スター・ウォーズ エクシリウム・レコード   作:コレクトマン

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初の宇宙空間で死にかけるってマジ?

 クワイ=ガンたちと合流したウィクリフは、宮殿内を移動しながら、自分たちが何者なのかを可能な限り簡潔に説明した。

 

 自分がナブーでドロイド修理を営む家の子供であること。

 

 そして、隣を歩くグローザたちが、地下室に眠っていた先祖代々の家宝──ファブリケーターと呼ばれる装置によって生成された存在であること。

 

 とはいえ、ウィクリフ自身にも、あの装置のすべてが分かっているわけではない。

 

 むしろ説明を重ねれば重ねるほど、疑問ばかりが増えていくような話だった。

 

 クワイ=ガンは歩みを緩めることなく、ウィクリフの説明を静かに聞き終えると、小さく頷いた。

 

「……なるほど。君はナブーのドロイド修理を生業とする家系の子か」

 

 クワイ=ガンの隣を歩くオビ=ワンは、グローザたちへ視線を向けた。

 

 見た目だけならば、彼女たちは人間の女性にしか見えない。

 

 皮膚の質感も、呼吸するような胸の動きも、周囲を警戒しながら絶えず変化する表情も、一般的なドロイドとは比較にならないほど精巧だった。

 

「そして君の言う家宝の装置から生成されたドロイドが彼女たちということか。……マスター、彼女たちはその……」

 

 オビ=ワンが言葉を濁す。

 

 無理もない。

 

 ナブーの市街地でも、宮殿の内部でも、これほど人間に近い姿をしたドロイドを目にする機会など皆無に等しい。

 

 ましてや、彼女たちはただ命令を待つだけの機械ではなかった。

 

 周囲の状況を自ら観察し、判断し、ウィクリフを守るように自然と陣形を組んでいる。

 

 そんな弟子の戸惑いを察したクワイ=ガンは、グローザたちを見回しながら口を開いた。

 

「未知の技術。更には外見が女性しか見えないほどの精巧で感情豊かなドロイドはどのドロイドにはないだろう」

 

 ジェダイの視線を受けても、グローザたちは動揺を見せなかった。

 

 ただし、完全に警戒を解いているわけでもない。

 

 グローザはウィクリフのすぐ傍らを維持し、クルカイは一歩後方からクワイ=ガンとオビ=ワンの挙動を観察している。

 

 ジェダイが敵ではないと判断していても、まだ出会ったばかりの相手であることに変わりはなかった。

 

 ウィクリフは頭を掻きながら、困ったように眉を寄せた。

 

「……とりあえず、簡単に説明したとはいえこれ以上の細かい説明は後でいいか?」

 

 今は、ファブリケーターの由来や戦術人形について長々と説明している場合ではない。

 

 宮殿は通商連合のドロイド軍に制圧され、今も至るところに敵がいる。

 

 クワイ=ガンも、その事情は理解していた。

 

「ああ、構わない」

 

 短いやり取りが終わったところで、ナブーの総督であるシオ・ビブルはタイミングを見計らって話に割って入る。

 

「お話し中失礼、ジェダイの方は共和国の特使であることは分かりました。その様子からして、どうやら交渉は不調に終わったと見えますな?」

 

 通商連合による突然の侵攻。

 

 そして、共和国から派遣されたという二人のジェダイ。

 

 シオ・ビブルが、彼らを交渉に失敗した特使だと考えるのも当然だった。

 

 しかし、クワイ=ガンの返答は、その予想よりも深刻なものだった。

 

「我々は交渉などなされておりません。至急共和国に連絡を取らねば……」

 

 その場にいたナブーの者たちの表情が強張る。

 

 交渉が決裂したのではない。

 

 交渉そのものが行われていなかった。

 

 つまり、通商連合は共和国の特使を迎えながら、最初から話し合う意思など持っていなかったということになる。

 

 女王を拘束し、宮殿を占拠し、惑星全土を軍事力で支配する。

 

 一連の行動が計画的なものであることは明白だった。

 

