スター・ウォーズ エクシリウム・レコード   作:コレクトマン

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EP.1 ファントムメナス
面倒ごとは必ず起きるもの


 通商連合によるナブー封鎖が始まってから、一ヶ月が経過していた。

 

 最初のうちは、ただの政治的な圧力か、貿易交渉を有利に進めるための示威行動だと思われていた。

 

 だが、封鎖が長引くにつれ、街の空気は確実に変わっていった。

 

 人々は不要な外出を避け、商店の多くは営業時間を短縮している。物流は滞り、食材や部品の仕入れも以前ほど安定しなくなった。ナブーは自然豊かで穏やかな惑星だったが、その上空を覆う通商連合の艦隊は、住民たちの心に重い影を落としていた。

 

 カフェテラス・スタージェスも例外ではない。

 

 店は営業を続けていたものの、客足は大きく落ち込んでいた。

 

 カフェ二階のテラスに立つマキアートは、エレクトロバイノキュラーを目元に当て、遠くの空を見上げていた。

 

 普段なら、ナブーの穏やかな青空や、行き交う小型船を眺めることができる場所だ。

 

 しかし今は、空の向こうにある封鎖艦隊の存在を意識せずにはいられない。

 

「このところ、通商連合がナブーを封鎖してから一ヶ月経つわ。いったい何のつもりかしら」

 

 マキアートは小さく息を吐いた。

 

 彼女はカフェの運営を担う一人として、封鎖の影響を誰よりも実感している。

 

「あいつらが来てから店は空き家に戻った気分よ……ん?」

 

 その時、エレクトロバイノキュラー越しに見える光景が変わった。

 

 上空から、複数の大型艇が降下してきている。

 

 最初は輸送船か何かだと思った。

 

 だが、機体の形状を確認した瞬間、マキアートの表情が強張る。

 

 それは物資を運ぶための船ではない。

 

 大量の兵員を地上へ送り込むための輸送艇だった。

 

「アレは……兵員輸送艇!?嘘でしょ……連中ナブーに侵攻するつもり?」

 

 マキアートはすぐに通信機を取り出した。

 

 迷っている時間はない。

 

 地下の作業場にいるウィクリフへ、緊急回線を繋ぐ。

 

『マキアートか?どうした?』

 

 通信の向こうから、ウィクリフの声が聞こえた。

 

 マキアートは余計な前置きをせず、端的に告げる。

 

「指揮官、手短に言うわ。通商連合のブリキの軍団がやって来たわ」

 

『ブリキ?……バトル・ドロイドか』

 

 ウィクリフの声色が変わった。

 

 彼にとって、その名称は聞き慣れたものだった。

 

 通商連合の主力兵器。

 

 B1バトル・ドロイド。

 

 そして、ナブー侵攻の始まりを告げる存在。

 

 マキアートは視界に入る輸送艇を数えながら、声を荒げる。

 

「ええ。兵員輸送艇十数隻を確認したわ。これじゃあ攻撃軍なんてものじゃない、侵略軍そのものよ!」

 

 十数隻。

 

 そこから降ろされるバトル・ドロイドの数を考えれば、ただの威嚇ではない。

 

 街を制圧し、住民を支配下に置くための軍勢だ。

 

 ウィクリフは数秒、沈黙した。

 

 だが、その沈黙は迷いではなかった。

 

 前世の記憶にある出来事が、現実として目の前で始まろうとしている。

 

 通商連合のナブー侵攻。

 

 バトル・ドロイド軍。

 

 アミダラ女王。

 

 そして、クワイ=ガン・ジンとオビ=ワン・ケノービ。

 

 ここから先は、原作の流れを知っているからこそ、安易に動けば歴史を大きく変える危険もある。

 

 だが、何もしなければ、家族も仲間も危険に晒される。

 

『……分かった。マキアートはスプリングフィールドを呼び掛けてくれ。店は一旦閉店だ』

 

「分かってるわ。……あいつらの所為で店は大赤字よ」

 

 最後の言葉には、マキアートらしい苛立ちが込められていた。

 

 平穏な日常を壊し、店の経営まで台無しにしようとしている。

 

 侵略という大事件の最中であっても、彼女にとっては許せないことだった。

 

 通信が切れる。

 

 マキアートはもう一度、上空を見上げた。

 

 兵員輸送艇は、確実にナブーへ降下している。

 

 遠くからでも分かるほどの数。

 

 その中には、数え切れないほどのバトル・ドロイドが積み込まれているのだろう。

 

 カフェテラス・スタージェスの穏やかな日常は、今度こそ終わりを告げた。

 

