常時発情フェロモンを分泌している妖精王が、欲求不満な乙女が集う女子学院で教師になったら〜僕が力で勝てない圧倒的につよつよな生徒たちが僕の『アレ』を狙って迫ってくるんですけど……   作:朧 泡沫

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第12話 僕の勝ちだ

「私が、生徒会執行部に……?」

 

 目を丸くし、レヴィアは呆然と驚きの声を零す。

 その声音には『正気か?』というミルエルに対する疑念が多分に含まれている。

 ミルエルもそれをわかったのだろう。彼女は『勿論』と首を縦に振った。

 

「態々他の寮に出向いてまで嘘をつくようなことはしませんよ」

「それは、そうだろうけど……ど、どうして私なの? 自分で言うのもあれだけど、私、かなりの問題児だよ? 人と上手く付き合えないし、面倒な種族特性があるし、落ち着きがあるほうでもないし……」

「理由は二つあります」

 

 ミルエルは指を2本立てた。

 

「一つは、貴女が王種であるということ。生徒会は生徒の代表であり、一定の権限を持ちます。時には生徒へ命令を下すこともあるので、メンバーは可能な限り上位種であることが望ましいのです」

「それ、差別にならない?」

「かもしれません。ですが過去には下位種のみで生徒会が構成され、全く役割を果たせなかったことがあるので」

 

 悲しいが、これが現実なのだ。

 種族による差別は根絶されるべきではあるけれど、そううまくいくものではない。下位種からの命令にはどうしても従えない、というか我の強い者は多いのだ。

 故に、組織の上に立つ者は上位種であることが望ましい。特に王種はその最たる例だ。

 

「二つ目は……貴女が優しいからです」

「へ?」

 

 唖然とするレヴィアに、ミルエルは続ける。

 

「自己を犠牲に他者を思い遣る心は、誰もが持っているものではありません。その特別な優しさは、必ず生徒会で活かすことができます」

「そんな、私は優しくなんて……」

「あまり自分を卑下しないでください、レヴィアちゃん。貴女はとても良い子ですから……ね? ルディル先生?」

「その通りだよ」

 

 自信を持って、僕は肯定した。

 

「レヴィアは悪い子なんかじゃない。優しくて、友達想いの良い子だよ」

「や、やめてよ、私は……」

「あくまでも否定するなら、僕は君が自分を肯定できるようになるまで言い続けるよ」

「……ズルい言い方」

 

 照れ臭そうにムスッと唇を尖らせ、レヴィアは僕を軽く睨む。

 大人はズルい生き物なんだよ。

 僕は彼女にそう返し、片目を瞑った。

 

「私からもお願いだよ、レヴィア」

 

 エニールがレヴィアに頼み込む。

 

「生徒会に選出されるのは、寮の代表なんだ。通常それは、寮の中で最も上位の種族である子が選ばれる。君以上の適任はいない。君がならなければ、誰もならない。だから……お願い」

「寮長まで……」

 

 頭を下げるエニールに何か言いたげなレヴィア。

 ここまで頼まれ、求められても、まだ首を縦に振らない。心配事があるのか、はたまた自分は相応しくないと思っているのか。

 どちらにせよ、心に引っかかるものがあるらしい。

 

 さて、どう口説き落とそうか。

 彼女の心を動かす言葉を考える。と、ミルエルがふと、レヴィアに提案した。

 

「では、レヴィアちゃん──勝負しましょうか」

「え? 勝負?」

「はい」

 

 楽しそうに、ミルエルは頷いた。

 

「まだ煮え切らないようなので……これからする簡単な勝負にレヴィアちゃんが勝てば、生徒会には入らなくていいです。ただ負ければその時点で加入決定。あぁ、どちらにせよ、ルディル先生の種族特製封印は受けられますから安心してください」

「いや、そんな勝手な──」

「怖いんですか? 負けるから」

 

 ミルエルは小馬鹿にしたような表情と声で挑発する。

 途端、先ほどまでのしおらしい雰囲気は何処へ行ったのか……カッチーン、言わんばかりにレヴィアは額に青筋を浮かべ、言葉を返した。

 

「は? 誰が怖いって? 膝が笑って立てなくなるくらいにビビってるって?」

「いや、誰もそこまでは言ってないよ……」

「上等。後悔させてあげる。私を馬鹿にしたことを……存分に!」

 

 勝負の内容を聞く前に勝利を宣言するレヴィア。

 うまく乗ってくれたと火糞微笑むミルエル。

 やれやれ、と呆れるエニール。

 そんな三者をそれぞれ見やり、僕は苦笑する。

 

 レヴィアは挑発されると、すぐに乗ってしまうんだなぁ。

 なんて、冷静にそんなことを考えながら。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 またまた、結論から先に述べよう。

 勝負にすらなりませんでした……。

 

