異端者の仲間たちの中では最古参といってもいいほどの存在である彼。
もちろん、リーダーには信頼され、仲間たちからも慕われていた。
しかし、彼には一つの悩みがあった。
異端者たちは個性的な面々である。
そんな中、彼は彼らにあって自分にはないものに気づいてしまったのだ。
青年は悩んでいた。
彼は、異端者のリーダーと仲間の中でも一番古い付き合いの人間であった。そのため、リーダーから悩み事を聞かされたり、時には発破をかけてやることもある。このように彼はリーダーからは数少ない本音を言える人間と認識されていた。
戦闘においては、チームの弱点でもある魔法分野のエキスパートとして、戦況に応じて魔法を使いこなし、どんな状況でも活躍できるオールマイティな戦力であると自負していた。
しかし、彼、ラッドは全く目立っていなかった。
『WANTED ラムザ・ベオルブ 異端者一行』
どんな街にも教会周辺の掲示板には、この掲示がされている。リーダーのラムザはもちろん、副団長扱いのアグリアス、銃使いのムスタディオ、背教者ベイオウーフ、暗殺者マラークなどはこの掲示板に載っているため、街に入るときには変装などをしなければならない。
しかし、ラッドは載っていない。そのため儲け話を受けることもできるし、酒場で大騒ぎをしても問題にはならない。一見メリットが多いように見える。
しかし、彼にとっては非常に不愉快なことである。ラムザの理解者として、また仲間として数多くの活躍、協会側からすると悪行を積み重ねてきた彼が、手配されていないのだ。仲間の一員として、何か仲間外れになった気持ちにもなる。またそれほど自分が目立てていないのかとも落ち込んでしまう。
必殺技のようなものがないのが原因ではないかとも考えた。アグリアスには聖剣技、メリアドールには剛剣、ムスタディオには狙撃、他、彼の仲間たちには個別の必殺技がある。
先日までは叫んでばかりだったラムザも究極魔法という必殺技を手に入れた。
しかし、ラッドは魔法使い。みなと同じ魔法しか使えないので個性が出ないのだ。だが、それだけで目立てていないのはおかしい。そう彼は考えていた。
そして今日も、彼は目立っていなかった。
「異端者一行とお見受けする。覚悟!!!」
「くっ、敵襲!!」
うっそうとした緑が生い茂るアラグアイの森。いつものように行軍をしていた彼らに襲い掛かってきたのは忍者たちである。高き機動性で、標的の首を刈る恐るべき強敵。
そんな強敵だが、ラムザやアグリアスの前には簡単に敗れ去って行くのが常であった。
しかし、このときはたまたまラムザもアグリアスも2人でどこかに出かけており、臨時でラッドが指揮を執っていた。本当にたまたま2人で出かけたのかはわからないが…
また、ムスタディオもゴーグに銃のメンテナンスに帰っており、他主要メンバーも各々所要で集団から離脱していて、戦力的に厳しい状況。
「くそ、何であの2人、こういうきつい敵が来る時に限っていちゃついてるんだよ」
そんななか一人愚痴るラッド、前衛戦力の要である2人がいないと集団としては大変不利な戦いを強いられるため、指揮官のラッドには大きな負担がかかるから仕方ないといえば仕方ない。
「まあアグリアス様のあの笑顔を隠しきれていない表情が見れただけでも十分よ、それよりちゃんと支援しなさい、私とアリシアで前線を支えるのは厳しいんだから」
そんな愚痴を言うラッドに向けて前線から怒鳴り声で発破をかけるのは、ラヴィアン。竜騎士として空間を飛び回り前線を維持する、主要メンバーが抜けた異端者たちのなかではエースクラスの存在である。
「そうそう、あんなアグリアス様。帰ってきたら徹底的にからかってあげるんだから。って、たああ」
