女侠転生記  ~中ボス女侠の胃痛録~   作:郭尭

3 / 3
陰の三

 

 蠱烟島はその名の通り有毒生物が、不自然に感じるほど数も種類も多い。欧陽家の先祖か、それより以前の所有者が島全体使って蟲毒でもやった過去でもあったと言われれば、私は信じる。この有毒生物を漢方にして、というのがうちの主力収入源である。薬毒同根、毒薬の大家でもある欧陽家は、同時に医学にも一家言があるのだ。

 本来武術門派の正道の、外弟子から授業料を、ってのができない。足切りのことは知ってる人は知ってるから、外弟子募集したとしても、多分誰も来ないと思うけど。

 

 さて、私の任せられた蔵書房の基本的な仕事は島内の正規の蔵書の管理なのだが、加えて島内の収入に寄与するものが一つある。それが写本の制作である。島外に出せない門外不出の書物以外にも、市場で買える書物なども少なくない。それを複写して毒虫の干物やらの漢方を扱う商人方に、一緒に送るのだ。

 

 写本作業と蔵書の貸し借りの管理、そして警備が私と部下たちの鍛錬以外の仕事なのだが、その中で私にしか許されない仕事が一つある。それが今私が行っている家伝武功、『五毒真功』の編集作業である。

 五毒真功の歴史は浅く、師父が欧陽家を継ぐ前後に創始した武功なのだそうな。師父は四方を遊歴してた頃に秘伝書を手に入れた、四種の有毒生物を模した武功の特性の同時使用を目指した。結果は部分的な並列運用に敢えて留め、より強力な特性を持った新武功として昇華させた。そしてその武功に蜈蚣の勢を感じた師父は、古典に於いて蜈蚣の異名とされることもある蝍蛆 (しゃくしょ)から取って、天蝍(てんしゃく)功と名付けた。

 

 そうして完成した五つの武功を一つの体系として纏め、師父は五毒真功と名付けたわけである。

 この五種の武功を、師父の追加書き込みで非常に見づらい秘伝書から新しい紙に清書し続けていた。既に銅花門で玄蛛(げんしゅ)功を、島を出る前に大師兄の修める朱蜂(しゅほう)功の清書が完了しており、今は師妹の碧蛇(へきじゃ)功の清書を自室で進めているわけ、なのだが……

 

「文字、詰め込みすぎだよ。三割増しくらいになってるじゃん、もうさぁ……」

 

 清書できた量は時間の割に少なく感じる。古典的で分かりづらい表現に注釈が高密度で入り、色々な気付きも書き加えられ、作業量が大幅に増えている。

 書き物のやりすぎで固まった右手の指を左手で一本ずつ、時間をかけて漸く筆を放した。

 

 机に向かい続け、固まった全身の筋肉を、椅子から立ち上がって伸ばし解していく。今日はすでに結構な時間を仕事に使った。どうせ時間のかかる仕事だ。一月二月で終わる仕事じゃない。鍛錬も疎かにできないし、庭に出よう。

 

 書きかけの原稿等を隠し、部屋を出る。正大門の練功広場は今は行きたくない。逃げようとした二人が入れられてる木の檻が晒されているからだ。寒毒をどうにも出来なければ徐々に衰弱していく。生きるにしろ、死ぬにしろ、終わるまでは見に行きたくない。

 

 私は正殿後方の庭に向かう。島の峻険な山から運んできた奇石と水草の浮かぶ小池が点在している。塀の外から覗く山々の間からは煙のような湯気が何か所も昇っている。江西は所々で温泉が湧いており、この蠱烟島も例に漏れない、のだが!湧き出る湯量が少なく、浸るどころか温泉卵が作れる場所さへないのは非常に苛立たしい。

 

 さて、私の扱う玄蛛功は南拳の流れを汲む武功。腰の位置を低く保ち、急勾配の不整地や揺れる船上等に対応できるように工夫されている。敢えて何処か不安定な足場の場所を探して套路(とうろ、空手などでいう型に近い)を行おうとよさげな場所を探す。

