白薔薇家の秘蔵っ子   作:八田里

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5話 いざ薔薇の館へ

 主に白薔薇の蕾関係で色々あったものの今のところ私は平穏な生活をおくっていた。外部生は珍しいというのは本当のことらしく、クラスメイトは積極的に声をかけてくれた。

 

 一緒に部活動見学に行ったり、聖さまが山百合会の仕事があるときは仲のいい何人かとお弁当を食べたり二度目の高校生活を満喫していた。

 

 しかし、そんな日々に陰りがみえた。

 「薔薇の館に来てほしい」と聖さまが言ったのだ。これは白薔薇様にせっつかれたのかな。とにかく身内に引き込もうという魂胆がすけてみえる。

 

 「急で悪いんだけど、今日の放課後はどうかな?」

 グっ、その顔は反則。

 行きたくなかったけど、聖さまが申し訳なさそうにいうので了承した。美人に困った顔で迫られてごらん。頷くしかないから。

 

 薔薇様方の思惑として、ウチの大事な白薔薇のつぼみの周りをうろつく虫の面を確認しておきたいのだろう。仕方ないよね。聖さま愛されているからね。美少女同士の固い結束は世界も救うから、私が逆らうなんてできるはずがないよね。

 

 厄介ごとの匂いがプンプンするが、代わりに先代薔薇様方と蕾のころの蓉子さまと江利子さまの御姿を見られるとくればチャンチャンだ。

 

 「わかりました。放課後、薔薇の館に行きますね。」

 「ありがとう。迎えにいくね。」

 「え、それはダメです。」

 

 何を言ってるんだ、この人。白薔薇のつぼみ直々に迎えにきたら、噂になってしまう。それに桃組には令さんがいるんだ。いざとなったら一緒に行けばいい。とにかく、聖さまはダメだ。

 

 「場所だってわかりますから。白薔薇のつぼみは一度ご自分の魅力を考えるべきです。」

 そういうことを根根と説いていると、聖さまは魔法瓶から番茶を注ぎながら「ハイハイ」と分かっているのか、分かっていないのかどっち付かずな返事をした。

 

 「ちゃんと聞いていますか。」

 「聞いてるよ。この唐揚げ美味しかったからまた作って。」

 

 ため息がでる。

 こんなことで大丈夫なのだろうか。

 

 「というか。クラスをご存知だったんですね。」

 「ああ、令に口を割らせたの。」

 

 お可哀そうに。最近、よそよそしかったのはそれが原因か。お姉さま方に詰め寄られて白状したものの、罪悪感に苛まれていたのか。おいたわしや、令さん。

 

 「桜って呼んだほうがいい?」

 「はい。」

 隠す理由がないのだもの。知っているなら本名で呼んだもらったほうがいい。それに「モーディー」なんて恥ずかしいじゃない?

 

 「やっぱりやめた。モーディーのままにする。」

 「名前をご存知なのに、その必要はありますか。」 

 やめましょうよ。

 愛称で呼ぶって、それファンからしたら嫉妬ものですよ。

 

 「モーディーっていう名前も違和感ないよ。あなた外国の血が入っているでしょう。」

 「仰る通りですが。そういう問題じゃないんです。他の方に勘違いされます。」

 「勘違いって例えばどういう?詳しく聞かせて。」

 

 ニンマリと笑う聖さまは親父みたいだ。すでにこの頃から片鱗があったとは。祐巳ちゃん、ごめん。史実よりもパワーアップしたセクハラが貴女を待ち受けているかもしれない。

 

 「では、また放課後に。」

 「うん。待ってる。」

 

 放課後、教科書をカバンにつめていると聞きたいけれど、聞きたくない声がした。

 

 「ごきげんよう。モーディー。」

 「、、、ごきげんよう、白薔薇のつぼみ。」

 

 ねえ、待ってるって言ってたじゃないですかぁ。

 しかも、愛称呼び。

 ああ、クラスメイトの視線が痛い。平穏よ、さようなら。波乱よ、こんにちは。お願いだから波風たたせないでください。令さんは掃除が長引いているので、教室にいない。いても聖さまを押さえられるかは五分五分なんだけど。

 

 「さあ、行くよ。」

 

 聖さまが私の手をひく。手というよりも腕だなこれ。黄色い悲鳴が聞こえるけれど、代われるのなら代わりたい。手加減無しで掴まれて、これはきっと痕になるだろうな。聖様ってけっこう強引な方?