軽口をたたきながらも忍者をいなすのはアリシア、某聖剣で叩きのめされてもめげずに、アグリアス様をからかい続ける忍者、彼女もまたエースクラスの存在である。
「そんなことは分かっている!!ほら、魔法行くぞ。
地の砂に眠りし火の力目覚め 緑なめる赤き舌となれ! ファイラ!」
そして、最初に愚痴りながらも、高速で魔法を詠唱する黒魔道師ラッド。彼ももちろんエースクラスの存在である。その彼の生み出した火の嵐は、忍者たちを巻き込み確実にダメージを負わせていく。
そんな彼ら3人の活躍で、忍者たちとの戦闘は主力がいないにもかかわらず互角以上に進められていった。
「畜生、聞いてねえぞ。残りは雑魚だけじゃなかったのかよ」
そうなると忍者たちも焦りだす。雑魚を駆って懸賞金をいただこうとしていたのに、すでに7人いた仲間のうち2人は戦闘不能。しかも戦況は不利なままである。
「あの情報屋、大事なことを伝え忘れてるじゃねえか。まだ主力が2人も残っているなんて」
「えっ、2人?」
そんな敵の言葉にラッドは反応した。
「確かに2人も主力が残っていやがる。たしか聖騎士のお付だったよな。さすがは元近衛の連中だ。」
そう、アリシアとラヴィアンも襲撃者たちには知られた存在であったのだ。町では目立たないものの、戦場での彼女たちの活躍は華々しいものがあった。ただし目立つ容貌をしていないため、手配されていないだけである。
主力が抜けて雑魚ばかりしかいないと思い込んで襲い掛かった忍者たちにとってこれは大きな想定外であった。
しかし、ラッドにとってもこれは予想外であった。確かに自分は有名ではない。だが、アリシアもラヴィアンも同じぐらいの知名度であろう。そう思い込んでいた彼にとって、
「主力は2人」
という言葉は大きな衝撃であった。自分一人だけこれだけ目立たないとは思っていなかったのだ。
「俺って本当に目立ってないんだな」
そうぽつりと彼はこぼした。
そんな隙を見逃さない忍者達。動きが鈍ったラッドへ向けて瞬時に間合いを詰めようとした。
「所詮黒魔道師、敵にもならん、とった!!」
気が付いた時にはすでに忍者は目の前、魔法を詠唱する余裕もない。忍者は刀を振り下ろしていた。
そのときであった。
「ぐわぁ、弓兵だと。こしゃくな」
敵忍者に一本の矢が突き刺さる。そのため激痛で怯み、ラッドの命を奪う前に後方へ下がっていく
「ラッドさん!!、ぼうっとしてないで魔法!前線が持ちませんよ!みんなラッドさんの指揮で動いてるんですから」
ラッドの危機を救ったのは、古参の弓使いのシエナ。アグリアスや、メリアドールのようなパッとした美人ではないが、異端者の華の一人として仲間内では人気のある女性である。そんな彼女が、樹上から狙撃でラッドを救ったのだった。
「すまない、ちょっと疲れていたようだ」
「ちょっと疲れたでぼけっとしちゃ困ります。私たちのまとめ役として欠かせないんですからちゃんとしてください」
そんな風に、ラッドを叱咤するシエナ。そんな彼女を見て苦笑するラッド。
(そうだ、何でおれは敵の評価なんて気にしていたんだ。仲間に必要とされてるんだ。十分じゃないか)
そう考えたとたんに、彼の体に再び力がみなぎってきた。先ほどまでよりも強い魔力を操れる。そんな気がしてきたのだ。
「よし、ここまでは遊んでやっただけだ。畳み掛けるぞ、みんな!!」
その言葉と同時に魔法を展開していき、連続で敵に魔法を浴びせかけるラッド、通称れんぞくま、魔法使いの一種の奥義をこの瞬間に彼は会得したのであった。
この後、ラッドたちは敵を圧倒した。先ほど以上に冴えわたる魔法の支援、そこに重なるように襲い掛かるアリシア、ラヴィアン、さらにはほかの仲間たち。敵を殲滅するにはそんなに時間がかかることはなかった。