 だが、共和国へ救援を求めようにも、既にその手段は断たれている。

 

「通信システムは破壊されております」

 

 パナカの言葉に、クワイ=ガンは一瞬だけ思案するように目を細めた。

 

 惑星内から通信を送れないのであれば、自ら共和国へ向かうしかない。

 

「……船はないかね?」

 

「メインハンガーに。あちらです」

 

 パナカが宮殿の奥へ続く通路を指し示す。

 

 そこには、王室が所有するスターシップが収容されているはずだった。

 

 ただし、宮殿がドロイド軍に占拠されている以上、ハンガーも無事とは限らない。

 

 船が残されていたとしても、当然ながら警備兵が配置されているだろう。

 

 クワイ=ガンたちがメインハンガーへ向けて動き出そうとしたところで、ウィクリフは少し迷いながら声を上げた。

 

「あーっ……ちょっといいか? 俺もあなた達と同行したい」

 

 その言葉に、傍らにいたキャロリックが赤い機械耳を揺らしながら、呆れたような視線を向けてくる。

 

「指揮官? それは流石に虫が良すぎるんじゃあ……」

 

 出会ったばかりのジェダイとナブー王室の一行に、突然同行させてほしいと申し出たのだ。

 

 しかも、ウィクリフたちは救出された側であり、共和国の要人でもナブーの兵士でもない。

 

 厚かましい要求であることは、ウィクリフ自身も理解していた。

 

「それは分かっている。でも、彼らとならこっちの安全性が高いのは事実。それに、ドロイドの他に様々な機械をいじってたからある程度役に立つ筈だ」

 

 ナブーに残ったところで、安全が保証されるわけではない。

 

 通商連合が惑星全土を占領しようとしている以上、自宅へ戻れたとしても、いずれはドロイド軍に発見される可能性が高い。

 

 それならば、二人のジェダイと行動を共にした方が生存できる可能性は上がる。

 

 さらに、船で脱出するのであれば、機械やドロイドの修理に関する知識が役立つ場面もあるかもしれない。

 

 ウィクリフの申し出を聞いたパナカ隊長は、険しい表情を浮かべた。

 

 その視線はウィクリフだけでなく、彼を取り囲むグローザたちにも向けられている。

 

「……ありがたいが、私としては反対だ。ましてや君のような子供や未知のドロイドを信用した訳ではない」

 

 パナカの立場からすれば、当然の判断だった。

 

 これから守らなければならないのは、ナブーの元首であるアミダラ女王だ。

 

 素性の確認すら十分ではない者たちを、王室専用船に乗せるわけにはいかない。

 

 ましてやグローザたちは、既存のどの型式にも該当しない未知のドロイドであり、複数名が武器まで所持している。

 

 万が一、通商連合が送り込んだ工作員であれば、取り返しのつかない事態になる。

 

 パナカの拒絶を受け、グローザたちの間に僅かな緊張が走った。

 

 クルカイは表情こそ崩さなかったものの、パナカの腰にあるブラスターへ一瞬だけ視線を落とす。

 

 だが、それ以上の動きを見せる前に、クワイ=ガンが口を開いた。

 

「だが、手数が多い方がいい。我々が監視いたしますので彼らを乗せても?」

 

 その言葉に、パナカは眉を寄せる。

 

 未知の存在であることに変わりはない。

 

 しかし、これからドロイド軍が占拠するハンガーへ向かい、船を奪還しなければならないのだ。

 

 戦える者が一人でも多い方が有利なのは確かだった。

 

 加えて、二人のジェダイが監視すると明言している。

 

 パナカは僅かに逡巡した後、時間を無駄にするべきではないと判断した。

 

「……わかった。今は時間が惜しい。こちらへ……」

 

 パナカが先頭に立ち、一行をメインハンガーへと続く通路へ誘導する。

 

 ウィクリフは安堵の息を吐いたものの、状況が好転したわけではない。

 

 宮殿内には、今なお多数のバトル・ドロイドが展開している。

 

