俺、鹿島悠人には可愛い幼なじみがいる。
名前は朝霧琴葉。
そして困ったことに、本当に可愛い。
そんなこと小学校の頃から知っていて、
昔は「顔が整ってるな」くらいだったのに、
中学に入ってからはそれだけじゃ済まなくなった。
髪が少し伸びたとか、笑い方が変わったとか、制服が似合うようになったとか。そういう細かい変化が積み重なって、気付けばクラスでも一、二を争うくらいには可愛い女の子になっていた。
……いや、本人には言わないけど。
絶対調子に乗るから。
教室に入ると、琴葉は自分の席で頬杖をついて外を眺めていた。
相変わらず朝はぼーっとしてる。
寝不足なのか考え事なのか知らないけど、あの顔を何度見ても目が離せないのは、もうだいぶ重症なんだろう。
「おっす、おはよう琴葉」
「おはよ、悠人」
琴葉がいつものように返事をしながら笑う。
その笑顔だけで朝から気分が上がるなんて、我ながら単純すぎる。
でも仕方ない、好きなんだから。
もちろん本人は知らないと思う。
逆に、知られたら困る。
小学校三年から六年も積み上げてきたこの距離が、一言で壊れる可能性がある。
あと、仮にそんな勇気があるなら、とっくに告白してる。できないから今こうして幼なじみをやってるわけで。
ヘタレな男と笑いなさい。
と、某作品の存在しない名言を思い出しながら、
琴葉と今日の小テストについて話してる間も、
どうでもいい仕草まで気になってしまう。
いつもそうだ。挨拶をする時の笑顔も、ふとした時に見せる大人びた表情も、勉強限定で琴葉が見せる今の、このドヤ顔も。
琴葉は勉強の話になると、昔からこうだ。
「私できますけど?」みたいな顔を隠そうともしない。
でも全然腹が立たない。
というか、あれで本当に点数取るんだから文句も言えない。
小学校のテストは簡単だったしお互いほとんど差はつかなかった。
だからこそ、勉強に関してはちょっとメスガキな琴葉をわからせてやろうと思って、中学に入ってすぐ本気で勉強して、テストを受けたことがある。
が、普通に負けた。それも全教科で。
それ以来、勉強で勝とうとは思ってない。
無理なものは無理だ。
メスガキは簡単には倒せないからメスガキなのだ。悔しいけど。
そうして琴葉の顔を見ながら喋っていると、朝から何となくあった違和感の正体がわかった気がして、聞いてみる。
「そういえばさあ」
「ん?」
「髪切った?」
「……2センチくらいね」
琴葉はなんともいえないような表情でそう答える。
なるほど、朝から何か違うと思ってたけど、それか。
「やっぱり。似合ってるぞ」
本当に似合ってると思った。
だからそのまま口に出した。
……まあ、少しくらい意識してくれたら嬉しいな、なんて気持ちが一ミリもなかったと言えば嘘になるけど。
「……別に、感想なんて聞いてないし」
そう言って、プイッと前を向いてしまった。
怒っては、いないよな…?
というより、琴葉の顔がちょっと嬉しそうに見えたのは……
気のせいか?
まあいいや、真相がわからないなら、
気のせいじゃなかったことにしよう。
その方が今日一日、ちょっとだけ気分がいい。