そこに一行から離れていたラムザたちが戻ってきたのは、襲撃から半日があった夕方になってからであった。
楽しい時間を過ごしたのか、笑顔のラムザとアグリアス。彼女の手には何かキラキラしたものがついていた。それを野営地の前で、マントに仕舞い込むアグリアス。このままいったらからかわれてしまうのは目に見えていた。
幸せそうなアグリアスであったが、戦いの臭いをかぎ、ものすごくすまなそうな表情にすぐに変わる。
「隊長。ラムザさんと楽しくやってきたらしいですね、私たちがこんなに苦労している間に…、何をやってたか洗いざらい、今回こそ聞かせてもらいますよ」
そんな落ち込みそうなアグリアスをからかうのは、ラヴィアン。隊長に自由をあげようと提案したのも彼女だったが、あの笑顔は予想外であった。そこで、今回の襲撃にかこつけて、聞き出そうとする。休暇を取ったぐらいで暗い顔になってもらいたくないという親切心もちょこっとだけあるが。
「そうですね、たーいちょう。私も聞きたい~」
そこに便乗するアリシア、他もろもろの仲間たち。
そんな空気に感謝しながらも、アグリアスはいつものようにはぐらかそうとする。
「忙しいときにいなかったのは申し訳ないわ…けどそれとこれは話が違うでしょう、ねえラムザ」
しかし、ラムザに振ったのは間違いであった。ラムザもちょっと浮かれていて、冷静な会話ができる状況じゃなかったのだ。
「うん、アグリアスさん。町で指輪を買った話なんて…」
「・・・指輪?」
「指輪あああああ!!!」
そのラムザの言葉の後、異端者たちはお祭り騒ぎであった。徹底的にアグリアスを追及する近衛の2人や女性陣。ラムザに向けて各種魔法、呪、銃撃他もろもろをぶつける男たち。
いつも以上に異端者は、楽しげに夜を過ごしていく。
そんなどんちゃん騒ぎをラッドは、野営地のはずれで遠目から見ていた。
「うん、俺はこういうみんなのためになれたら十分だ。」
そうつぶやきながら、ラッドは一人、エールをあおる。ミルクをラムザと一緒に頼んで恥をかいたりしたのもいい思い出だが、最近のラッドは各地のご当地エールを飲むのが趣味となっていた。
「みんなのためですか、それもいいですけどね」
そんなラッドの言葉に声をかけたのはシエナ、先ほどの弓使いである。先ほどとは違い、ワンピースで身を包む、かわいらしい格好である。
一人しかいないと思い込んでいたラッドは、急に声をかけられて飛び上がる。
「なんだよ、びっくりするじゃないか」
「なんだとは失礼じゃないですか。女の子ですよ。私は」
「女の子ってねえ。それよりなんだ。ここには俺ぐらいしかいないぞ、誰を探しているんだ?」
かわいらしい格好にちょっと顔を赤らめながら、話をするラッド。その反応に満足げな表情をするシエナ。ただ、この返答はいただけないとも思う彼女。
「やっぱりあなたって馬鹿ね、そりゃ敵には目立たないわよ」
「やっぱりってなんでだよ!!」
そんなラッドの言葉に彼女は少しだけ落ち込む。そして
(実力行使か。いや、まだ早いか。)
そんな風に作戦を練る彼女。
「おい、どうした、シエナ。寒いだろうしみんなのとこに戻れよ。」
しかし、考え込んだ彼女に対してラッドはさらに的外れな声をかけてくる。このままではラッドは気付かない。
(前言撤回、この鈍感にはこれしかない)
そうと決まったら彼女の動きだしは早かった。ラッドの顔をむんずとつかみほほに唇を当てる。
「ここまでしないとわからないから、目立たないのよ。ばーか」
そして、リンゴのように顔を赤らめてシエナは走り去っていった。
置いて行かれたラッドは、ぼうっとしていた。
(え、俺にキス?シエナがおれを好き???なバカなああ)
人気者の彼女に告白に近い行為をされたラッド。そしてかれは、また一人で悩むのであった。