初めまして。大島桜です。令にはいつもお世話になっています。」

 「私、桜さまにずっとお会いしたかったんです。」

 ズイっと由乃ちゃんが身を乗り出してきた。お互いに座っているような状態だから、わかりづらいけれど由乃ちゃんのほうが手足が長くて背が高そう。

 

 「最近、令ちゃんったら家でずっと桜さまのお話しばかりなんです。」

 「よ、由乃。」

 ほう。学園では「さま」づけにしているのに、「ちゃん」づけにしているということは現時点で心を開いてくれていると期待していいのかな。

 

 「奇遇ですね。私も教室で由乃さんのお話しばかり聞いています。」

 「さ、桜。」

 視界の端で令が恥ずかしそうにしている。

 

 「ねえ、由乃ちゃん。」

 「令って本当に可愛いよね。」

 「桜さまもわかってくれますか。」

 「もちろん。」

 

 原作を読んでいるときから思っていたのだけど、令ちゃんって本当に可愛いよね。料理やお裁縫が好きっていうところだけでなくて、普段の言動というか存在そのものが。私も令ちゃんと呼んでみたいな。でも、その呼び方は由乃ちゃんだけに許された名前だから我慢我慢。

 

 「初対面のはずなのになんで二人はそこまで意気投合しているの。」

 「だって令の従妹だもの。いい子なのは前から知っていたし。」

 それはもうずっと前から知っていましたよ。

 

 黄薔薇革命での威勢のいい啖呵。それだって誰よりもお姉さまのことを思うからこその行動だった。一見、令のほうが由乃ちゃんの矢印が大きいように見えるけれど、しっかり同じくらいの熱量を由乃ちゃん側からも向けているというのがこの姉妹の萌えポイントだと思う所存でございます。異論は認めます。 

 

 「ねえ。桜はどうして聖さまの妹にならないのかしら。」

 「どうしてって。」

 なんだか、話題が急に飛んだな。

 令は不思議そうな顔をして尋ねてきた。

 

 「桜は聖さまのことが嫌いなわけではないでしょう。それに人嫌いなわけでもなさそうだし。だから、なぜ姉妹の申し出を断るのかわからないのよ。」

 「確かに聖さまのことは嫌いではないよ。でも、姉妹にはならない。」

 そして、志摩子ちゃんとも。

 彼女が姉のように慕ってくれているのは気づいている。桜だって志摩子ちゃんの兄の賢文さんを親戚のお兄さんのように思っているところもあるのだから。

 

 「それはどうしてですか。嫌いでないなら姉妹になればいいのに。」

 由乃ちゃんの言うことは正しい。嫌いじゃなければ姉妹になるのがリリアン女学園の通例だ。蔦子さんと笙子ちゃんのような姉妹にならない関係性のほうが珍しい。桜が姉妹の申し出を断るのは、ただ頑固すぎるのが問題なのだ。

 

 「好きだから姉妹にならなければならないということもないでしょう?」

 「そうだけど。」

 「だから、この話はここでおしまい。」

 にっこり笑って言うと、令と由乃ちゃんはそれ以上尋ねてこなかった。

 

 大島桜は本来この世界にいない存在。だから私がいることで、この世界が私が好きだった作品と異なることも理解している。現に女神さまの言うことが本当であれば久保栞さんの両親がご健在ということからわかるように、そもそもの世界が全く同じでないこともわかっている。

 

 けれども、本来結ばれるはずだった人物たちが桜のせいで、すれ違ってしまうことまでは、まだ割りきれそうにない。

 

 やっぱり、オタクは黙って壁なのだ。

 壁こそが至高。

 壁こそが真理。

 壁こそが唯一の救済なのだ。

 

 人は慣れてしまう生き物である。

 幸せすぎるとその瞬間は思っても、その日々が長い間続くと日常になってしまって、ついには幸せに気づけなくなってしまうのだ。それほど恐ろしいものはない思う。

 

 「ねえ。令。」

 「何?」

 「もしも......。」

 もしも、私に前世の記憶があると言ったら、いくら優しい貴女でも狼狽えてしまうだろうか。

 

 「もしも、聖さまのことがなくても友達でいてくれた?」

 臆病風に吹かれて、口から出たのは別の問だった。その誤魔化しに令は真面目に答えてくれた。

 

 「聖さまのことはなくても友達になれたよ。」

 彼女の剣のように真っすぐな言葉。祥子も惹かれた正直な物言いは桜の心も癒してくれた。

 

 「ありがとう。」

 「変な桜。もう少し休んでいったら?」

 「いや、もう帰るよ。あまり遅いと悪いし。」

 時計を見るとそろそろ夕飯時だ。

 桜はベットを貸してくれた令にお礼を言って、由乃ちゃんとも学校でまた話そうと約束して帰路についた。

 

 今更だけど令のベットで寝たなんてファンに知られたら死刑ものじゃない?