 マキアートはエレクトロバイノキュラーを下ろし、店内へ向かう。

 

 スプリングフィールドを呼び、客へ閉店を伝え、戦術人形たちへ警戒を促すために。

 

 そしてウィクリフもまた、地下の作業場で通信機を握ったまま、静かに目を閉じていた。

 

 ついに始まった。

 

 原作で知っていたナブー侵攻が、現実として動き出したのだ。

 

 今度は、傍観者ではいられない。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

了解です。ビヨーカがクルカイと正真正銘の姉妹機である設定も反映し、Bパートを本文化します。

 

 マキアートからの緊急連絡を受けたウィクリフは、すぐにスタージェス家とカフェにいる全員を集めた。

 

 場所は家の作業場。

 

 普段ならドロイドの部品や工具が並び、ジェフとアンナが整備作業を行っている場所だが、今は戦術人形たちが集まり、緊迫した空気に包まれていた。

 

 ウィクリフはマキアートから送られてきた映像を端末に表示する。

 

 ナブーの上空から降下する、通商連合の兵員輸送艇。

 

 その数は十数隻。

 

 映像の解像度は決して高くなかったが、あれだけの数の輸送艇が単なる示威行動のために降下してきたのではないことは、誰の目にも明らかだった。

 

「……ということなんだ。マキアートの情報だと、ドロイド軍はこの星を占領するために多数の輸送艇を降下させてきた。今は森の所に降下したらしいけどこの街が占領されるのも時間の問題だ」

 

 ウィクリフの説明を聞き、ジェフは険しい表情で端末を睨んだ。

 

「マジか……通商連合の奴ら完全に協定違反だろうに」

 

 通商連合がナブーを封鎖してから一ヶ月。

 

 それだけでも民衆の生活には深刻な影響が出ていたが、軍を地上へ降ろすとなれば話は別だ。

 

 封鎖ではない。

 

 武力侵攻である。

 

 アンナが心配そうに夫を見る。

 

「アナタ……」

 

 ジェフはすぐには答えなかった。

 

 ウィクリフを見て、次にアンナを見て、最後にグローザたち戦術人形へと視線を移す。

 

 人間とほとんど変わらない姿。

 

 だが、その正体はこの銀河に存在しない技術によって作られた戦術人形だ。

 

 もし通商連合に捕らえられ、詳しく調べられればどうなるか。

 

 兵器として利用される。

 

 分解され、構造を解析される。

 

 あるいは、複製技術の研究材料にされるかもしれない。

 

 どれも、決して許容できる未来ではなかった。

 

 ウィクリフは両親の考えていることには気づかず、避難について話を続ける。

 

「このままいてもドロイド軍に捕まるだけ。ここは一旦避難所に向かうべきだよ」

 

 だが、ジェフは静かに首を横に振った。

 

「……クリフ。そのことだが、お前とグローザ達だけで逃げるんだ」

 

「えっ……?それはどういう……」

 

 思いもよらない言葉に、ウィクリフは父を見つめた。

 

 自分と戦術人形たちだけで逃げる。

 

 その言葉が意味するものを理解したくなかった。

 

 アンナが息子へ視線を合わせ、穏やかに、しかしはっきりと告げる。

 

「彼女たちは他の人にとって未知の相手なの。ここで捕まったら彼女たちは何をされるか分からないわ」

 

 それはアンナ自身が、機械に詳しいからこその判断だった。

 

 戦術人形の技術的価値を正確に理解しているわけではない。それでも、グローザたちが既存のドロイドとはまったく異なる存在であることは分かる。

 

 知られてはいけない。

 

 少なくとも、侵略軍の手に渡してはいけない。

 

 ジェフもまた、強い口調で続ける。

 

「だからお前を守れる力がある彼女たちと一緒にこの星から逃げるんだ」

 

「でも……それじゃあ」

 

 父と母を置いていくことになる。

 

 ウィクリフは言葉を詰まらせた。

 

 自分だけが戦術人形たちに守られ、安全な場所へ逃げる。両親はこの地に残り、通商連合の占領下へ置かれる。

 

 そんな選択を、簡単に受け入れられるはずがなかった。

 

 ジェフはウィクリフの迷いを見抜き、安心させるように笑った。

 

「安心しろ。父さんたちはドロイド相手に捕まるかもしれないが、殺される訳じゃない。通商連合の連中とて馬鹿じゃない」

 

 ナブーの住民を無差別に殺害すれば、通商連合は銀河共和国からさらに強い非難を受けることになる。

 

 彼らの目的は占領と政治的圧力であり、民衆の虐殺ではない。

 

