常時発情フェロモンを分泌している妖精王が、欲求不満な乙女が集う女子学院で教師になったら〜僕が力で勝てない圧倒的につよつよな生徒たちが僕の『アレ』を狙って迫ってくるんですけど……   作:朧 泡沫

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第4話 案外ドロドロした関係

 生徒会室は本校舎の屋上にあった。

 他の教育機関には見られない、半球状の一室。天井は陽光を取り入れられるガラス張りになっており、明るい室内には新しい家具や家電が幾つも設置されている。ここで暮らせば、快適な日々を謳歌できる充実さだ。

 

 これが、生徒会室。なんて豪華な部室なんだ。

 壁際に置かれた白いソファに腰掛け、豪華な室内を見回していると──。

 

「何処まで話しましたっけ」

 

 カフェオレの入った二つのマグカップをサイドテーブルに置き、僕の対面に腰を落としたミルエルが問うた。

 

「ルディル先生に顧問を担当して頂ける喜びは伝えたと思いますが……」

「生徒会の役員がミルエル以外にいない、ってところまで聞いたかな」

「そうでした。では次は、その理由についてですね」

 

 上品に、優雅に、気品すら感じられる所作でマグカップを口元で傾け、ミルエルは語った。

 

「簡潔に申しますと、他のメンバーはこれから勧誘します」

「勧誘……ってことは、選挙で決定するわけじゃないんだね」

「はい。この学院では選挙で決定するのは会長のみで、他の役員は会長が勧誘と推薦をし、顧問が承認することで決定します」

「他の学校とは大分違うシステムなんだな……役員の選出には、ルールとかあるの? 流石に、誰でもいいってわけではないんでしょ?」

「勿論です……と言っても、守らなくてはならないルールは一つだけですが」

「それは?」

「各寮から一人ずつ選出すること」

 

 告げ、ミルエルは僕に尋ねた。

 

「ルディル先生は、学院の四つの寮についてご存じですか?」

「ざっくりと、ではあるけどね」

 

 肯定し、僕は頭の中にある知識を思い出した。

 

「天空寮・ディラウス

 海洋寮・オヴァ―ル

 森林寮・ハルティ

 冥界寮・プルート

 学院の生徒たちは各々の種族のルーツと同じ寮に所属し、寮友たちと三年間、寝食を共にする……っていうことくらいしか知らないんだけど、あってる?」

「はい。寮の基本的な知識としては十分ですが……一つだけ、生徒会の顧問として把握していただきたいことがあります」

 

 前置きし、ミルエルは神妙な面持ちで告げた。

 

「四つの寮は全て、トラブルが非常に多いのです」

「トラブル、っていうと?」

「喧嘩、いじめ、揉め事、数え上げればキリがありませんが、とにかく毎日のように問題が発生します。淑女の卵が暮らす場所とは思えないほど、姦しいのです」

「そうなんだ……まぁ、多感な十代だし、そういうことがあるのは当然か」

 

 生徒たちは子供と大人の狭間、精神的に不安定な年頃であり、些細なことでトラブルになるのは仕方のない面がある。そして今の時期に、発生したトラブルを乗り越える経験をすることで大人になっていく。成長のために必要な側面もあるのだ。

 

 と、僕は意見を口にすると、ミルエルは納得しつつもうんざりとした表情を作った。

 

「ルディル先生の主張も理解はできますが、仲裁が大変なことに変わりはありません。特に、複数の寮が関係するトラブルの解決は非常に骨が折れます」

「寮の間でトラブルとか起きるんだね」

「起きますよ、勿論」

 

 ミルエルは溜め息を零した。

 

「寮というのは国のようなものです。それぞれに固有の特色や規律、常識、文化が存在します。そしてルディル先生もご存じであるとは思いますが、異なる文化は争いや軋轢を生む原因となり、手を取り合うことは非常に難しい。互いに譲れないものがあるわけですから」

