常時発情フェロモンを分泌している妖精王が、欲求不満な乙女が集う女子学院で教師になったら〜僕が力で勝てない圧倒的につよつよな生徒たちが僕の『アレ』を狙って迫ってくるんですけど……   作:朧 泡沫

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第10話 犯人みっけ

 とりあえず、種族特性のこともあるので、僕が一人で入るよ。

 ミルエルとエニールに告げた僕は足元に転がる荷物を跨ぎ、単身でレヴィアの私室へと足を踏み入れた。ふわりと香る乙女の香り。乙女らしい小物が幾つも見られる室内。

 

 なんだ、普通の女の子じゃないか。

 微笑ましく思いながら、僕は室内を見回し、後ろ手で扉を閉じる──と、その直後。

 

「こ、来ないで!!」

「おっと」

 

 拒絶の言葉と共に、白い枕が飛んできた。

 結構な速度。僕の顔面を狙った正確な精度。

 投擲されたそれを難なく片手で受け止め、僕は此方をキッと睨むレヴィアに声をかけた。

 

「動揺する気持ちはわかるけど、少しは落ち着いてほしいな。別に僕は、君に危害を加えに来たわけじゃないんだから」

「あんたが近づくだけで悪影響が出てるの! 私に!」

「それはまぁ、うん。ごめん」

 

 謝りつつ、僕はジッとレヴィアの顔を見つめた。

 赤い。熱を帯びているように頬が朱に染まっており、額には微かな発汗も見られる。呼吸も乱れており、瞳が滲んだ涙で揺れている。

 

 先ほどの失敗に加えて、僕のフェロモンの影響だろう。

 ミルエルやエニールのように、多少なりとも精神が成熟していれば露骨な影響は受けなくなるのだが……やはり、一年生。まだまだ心身が成熟しておらず、もろに影響を受けてしまっているらしい。その内、慣れてくるとは思うけど。

 

 仕方ない。

 彼女の意思を尊重し、距離を取って話そうか。

 僕はレヴィアに接近するのを止め、壁に背中を当てて話し始めた。

 

「まずは……昨日ぶりだね。どう? 体調は」

「今朝までは良かったけど、あんたが来てからまたおかしくなった」

「それは本当にごめん」

「……それで、何のようで来たの? ただ体調を確認しに来たってわけじゃないんでしょ?」

「うん。本当はもう少しお喋りしてからって思ったんだけど……まぁ、いいか」

 

 この後は授業もある。

 早めに話を済ませるに越したことはないだろう……多分、少し長くなるだろうし。

 僕は胸ポケットに手を入れ、ゴソゴソとそこに入っているものを取り出し……それを眼前に突き出して、レヴィアに問うた。

 固く蓋を閉めた瓶の中に入った、件の青い卵を。

 

「昨日、僕の個人職員室にこの卵が落ちてたんだけど……これ、君のだよね?」

「だだだ断じて違うからッ!!」

「動揺し過ぎでしょ……誤魔化すのは無理があるんじゃ?」

「違うって言ってるでしょ!!?」

 

 先ほどよりも赤くなった顔。卵を見た瞬間から見せた明らかな動揺。あまりにもわざとらしい、必死な否定。

 アウト。そしてダウト。これらの要素は彼女が産み主であることを明確に示している。

 しかし、それでも尚、レヴィアは違うと言い張った。

 

「私はその卵を産んでなんかいない! 個人職員室であんたのコートの匂いを嗅ぎながらソファに寝転がって産卵ちゃったとか、断じてないから!!」

「めっちゃ詳細語るじゃん」

「はっ! ……だ、騙したわね!!」

「君が勝手に喋ったんだろ」

 

 冷静にツッコミ、僕は苦笑した。

 

「……レヴィアだよね?」

「…………ら、れた」

「え?」

 

 よく聞こえなかった。

 もう一度。と、僕が一文字で聞き返すと──レヴィアは顔を真っ赤にしながら何度も何度も呟いた。

 

「知られた知られた知られた知られた知られた知られた知られた知られた知られた知られた知られた知られた知られた知られた知られた知られた知られた知られた知られた──ッ!!!」

 

 強烈な後悔、凄まじい羞恥、自分自身への猛烈な怒り。

 様々な感情が内に混在する声で何度も叫び、レヴィアは真っ赤に染まった顔を両手で覆い隠した。

 

「最悪ッ、最悪最悪最悪ッ! こんな、こんな……うぅ、なんであの時、我慢できなかったの私ッ!」

「お、落ち着いてレヴィア……」

「こんな状況で落ち着くなんて無理に決まってるでしょ!!」

「やめてよ、逆ギレ」

 

 感情が荒れ狂うのはわかる。

 けど、八つ当たりはやめてほしい。僕にはどうすることもできないから。

 まぁ、とりあえず、これで確定かな? 

 と、僕が卵を見ると──。

 

「我慢できなかったの──ッ!」

 

 レヴィアがヤケクソ気味に叫んだ。

 

「始業式であんたの濃密なフェロモンに当てられてから、身体の疼きが止まらなかったの! それで、何処か落ち着ける場所はないかと彷徨っていたら、あんたの個人職員室に辿り着いて……そこから漂ってくる香りで、暴走しちゃったの!! なんか産卵ちゃったの!!」

「そ、そうか……あれ? でも、部屋には鍵がしてあったけど──」

「ピッキングして解錠したに決まってるでしょ!」

「だからやめてよ、逆ギレ……」

「うううう──あ、そうだ」

 

 一体何を思いついたのか。

 急に真顔になったレヴィアは光を消した恐ろしい目を僕に向けた。

 

「死のう。このままあんたを殺して、私も水の泡になる」

「こんなくだらないことで人生を台無しにしようとしないで。僕らの未来はまだまだ長いんだから」

「だ、だって、だってだってだってッ! こんなこと知られてしまったら私はこの先どう生きていけばいいのかわからないッ! あんたを殺して私も死ぬ!」

「大丈夫だか──あ」

 

 叫び声をあげるレヴィアを安心させようとして、僕は気が付いた。

 ここは海洋寮の最奥。周囲に部屋はなく、恐らく他の部屋に彼女の声は届いていない。

 けれど、流石にこの声量だ。

 扉の前にいる二人には、聞こえてしまっている。

 

 僕の沈黙により、レヴィアもそれを察したらしい。

 ピタ、と動きを止めた彼女はジッと扉のほうを注視し──。

 

「ヨシ、死のう」

 

 出掛けよう。とでも言うかのような軽い口調で言い、立ち上がって窓に近付いた。

 

「まさかこんな最期を迎えることになるとは思わなかったけど、うん。仕方ない。こんな恥ずかしい事実を知られて、生きていくことなんてできない。さよなら。私はここで飛び降りて、命を散らすわ」

「ここ一階だから多分死ねないと思うよ」

「こん畜生おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 僕が冷静に告げると、レヴィアは頭を抱えて蹲った。

 うん、やっぱりポンコツ。面白いな、この子。

 僕は必死に笑いを堪え、彼女が落ち着くのを黙って待ち続けた。

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