 そして、目指すハンガーには、共和国の首都惑星コルサントへ向かうための唯一の希望が待っている。

 

 ウィクリフのすぐ隣へ並んだグローザは、周囲の物音を警戒しながら、いつでも武器を抜けるように手を添えていた。

 

 その後方では、クルカイをはじめとした戦術人形たちが、それぞれの位置へ自然に散開していく。

 

 先頭を進む二人のジェダイ。

 

 女王を守るパナカとナブーの衛兵たち。

 

 そして、その一行に加わったウィクリフと戦術人形たち。

 

 目的地であるメインハンガーへ向け、一行は占領されたシード宮殿の奥深くへと足を踏み入れていった。

 

 

 ────────────────────────────────────────────

 

 

 一行はシード宮殿の通路を慎重に進み、やがてメインハンガーを見渡せる位置までたどり着いた。

 

 巨大な格納庫の中央には、銀色の美しい船体を持つナブー・ロイヤル・スターシップが静かに鎮座している。

 

 あれこそが共和国の首都惑星コルサントへ向かう唯一の希望だった。

 

 しかし、その希望へ辿り着くには大きな障害があった。

 

 船の周囲には多数のバトル・ドロイドが警戒に当たり、さらに拘束されたナブーのパイロットたちが膝をつかされている。その傍らにはブラスターを構えたドロイドが監視を続けていた。

 

 ウィクリフは思わず息を呑む。

 

「見張りが多い……」

 

 すぐ隣で周囲を観察していたグローザが、素早く敵戦力を数え上げる。

 

「グローザ、数的に何体いる?」

 

「少なくとも目視で確認できるは二十体以上ね」

 

 二十体以上。

 

 しかも格納庫の奥まで含めれば、それ以上潜んでいる可能性も十分考えられる。

 

 真正面から突入すれば、スターシップごと蜂の巣にされかねない。

 

 クワイ=ガンは敵の配置を一瞥すると、すぐにアミダラ女王へ向き直った。

 

「問題ではない。……陛下、この状況です。我々がコルサントまでお連れしましょう」

 

 しかし、女王は静かに首を横へ振る。

 

「せっかくですが、民と共に残ります」

 

 その返答に、パナカだけでなくウィクリフも驚きを隠せなかった。

 

 王として最後まで国民と共にありたい。

 

 その覚悟は立派だ。

 

 だが──。

 

 クワイ=ガンは一歩踏み出し、静かに言葉を続ける。

 

「此処にいれば殺されます」

 

 だが、その言葉をシオ・ビブルが否定した。

 

「いやっそれはない」

 

「侵略を正当化する協定書に女王の署名が必要なのです」

 

 その説明を聞いたウィクリフは、前世の記憶を思い返す。

 

 確かに通商連合の狙いは占領を合法化することだった。

 

 女王を殺してしまえば、その計画は破綻してしまう。

 

「なるほどね……だから連中は女王を生かしてたのね」

 

 だがクワイ=ガンは、なおも冷静に分析を続けた。

 

「この侵略には裏があるのです。本来ならここまでやる通りはない。躊躇わず貴女を殺します」

 

 その言葉に場の空気が一変する。

 

 通商連合だけで、ここまで大胆な軍事行動を起こすだろうか。

 

 共和国の特使すら排除しようとした彼らの行動には、確かに不可解な点が多すぎる。

 

 クワイ=ガンは確証こそ持っていないものの、この侵攻の背後に何者かの意思を感じ取っていた。

 

「今や元老院だけが頼りです。パルパティーン議員が力になる筈」

 

 ナブー選出議員であるパルパティーン。

 

 共和国議会で彼ならば女王の訴えを届けられる可能性がある。

 

 クワイ=ガンは最後に静かに問い掛けた。

 

「行くも残るも危険は同じです。そうであろう?」

 

 アミダラ女王は侍女たちへ視線を向ける。

 

 自分だけの判断ではない。

 

 命を預ける彼女たちの覚悟も確認したかった。

 

 侍女の一人が、一歩前へ出て答えた。

 