「確かに、有名な学会が多文化の共生は不可能である、って結論づけていたしね」

「えぇ。おまけに四つの寮は学院で成績を競うライバルですから、仲が悪くなるのは当然です。当事者だけでは、問題の解決もままならないほどなんですよ」

「ままならないか」

 

 ミルエルの言葉の一部を復唱し、僕はここまでの話から導き出した推測を口にした。

 

「察するに、生徒会の主な仕事は、寮の間で生じた問題の仲裁かな?」

「その通りです」

 

 ミルエルは『お見事』と嬉しそうに言って頷いた。

 

「各寮にはトラブルの解決に当たる組織が設けられてはいますが、そこで対応できる問題には限度があります。自己解決が難しいトラブルを解決するために手助けをするのが、我々生徒会の主な仕事。その存在意義から、生徒会のメンバーは全ての寮に立ち入ることが許されているのです」

「なるほどね。全ての寮に入れる上に大きな影響力も有しているから、各寮から一人ずつ選出しなくてはならないってことか」

「はい。学院長曰く、昔はこんなルールはなかったらしいのですが……一度、生徒会の全員が一つの寮生だけで構成されたことがあり、その時に大揉めしたとのことで。不平不満が出ないように、今のようになったそうです」

「何だか、政治みたいだね」

「みたい、ではなく政治ですよ。各寮の上層部は様々な駆け引きをしていますし、少し前には他寮の情報を内部から探るスパイも存在していたらしいです」

「ガチな奴じゃん……」

 

 僕は少し引いてしまった。

 学生が生きるには、あまりにもドロドロとした世界。輝かしい十代、人生の絶頂期を過ごすには相応しくない環境だ。二度はない人生。生徒たちには、できれば明るい世界で暮らしてほしい。そういった政治ごっこは、大人になってからでいい。

 

 余計なことは考えず、もっと学生生活を楽しみ給え、乙女たちよ。

 と、僕が胸中で呟くと、ミルエルが悩ましそうにこめかみに手を当てた。

 

「例年は春休み期間中に勧誘と推薦を済ませ、始業式には役員全員が揃っているのですが……今年度は不運なことに、全ての寮で大きな問題が起きているようで、思うように進まず」

「恐ろしくタイミングが悪かったんだね。それは不幸な」

「そうなんです。なので本格的に活動するのは、まだ少し先になりそうです」

「役員が全員決まらないことには始まらないもんね」

 

 最優先事項は、生徒会メンバーを全員揃えること。四つの寮でトラブルが発生している今、それは簡単なことではないけれど……やり遂げよう。顧問として、全力でサポートする。

 これからよろしく、生徒会長。共に頑張ろう。

 そう言って、今日はこれで終わりにしようとした──時。

 

「ところで、ルディル先生」

「うん?」

「お腹、空いていませんか?」

「え?」

 

 突然の質問に首を傾げつつも、僕は自分の腹に意識を向け、頷いた。

 

「もう昼過ぎだし、それなりに空いてはいるけど──」

「でしたら!」

 

 胸に手を当て、食い気味に、ミルエルは言った。

 

「先ほどの失礼のお詫びに、昼食をご馳走させてください!」

「昼食を御馳走って……いや、流石に生徒に奢られるわけには──」

「ご安心ください! 昼食は私が作ります! こう見えて私、料理の腕には定評があるんですよ?」

「へぇ……そこまで言うなら、御馳走になろうかな」

「はい! お任せください!」

 

 自信満々な様子で言ったミルエルは立ち上がり、そそくさと別室へと移動した。するとすぐに、微かではあるけれど、幾つかの調理器具が奏でる音が鼓膜を揺らす。

 まさか生徒の手料理を食べることになるとは思っていなかったけど……果たして、どんな料理が出てくるのか。

 

 僕は聞こえてくる料理の音に耳を傾けながら、様々な料理を思い浮かべ、ミルエルの料理に胸を躍らせた。

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