常時発情フェロモンを分泌している妖精王が、欲求不満な乙女が集う女子学院で教師になったら〜僕が力で勝てない圧倒的につよつよな生徒たちが僕の『アレ』を狙って迫ってくるんですけど……   作:朧 泡沫

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第1話 始業式は崩壊しました

 敷地内に植えられた全ての桜が満開に咲き誇る、快晴の四月七日。

 多種多様な亜人の乙女が集う国立アルフィーサ女子高等学院の始業式を終え、大勢の生徒たちが帰路に着いた正午。

 

「前代未聞の始業式だったな」

 

 様々な調度品が棚に並ぶ学院長室にて。

 部屋の最奥に置かれた執務机の上に腰掛けた、紫の長髪とサングラス越しに見える琥珀色の瞳が特徴的な小柄な女性──ラビラ=トレティファン学院長が、疲労の滲む声で言い、先ほどの始業式を振り返った。

 

「式の中盤までは何の問題もなく進行していたが……新任教師紹介でルディルが登壇した瞬間、全生徒が下腹部を両手で押さえ、その内の七割が耐えきれずに産卵室へ直行。体育館に残った二割は椅子に座ったまま絶頂して気絶。結局、お前の紹介を最後まで聞けたのは一割……も、いなかったか」

 

「本当に、申し訳ないです」

 

 始業式をぶち壊してしまったことを、僕は頭を下げて謝罪する。

 と、学院長は片手を振り、謝罪の受け取りを拒否した。

 

「謝るな、ルディルが悪いわけじゃない」

 

「いや、ですが──」

 

「寧ろ、謝らなくてはならないのは私のほうだ。お前を学院の教師として招いたのは私だからな。責任は全て、私のものだ」

 

 堂々と責任の独占を宣言した学院長は、立てた親指を自分自身へと向けた。

 近頃は成果だけを独占し、責任は全て部下に押し付ける管理職が増えているのに……彼女はその真逆とは。

 

 上司の鑑だな。

 僕が胸中で呟き、小さくない感動を覚えていると、学院長は『しっかし』と頬杖をついて僕を見つめた。

 正確には──僕の背中にある、種族の特徴を。

 

「まさか四千人近い生徒が一撃でKOされるとは……流石に想定外。ルディルの種族特性を甘く見過ぎていたよ」

 

「自分でもびっくりしていますよ。始業式をぶち壊すことになるなんて……思ってもみませんでした」

 

「いやはや、流石としか言いようがない」

 

 一呼吸空け、学院長は感嘆の声を零した。

 

「妖精王オベロン。全種族の頂点に立つ、八種の王種の一角。お前が常時放出しているフェロモンは、あまりにもヤバすぎる。見境がない」

 

「本当に、どうにかならないんですかね。この種族特性」

 

「無理だろうな。オベロンは全種族と交配することができるのが強み。フェロモンの放出も、あらゆる種族特性の影響を受けないのも、種族としての本能のようなもの。多少の制御はできるだろうが、フェロモンの放出を完全にゼロにすることはできない」

 

「最悪だ……」

 

「まぁ、私も自分の種族特性で色々と苦労した身だからな。気持ちはよくわかる」

 

 同情と共感を示した学院長に、僕はガックリと項垂れたまま尋ねた。

 

「……僕、この学院で教師やっていけるんですかね。まともに授業できる気が全くしないんですけど」

 

「それは大丈夫……と、思っていたんだが、始業式の末路を見て考えが変わった」

 

 腕を組み、学院長は悩まし気な表情を作った。

 

「ルディルは存在するだけで乙女の生殖本能と子宮を直に刺激する、ドスケベフェロモンの源泉だからな……お前が教室に入った瞬間、生徒たちがその場で産卵する光景が容易に想像できる。まさに、生きた産卵誘発剤だな」

 

「不名誉な異名つけるのやめてくださいよ」

 

「悪かった。つい」

 

 悪ノリが過ぎたと学院長は僕に謝罪し、その後、腰掛けていた机から立ち上がった。

 

「対面は少しばかり不安が残るが、まぁ、今は最悪リモート授業もできる。全く仕事にならない、なんてことにはならないはずだ……多分」

 

「多分なんですね……今更ながら、何で僕を教師として呼んだんですか?」

 

「理由は色々あるんだよ、色々とね」

 

「……」

 

 何か、特殊な事情がありそうだな。

 意味深に告げた学院長に訝しむが、追及したところで答えてくれないのはわかりきったこと。彼女はそういう人だ。絶対に、口を滑らせない。

 