「死など恐れません」

 

 その決意を聞いたパナカも頷く。

 

「脱出なさるなら陛下、急がないと……」

 

 女王は短く息を吐き、決断した。

 

「では元老院に訴えを。……後を頼みます」

 

 シオ・ビブルを含む数名をナブーに残してアミダラ女王は侍女達とパナカ率いるボランティアガードはコルサントに向かうことになった。

 

 方針が決まると、次はスターシップを確保しなければならない。

 

 だが、その前に拘束されたパイロットたちを救出する必要がある。

 

「パイロットたちを自由にしないと……」

 

 オビ=ワンが迷いなく名乗り出た。

 

「私に任せて」

 

 その声にクワイ=ガンは弟子を見つめ、小さく頷く。

 

「クルカイ、心配ないと思うが彼の援護に」

 

 クルカイは静かに前へ出た。

 

「分かったわ」

 

 オビ=ワンとクルカイは互いに視線だけで合図を交わすと、物陰を利用しながらパイロットたちが拘束されている方向へ音もなく移動していく。

 

 ジェダイと戦術人形。

 

 異なる世界の戦士でありながら、その足並みは驚くほど揃っていた。

 

 一方、残った者たちは正面のドロイド部隊へ注意を向ける。

 

 ウィクリフはクワイ=ガンへ視線を送った。

 

「ところでマスタージェダイ。どうやって奴らから切り抜ける?」

 

 クワイ=ガンは僅かに口元を緩める。

 

「心配ない。最終的に手荒な交渉になりそうだ」

 

 その言葉にウィクリフは心の中だけで苦笑した。

 

(結局はドロイドを全滅させるってことか。ここら辺は原作と変わらないな……)

 

 クワイ=ガンは隠れることなく歩みを進め、警備中のバトル・ドロイドたちの前へ姿を現した。

 

 当然ながら、ドロイドたちは一斉にブラスターを向ける。

 

《止まれ》

 

 クワイ=ガンは少しも動じることなく答えた。

 

「私は議長の特使だ。彼らをコルサントに連れて行く」

 

 ドロイドは一瞬だけ思考するように首を傾げる。

 

《何処へ連れて行くと言った?》

 

「コルサントだ」

 

 数秒間の沈黙。

 

 そして──。

 

《コルサント……あっプログラムにない。あっ駄目だ、お前を逮捕する……》

 

(やっぱりこうなるよな……!)

 

 ウィクリフが心の中で突っ込むのとほぼ同時だった。

 

 クワイ=ガンの表情から笑みが消え、マントの内側へ手が伸びる。

 

 交渉は、最初から成功するとは思っていなかった。

 

 あくまで敵の注意を引き付けるための時間稼ぎ。

 

 その役目は、十分すぎるほど果たされた。

 

 次の瞬間、緑色の光刃が格納庫を鮮烈に照らし出した。

 

 

 ────────────────────────────────────────────

 

 

 激しい閃光がメインハンガーを照らした。

 

 クワイ=ガンのライトセーバーが次々とバトル・ドロイドを両断し、オビ=ワンもまた青い光刃を振るって敵を制圧していく。

 

 その一方で、クルカイは正確無比な射撃でパイロットたちを見張るドロイドを撃ち抜き、拘束されていた者たちの救出を進めていた。

 

 戦況がこちらへ傾いたのを確認したウィクリフは、戦術人形たちへ素早く指示を飛ばす。

 

「ビヨーカ、アンドリスは援護! ミシュティは乗り込むクルーがやられない様サポート! グローザは引き続き護衛を頼む!」

 

「「「了解!」」」

 

「りょうか〜い……。眠い……」

 

 それぞれが即座に持ち場へ散開する。

 

 ビヨーカとアンドリスは援護射撃を開始し、スターシップへ近付こうとするドロイドを的確に排除していく。

 

 ミシュティは気の抜けた返事とは裏腹に、素早くクルーたちの間へ入り込み、ブラスターの射線を見極めながら避難経路を確保していた。

 