 だがすぐに戦いの音が聞こえる。誰かが私と同じで鍛錬か、考え辛いが侵入者か。取り合えずこの庭の一番高い場所、池の中央の縦長の岩に向かう。水面を数歩、駆けるような、水切りみたいな要領で岩の頂に跳び乗る。水上移動は、大抵の達人と呼べる人間なら割と普遍的な技能なのだが、武功が向上するほど水泳よりできる人間の割合が上がっていくというのは、何なんだろうこの業界。

高所から見下ろし、目に入ったのは見慣れた二人の同門の姿だった。

 

 片や二十代半ば、少量の口髭を蓄えた、師父の面影を持つ青年。片や少し若い、恰幅の良い丸顔の、腹に疣の所々見える青年。

 師父のご子息で私たちからの若君、欧陽輪(おうよう りん)様。恰幅がいい疣の青年は二師兄、褐蟾(かつせん)功の魯二移(ろ にい)だった。二人とも両腕を大きく広げ、腰を低く構える。褐蟾功の基本的な構えである。遠心力を乗せた拍打を主軸とする、徒手としては広い間合いで威力を発揮する技が中心の武功。見た目にはあまり格好良くない構えから相互に大ぶりな攻撃の応酬が続く。一般的な武功の防御は躱したり捌いたりで基本受けない。点穴やら、うちとかの場合は毒やらで何されるかわかったもんじゃないからだ。

 だが二人の組手は軽い攻撃は敢えて受けて耐え、強引に攻撃の隙を埋めている。褐蟾功の内功は、毒を扱う部分を除けば、外部への発散に優れる。その気功の動きで、打撃や点穴をある程度押し返せる特性を活かして、多少の攻撃は受けても強引に攻撃を差し込むことができる。勿論、それを突破する方法自体はないわけではない。だがここに褐蟾功の毒功が加われば、更に防御力が上がるが、まあ組手ごときでそこまではやらないけど。

 

組手の趨勢は手数ごとに二師兄の方に傾いていく。同じだけ打ち合っても、若様の方が弾かれる距離が半歩遠い。内功の発散の出力差で、威力の軽減量が劣っているんだろう。

 ただ、これは決して若様の武功が劣っているわけではない。若様はいずれ師父の衣鉢を受け継ぐことを期待されている。だから私ら直弟子がそれぞれの武功を専修しているのと違い、天蝍功に至るため他四種を同時に修練しているから、武功ごとの練度が私らに及んでいないのだ。だからこれが実践なら状況は変わる。鍛錬だから若君は二師兄と同じ褐蟾功に縛っているようだが、五毒真功の真髄である天蝍功をまだ学んでいないとは言え、それでも四種の武功を扱えるのだ。個々の練度は私たちに劣るとは言え、本来二師兄の得意分野に付き合う必要がないのだ。

 ただ、鍛錬は鍛錬。ここでの勝ち負けに価値はない。若様は最後まで褐蟾功の技を振るい、順当に敗れた。若様の繰り出した内側から払い上げる一打。それを腹に受けた二師兄は、表情を歪めながらも動きを止めず、そのままぐるんと腰を回して大きく振り下ろす拍打を叩き込んだ。それを肩に受け、数歩後退ったところで負けを認めて拱手し、二師兄が拱手を返して組手は終了となった。若様の敗因は咄嗟に出た出の早い小技。褐蟾功の小技は受けたくない攻撃を崩すためのものが多く、褐蟾功自体の守りを突破できるものではない。なまじ他の武功の選択肢が頭を過ってしまい、その上で鍛錬の縛りも覚えていたから、あんな技を選んでしまったのかな?

 

 さて、向こうも一段落したのなら、私も挨拶に伺わねば無礼になる。私は水上を駆けて二人の方に向かう。

 

 

 

 

 

「……という感じで、もうちょっと人手が欲しいなって。口の利けるのを」

 

「ああ、し、しし島の使用人は、き、基本喋れない、からな」

 

「ああ、三糸が外で使うわけにはいかないか。地元なら公然の秘密だけど、外ではそうもいかないんだった」

 

 欧陽輪と魯二移の組手の後挨拶を交わした莫三糸を加え、三人は軽く数度の組手を行った。十分に筋骨を動かした三人は使用人を呼び、庭園の水榭(すいしゃ)で茶を淹れ、疲れと渇きを癒していた。莫三糸が戻った日、帰還の挨拶だけはしたが余り言葉を交わす時間が作れなかった。二年ぶりに落ち着いた環境での会話であった。

