あぁ!?脱いだら凄いんだぞこっちは!(うすほそ) 作:あげ竹輪
イロハはいいぞ
「どうぞ。とは言っても何もありませんがね」
私が退院して暫くした後、イロハ先輩のサボり部屋...もとい、万魔殿の一室に招待された。
いつもであったらあまり人を寄せず、イブキちゃんくらいしか中に入っていなかったようであるが、今回は直々に「来ませんか?」と言われたので少し嬉しい。
彼女は現在休学...実質退学をしている状態でシャーレ雇用として位置を置いています。
既に犯人達は捕獲され、シャーレやヴァルキューレの判断に任せる形となってしまいましたが...まあ、内情を知り納得するものは居ないでしょう。私もその一人ですから。
ですが、個人の感情とそれによって影響を受けてしまう事柄は分けて考えないといけないですね。
ただでさえ面倒臭いものが更にややこしく.......
いえ、ここでの建前は良いでしょう。今は私のやりたいことをやらせてもらいます。
「先輩。午後の業務は私がいなくても回りますよね?」
ぴた、と先輩のペンを動かす手が止まり、私の方を向く。
あの時以来感情に振り回されることが極端に少なく、かと言って不自然な程ではないですが嫌に冷静になったマコト先輩が少し驚きの声色で、
「珍しいな。自分からサボりを宣言するとは。」
何か用事でもあるのか?と言わんばかりに私の次の言を待ってくる。
変に感がいいのも少し嫌ですね...普段からこんなだったら良かったんでしょうけど
「彼女を招きました。内に秘めた物を聞きだしたいと思います。」
その言葉に片眉を上げ「何?」と言ったあと、それがただの名目上であることに気付いた先輩がしばらくの沈黙の後、
「...良いだろう。イロハ、貴様は貴様の業務に移るといい!」
本当に素直じゃない。それは私もかもしれませんが。
未だに合わせる顔がない先輩の代わりに、こちら側の思いも伝えておきましょう。
待ち合わせ場所に着きました。
「___あっ、イロハ先輩!」
変わらない笑顔__いや、変化はありますがそれを隠している彼女と会いました。
「久しぶりですね。...」
元気にしてましたか?などは聞けるわけがない。元気そうでなによりです?それも論外だ。
以前よりも痩けた顔、私のようにオーバーな服を着ているからあまり変わらないが筋肉量もだいぶ落ちていることだろう。
それに、
「やはり、あまり寝れていませんか。」
隠しているつもりでしょうが、濃い隈を隠しているのが見えますね。普段見ていない人は分からないでしょうが、病室で意識のない状態の顔を見続けてきた私には分かります。
あはは...と気まずそうにする彼女。別に貴方が悪い訳では無いのだから堂々として欲しいものです。
出来ないのは分かっているからこそ、嫌ですが
「一先ず向かいましょうか。乗ってください」
勿論虎丸を持ってきた。
「そんな厳重にしないでも...」と遠慮がちに言う彼女ですが、もう少し自分が周りに与える影響を考えて欲しいものです。
ゲヘナであれば交流が、他地区であればシャーレで唯一の常在生徒である貴方はある程度の行動でも見られてしまうのですから。
「__ですから、基本は誰かと一緒に行動して下さいね?先生からも言われたとは思いますが」
「はい...」
「どうぞ。何も無いですが寛いでくださいね」
ほとんど自室となった一室に案内した。
「あの、マコト先輩に挨拶とかって...」
「今の貴方はゲヘナ在住では無いのでしょう?トップに挨拶しなくても大丈夫です。それと」
先輩も心の準備が出来てません。お互いに余裕を持つことができるようになったら会ってあげてくださいと告げると納得してくれた。
さて。ここからは如何に私のペースに持っていけるか。
腕の見せどころと言えるでしょう。
「さ、寝てください。」
「えぇ...」
普段私が使っている布団まで案内し、少し無理矢理ですがその中に入らせます。
枕は...要りませんね。私は彼女の近くに座り、その小さな頭を私の膝に乗せます。
「っ!?」
驚いて赤面している彼女は可愛いですが、これも予想通りです。