 そしてグローザは、ゲイレノルを構えたままウィクリフの傍を離れない。

 

 彼女にとって最優先事項は、敵の殲滅ではなくマスターの護衛なのだ。

 

 その間にも、クワイ=ガンはスターシップ周辺に展開していたバトル・ドロイドを次々と斬り伏せていく。

 

 緑色の光刃が閃くたびに機械の腕や胴体が宙を舞い、ハンガーには金属が崩れ落ちる音が絶え間なく響いた。

 

 やがて周囲の敵が途切れたことを確認すると、クワイ=ガンは力強く叫ぶ。

 

「今だ、早く!」

 

 その頃、拘束されていたパイロットたちの救出も完了していた。

 

 最後の見張りドロイドを倒したオビ=ワンとクルカイが、解放されたパイロットたちへ避難を促す。

 

「今よ! 急いで移動して!」

 

「行け!」

 

 パイロットたちは一斉に駆け出した。

 

 事前の打ち合わせどおり、その半数はナブー・ロイヤル・スターシップへ乗り込み、残る半数は宮殿内へ身を隠し、ドロイド軍への反撃に備える。

 

 ボランティアガードたちも手際よく分かれ、それぞれが自らの役目を果たすため行動を開始した。

 

 慌ただしく人々が乗船していく中、クルカイは周囲を警戒しながら最後の確認を行う。

 

「よし。後はいないみたいだ」

 

 その声を聞いたグローザはウィクリフへ振り返る。

 

「指揮官、早く乗り込んで」

 

「分かってる。今行く」

 

 ウィクリフは最後にハンガー全体を見渡した。

 

 床には破壊されたバトル・ドロイドが無数に転がり、焦げた金属の匂いが漂っている。

 

 ここで暮らしてきたナブーが戦場になってしまった現実を目の当たりにし、胸の奥が締め付けられた。

 

 それでも立ち止まることはできない。

 

 ウィクリフがタラップを駆け上がると同時に、ハッチが閉鎖される。

 

 直後、ナブー・ロイヤル・スターシップのエンジンが高らかに唸りを上げた。

 

 機体は滑るようにハンガーを飛び出し、シード宮殿を後にする。

 

 宮殿上空では待機していたバトル・ドロイドやスターファイターが反応を始めていたが、パイロットたちは巧みな操縦でそれらを振り切り、一直線に空へ向かって上昇していく。

 

 船内へ入ったウィクリフは、自然とブリッジへ足を運んだ。

 

 大きな窓の向こうでは、青く美しいナブーの空が少しずつ暗さを増し、やがて漆黒の宇宙へと姿を変えていく。

 

 眼下には、緑と青に彩られた故郷の惑星がゆっくりと遠ざかっていった。

 

 前世では映像や写真でしか見たことのなかった宇宙。

 

 今、自分はその景色をこの目で見ている。

 

 思わず感嘆の声が漏れる。

 

「これが宇宙か……。出来れば平和な時に宇宙初体験したかったな」

 

 感傷に浸る時間は、ほんの一瞬だった。

 

 センサーを監視していたクルカイが鋭い声を上げる。

 

「言ってる場合じゃないわ。前方に封鎖線!」

 

 その言葉にウィクリフは急いで前方へ視線を向けた。

 

 漆黒の宇宙空間を埋め尽くすように、巨大な円盤状の艦隊が待ち構えている。

 

 ルクレハルク級貨物船。

 

 通商連合が誇るドロイド・コントロール・シップが、複数隻にわたってナブーを包囲していた。

 

 その威容を目にしたウィクリフは、小さく息を呑む。

 

「……ああ、かなりマズいな」

 

 故郷を離れた喜びよりも先に、通商連合の封鎖線という新たな試練が、彼らの行く手を阻もうとしていた。

 

 ナブー・ロイヤル・スターシップは最大出力で加速し、通商連合の封鎖線へ向け一直線に突き進む。

 

 その動きを察知したルクレハルク級貨物船が、一斉に砲門を開いた。

 