 

「銅花門に人を回さねば、まともに経営できません。とは言え、向こうに人数を回しすぎてこちらの仕事が疎かになれば、師父に怒られましょう。次の選徒(せんと)の時、私の判断での別枠の採用を許してもらえないか、相談してみようかと」

 

 話題は当然の如く、長く遠出していた莫三糸のことになり、自然と彼女の銅花門経営へと話題が移った。

 

「一回目の選徒に関しては、口出しはさすがに危ないと思うぞ。そこを掬われると、子供たちの必死さが薄れてしまう。父上がいい顔をしないだろう」

 

 蠱烟島の、外部から集められた子供たちは、例外なく武功の鍛錬を積まされる。二年に一度行われる選徒は、必ず選徒の時期を迎えていない子供たちも同席させられる。選徒を突破できなかった者の末路を見せつけるためである。この段階の子供を拾ってしまうと、彼らの緊張感が薄れてしまい、「品質」の低下を招くと。

 

「け、け、けれど、さい、最初の選徒で、でも、十に、ん、残るか分からない。かず、数は、そんなに、と、取れないと、お、思う」

 

「う~ん、やっぱり向こうで門弟募集が手っ取り早いんでしょうが、事情を教えられない相手は使い方が限られるんですよね。門派に知名度もないだろうから、今は仮にやっても人が来ないでしょうけど」

 

 莫三糸の立場からすれば十人とて足りはしない。時間的な面から見ても、必要な人員を全て島内から賄うのは現実的ではなかった。やはり銅花門の運営には、向こうで門弟の募集が必要だろう。だがそちらの方は門派の知名度が足りない。陶至賢が長年引退状態だったのだ。武林の若い世代では、名前さへ知らない人間も少なくないだろう。仮に黄小雀なる人物が銅花門を継いだと噂が流れたとしても、門弟が名跡を継いだのではなく、養子が遺産を継いだ程度に思われる可能性すらある。

 結局こちらも何かしらの方法で名を広めなくてはならず、すぐに問題を解決とはいかない。島から送る交代要員にも、銅花門の武功や機関術等を仕込む必要がある。弟子の名目に説得力を持たせるまで、促成でも半年は必要だと莫三糸は見ている。故に向こう一年は、目的に沿った運営は出来ないだろう。

 

「自分で名を売りに行かなきゃ、ですね。近く何かの武林の催しはありましたっけ?」

 

 知名度がなければ、誰も学びに来はしない。

 

「な、なら、この、近場なのは、よ、良くないな。な、何度も、何かする、のなら……」

 

 魯二移の言いたいのは、黄小雀が名を上げる何かしらが、蠱烟島に近い場所で続けば、万が一にも関係を勘繰る輩が現れないとも言えない。

 となると莫三糸は困った。彼女の記憶で今後起きる事件は物語が本格的に始まってから。それらは次の年のことであり、即ちまだ半年ほどあるのだ。

 戻ってきたばかりの彼女が、まさかまた上からの命令でもなしに、長期間島を離れるわけにもいかない。結局のところ、暫くは下準備を行う以外に思い付かず、暫くは島からの持ち出しに頼る他ない。ただ、情報収集はできるだけ早く機能させたいと考えている。

 

「それでは私は仕事に戻らせていただきます」

 

 仕事場の蔵書房に戻る莫三糸。欧陽旋が永楽帝の治世への反乱に関わり始める事件は次の年の武当山で開かれる、武当派開祖、『真人』張三丰の百七十歳の祝賀会の後。彼女にとってはこの時期までには情報収集を行えるようにしたかった。

 特に可能なら欲しいのは二人の人物。今は南京応天府で永楽帝に侍っているだろう道衍(どうえん)の動向。そして白蓮教(はくれんきょう)左護法(さごほう)、「取苦神手」楽享(らく きょう)の行方。

 この二つが、莫三糸にとって最優先でほしい情報だった。

 

 

 

 

 

 部下たちに銅花門の武功を仕込み始めて一月半、彼女は二人の部下を伴って島のなだらかな坂になっている場所に来ていた。全員で鏟(さん、シャベル的なもの)を持って、かつて部下だった躯を二つ、地面に埋めていた。