 

 「あら、その子が例の?」

 「はい。お姉さま。」

 「ようこそ、山百合会へ大島桜さん。」

 薔薇の館に行くと薔薇様方がいた。

 聖さまが両肩をつかんで白薔薇様のほうに見せびらかすようにおしてくる。

 

 この方が聖様の姉の白薔薇様。思春期真っ只中の聖様を「貴女の顔が好き」という一言で落としたイケメン。個人的な感想なのだけど、中身で言えばこの方が一番潔くてかっこいいのではないかしら。

 

 私だって肩を抱かれて「あなたには私がいるでしょう?」って言われたい!

 何を隠そう白薔薇家推しの私の最推しは先代白薔薇様なんです。あ、ちなみに志摩子さんは殿堂入りです。

 

 「ごきげんよう。白薔薇様、紅薔薇様、黄薔薇様。」

 「あら私たちのことをご存じなのね。」

 「はい。薔薇様方は一年生にとって憧れの象徴なので。」

 「桜さんは確か久仁子さんの従妹なのよね。書道がお得意なのかしら。」

 「嗜む程度です。」

 

 黄薔薇様が気さくに話しかけてくれる。

 「立っていたら疲れるわ。さあ、お座りになって。」

 

 用意された席は三薔薇様の正面だった、中央に紅薔薇様、左右に黄薔薇様と白薔薇様。圧迫面接かよとつっこみたくなる。

 人生2回目の私ならともかく、入学したばかりの1年が耐えきれるわけがないだろう。ご自分らのカリスマの凄さを軽く見積もっていません?

 

 「桜さん、ミルクはいるかしら?」

 紅茶を注いでくれた祥子さんが尋ねた。そうか、祥子さまもこうして一年生として雑務をしていた時期があったんだと場違いにも感動してしまう。お構いなくと答えると祥子さんは紅薔薇の蕾の隣の席に座った。

 

 聖さまは白薔薇様の隣に座っていた。あなたは蓉子さまが頭を抱えるほど、薔薇の館に寄りつかない人なんでしょう?どうしてこんなことになったんですか?

 

 「さて、少し確認したいのだけど。最初、貴女、聖にたいして嘘をついたそうね。それは何故かしら。」

 そうだよね。聖様が話していたら、「分からせ」がくるかなっという予想は大当たりですた。しかも、その理由というのが探されたくないというこの上なく失礼な理由で。どう転んでも失礼なことに変わりがないのなら、つかえるものは何でもつかって少しでも罪を軽くしよう。

 

 さあ、回れよ回れ私の舌よ。

 今こそお前の真価を発揮するとき。

 

 「率直に言えば、あまり関わりたくなかったからです。」

 聖さまがショックを受けた顔をしている。

 

 「それは聖が白薔薇の蕾だから?」

 「それもありますが、どちらかというと距離をつめてくる白薔薇の蕾に驚いてしまっていたからです。」

 

 私の言葉に2、3年生が驚く。

 そうだろうな。この頃の聖さまは再三言うが人間不審のはずだし、周囲もそのように認識しているだろう。

 

 畳み掛けるなら今だと思って、掴まれたほうの腕捲ってみせる。日焼けのない肌に滲む青いシミ。強く握りしめられたそこはまだ紫色も混じっている。

 「聖、これはどういうこと?」

 痣を見た白薔薇様が、隣で驚いている聖さまに尋ねる。聖さまは驚きの顔で食い入るように私の腕の痣を見ている。本人は強く掴んだ自覚がないんだろうな。

 