睡眠に移行する直前は思考があまり出来ません。更に予測できない自体になると重ねて考える能力が低下するため、この行動を取りました。
理由は後付けでどうとでもなります。ええ、このように。
彼女の髪に触れ、割れ物を扱うように丁寧に撫でます。
最初は照れで抵抗していた彼女ですが、次第にその手は弱まり、最終的にされるがままとなりました。
さて、ここからですね。
メイさんの口から話すのを待ちます。
「みんな...私のこと、しんぱいしてた」
「当たり前です。皆さん貴方のことが大事なのですから」
「めいわくかけちゃいました」
「とんでもない。皆貴方が好きですから。何も悪くないんですよ」
その顔に涙が滲んでます。
制服は既に脱ぎ、中のシャツから見える肌だけでも骨張り、栄養失調の様子は見て取れます。
腕を少し掴んでみると、これも片手で全て丸く掴めてしまうほどに頼りなく、すぐにでも折れてしまいそうでした。
曰く、自分の銃を撃とうとしても反動に耐えるだけの筋力が無くなり、実質的に武力もなくなってしまった、と。
....本当に、この人は
「__わたしが、悪かったんですか...?」
うつらうつらとした彼女がそう言いました。
そんな訳はないでしょう。繰り返し言いますが、彼女か悪かった事なんてひとつもないのですから。
「あんなにだいすきだったお姉ちゃんのごはんも、たべられなくなって、」
「ずっと、口にたべものをいれるとおもいだすんです。うじゃうじゃして、背すじがふるえて。」
「ないはずのつのもいたいんです。ずっと。無いのに。折れた感覚がへばりついて、眠れないんです」
「未だに、夢に出てくるんです。お姉ちゃんが「なんで吐いたの。私の料理。」って。顔は怒ってないけど、冷たい声で。」
「わたしが、わるかったんですかね....もうわかんないんです...どうすればよかったんですか、」
震える身体を包み込み、誰かほどの包容力や身体つきはありませんが、安心させようと私も布団に潜り込み、対面する形で寝転びました。
背中に手を当て、擦りながら言います。
「今は全て大丈夫です。ここには誰もいませんから。全て自分が思っていること、吐き出しましょう。」
この場所なら。この空間なら。泣いてもいいんですよ 、と続けて。
私の胸を押し付けているからかそれは分かりませんが、時々振動するのと濡れる感覚があるのが分かります。ですが、私は見えませんし聞こえません。
ああ、叶うならば彼女に幸福を。...なんて、神にすがってしまうのは悪魔としてダメだとは思いますが。
それでも、望むくらいはバチが当たらないでしょう。
何せ、天罰でもないただの悪意によって治らない可能性のある傷を負わされた彼女が報われないじゃないですか。
本当に.......面倒臭い。
「あれ、イロハせんぱ..い.....?」
すっかり疲れ果てて寝てしまった彼女を胸に、イブキが来たのが聞こえた私はその声がした方角に顔をだし、口の前に人差し指を出し、「しーっ、」と起こさないように気を付けて、と伝えました。
それとイブキをこちらに呼び、向かい側に入れました。
人との触れ合いはメンタルケアと深く結び付きがある__人数が関係あるかは分かりませんが、イブキにも引け目があったため、素直に従い、三人束になって
起きた時に彼女がまた照れくさそうに、それでも来た時よりもすっきりとした顔に、幸せそうな笑顔を浮かべた彼女に、また私は心を奪われてしまいました。
籠絡するつもりが、気付かないうちにされてしまったと気づいたのはこの時でした。
これを怪我の功名と言うのであれば、そもそもそんな怪我無くしてしまえ、と。
そう思ってしまいます。
お姉ちゃんはそんな事実際には言ってません。
フウカちゃんはそんなノンデリじゃないです。
ただ「嫌い!」と言われて喧嘩別れしてしまったので殆ど何も知らない状況で今も給食部での業務に追われ、追求も出来ていません。
ようやく時間が出来、医学部を問い詰めようとした時、メイの退院と休学届が受理されたことを報告されたフウカちゃん。
どんまい。