「さてさて」

 

 僕の視線を受けながらも、それについては言及することなく、学院長は机の引き出しへ手を伸ばしつつ、話し始めた。

 

「新人教師ルディル君が濃厚な発情フェロモンを放出して始業式を産卵式に変えてしまった件については、この辺りにするとして──本題だ」

 

「? その件で呼び出したんじゃないんですか?」

 

「あの程度のことで呼び出したりはしない。もっと、大事なことだ」

 

 あの程度、では済まないような惨状だったと思うのだけど……。

 僕はそう思ったが、口に出かけた言葉を飲み込み、学院長に尋ねる。

 

「で、本題っていうのは?」

 

「お前に担当してもらう、部活動の顧問についてだ」

 

 ペラ。

 学院長は引き出しの中から一枚の紙を取り出し、続ける。

 

「以前説明したとは思うが、この学院の教員は必ず何らかの部活動や同好会の顧問を務めなければならない。ルディルも例外ではなく、顧問をしてもらうんだが……ちょっと問題が起きていてな」

 

「問題、ですか?」

 

「あぁ。端的に言えば──争奪戦が起きている」

 

 疲れた様子で、学院長は溜め息を吐いた。

 

「学院で唯一の男性教師。しかも年齢も近い。異性に飢えた奴らが、お前とのワンチャンスを狙って顧問に欲しがっているんだよ。おまけに、さっきの始業式が終わった後から、追加の申請がメールで何十件も。頭が痛くなるばかりだぞ、この女たらしめ」

 

「好きで異性を魅了しているわけではないですよ」

 

「わかっている。だが、嫌味の一つも言わないとやっていられないんだ」

 

「心中お察しします……それで、結局僕は何処の部活に?」

 

「ここだ」

 

 言って、学院長は持っていた紙を僕に手渡した。

 取り出した紙は、令状だったか。

 受け取り、僕はすぐに紙面へ視線を滑らせる。そこに記されていたのは──。

 

「生徒会執行部、ですか」

 

「そうだ」

 

 学院長は頷いた。

 

「正直なことを言えば、ルディルには顧問をやらせたくない。けど、学院の規則上それはできない。色々と考えた結果、比較的理性的で、教員からの評価も高い奴らが集まる生徒会が一番安全という結論に至った。丁度前任者が休職したところだったし」

 

「休職? 体調を崩してしまったんですか?」

 

「いや、理想の母乳を探す旅に出るって言ってた」

 

「どんな理由ッ!?」

 

「私に聞かないでくれ。未だに理解できてないんだ」

 

 未だにどころか、一生理解できない気がする。

 僕が唖然とする中、咳払いを一つ挟み、学院長は言った。

 

「まぁ、とにかく明日から生徒会の顧問として頼むぞ」

 

「はい。けど、具体的には何をするんですか?」

 

「生徒会は特に生徒主体で動く部活だから、ルディルが担うのは主にサポートだな。生徒たちが円滑に活動することができるように、支えてやってくれ」

 

「了解です」

 

 学院長の話を聞き、僕は今一度渡された令状に視線を落とした。

 話を聞いた限りだと、そこまで大変な仕事ではなさそうだ。生徒会執行部は、生徒による生徒のための部活。教師である僕が干渉することは少ないだろう。

 顧問をやると聞いた時は身構えたけれど、これならある程度は楽ができそうだ。

 ホッと胸を撫でおろした僕は手元の令状を折り畳んで懐にしまう。

 と、学院長が扉のほうを指さした。

 

「じゃあ、早速生徒会室に行ってきなさい」

 

「え、今からですか?」

 

 突然の命令に驚くと、学院長は欠伸を噛み殺して頷いた。

 

「本来なら、始業式の日は活動がないんだけど……顧問が決まったことをメールしたら、今すぐに部室へ寄越してくれって。顔合わせがしたいらしい」

 

「顔合わせって、別に明日でもいいんじゃ……」

 

「前任が休職してから、長いこと顧問が決まらなかったからな。嬉しくて仕方ないんだろ」

 

「期待に応えられるかどうかは、わかりませんけどね……とにかく、わかりました。今から行ってきます」

 

「おー。あ、顔合わせが終わったら、今日はそのまま帰っていいぞ。明日から授業が始まるし、今日は早めに帰ってゆっくり休め」

 

「わかりました」

 

 頷き、僕は学院長室を後にした。

 次は絶対に、問題を起こさないようにしよう。

 そんな決意を胸に宿して。

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