 首切りされ、何十人もの子供たちが葬儀もなく埋められている場所に、寒毒で凍死した二人を捨てるように欧陽旋から沙汰されてのことである。本来他の部下に任せれば良いことであり、莫三糸はそのような立場である。だが埋める作業に参加することを選んだのは、如何なる心情だろうか。

 この時期、島の草木は所々黄色と茶色を混ざり始めていた。少し前までなら羽虫が多くて、例え虫除けの香を炊きこんでいても、近づきたいとは思わなかっただろう。無論、今でも近づきたい場所ではないのだが。

 掘った二つの穴に、躯を一つずつ横たえる。本来遺体の扱いなどここまで丁寧に行われないが、莫三糸は当然のように遺体を一つの穴に捨てるという発想がなかった。

 

 さて、これから土を掛けようという段となって、莫三糸は自分たちに近づいて来る音に気が付いた。それは足音ではあるが、土や草を踏むものではなかった。木の幹や枝を蹴って素早く近づいて来る。

 音から推測できる速度を出せる軽功の使い手は島内に三人だけ。朱蜂功を扱う欧陽旋と欧陽輪、そしてそれを専修する直弟子四人の長たる者、史大広(し だいこう)。その名から想像できるだろう印象とは違い、背の丈は並みだが細身で眼光鋭く端正な顔立ちの美男である。

 

 莫三糸は作業を部下に任せ、自身は音の方向へ向かう。間もなく気を蹴る音は草土を踏む音に代わり、すぐに駆け寄って来る史大広の姿が彼女の視界に現れる。

 

「師妹三糸、大師兄に拝謁致します。何か御用でありましょうか」

 

 目上とは言え同門の兄弟弟子に対して、些か過剰とも見える謙譲で莫三糸は腰を折り、史大広に礼をする。

 

「拝礼はいい。師父が呼んでいる。尋命殿(じんめいでん)だ。付いて来い」

 

 史大広は無表情で莫三糸に用件を伝え、背を向けて歩き出す。言葉少なだが、莫三糸はその後ろに黙って付いて行く。

 

 莫三糸にとって、蠱烟島に属する人間の中で最も付き合い辛い人物が大師兄たる史大広だった。

 寡黙でいつも口を横一文字に結び、ともすれば不機嫌そうにも見える表情が基本となる青年は声を掛け辛いという雰囲気を纏っているという点でまず苦手ではあった。だが問題は別にもあった。

 

 さて置き、莫三糸は史大広に付いて行く。史大広も歩きなのは莫三糸の傾向では彼に付いていけないからである。道中、莫三糸は史大広に声を掛けかねていた。彼女とて大師兄を嫌っているわけではない。だがそれでも聞くべきことはある。荘園に複数ある勝手口の内の一つ。その目の前に来て、漸く声が喉から出る。

 

「大師兄、相変わらず、まだ師父を殺す気なんですか?」

 

「……当然だ」

 

 問題はこれである。莫三糸は深く溜息を吐いた。史大広の欧陽旋に対する殺意は、島内で知らぬ者はない。それは欧陽旋も含めてであり、彼はそれを許容している。この歪な師弟関係は、意識すると大分気分が悪くなるのだ。

 莫三糸としても理解できなくもない。史大広は双子の兄弟と一緒に島に売られてきた。そして彼は生き残り、もう一人はそれができなかった。欧陽旋からすればそれだけの事。だが血を分けた兄弟の死を、それだけで片付けることなどそうそう出来るものではない。故に莫三糸が一度島を出る以前から、既に欧陽旋の命を狙い、その悉くを打ち負かされてきた。

 

「そうですか」

 

 憎しみは正当で、仇討ちは江湖の習いにも背かない。故に欧陽旋は返り討ちにしてもその命を奪うことなく弟子として遇し続けている。史大広も恩を恩とも思わない人間ではなく、与えられた仕事はこなしており、任務で人を一人殺す度に一度、欧陽旋に挑むことを許されている。

 

 莫三糸にとって、史大広の行いは身内同士の殺し合いである。気分の良いものではない。育ての恩で相殺とはいかないものか、とも思う。同時に彼女はこれを止める資格が自分にはないとも考えている。より浅ましい理由で師を一人、既に手に掛けているのだから。

 