 「、、、彼女を連れてくるときに腕を掴んだことを覚えています。」

 「その痣はそのときに?」

 紅薔薇さまが間に割って尋ねる。

 

 「はい。」

 「それは初対面のときも同じ様なことをされた?」

 「はい。」

 返事をするたびに女性にしては背の高い聖様が縮こまる。

 

 「名乗ったのは掴まれた前?後?」

 「後です。立ち去ろうとする彼女の腕を掴んで名前を聞きました。」

 

 自分が不利になるだろうに聖さまが証言してくれる。素直ではないけれど、根はやはり生粋のリリアン生、善良なんだよなぁ。保身に走ってばかりで罪悪感がこみ上げてきた。うっ、ごめんなさい。でも、痛かったんです。着替えのときに毎回聞かれるのちょっと困っているんです。

 

 部屋の空気が変わった。

 私に向けられた圧が軽くなるのがわかる。反対に聖様は鋭い視線で針の筵だ。

 

 「ようは聖ちゃんが怖かったんですね。」 

 黄薔薇様がとどめをさした。

 

 客観的に見ても150センチあるかないかという私と長身の聖さまにはかなりの体格差がある。また聖さまは美人だが、纏う空気はクールで柔和とは言えない。勝訴してしまった。聖さまがうなだれている。

 

 「聖、わざとではないとはいえ、これはあなたに非があるわ。」

 「はい、お姉さま。申し訳ございません。」

 「謝るのは私ではないでしょ。」

 再び注目されてピッと背筋がのびる。目の前の聖さまは怒られた大型犬がしょんぼりしているようだった。

 

 「ごめんなさい。」

 「気にしていないので大丈夫ですよ。白薔薇のつぼみ。」

 「私からもごめんなさい。今日も急に呼び出されて怖かったでしょう。」

 

 妹の失態は姉の責任と白薔薇様も頭を下げる。

 自分で仕向けといてアレだけど、すごく居たたまれない。

 痣は派手だけど我慢しようと思えばできるし、ただ深く関わりたくないだけで話しかけられて嬉しかったし。

 

 「ねえ、桜ちゃん。まだ聖のことが怖いかしら。」

 「いいえ。今は仲良くしたいと思っています。」

 「ならこれからもお願いね。強制するつもりはないけれど、この子が人に興味を示すのって珍しいの。」

 

 期待と興奮の入り混じった視線が突き刺さる。発生源は白薔薇様ん家の大型犬だ。止めてくれ、私はそういう攻撃に弱いんだ。ブンブン揺れる尻尾までみえて、まじキュート。綺麗で可愛いとか最強じゃん。

 

 「わかりました。」

 

 ここで断れるのは血も涙もないやつだけだ。私は両方あるから断れない。

 うわ、尻尾がちぎれそうなほどブンブン振れているのがわかる。その勢いのまま席をたった聖さまは私の右手を片手で包み込んだ。

 

 「もう絶対に傷つけないから。」

 真剣な顔で見つめられて思わず顔を背ける。

 顔面600族。

 やめてください。美人に耐性がない人間には破壊力抜群です。勘違いしてしまいます。

 

 「これにて一件落着ね。」

 「ついでに妹にしちゃえ。」

 一難去ってまた一難。

 妹という単語に、重なった手が動くのを感じた。

 

 「それはまたおいおいということで。」

 

 聖さま何言ってるの?

 それ、強火の匂わせだよ。

 

 「私もおばあちゃんになれるのね。」

 「今年のつぼみは手が早いわね。」

 「聖ちゃん、頑張るのよ。」

 

 拝啓、従姉さま。

 私は貴女の推し一家の一員に囲われそうです。この先、逃げ切ることはできるでしょうか。

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