 もちろん絶対に安全とは言えない。

 

 それでも、戦術人形たちが捕らえられる危険と比べれば、普通の市民として拘束される方がまだ生存の可能性は高い。

 

 ウィクリフは唇を噛み、考えた。

 

 両親の決意は固い。

 

 説得して全員で行動する時間もない。

 

 ならば、少しでも両親の安全を確保するために戦力を分けるしかなかった。

 

「……分かった。だけど、連れて行くのはグローザと404の1番隊を連れて行く。他は全員父さんたちを守ってくれ」

 

 全員を自分の護衛に使うつもりはなかった。

 

 ウィクリフにはグローザと、クルカイ率いるH.I.D.E. 404一番隊を同行させる。

 

 残る戦術人形たちは、ジェフとアンナの護衛に回す。

 

 自分を守りながら両親も守るために、今できる最善の配置だった。

 

 グローザはすぐに意図を理解し、リヴァへ視線を向けた。

 

「了解よ。クルカイ、聞いての通りよ」

 

「分かってるわ。リヴァ、そっちもヘマしないでよ」

 

 クルカイは装備の確認を始めながら、404全体の総リーダーであるリヴァへ釘を刺した。

 

 リヴァは軽く肩をすくめる。

 

 言葉にはしなかったが、その余裕のある態度は、こちらの心配は不要だと言っているようだった。

 

 それぞれがすぐに行動へ移った。

 

 日用品を持ち出す時間はない。

 

 必要なのは通信機、携行食料、医療用品、予備電源、そして武器だった。

 

 ウィクリフに同行する五人の戦術人形も、それぞれ専用の装備を身につける。

 

 グローザが手にするのは、OTs-14を基にしたカスタムモデル――ゲイレノル。

 

 クルカイはHK416のカスタムモデル、スキュラを携行する。

 

 ミシュティの武器はStG11を基にした白昼夢。

 

 ビヨーカはStG28のカスタムモデル、森の精霊。

 

 アンドリスはStG36Cのカスタムモデル、アグライアを構えていた。

 

 それらは前世の銃器を思わせる外観を持っているが、この銀河で使用するために内部機構は調整されている。

 

 実体弾式の武器をそのまま使い続ければ、弾薬の調達が問題になる。そこでウィクリフに流れ込んだ製造知識とスターウォーズ世界の技術を組み合わせ、外見を維持したままブラスター方式へと改造していた。

 

 しばらくして、グローザがウィクリフのもとへ歩み寄る。

 

「指揮官、支度は完了したわ」

 

「よし。……父さん、母さん。必ず戻る」

 

 ウィクリフは両親をまっすぐ見つめた。

 

 いつ戻れるかは分からない。

 

 街がどの程度占領されるのかも、これから原作通りに事態が進むのかも分からない。

 

 それでも、戻る。

 

 必ず二人のもとへ帰ってくる。

 

 その決意を込めた言葉だった。

 

「気をつけるんだぞ」

 

 ジェフは寂しさを隠すように、普段と変わらない口調で答えた。

 

 アンナはグローザとクルカイへ向き直る。

 

「グローザにクルカイ、クリフをお願いね」

 

「そのつもりよ。指揮官は必ず守る」

 

 グローザは迷うことなく答えた。

 

「問題ないわ。指揮官には指一本触れさせないわ」

 

 クルカイの言葉もまた、強い自信に満ちていた。

 

 その時、作業場の奥からビヨーカの明るい声が響く。

 

「お姉ちゃん!こっちの準備ができたよ!」

 

 その呼びかけを受け、クルカイが振り返った。

 

 ビヨーカはクルカイと同じ系譜から生み出された、正真正銘の姉妹機である。

 

 外見や性格は異なるが、二人の間には同型の素体というだけではない、姉妹としての結びつきがあった。

 

 クルカイは姉としてビヨーカの装備を素早く確認し、問題がないことを確かめる。

 

 その傍では、ミシュティが眠そうに目を擦っていた。

 

「眠い……」

 

 今から侵略軍の目を避けながら行動しようという時にもかかわらず、いつも通りの様子だった。

 

 アンドリスが呆れたように声をかける。

 

「ミシュティ、寝ちゃったら置いていかれるよ?」

 

 ミシュティは返事の代わりに、小さく欠伸をした。

 

 ウィクリフはその様子を見て、緊迫した状況の中でも思わず苦笑する。

 

「ビヨーカとアンドリスは準備完了みたいだ。ミシュティは相変わらず眠そうだが……」

 

 眠そうではあるが、装備そのものは完全に整えられている。

 

