常時発情フェロモンを分泌している妖精王が、欲求不満な乙女が集う女子学院で教師になったら〜僕が力で勝てない圧倒的につよつよな生徒たちが僕の『アレ』を狙って迫ってくるんですけど……   作:朧 泡沫

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第8話 海洋寮 到着

 結論から先に述べよう。

 全く大丈夫じゃありませんでした。

 

「か、考えが甘かった……まさか、ルディル先生のフェロモンが、至近距離ではこれほどまでに私の子宮を──お゛ッ!?!」

 

 海洋寮・オヴァ―ル、応接の間。

 多種多様な魚が遊泳する巨大な水槽が設置された室内の中央で、一人の少女がビックンビックンと身体を跳ねさせ蹲っていた。

 

 紺色の長髪に、同色の瞳。苦悶と恍惚が入り混じる端正な顔立ち。

 背中には鮮やかな青い羽に覆われた一対の翼。そして、魚の下半身には光沢を放つ鱗が煌めいている。先ほどまでは人間の足だったのだけど、本来の姿に戻ってしまったようだ。

 

 セイレーン。

 海洋の歌姫とも呼ばれる種族の少女は、自分の胸を押さえて荒い呼吸を繰り返す。苦しそうで、同時に、嬉しそうにも見える。

 そんな彼女を見下ろし、僕の隣に立っていたミルエルは得意げに言った。

 

「だから私は何度も忠告したではありませんか、エニール。妖精王のフェロモンは凄まじいので、甘い考えと生半可な覚悟では痛い目を見ると。過信、慢心、貴女の悪いところですよ?」

「くっ……生半可な覚悟でルディル先生を招いたつもりはないけど、これは流石に想定外だよ……」

 

 セイレーンの少女──海洋寮長のエニールは悔しそうに歯噛みし、次いで、ミルエルを見上げて彼女に問うた。

 

「ミルエル、貴女はどうしてルディル先生の隣に、無事で立っていられるの? ま、まさか……フェロモンへの耐性を獲得しているとッ!?」

「フッフッフ、その通りです。私はルディル先生と生徒会室で濃密な時間を共にしたことによって、簡単に発情しない耐性を手に入れたのです」

「な、なんて凄い力を……」

「その証拠に、今ではこのように抱擁することも可能となりました!」

 

 自信満々に言ったミルエルは勢いに身を任せ、横から僕の身体を抱き締めた──瞬間。

 

「う゛──ッ!??!」

 

 花の女子高生、十代半ばの乙女。

 可憐な少女が発するにはあまりにも品がない声を上げ、ミルエルはエニールと同じように床へ突っ伏した。

 ビックンビックンと身体を跳ねさせ、荒い呼吸を繰り返し、小刻みに痙攣する。

 

 何をやっているんだ、この子たちは。

 呆れの溜め息を吐きつつ、僕は近くの一人掛けソファに腰を落ち着け……床に転がったままのエニールに声をかけた。

 

「正直、もう自己紹介もいらないくらいだとは思うけど、一応ね。君が寮長のエニール、であってる?」

「は、はい。初めまして、ルディル先生……」

 

 ペタン、と床に座ったまま、エニールは僕に向かって軽く頭を下げた。

 

「海洋寮オヴァ―ルの寮長、エニール=ラルニーバです。妖精王であるルディル先生に直接ご挨拶をすることができ、本当に光栄です」

「そんなに畏まらないでよ。僕は君主なんかじゃない。ただの教師なんだから」

 

 種族としての優劣、上下関係はあるかもしれないけど、今の僕はただの教師。

 それ以上でも、それ以下でもないのだ。他の先生たちと同じように接してほしい。

 そうお願いし、次いで、僕はエニールに感謝を告げた。

 

「まずはありがとう、エニール。朝早くに応じてもらって、感謝しかないよ」

「いえ、とんでもありません。急を要する案件であると聞いておりましたので」

「急を……あぁ、うん。そうだね」

 

 本当はそこまで解決を急がなくてはならない案件ではないのだが、恐らく、ミルエルがすぐに応じてもらえるよう付け加えたのだろう。なら、訂正する必要はなし。早くに解決したいと思っているのは、本当だし。

 このまま話を進めることにし、僕は早速エニールに頼んだ。

 

「単刀直入に。リヴァイアサンの亜人の子に会わせてほしいんだ」

「リヴァイアサン……というと、レヴィアですか」

 

 レヴィア。

 それが件の生徒の名前らしい。

 らしいといか、ぽいというか、いい名前だ。

 

「会わせるのは吝かではないのですが……お勧めはできませんよ?」

「それはレヴィアが難しい性格の子だから?」

「それもありますが、それ以上に──」

 

 一拍を空け、エニールは神妙な面持ちで告げた。

 

「彼女の種族特性が、少々危険なのです」

「種族特性……あ」

 

 察した。

 有名な話だ。海洋を統べる王であるリヴァイアサンの種族特性。

 それは──。

 

「……【海洋王の徴収】。感情が乱れると、周囲の生物から生命力を奪う力……だったね」

「はい。実際に私も彼女と対面し、その種族特性を実感しました。そして、痛感しました。あれは──危険です」

「……ルディル先生」

 

 不意に、ミルエルが真剣な声音で僕を呼んだ。

 危険だ。身の安全を考えれば、下手に接触するべきではない。そう訴えているのがわかる。

 正論だ。リヴァイアサンの種族特性は危険極まりない。最悪の場合、命すらも奪われてしまうだろう。一般人が無暗に接触するのは控えるべきだ。

 

 けれど、問題ない。

 危険な種族特性を持っていることは、僕が接触を避ける理由には当たらない。

 何故なら僕は──一般人の枠から外れる存在だから。

 

「厄介な種族特性を持っているなら、なおのこと、僕が一緒にいてあげないと。エニール、レヴィアの部屋まで案内してもらっていい?」

「そこまで仰るのでしたら……そういえば聞き忘れていましたが、レヴィアにはどんな用件で?」

「あー、それはね……」

 

 しまった、考えていなかった。

 馬鹿正直に『僕の個人職員室にあった卵を返しに来た』なんて言えるわけがない。それは彼女の名誉やらその他諸々をとんでもないことにしてしまう。

 何か、何か……いい理由はないものか。

 僕が思案すると、ふと、ミルエルが堂々と告げた。

 

「スカウトですよ。生徒会執行部への。王種であるレヴィアさんのことは、前々から目をつけていたのです」

「……そういうことか」

 

 納得し、うんうん、とエニールは頷いた。

 

「確かに、種族の王であるレヴィアが執行部の一員になってもらえたら、我々としても非常に助かる。他寮への影響力が大幅に増すからね……特に、天空寮に対して」

「他寮への干渉は極力控えてくださいよ」

「フフ、そんなお願い程度では収まらないのが政治というものじゃないかな?」

「この腹黒歌姫め……」

「何とでも♪ ……それに、うちの寮も色々とごたついているから、早く選出したかったし」

 

 安堵と期待を孕んだ声で言ったエニールは背筋を伸ばし、深々と頭を下げた。

 

「レヴィアの生徒会執行部入り、期待しています。どうぞよろしくお願いいたします」

「うん、任せて」

 

 期待に添えるよう努力する。

 僕はエニールにそう返した。

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