 次の瞬間、宇宙空間を埋め尽くすような無数のターボレーザーが放たれる。

 

 赤い閃光が船体の周囲を掠め、激しい爆発が次々と起こった。

 

 パイロットたちは巧みな操縦で回避を続けるが、そのすべてを避け切ることはできない。

 

 一発の砲撃が船体上部を直撃し、激しい衝撃がブリッジ全体を揺らした。

 

「シールド発生器に被弾!」

 

 警報が船内に鳴り響く。

 

 赤い警告灯が点滅し、シールド出力は急激に低下していく。

 

 出撃ランプが点滅し、異常を感知した船内のアストロメク・ドロイドたちは、一斉に修理作業へ向かった。

 

 その途中、慌てて走っていたジャー・ジャー・ビンクスへ、小さな青と白のアストロメク・ドロイドが勢いよくぶつかる。

 

「ウワッ!」

 

 ジャー・ジャーが尻もちをつく。

 

 R2-D2は電子音で何事かを言い返すと、立ち止まることなく修理用ハッチへ向かって走り去っていく。

 

 取り残されたジャー・ジャーは情けない声を漏らした。

 

「……あんまりじゃん」

 

 誰もその言葉を気にする余裕はなかった。

 

 外部へ展開したアストロメク・ドロイドたちは、それぞれ損傷したシールド発生器の修復に取り掛かる。R2も配置につく。

 

 しかし、通商連合の砲撃は容赦なく降り注いだ。

 

 一体、また一体と、修理中のドロイドがターボレーザーに撃ち抜かれ、爆発しながら宇宙空間へ散っていく。

 

 ブリッジでは、その様子がモニターに映し出されていた。

 

「ドロイドがやられています!」

 

 焦りを隠せないオビ=ワンの声に続き、パナカが険しい表情で叫ぶ。

 

「シールドが消えれば船は一秒とも持ちません!」

 

 だが、砲撃は止まらない。

 

 外部で修理を指揮していたR5ユニットもまた、次の瞬間には閃光に包まれ、跡形もなく吹き飛ばされた。残ったのはR2のみ。

 

 そして、ついに──。

 

「シールドが消えました!」

 

 ブリッジに重苦しい空気が流れる。

 

 防御を失ったスターシップは、次の一撃で撃墜されても何ら不思議ではない。

 

 ミシュティは不安そうな表情でウィクリフの袖を掴んだ。

 

「ねぇ指揮官。大丈夫……だよね?」

 

 ウィクリフは窓の外を見つめたまま、小さく首を振る。

 

「分からない。こればかりは運しだいだ」

 

 前世の記憶では、この場はR2-D2が乗り越える。

 

 だが、それが"必ず"起こる保証はどこにもない。

 

 この世界は既に、自分や戦術人形たちが存在することで少しずつ変化している。

 

 もし歴史が変わってしまえば──。

 

 その不安を振り払うように、ウィクリフは固く拳を握った。

 

 一方、宇宙空間では、最後に残されたR2-D2が損傷したシールド発生器の修理をしていた。

 

 通常であればエネルギー調節回路を修復するところだが、R2は状況的に間に合わないと判断し、まったく別の方法を選択する。

 

 メインパワーの出力を、防御シールドへ直接接続する。

 

 大胆でありながら、この状況では最も確実な応急処置だった。

 

 直後、ブリッジの計器が一斉に反応する。

 

「……パワーが戻った!」

 

 クルカイが外部モニターへ視線を向ける。

 

「あのR2ユニットがやり遂げてくれたみたいね」

 

 操縦席ではパイロットが歓声を上げた。

 

「そうか、あのチビがやったのか! メインパワーのバイパスを繋いだ! 防御シールドパワー、マックス!」

 

 失われていたシールドが一気に回復する。

 

 その瞬間を逃さず、ナブー・ロイヤル・スターシップは最大加速。

 

 通商連合の封鎖艦隊の間を縫うように飛び抜け、そのまま探知範囲外へ離脱していった。

 

 ブリッジには安堵の空気が流れる。

 