 戦闘になれば、普段の気怠そうな様子からは想像できないほどの働きを見せることを、ウィクリフは知っていた。

 

 グローザ、クルカイ、ミシュティ、ビヨーカ、アンドリス。

 

 五人の戦術人形が、ウィクリフの護衛として同行する。

 

 それ以外の戦術人形たちは、リヴァの指揮のもと、ジェフとアンナを守りながら避難の機会を窺う。

 

 別れの時間は近づいていた。

 

 家の外からは、遠く響く重い駆動音が聞こえ始めている。

 

 兵員輸送艇が着陸し、大量のバトル・ドロイドが進軍を始めたのだろう。

 

 ナブーの穏やかな街へ、戦争が迫っていた。

 

 ウィクリフは両親の姿を目に焼きつけるように見つめた後、踵を返した。

 

 必ず戻る。

 

 その約束を胸に、彼はグローザとH.I.D.E. 404一番隊を伴い、スタージェス家を後にした。

 

H.I.D.E. 404一番隊は、クルカイを隊長としてミシュティ、ビヨーカ、アンドリスの四名で統一しています。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 ウィクリフたちがスタージェス家を離れてから、すでにしばらくの時間が経過していた。

 

 通商連合の侵攻は、想像以上の速さで進んでいる。

 

 普段なら住民や観光客が行き交っている街路からは人影が消え、代わりに無機質な足音が響いていた。通商連合の紋章を掲げた兵員輸送艇から降り立ったバトル・ドロイドたちは、主要な道路や交差点を次々と封鎖している。

 

 逃げようとする住民がいないか。

 

 反抗する者が潜んでいないか。

 

 一定の間隔で配置されたドロイドたちは、ブラスターを構えながら周囲を監視していた。

 

 ウィクリフたちは建物の陰に身を潜め、できる限り敵との接触を避けながら移動していた。

 

 先行して周囲を偵察していたクルカイが、音もなく戻ってくる。

 

「クルカイ。先の道はどうだ?」

 

「……無理ね。ドロイドが住民を逃がさないようにあちこちに配置されているわ」

 

 クルカイの報告を聞き、ウィクリフは眉を寄せた。

 

 予想していたことではある。

 

 通商連合の目的は、ただ街を通過することではない。ナブーを完全に支配下へ置き、アミダラ女王に条約への署名を迫ることだ。

 

 住民を自由に逃がす理由などない。

 

 地上から街を抜けようとすれば、どこかでドロイド部隊と遭遇する。戦闘になれば突破そのものは可能かもしれないが、敵に存在を知られることになる。

 

 戦術人形たちは、この銀河に存在しない技術で作られた存在だ。

 

 できる限り、通商連合に情報を渡したくはなかった。

 

「そうか。……となると、危険な賭けだが敵の船を奪うしかないな」

 

 地上が封鎖されているなら、空から脱出する。

 

 そのためには、通商連合の輸送艇か、占領軍が使用している別の船を奪う必要がある。

 

 だが、敵の船へ近づく以上、戦闘は避けられない。機体の操縦系統やセキュリティがどうなっているのかも分からず、確実な手段とは言い難かった。

 

 グローザが周囲への警戒を続けながら、別の案を口にした。

 

「指揮官。そのことだけど、シード宮殿のメインハンガーに船があった筈。アレは使えないの?」

 

 シード宮殿のメインハンガー。

 

 そこには、ナブー王室が所有する宇宙船や戦闘機が収容されている。

 

 船を確保するだけなら、通商連合の兵器を奪うよりも現実的かもしれない。

 

 しかし、ウィクリフはすぐには頷かなかった。

 

「あそこはナブー統治者の所有ハンガーだよ。確かに船はあるにはあるけど、統治者の船を奪った犯人として追われたくない」

 

 侵略から逃れるためとはいえ、無断で王室所有の船を持ち出せば立派な窃盗である。

 

 ナブーから脱出できたとしても、今度は自分たちが犯罪者として追われかねない。ましてや、船を奪う過程で戦術人形たちの存在が知られれば、別の厄介事を招くことになる。

 

 グローザは自分の提案が適切ではなかったと思ったのか、わずかに目を伏せた。

 

「……ごめんなさい。別の方法を探るわ」

 

「謝らなくていい。最悪の場合はそのハンガーにある船を借りるという選択肢を考えておくだけだよ」

 

 あくまで借りる。

 

 その後で返却し、事情を説明できるなら、まだ言い訳は立つかもしれない。

 

 命と両親との約束が懸かっている以上、手段を選べなくなる可能性もあった。今の段階で完全に除外するべき選択肢ではない。

 

