独眼竜世界に駆ける(仮題)   作:鉄線攻種

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第一話 独眼竜、彷徨う

 

トップガンダーが飛ばされた先は、現代とは程遠い異世界のようだった。

周囲の環境から察するに、山中に飛ばされてきたらしい。

登山をする気にもなれず、とりあえずは麓を目指すことにした。

 

異世界での数日を過ごし、分かったことは二つ。

 

一つは、大型ライフルの弾が無制限になっていること。

いくら撃ち続けても、弾切れを起こすことはなかった。

 

もう一つは、完全に人間になってしまっていること。

怪我をすれば血が出て、痛い。動き続ければ疲れるし、腹も減る。

ロボットだった身からすれば不便なことこの上ない。だが、“味”というものを知れたのは新鮮で少し嬉しかった。

 

 

 

異世界生活一週間目。

ツノが生えたウサギの肉ばかりを食べてきた。

最初の数日はご馳走だったそれも遂に飽きがくる。人間とは贅沢な生き物だと実感した。

 

 

異世界生活二週間目。

あてもなく彷徨うだけの毎日に嫌気が差し始める。

今はまだ健康だが、いずれは餓死してしまうかもしれない。それが神様の目的なのだろうか、なんて馬鹿げたことも思い始めた。

 

 

 

「……あいつの思考なら、馬鹿げてるとも言えないな」

 

 

 

三週間目。

未だに山から出られない。どうなっているのだろうか。

心の中であの神様を罵倒した回数が三桁に到達する。

昼にはニワトリとヘビのキメラを狩り、四日ぶりの食事にありついた。案の定腹を下した。

 

 

五週間目。

山を徘徊していた機械の竜に襲われた。何を言ってるかわからねーと思うが以下略。

もしかするとこの世界は高度な技術が発達しているのかもしれない、と少しだけ希望が芽生える。

機械の竜は炎が生き物の如く自在に曲がる火炎放射機やミサイルなどを備えていて手強かったが、何とか撃破した。

 

 

六週間目。

ここ数日間食料がまったく採れていない。

というか、未だに山から出れてすらいない。この山に化かされているのだろうか。

 

もはや、これまでか………

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

冷たい雨に打たれながら、トップガンダーは暗い山道を歩く。

あの神様の真意を知るまでは死ねない。今の彼を動かしていたのはその思いのみに等しかった。

 

 

 

 

 

────た──けてッ

 

 

 

 

 

「………ッ」

 

 

ふと、雨音の合間から聞こえてきたのはそんな短い悲鳴。耳をすますと、ギシギシ、と鋼鉄の何かが軋むような音も聞こえてきた。

この音には聞き覚えがある。数日前に戦った機械の竜が発する音に酷似していた。

 

 

「………チッ」

 

 

誰に対しての舌打ちだったのか、自分でも分からない。

気付いた時には、その足は音の方へ向けて地を蹴っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

 

 

振り乱された流れるような黒い髪が、夜の雨を弾いて流麗に輝く。質素な麻の服はところどころが破け、その穴からは小さな傷が覗いている。

雨と涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした一人の少女が、必死の表情で走っていた。

 

 

「■■■■■■■■■■■…」

 

 

動く度にギシ、ギシ、と嫌な金属音を立て、警告音にも似た奇っ怪な鳴き声を上げながら少女に迫るのは、機械仕掛けの竜。

6メートルはあろうかという緑色の巨躯が地響きを立てる度、少女がひっ、と短い悲鳴を上げる。

 

 

「■■■■…」

 

「きゃっ…う、あっ……」

 

 

竜が炎を吐いた。咄嗟に身を屈めた少女は、泥濘んだ地面に足をとられ転倒してしまう。

少女は起き上がらない。否、起き上がれなかった。眼前にまで迫った死の恐怖に、もはや震えることしかできなかった。

 

 

「い、やだッ…やだぁッ…」

 

 

少女を捉えた機械の竜がその大きな顎を開く。

喰らうためではなく、口内に備わった火炎放射機で少女を灰にするために。

 

 

「いッ、いやぁッ…誰かッ……助けてッ…」

 

 

無機質に少女を狙う火炎放射機がちろっ、と火花を覗かせた直後。

 

 

 

 

 

ガキンッ!!

 

 

 

 

 

金属に何かが打ち付けられたような音。

 

 

「………?」

 

 

いつまで経ってもこの身が焼かれないのを不審に思った少女が、うっすらと閉じていた瞼を開く。

目の前の機械の竜は、その長い首を少女とは真逆の方向へ向けていた。ギギギギ、とその体を少女から離し、遂には背中を向ける。

 

 

「…な、何……?」

 

 

暗くてよく分からないが、竜の体躯の隙間から、誰かが竜と対峙しているのが見えた。

少女の目ではシルエットのようにしか映っていないその人物は、見たこともない武器で竜を攻撃している。

手に持つそれが劈くような音と共に発光する度に、ガキン、ガキン、と竜の体が削れていく。

 

 

「…だれ……?」

 