 やがて荘園の庭から尋命殿への道中、偶然にも欧陽輪とすれ違う。史大広に気付くと眉を顰める。自分の父親の命を付け狙う輩が目の前にいれば、心中穏やかではいられないものであろう。だがすぐに表向きは平静を取り戻し、挨拶だけ交わし、そのままどこかへ立ち去った。

 

尋命殿は島内の山荘、正門に近い位置にある。尋命殿は蠱烟島の裏の顔、暗殺家業の客が通される場所。そこに呼ばれたということは、そういう客がいるということである。莫三糸は一旦自室に戻り、衣服を着替え、黒い紗の帷帽を被って、部屋の外で待っていた史大広と再び合流して、尋命殿に向かう。

 

 殿と名がつく建物は、それが人が使うものの場合奥に玉座が設えられているものである。だが尋命殿の奥には替わりに閻王(えんおう、閻魔大王のこと)の道釈画が祭られた祭壇が置かれている。そして祭壇の前に欧陽旋が立ち、手前には涼やかな青く薄い絹の衣を纏った女性が相対している。

 

「弟子、史大広、お申し付けの通り、師妹を連れてまいりました」

 

「弟子、莫三糸、お呼びと聞き、参上仕りました」

 

 部屋に入った二人は、まずは師に対し片膝を着き拱手する。

 

「二人とも立て。三糸、お前に仕事だ。大広は戻って良いぞ」

 

 欧陽旋の言葉に女性が莫三糸に向き直り、史大広は部屋を後にする。残った莫三糸も欧陽旋の言葉を受け立ち上がり、女性に一礼して再び師に向き直る。

 

「この者が母親の仇討ちを望んでいる。お前に任せる」

 

 そう言って欧陽旋は祭壇の上に並べられた中央に令と彫られ、細かな文様が施された黄銅の板を手に取る。蠱烟島で暗殺命令を下す際に、官府の死刑執行の命令の際に放られる木牌を模した物、これを島では令牌(れいはい)と呼ぶ。

 欧陽旋は令牌を莫三糸の足元に放り、莫三糸は跪き両手でこれを拾い、頭より高い位置に掲げる。

 

「弟子、莫三糸、謹んで師命承ります」

 

 令牌を受け取った莫三糸は立ち上がると、礼拝を持ったまま客人である女性に拱手し腰を折る。

 

「蠱烟島の弟子、莫三糸がこれよりご婦人の仇討ちをご代行させて頂きます」

 

 莫三糸の礼に女性は袖から羅巾(らきん、シルクのハンカチ)を取り出し両手で持ち、その手を組んで腰の横に置き、両膝を曲げて頭を下げる。万福礼(まんふくれい)という教養ある女性が行う、格式高い礼である。

 

「賤妾(わたくし)、姓は李、名は清雨(せいう)。盛花楼(せいかろう)の娼妓にございます。何卒女侠のお力で、亡き母の仇を、何卒」

 

 頭を下げたままの李清雨の手を持ち上げ、莫三糸は目線を合わせる。

 

「それでご婦人のお母上の仇とは?」

 

「はい、広信府(こうしんふ)は玉山県(ぎょくさんけん)、恒安(こうあん)鏢局(ひょうきょく)の大掌櫃(だいしょうき、商業団体のトップ)、陳道通(ちんどうつう)にございます」

 

 広信府は蠱烟島より東に半月ほどの距離にある。この程度の距離であれば、噂ぐらいは伝わる。例え島にとっては取るに足らない相手であろうと。

 莫三糸も蠱烟島にいて、その名を聞いた事くらいはある。だが実際に聞いて頭に浮かんだのは、ゲームには出てこない名前だな、という程度のものだった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

地雷系彼女(マイ・フェア・レディ)(作者:あなたへのレクイエムです)(原作:HUNTER×HUNTER)

「ねえ! あなたの目を、私にちょうだい? 綺麗な瓶に入れて、毎日眺めたいの!」▼アンドー=ルモアが出会ったのは間違いなく地雷系の女の子だった。ウワーッ!?▼ヨークシンシティのオークションまであと10年。▼ネオン=ノストラードの"破裂"する運命は変えられるのか。▼※掲示板形式主体作品の検索利便性を考慮しタグを控えていますが、幕間の末尾などに…


総合評価:70111/評価:9.03/完結:60話/更新日時:2026年06月16日(火) 20:01 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>