 しかし、その空気も長くは続かなかった。

 

 操縦士が計器を確認し、苦い表情を浮かべる。

 

「コルサントまではパワーが持ちません。ハイパードライブが漏れている」

 

 修復できたのはシールドだけ。

 

 船そのものは深刻な損傷を負っていた。

 

 パナカも状況を理解し、クワイ=ガンへ視線を向ける。

 

「どこかへ立ち寄って燃料の補給と船の修理を……」

 

 クワイ=ガンは星図を見つめながら思案する。

 

 共和国寄りの惑星へ向かえば、通商連合に待ち伏せされる危険がある。

 

 では、どこならば安全か。

 

 その時、オビ=ワンが静かに口を開いた。

 

「いいところが、タトゥイーンです。主要航路から外れている上に、通商連合の力もここには及ばない」

 

 クワイ=ガンは弟子を見る。

 

「何故そう言い切れる」

 

 その時にウィクリフが代わりに答えた。

 

「聞いたことがある。タトゥイーンは確か、ハットが支配している星でならず者やギャングが集まる星だ」

 

 その説明を聞いたパナカは即座に反対した。

 

「陛下をそんなギャングの所にお連れできません! 女王ということが分かったら……」

 

 しかし、グローザは冷静に状況を分析する。

 

「逆に考えれば、連合の支配地よりもギャングの支配している星に降り立っているなんて連合の連中も思いつかないわ」

 

 クワイ=ガンも同意するように頷いた。

 

「彼女の言う通り、連合の支配している星に行くのと危険なことに変わりはない。女王を探していないだけ、ハットの方がマシだ」

 

 最善ではない。

 

 だが、現状では最も現実的な選択肢だった。

 

 行き先は、辺境惑星タトゥイーンに決定する。

 

 その頃──。

 

 通商連合旗艦ルクレハルク級貨物船の豪奢な客室では、ヌート・ガンレイとルーン・ハーコがホロ通信装置の前に立っていた。

 

 青白いホログラムの中には、黒いローブを身に纏った一人の男。

 

 シスの暗黒卿、ダース・シディアス。

 

 その低く冷たい声が室内へ響く。

 

『アミダラ女王は署名をしたか?』

 

 ガンレイは脂汗を流しながら答えた。

 

「それが女王は行方知れずで……ナブーの船が一隻、封鎖を破りました」

 

 ホログラム越しでも分かるほど、シディアスの空気が冷え込む。

 

『あぁ……女王の署名は欠かせぬ』

 

 ルーン・ハーコは震える声で続けた。

 

「しかし閣下……船を見つけるのはもはや不可能。探知不能の距離に去りました」

 

 しかし、シディアスは僅かも動じない。

 

『シスに不可能はない』

 

 その言葉と共に、ホログラムの背後からもう一人の人物がゆっくりと姿を現した。

 

 全身を黒装束で包み、赤と黒の刺青に覆われた顔。

 

 黄色く輝く双眸が、獲物を狙う猛獣のように細められる。

 

 腰には柄の長いライトセーバー。

 

 圧倒的な殺気を纏うその男を見て、ガンレイたちは思わず息を呑んだ。

 

『これはワシの弟子“ダース・モール”だ。この男がその船を探し出す』

 

 通信はそこで途切れた。

 

 静寂だけが客室を支配する。

 

 ガンレイは恐怖に震えながら呟いた。

 

「恐ろしい……なんと二人も!」

 

 ルーン・ハーコも青ざめた顔で頷く。

 

「話に乗ったのは間違いでは?」

 

 誰も答える者はいなかった。

 

 彼らはようやく理解し始めていた。

 

 自分たちは通商連合のために動いているのではない。

 

 銀河の闇そのものに、利用されているのだということを。

 

 

EP.1を書き終わったら、EP.1とEP.2の空白期間のエピソードを執筆しようと思います。読者の皆様はどれがいいですか?

  • 戦術人形たちとの日常
  • 父の仕事の手伝いでカミ―ノへ向かう
  • コルサントへ軽い家族旅行
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