 クルカイが通りの奥へ目を向ける。

 

「指揮官、そろそろ移動するわ。いつドロイドが来てもおかしくないわ」

 

 同じ場所に長時間留まれば、巡回部隊に発見される危険が高まる。

 

 ウィクリフは頷いた。

 

「……そうだな。移動しよう」

 

 彼らは再び行動を開始した。

 

 クルカイが先頭に立ち、敵の位置を確認する。ビヨーカとアンドリスが左右を警戒し、ミシュティは眠そうな様子を残しながらも、武器を構えれば周囲への注意を怠らない。

 

 グローザはウィクリフのすぐ傍を歩いていた。

 

 路地を抜け、建物の陰から陰へ移る。

 

 遠くでは、ドロイドの行進音や兵員輸送艇の駆動音が聞こえていた。時折、機械的な声による命令も聞こえてくる。

 

 ナブーの街は、すでに通商連合の支配下へ移りつつあった。

 

 いくつ目かの角へ差しかかった時、クルカイが片手を上げた。

 

「……!待って。誰か来る」

 

 全員が即座に足を止める。

 

 ウィクリフは建物の陰から、慎重に通りの向こうを覗いた。

 

 複数のバトル・ドロイドが、一団の人々を連行している。

 

 その中央にいた少女を見て、ウィクリフは思わず声を漏らした。

 

「あれは……アミダラ女王!?」

 

 豪華な衣装と特徴的な化粧。

 

 ホロネットの報道で何度も見た姿だった。

 

 ナブーの若き統治者、パドメ・アミダラ。

 

 その周囲には侍女や護衛たちもいるが、全員がバトル・ドロイドに囲まれ、自由を奪われていた。

 

 グローザが視線を細める。

 

「あれがアミダラ?ホロネットで中継される映像ではなく本人を見るのは初めてね」

 

 今ここで女王が連行されているということは、通商連合はすでにシード宮殿を制圧したのだろう。

 

 ビヨーカは心配そうに一団を見つめ、クルカイへ問いかけた。

 

「お姉ちゃん、どうする?悪いドロイドが女王様を連行しているよ。助けようよ」

 

 助けたい。

 

 そう思うのは当然だった。

 

 しかし、クルカイは感情に流されることなく、首を横に振った。

 

「ビヨーカ、私たちの任務は指揮官を安全な場所へ避難することよ。助けたいのは分かるけど、優先順位を間違えないで」

 

 戦術人形たちの最優先任務は、ウィクリフの護衛である。

 

 アミダラ女王を助けるために戦闘へ介入し、ウィクリフを危険に晒すことはできない。

 

 ビヨーカは納得しきれない表情を見せたが、姉の判断に反論はしなかった。

 

 ウィクリフも、できれば介入を避けたかった。

 

 アミダラ女王は、この後に救出される。

 

 前世で知っている物語通りならば、ここで自分たちが動く必要はない。

 

 その時、別の方向から三つの人影が現れた。

 

「……ん?あれは……」

 

 先頭を進むのは、長髪のジェダイ。

 

 その隣には、短い髪の若いジェダイ。

 

 そして、彼らについて走る長身のグンガン。

 

 その姿を見た瞬間、ウィクリフは彼らの正体を理解した。

 

「オビ=ワンにクワイ=ガン!?それにジャージャーも……。ああ、どうやらここは救出シーンの場所だったのか」

 

 二人のジェダイ――クワイ=ガン・ジンとオビ=ワン・ケノービ。

 

 そして、ジャー・ジャー・ビンクス。

 

 前世で見た物語と同じ光景だった。

 

 ジェダイたちは連行部隊へ接近し、ライトセーバーを起動する。青と緑の光刃が閃き、女王を連行していたバトル・ドロイドたちが次々と斬り倒されていく。

 

 ここまでは、ウィクリフの記憶通りだった。

 

 原作通りに進むなら、ジェダイたちはアミダラ女王を救出し、宮殿のメインハンガーへ向かう。

 

 自分たちは隠れたまま、その後を追えばいい。

 

 だが、グローザが怪訝そうにウィクリフを見る。

 

「指揮官?」

 

 彼女にとっては、ウィクリフがなぜ彼らを知っているのか不思議なのだろう。

 

 説明しようとした、その時だった。

 

 クルカイの表情が鋭くなる。

 

「……!マズい、敵の増援が来たわ」

 

 通りの向こうから、複数の金属音が近づいてくる。

 

 現れたのは、先ほどまで女王を連行していた部隊よりも多いバトル・ドロイドの一団だった。数だけではない。より強力な火器を装備した個体も混じっている。

 