 墓場まで持っていこう。




 桜が帰った後、由乃は自分の部屋に帰らずにしばらく令のベットに寝転んだ。

 「どうしたの?」
 「桜さまってお噂通り、妖精みたいな方なのね。」

 令のクラスメイト、大島桜は本人には自覚はないけれどかなり目立つ生徒だ。燃えるような赤髪に新緑の瞳は黒髪黒目の日本人の中では浮いている。それは白薔薇の蕾も同じなのだけど、単純な話、茶色よりも赤色のほうが目をひきやすい。

 「話してみてどうだった。」
 「そうね。令ちゃんの話を聞いて会ってみたいと思っていたけれど、実際に会ってみたら想像よりも面白い方ね。」
 
 桜は由乃のお眼鏡にかなったみたい。
 思ったよりも好感触だった。
 由乃は心臓が弱いから激しい運動ができない。だから大人しい印象を持たれがちだけど、本人は案外勝気で人の好みも激しいところがある。

 「でも、あの頑なな態度は何故かしら。白薔薇の蕾も、藤堂志摩子さんも非の打ちどころのない美少女よ。普通の人だったら頭を下げてお願いするような人たちなのに。」
 由乃は桜が姉妹の誓いをしないのが不思議でならないらしい。
 それは令も同感だ。
 黄薔薇の蕾の妹としての立場を抜きにしても、桜には聖さまと姉妹になってほしいと思う。だって、お二人はお似合いなのだから。

 でも、「姉妹にならない」と宣言した桜の表情を思い出すと何もいえない。
 長いまつ毛の大きな瞳が、不安げにゆれていた。
 
 桜には何か背負っているものがあるようなところがある。
 それが何かは分からないけれど、例えば教室で友人と話しているときやお昼にお弁当を一緒に食べているときにふと遠い目をするときがある。
 
 そんな桜をみると令は、彼女がどこか遠くに行ってしまうような気がして落ち着かなくなる。けれど夫婦喧嘩は犬も食わぬ、、他人の恋路を邪魔しては何とやら。

 ただ新しい友人の傍で見守っていこうと思う。
 もちろん、お節介は焼かせてもらうけどね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

いつか途切れた、音の続きを(作者:いつかの音色)(原作:響け!ユーフォニアム)

 中学二年生のあの時、私は間違えた。私の行動一つで部が崩壊してしまうと、あの時の私は知らなかった。そして、私は逃げてしまった。▼ 周囲への気配りが足りなかった。みんなが何を考えているか、なんて全然考えていなかった。何より、心が弱かった。▼ もう二度と、同じ過ちは繰り返さない。私はもう絶対に、逃げたりしない。▼ ▼△▼ 南中出身、音楽チートの主人公を黄前世代に…


総合評価:3799/評価:9.05/連載:23話/更新日時:2026年07月11日(土) 22:30 小説情報

B組モブによる観察日記(作者:急にアクセル踏むタイプの人)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

よう実世界にts転生し、Bクラスに配属されたオリ主が送る淡々とした日常を記した日記。▼※独自設定注意。▼※主人公原作知識なし。▼※ts要素も薄いかもしれません。


総合評価:2059/評価:8.86/連載:1話/更新日時:2026年03月13日(金) 21:00 小説情報

TS転生者は推しのアイドルを救いたい(作者:アキレスけん)(オリジナル現代/恋愛)

 ――月島ヒカリには秘密がある。▼ それは、前世男として生きてきた記憶があること。もちろんそんなことは誰にも言えないし、言う気もない。▼ しかも気づけば時間も巻き戻っている? 俗に言う逆行転生って奴じゃないか……。▼ 彼だった彼女には新しい目標ができた。▼ 前世で自分を立ち直らせてくれた恩人であるアイドル、『星川怜奈』を死の運命から救うことだ。▼ そのためな…


総合評価:4583/評価:8.9/連載:14話/更新日時:2026年07月26日(日) 18:00 小説情報

心を閉ざした少女からの激重感情(作者:あさまらたゆかあわ)(原作:東方Project)

人里で甘味処を営む家の娘、雨宮澄。▼少しぼんやりしていて、妙に勘のいい少女である彼女には、“見えないものを見つける”不思議な力があった。▼ある朝、休憩中に食べていた団子が一本消えたことから、誰にも気づかれない少女――古明地こいしと出会う。▼「なんで、貴方には私が見えるの?」▼気まぐれで自由奔放なこいしに振り回されながら、澄のいつも通りの日常は少しずつ変わって…


総合評価:1823/評価:8.79/連載:17話/更新日時:2026年05月16日(土) 20:39 小説情報

添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜(作者:鐘楼)(オリジナル現代/恋愛)

毎日姉に添い寝をしてもらっている少女、花平希沙音は高校一年の夏、ついに「一人で眠れるようになりなさい」と姉の家を追い出されてしまう。▼一人で眠れる気がしなかった希沙音は、なんとか添い寝を頼めないかと転居先の女子寮で出会った親切な少女、伊咲深白にお願いをする。▼しかし、深白は何人もの少女を手篭めにしてきた悪女だった。▼案の定、希沙音も深白に美味しく頂かれるのか…


総合評価:2647/評価:8.9/連載:31話/更新日時:2026年07月14日(火) 12:05 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>