「………」

 

「………あ……」

 

 

竜の胸部が展開し、大口径の砲口が姿を見せた。風が逆巻くような音と共にエネルギーが収束されていく。少女はそれが何を意味するのか知っていた。

謎の人物はただじっと、竜の攻撃を待ち構えている。呼びかけようにも、恐怖で口が動かない。

やがてその音が静止し、そして次の瞬間には高出力の破壊光線が放たれていた。

 

 

「きゃぁぁっ!!」

 

 

竜とは真逆の方向かつ離れた場所にいた少女も凄まじい突風に襲われる。

破壊光線は岩や木々を消し飛ばし、山に大きなクレーターを穿った。その跡地に、あの人物の姿はない。

少女は再び絶望した。

 

 

「あっ……」

 

 

邪魔者を始末した竜は標的を再び少女に向ける。

一歩一歩地を踏みしめて歩み寄る竜を前に、少女はもはや呼吸さえままならない状態で後ずさることしかできなかった。

 

 

「………」

 

「■■■■■…」

 

 

竜が迫る。今度はその鉤爪の生えた脚で踏み潰すことにしたようだ。

少女の小さな体を、竜の大きな影が覆ったその直後。

 

 

 

 

 

「───俺に背中を見せるとはいい度胸だ」

 

 

 

 

 

「■■■!?」

 

 

音速の弾丸が竜の鉤爪を砕いた。

少女はぱらぱらと降りかかる破片の向こうに、あの人物の姿を目視する。

 

 

「あ……」

 

 

相変わらずシルエット状で、その鮮明な姿を確認できないが、確かにあの人物だった。

その人は武器を構え、微動だにしないまま竜と対峙する。

 

 

「もう一度さっきの懐中電灯を撃ってみろ……その瞬間が貴様の最期だ」

 

「■■■■…」

 

「どうした…撃たないのか…?勝負は一瞬でつくぞ。ご自慢の武器で俺をもう一度消し飛ばしてみろ!!」

 

「■■■ッ!!」

 

 

挑発に乗せられた竜が再び胸部を展開させ、現れた砲口にエネルギーを充填させ始める。

あの人物は先ほどと同様、武器を構えて竜の攻撃を待ち続けていた。

 

 

「………」

 

 

あの人物の言う通り、勝負は一瞬でついた。

まさに竜が破壊光線を放とうとしたその時、あの人物が放った銃弾が竜の砲口を直撃。次の瞬間には少女の元へ駆け寄り、少女を脇に抱えて飛び出していた。

 

 

「………ッ」

 

 

少女はすぐには理解できなかった。謎の人物に抱えられたまま、暗い道を進んでいく。

遠くで閃光と共に爆発音が起こった時、ようやく自分が助かったのだと理解した。

 

 

「う…ふッ…うええぇぇ…」

 

「ッ!? お、おい…!?」

 

 

気付いた時には、引っ込んでいた涙が再び溢れ出していた。

今度は恐怖ではなく、安堵のあまりに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トップガンダーはあの後のことをよく覚えていない。

雨の音に紛れて聞こえてきた悲鳴。駆けつけた先では機械の竜が少女を襲っていた。

機械の竜が意外と単純だったことに救われ、無事に小さな命を守ることができた。

 

こんな少女が真夜中の山で一体何をしていたのか、それが一番気になるが、ともかく近くに村でもあるのかもしれない。

 

空きっ腹に朗報。トップガンダーは少女に村の場所を尋ねた。

返事がないのを不審に思い少女を見ると、彼女はトップガンダーの腕の中ですやすやと寝息をたてていた。

 

 

 

いつの間にか雨は止み、空が赤みがかり始める。

トップガンダーは夜明けよりも早く空腹の限界を迎え、その意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ~……今日はこんなものかな?」

 

 

キノコや木の実、山菜などが詰まった大きなカゴを小脇に抱えた少女が、額の汗を拭う。

ポニーテールに結んだスカイブルーの髪が、木々の合間から差し込む光に照らされて輝いた。

軽く焼けた健康的な肌も、白いビキニも、作業用のゴテゴテしたズボンも泥まみれだ。

少し離れた場所では、青い道着を身に纏った爽やかそうなたくましい青年が、ツノの生えたウサギを捕獲したところだった。

 

 

「おーい、リュウセーイ!そろそろ帰ろうぜー」

 

 

少女が青年に呼びかける。

青年はツノウサギの足を縛って背負ったカゴに入れると、少女に一声返してその後に続いた。

 

 

「フラウ、今日の収穫はどうだった?」

 

「大漁大漁!」

 

「おおっ、それじゃ今夜はご馳走だな!早く帰ろう!」

 

「ははは、リュウセイは食いしん坊だなあ」

 

 

談笑しながら、二人は食材を採取していた山を下り始める。

麓付近まで下りてきた二人の視界に飛び込んできたのは、腹の虫を大音量で鳴らしながら大の字で気絶している傷だらけのトップガンダーと、傍らで眠る黒髪の少女の姿であった。

 

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