 ウィクリフは目を見開いた。

 

「増援……!?マジか……」

 

 前世で見た場面には、このような増援はいなかった。

 

 少なくとも、このタイミングでジェダイたちを包囲するほどのドロイド部隊が現れた記憶はない。

 

(原作にない敵増援。……できれば介入は避けたかったが、やむを得ない)

 

 原作知識に頼り切ることはできない。

 

 自分たちが存在している時点で、すでに歴史には何らかの変化が生まれているのかもしれない。あるいは、前世で映像になっていなかっただけで、本来から存在していた部隊なのかもしれない。

 

 どちらにしても、目の前の危機を放置するわけにはいかなかった。

 

 ここでアミダラ女王やジェダイが倒れれば、ナブーの未来だけではなく、銀河全体の歴史が大きく狂う。

 

 それに、彼らが向かう先はシード宮殿のメインハンガーである。

 

 ウィクリフは素早く判断を下した。

 

「……みんな。彼らを援護するぞ」

 

 ビヨーカが驚いたように振り返る。

 

「彼らを?」

 

「彼らを援護し、助ければ船に乗せてくれるかもしれない」

 

 ただ危険へ飛び込むわけではない。

 

 ジェダイとアミダラ女王を救援すれば、そのまま彼らと共にシード宮殿へ入り、王室の船へ乗せてもらえる可能性がある。

 

 無断で船を奪う必要もなくなる。

 

 ナブーから脱出するための、最も現実的な道だった。

 

 クルカイは一瞬で意図を理解した。

 

「……そういうことね」

 

 彼女はスキュラを構え、増援部隊へ照準を合わせる。

 

 グローザもゲイレノルを手に取り、ウィクリフを庇う位置へ移動した。ビヨーカとアンドリスは左右へ展開し、ミシュティも眠たげだった瞳を開いて白昼夢を構える。

 

 ただし、まだ発砲はしない。

 

 敵の配置。

 

 ジェダイたちの位置。

 

 アミダラ女王と護衛たちの退路。

 

 すべてを確認し、最も効果的な瞬間を待つ。

 

 原作には存在しなかった戦力が、原作には存在しなかった脅威へ銃口を向ける。

 

 ウィクリフは息を整え、戦術人形たちへ攻撃開始の合図を送るべく、手を上げた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 緑と青の光刃が、最後に残っていたB1バトル・ドロイドを斬り払った。

 

 切断された機械の胴体が地面へ転がり、焼けた金属の臭いが周囲に漂う。先ほどまでアミダラ女王とその一行を連行していたドロイド部隊は、二人のジェダイによって瞬く間に沈黙させられていた。

 

 オビ=ワン・ケノービはライトセーバーを構えたまま周囲を見回し、近くに動く敵がいないことを確認する。

 

「マスター、今ので全部の様です」

 

「そうか。お急ぎください陛下」

 

 クワイ=ガン・ジンはライトセーバーを手にしたまま、救出したアミダラ女王へ先を促した。

 

 ナブー王室保安軍のキャプテンであるクァーシュ・パナカは、突然現れた二人が議長の特使として派遣されたジェダイだと判断したらしい。今は彼らの素性を問い詰めるより、反撃するための武器を確保することが先決だった。

 

 パナカは倒されたドロイドたちを指し、部下へ鋭く命令する。

 

「武器を奪え」

 

 王室保安軍の兵士たちは即座に動いた。

 

 地面へ落ちたブラスターを拾い上げ、使用可能かどうかを確かめていく。ドロイド軍に武装を奪われていた彼らにとって、敵が残した武器であっても貴重な戦力だった。

 

 その傍で、ジャー・ジャー・ビンクスが目を輝かせていた。

 

「ワァーオ。めちゃんこ強いのね」

 

 二人のジェダイが見せた剣技は、彼にとっても驚くべきものだったらしい。

 

 だが、クワイ=ガンの表情は緩まなかった。

 

 彼は周囲の気配を探るように、わずかに視線を動かす。

 

 静かすぎる。

 

 先ほどまでの戦闘音を聞きつけた増援が、一体も現れないとは考えにくい。

 

 その直後、オビ=ワンが通りの奥へ顔を向けた。

 

「マスター、新手です!」

 

 石造りの建物が並ぶ通りの向こうから、無数の金属音が響いてきた。

 

 現れたのは、数十体のB1バトル・ドロイド。

 

 整然と隊列を組み、ブラスター・ライフルを構えながら進軍してくる。その中央には、車輪状に変形した二体のデストロイヤー・ドロイドが高速で転がっていた。

 