「う……フゥ……んっ──はぁ……はぁ……」

 

 室内に反響する嬌声。

 リズムを乱した荒い吐息。

 異性が安易に聞いてはならない、乙女が奏でる秘密の音。

 それらに時折混ざる、粘性を有していることがわかる淫靡な水音。

 

 異性だけではない。

 たとえ同性であったとしても、安易に他者のものは聞いてはならない音。

 僕の鼓膜を至近距離から揺らすそれを発しているのは──レヴィアだ。

 

 全身を脱力させた彼女は全体重を僕に預け、上気した頬と潤んだ瞳で此方を見上げる。

 恨めしそうに、懇願するように。

 

「駄目……せん、せい……っ」

「だ、大丈夫……じゃない、よね?」

「こ、れ以上は……んっ、ま、また……産卵る……っ」

 

 異性の情欲を掻き立てる淫靡な声。

 それを震わせたレヴィアは背後から抱きしめる僕の腕を強く掴み……コロン。魚──否、人魚のそれに変化した下半身から、鮮やかな青をした丸い卵を産み落とした。

 

 同じものだ。

 僕の個人職員室に置かれていたものと全く同種のもの。

 それが今、足元の床に三つ転がっている。

 

 言うまでもない。

 これらは全てレヴィアが産み落としたもの。

 背後から僕に抱きしめられ、フェロモンに零距離で当てられた結果だ。

 

「フフ……レヴィアちゃん、どうですか? 降参する気になりましたか?」

 

 得意げに尋ねるミルエル。

 彼女を睨み返し、レヴィアは首を左右に振った。

 

「ま、だ……まだ、私は、降参しない……」

「そんな満身創痍の状態で続けても無意味ですよ? 勝負はついています」

「早いとこ降参して、レヴィア。このまま続けられると私たちも危ないから……あー、っていうか駄目だ。部屋出るね」

 

 ミルエルは煽り、エニールはなるべく後輩の痴態を見ないよう目を逸らした後、そそくさと部屋から退室した。理由は聞かないでおこう。

 二人ともレヴィアほどではないけれど、顔が赤くなり、息が乱れていた。

 

 原因は僕だ。

 今の僕はミルエルに頼まれ、放出するフェロモンの量を少しだけ……本当に少しだけ増加させている。レヴィアほどではないけれど、彼女たちも影響を受けてしまっているのだ。理性を保つことができているのは、ひとえに彼女たちが上位種であり、ある程度フェロモンに慣れていたから。

 

 とはいえ、このまま継続すると理性が壊れてしまってもおかしくない。

 僕はレヴィアに告げる。

 

「レヴィア。あんまり無理はしないほうが……」

「む、無理なんて、してないから……っ!」

 

 トロン、と蕩け切った表情と瞳。

 何だか此方まで変な気分になってくる。

 断るべきだったか。と、僕は今更ながら後悔しつつ、ミルエルに言った。

 

「なんでこんな勝負にしたんだよ、ミルエル。僕に抱き締められたまま三十分の我慢なんて……」

「確実に勝てる勝負なので。現に、まだ五分しか経っていないのに、このありさまです」

「それはそうだけど……」

「まぁ、ですが」

 

 フゥ、と深呼吸をして心を落ち着け、ミルエルはピンと人差し指を立てた。

 

「このまま我慢比べをし続けてしまったら、私までルディル先生で有精卵を作ろうとしてしまいます。理性がドロドロに溶かされて。私はそれでも構いませんが、先生は嫌ですよね?」

「僕はまだ教師でいたいからね。というか、なったばかりで解雇は嫌だよ」

「えぇ。なので、トドメをさしてしまいましょう」

「トドメ?」

 

 物騒なことを告げたミルエルに首を傾げると、彼女は近くのテーブルに置かれていた紙とペンに手を伸ばし、サラサラと何かを記入。

 そして、そこに記した文言を僕に向けた。

 

 えぇ……もしかしなくとも、僕に読み上げろってことだよね。

 しかもご丁寧に、耳元で囁くって指示まで書いてある。

 中々に恥ずかしい、年頃の乙女に告げるには厳しいものがある台詞だ。

 

 抵抗感はある。

 けれど、これで終わるというのならば……。

 

 意を決した僕は一度頷き、必要なことだと自分に言い聞かせ、レヴィアの耳元に口を寄せる。

 ピク、と震えた彼女の身体。

 それをギュッと抱きしめ、僕は声を震わせた。

 

「我慢はいらないよ。もっと、沢山……産卵《だ》して?」

「「う──ッ!!?!」」

 

 直後、レヴィアとミルエルが艶のある苦悶の声を上げて身体を震わせ、パタン、と気を失って倒れてしまった。

 

 □ □ □ □

 

 本日の教員日誌

 追記事項:生徒会執行部、役員一名確保

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