「おっす、おはよう琴葉」
朝一番に聞こえてくるこの声が好きだ。
……なんて。
前世の私が聞いたら笑うだろう。
だって前世の私は男だった。
朝霧琴葉は前世の記憶を持っている。
……なんて言うと、さぞ劇的な人生を送ってきたように聞こえるかもしれないけれど、実際はそんなこともない。
沢山勉強して、ようやく入れた理系の国立大学。
「これからが本番だ」と思っていたのに、キャンパスライフもろくに送れないまま、私の人生は終わってしまった。
おそらく交通事故が原因で、気づいた頃にはこの世界で朝霧琴葉として生きていた。
記憶は七歳くらいまでに少しずつ戻ってきて、今では「前世」と「今世」の区別も自然につくようになった。
けれど、当時はとても混乱していた。
記憶がはっきりする前は、誰のか知らない記憶が恐ろしくて、戻った後は前世の家族にはもう会えないことも、男として生きた人生が終わったことも、悲しくて。
でも、人間というのは案外慣れる生き物らしい。
十五年も女の子として生きていれば、鏡に映る自分にも違和感はない。
今の私は女の子だ。
……ただ、前世の私が消えたわけでもない。
だから恋愛だけは、今でも少し難しい。
物思いにふける私の後ろから、聞き慣れたキーホルダーの音が聞こえた気がして振り返ると、いつものように鞄を肩に掛けた彼が、笑顔で挨拶をしてきた。
私は少しだけ頬を緩めながら返事をする。
「おはよ、悠人」
何年も一緒にいるんだから、いい加減慣れてもいいんじゃないか、と思うくらいに心が弾む。
小学校三年生からの付き合い。
腐れ縁と言えば腐れ縁。幼なじみと言えば幼なじみ。家も近いし、私も悠人も同じ中高一貫校に進学した。
気づけば毎日のように一緒にいる。
一緒にいるのが当たり前すぎて、隣に悠人がいない日なんて考えたこともない。
「今日の数学、確か小テストあったよな」
「そうだけどさ、なんか自信ありそうな雰囲気だすじゃん」
「今回の範囲はちゃんと授業聞いてたし、結構できる気がするんだよね」
「じゃあ勝負する?」
「負け確の試合はしない主義なんだよなあ」
「ふふん」
つい私が得意げに胸を張ると、相変わらずだなぁ、と苦笑する彼。
その笑顔を見ているだけで安心する。
こんな何気ない時間を、彼はどれくらい大事に思っているんだろう。
……まあ、聞く勇気なんてないけど。
まったく困る、本当に困る。
小学校三年生から六年も一緒にいるのに、どうしてまだこんなに好きなんだろう。
こんな距離で何年も一緒にいるけど、昔みたいに肩を組んでふざけ合うには、もうお互い少し大人になりすぎた。
でも今さら、よそよそしくするのも変だ。
だから結局、男友達みたいな距離感のまま。
そのくせ、ふと目が合うだけで心臓はうるさい。
精神年齢という概念は、どうやら彼の前ではなくなるらしい。前世を合わせれば三十歳を超えているはずなのに。
恋愛に関しては、中学三年生の女の子以下だ。
「そういえばさあ」
「ん?」
「髪切った?」
ちょっと気にしてたことを、
彼は何気なく聞いてくるらしい。
「……2センチくらいね」
「似合ってるぞ」
嬉しい。
「……別に、感想なんて聞いてないし」
のに、思わず顔を逸らしてしまった。
……さっきの評価は訂正しよう。
ミジンコ以下だ。
私の恋愛力は、クソザコ極まっている。
神様はどうやら、知能と恋愛力を等価交換したらしい。
いつもそうだ、本当はもうちょっと素直に反応したいのに、ちょっと彼に褒められただけで、体は全然言うことを聞いてくれない。
前世では、こんなので照れるなんて想像もしなかった。
いや、そもそも恋人なんていなかったから比較もできないんだけど…。
とにかく。
私の初恋は、小学三年生から少しも終わってくれないのだ。
え?TS要素が薄いって?
もうメス堕ちしてんじゃねえかって?
すいません許してくださいなんでもしますから(何でもするとはいってない)
正直に答えると、メス堕ちに関してはいずれ投稿するであろう過去編にあります。プロットは出来上がってます。TS要素は今後頑張ります。プロットはありません。