 先ほどの連行部隊とは比較にならない戦力だった。

 

 クワイ=ガンとオビ=ワンは、アミダラ女王たちを守る位置へ素早く移動する。二人のライトセーバーが唸りを上げ、迫る敵を迎え撃つべく構えられた。

 

 しかし、デストロイヤー・ドロイドが戦闘形態へ移行するより先に、別方向から短い発射音が響いた。

 

「……榴弾発射!」

 

 建物の陰に身を潜めていたグローザは、ゲイレノルではなく、別途携行していた独立型グレネードランチャー――LMT M203 Standaloneを構えていた。

 

 照準を迫り来るデストロイヤー・ドロイドへ合わせ、迷うことなく引き金を引く。

 

 放たれた榴弾は、地面の上を転がってくるデストロイヤー・ドロイドの進路へ正確に着弾する。

 

 直後、激しい爆発が起きた。

 

 まだディフレクター・シールドを展開していなかった機体は、爆炎と共に宙へ跳ね上げられた。装甲が内側から弾け飛び、砕けた部品が通りへばら撒かれる。

 

「えっ?なになにっ!?他に誰かいるの?」

 

 突然の援護射撃に、ジャー・ジャーは慌てて周囲を見回した。

 

 爆煙の向こうから、複数の人影が姿を現す。

 

 その中の一人――スキュラを構えていたクルカイと、ジャー・ジャーの視線が偶然重なった。

 

 先ほど森で出会った二人のジェダイとは、また異なる雰囲気を持つ女性だった。鋭い眼差しと、見慣れない武器。明らかに友好的な一般市民には見えない。

 

「うわぁっ⁉また出た!」

 

 ジャー・ジャーは驚きのあまり、両手を上げた。

 

「邪魔よ!どいて!!」

 

 クルカイは苛立った声を上げ、スキュラの銃口をジャー・ジャーへ向ける。

 

 撃たれると思ったジャー・ジャーが身体を竦めた瞬間、その横を複数の光弾が通過した。

 

 彼の背後に接近していたB1バトル・ドロイドたちの頭部と胸部が、次々と撃ち抜かれる。機械の身体は力を失い、折り重なるように倒れた。

 

 クルカイが狙っていたのは、最初からジャー・ジャーではない。

 

 彼を盾にするように接近していた、背後の敵だった。

 

 別方向からは、白昼夢を構えたミシュティが戦場へ踏み込む。

 

「ちゃちゃっと終わらせて帰るよ!」

 

 普段の眠たげな様子は残っている。

 

 だが、その射撃には一切の迷いがなかった。

 

 白昼夢から放たれた攻撃が、密集していたドロイド部隊を薙ぎ払う。頭部を破壊された個体が崩れ落ち、その後ろにいた機体も巻き込まれるように動きを止めた。

 

 数体のB1バトル・ドロイドが反撃しようと銃口を向ける。

 

 しかし、その照準が定まるより先に、ビヨーカが森の精霊を構えた。

 

「お姉ちゃんたちの邪魔はさせないよ!」

 

 引き金が引かれる。

 

 放たれた電撃が最前列のドロイドを捉え、その機体を起点として周囲へ広がっていった。

 

 青白い電流が複数の機体を駆け巡る。

 

 内部回路を焼かれたB1バトル・ドロイドたちは、身体を痙攣させるように震わせた後、次々と地面へ倒れた。

 

 それだけの電撃が発生しているにもかかわらず、近くにいる味方へ影響はない。攻撃対象だけを正確に捉え、敵の機能を停止させていた。

 

 残る一体のデストロイヤー・ドロイドは戦闘形態へ移行し、青白いディフレクター・シールドを展開する。

 

 両腕のツイン・ブラスターが持ち上がり、オビ=ワンへ銃口が向けられた。

 

 だが、その射線上へ、突如として小型の自動砲塔が出現する。

 

「逃がさないよ」

 

 アンドリスが展開した自動砲塔が、デストロイヤー・ドロイドのシールドへ激しい集中砲火を浴びせた。

 

 青白い防御膜が波打つ。

 

 シールドが砲塔の攻撃へ対応している間に、アンドリス自身もアグライアを構えて側面へ移動する。

 

 自動砲塔とアグライア。

 

 二方向からの連続攻撃が、デストロイヤー・ドロイドのシールドへ負荷を与え続けた。

 

 防御膜が大きく明滅する。

 

 そして、許容量を超えたシールドが一瞬だけ消失した。

 

 アンドリスはその僅かな隙を見逃さない。

 

