或る日。
朝のホームルーム前に書道部を訪れていた。
「久仁子さん。聞きたいことがあるのだけど、ちょっといい?」
「いいわよ。」
部員は5名と少ないそうで、部屋にいたのは久仁子さんと顧問の先生だけだった。
「書道部に興味があるのかしら?」
「うん。」
「やっぱり。見学はまだ先だけど色々聞いて。」
何を隠そうこの私、前世では書道を中学生のころから嗜んでおりました。今世でも変わらずつづけています。久仁子さんとは同じ先生のもとで学んでおります。
「それと、学園では敬語で話すという約束だったでしょう?」
「あ、そうだった。ごめんなさい。久仁子さま。」
「もう、心配ね。」
テヘペロ。
ピンと額にデコピンをもらう。
そうか、血のつながった身内でも学園だと「さま」づけになるのか。って、おいおい。そんなことは由乃さんの令さまへの呼び方で予習していただろう?
大島桜、一生の不覚。
「またきますね。久仁子さま。」
「ええ、いつでも来なさい。」
バイバイと手をふって教室にもどる。こういう態度も他の人の目があるときは気を付けないといけないのかな。まあ、後で久仁子さんに線引きを聞けばいいか。
今日の私は浮き足だっている。先日の新入生歓迎会の日を思い出すと心がピョンピョンするんじゃぁ。
「紅薔薇のつぼみ、私、習い事をすべてやめてきました。」
もうね。
このセリフを前世のイベント会場で聞いたとき、思わず鳥肌がたってしまいましたよ。ハワワっって。両手を口にあてて乙女になってしまいましたよ。これを生で聞けるとか、まじ女神様ありがとう。
愛しています!女神様!
祥子さんが紅薔薇ファミリーに正式加入する日に生きていることの喜び、プライスレス。あれ、そういえば令さんも薔薇の館でエンカウントしていたはずだから同じ日だったっけ。
白薔薇家推しだけど、それはそれとして面白集団(by某黄薔薇の蕾)の黄薔薇家や正統派の姉妹関係の紅薔薇家も好き。てか、あらためて聞くと祥子さんってすごいお嬢様だね。たまに見掛けると気品溢れる華やかな佇まいに、周囲がうっとりしている。なんというか、身に纏う空気が違うんですよね。はい。
「ごきげんよう。令さん」
「ごきげんよう。桜さん」
ちょうど入り口の近くに令さんがいたので挨拶する。読んでいるカバー付きの本は少女小説なのかな。図書館で借りたコバルト文庫だったらテンション上がる。何も知らないと凛々しい外見に騙されて想像できないだろうなぁ。
「桜さん。ちょっといい?」
自席に行こうとしたら声をかけられた。令さん、なにやら真剣な様子。「何?」と聞くと、コソッと「絡まれてるようだけど大丈夫?」と尋ねてきた。主語がないのは気遣いだろう。
「大丈夫だよ。一緒にご飯を食べることになったけど。」
「そうなの?ちょっと意外。」
「成り行きでね。でも、令さんも大変でしょ。」
「令でいいよ。私はもともとリリアンだったから、覚悟のうえでお受けしたし。」
呼び捨ての許可をいただいた。嬉しい。イケイケな従妹に振り回されているからか、周りをよくみているよなぁ。よく祥子さんのストッパーもしていたし。
祐巳ちゃんたちが修学旅行に行っている間とかの令さんと祥子さんの同級生らしい会話が尊くてくり返し読んでいたなぁ。白薔薇様が卒業した後、志摩子さんの姉代わりを務めるように見守っていたのも、マジで性癖にささった。
「私も桜でお願い。令っていつからリリアンなの?」
「私は幼稚園から。一つ下に従妹がいるんだけど、その子とずっとね。」
知っていたけど、本人の口から語ってもらえる尊さは何ものにも代えがたい。一つ下の従妹って絶対に由乃ちゃんのことだよね。
「へえ。じゃあ来年会えるね。私も三年生に従姉がいるよ。私と違って生粋のリリアンっ子なの。だから、入学前に困らないようにってリリアンの仕来たりを叩き込まれた。」
「桜も従姉がいるんだ。姉妹にはならないの?」
さっきよりも食い付きが違いますね。まあ、入学早々にロザリオをあげてますからねぇ、この人。過保護なところや、尻に敷かれているところが読んでいて面白かったなぁ。
でも、決めるときはビシッと決めるところがかっこよくて大好きだった。といかん、いかん、答えなくては。
「試しに聞いてみたら断られちゃった。1年しか被らないから理由がないならやめておきなさいって。」
「そうなんだ。」
それに自分のことでいっぱいいっぱいで、私の世話ができないとも言っていたな。周りのお友だちが手伝ってくれるそうだけど、やっぱり色々大変なのだろう。話し込んでいると予鈴がなった。
「ごめん。長々話しちゃった。」
「私も桜の話しが面白くてつい引き留めた。」
またあとで、と言って自席にもどる。窓の外は気持ちのいい快晴。朝から令と話せるっていい1日の始まりじゃないだろうか。
うわぁぁぁぁぁぁぁ。
マジ、リリアン最高っす。
愛しています!女神様!
(本日2回目)