 放たれた一撃が機体の中枢を正確に貫き、デストロイヤー・ドロイドの上半身が火花と共に弾け飛んだ。

 

 戦いの趨勢は、瞬く間に決した。

 

 クワイ=ガンとオビ=ワンもライトセーバーで飛来する光弾を弾き返し、残ったB1バトル・ドロイドを斬り倒していく。

 

 戦術人形たちによる側面からの攻撃。

 

 ジェダイによる正面からの迎撃。

 

 統制を失ったドロイド部隊に、それらを同時に処理する能力はなかった。

 

 やがて、最後の一体が胸部を撃ち抜かれ、地面へ倒れ込む。

 

 原作には存在しなかった敵増援は、誰一人として女王たちへ近づくことができないまま全滅した。

 

 クルカイは周囲を警戒しながら、スキュラの銃口を下ろす。

 

「……何とかなったわ」

 

 グローザもゲイレノルを構えたまま、敵の反応が残っていないことを確認した。

 

「ええ。指揮官、もう大丈夫です」

 

 建物の陰から様子を見守っていたウィクリフが、戦術人形たちのもとへ歩み寄る。

 

 五年ぶりに実戦へ戻った彼女たちだったが、その連携にはほとんど乱れがなかった。

 

「久しぶりの戦闘なのに、腕は落ちてないようだな」

 

「当然よ」

 

 クルカイは、自信に満ちた口調で答えた。

 

 彼女たちにとって、この程度のドロイド部隊は大きな脅威ではなかったらしい。

 

 だが、戦いを見ていた者たちは違った。

 

 パナカと王室保安軍の兵士たちは、見慣れない武器と戦闘方法に警戒を強めている。アミダラ女王も侍女たちも、突然現れた一団を慎重に見つめていた。

 

 そして、クワイ=ガンは起動したままのライトセーバーを下げながら、ウィクリフたちへ歩み寄った。

 

「……すまない。助けてもらったのは感謝する。だが、君らは一体……」

 

 敵ではない。

 

 少なくとも、通商連合のドロイド軍から女王たちを救ったことは確かだ。

 

 だが、その正体はまるで分からない。

 

 見慣れない武器を持つ女性たち。

 

 子供でありながら、彼女たちから指揮官と呼ばれる少年。

 

 誰が見ても、普通のナブー市民の一団ではなかった。

 

 ウィクリフは困ったように頭を掻いた。

 

「えっと……詳しい話をしたいのは山々だけど、俺達追われる身なんだ。犯罪者とかじゃなくて、彼女たちのことでの意味で」

 

「彼女たち?……マスター、彼女たちからはフォースを感じません」

 

 オビ=ワンはグローザたちへ注意深く意識を向けていた。

 

 人間であれば、どれほど微弱でも生命とフォースの繋がりを感じ取れる。

 

 だが、彼女たちからはそれが感じられない。

 

 目の前で動き、考え、感情を見せているにもかかわらず、フォースを通して生命の気配を捉えることができなかった。

 

 クワイ=ガンは静かに頷く。

 

「ああ、分かっている。……彼女らはもしかして、ドロイドなのかね?」

 

 ウィクリフは僅かに目を見開いた。

 

 戦術人形を初めて見たにもかかわらず、クワイ=ガンはすでに本質へ近づいている。

 

 フォースを通して生命の有無を見分けられるジェダイを相手に、人間だと言い張ることは不可能だった。

 

「流石はジェダイ。隠し通すのは無理だな……」

 

 ウィクリフの呟きを聞き、クワイ=ガンの眼差しが僅かに鋭くなる。

 

 この少年は、ジェダイがどのような存在なのかを知っている。

 

 それだけではない。

 

 二人の名を呼んでいたことも、彼は聞き逃していなかった。

 

 だが、疑問を解消する時間はなかった。

 

 増援部隊が全滅したとはいえ、街の大部分はすでに通商連合の支配下にある。戦闘音を聞きつけ、さらなるドロイド部隊が現れる可能性も高い。

 

 クワイ=ガンはウィクリフと、その周囲を守るように立つ戦術人形たちを見渡した。

 

 正体不明。

 

 目的も不明。

 

 しかし少なくとも、今は敵ではない。

 

 互いについて詳しく話すのは、安全な場所へ移動してからでも遅くはなかった。

 

EP.1を書き終わったら、EP.1とEP.2の空白期間のエピソードを執筆しようと思います。読者の皆様はどれがいいですか?

  • 戦術人形たちとの日常
  • 父の仕事の手伝いでカミ―ノへ向かう
  • コルサントへ軽い家族旅行
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