件の数学の小テストが返ってきたのは、帰りのホームルームだった。
前の席から後ろへ流れてきたテスト用紙を受け取って自分の答案を見ると、赤ペンで10/20と書いてあった。
……まあ、こんなもんだろう。
隣の席の奴がおかしいだけで、普通はこれくらいじゃないか?
多分、きっと。
ただ、いけそうな雰囲気を出していた手前、この点数を見られるのはちょっと恥ずかしい。
さっさと答案をしまおうとした時
「どうだった?」
隣から琴葉がひょいと覗き込もうとしたきたので、答案を隠しつつ誤魔化す。
「あー…普通な感じかな」
何より、メスガキに煽られて喜ぶ趣味はないのだ。できれば隠し通したい。
「ふーん」
くそっ、ニヤニヤしながら見つめてくる
さてはもう点数の当たりがつけられてるな。
答案を見られないように、解答用紙を胸元に抱えて隠す。しかし、琴葉はこの答えじゃ満足しなかったようで
「とりあえず見せてよ」
そう言いながら体ごと寄って、手を伸ばしてくる。
こいつ、昔からこういうところが遠慮ないんだよな…。
ただプリントを取ろうとしているだけ。
本人にとっては、それだけなのだろう。
……なのに。
昔なら何とも思わなかった距離が、今はとても近く感じる。
「……」
一瞬、動きが止まったその隙を琴葉は見逃さない。
「あ」
あっさりと解答用紙を抜き取られてしまった。
「10点じゃん」
結局見られた。
すると琴葉はニヤニヤした顔のまま煽ってくる。
「なんかさ〜意気込みの割にって点数じゃない?」
失礼な。
「まだ平均点が分からないだろ」
「小テストで平均点とか関係ない気がするし〜」
くそっ反論できねぇ
ちなみに琴葉の答案は見えてしまっている。
20/20満点だ。
たとえ小テストだろうが、ちゃんと満点を取ってくるあたりが琴葉らしい。
まあいいや、人には向き不向きがあるし、別に勉強だけで人としての優劣が決まるわけでもない。そう諦めは大切だ、人は現実を受け入れることで成長するのだ。
少し大層なことを考えて現実逃避をしていると、
「悠人、放課後暇?」
琴葉から答えにくい質問が飛んできた。
遊びの誘いなら一も二もなく飛びつくところだが、この文脈だと安易には飛びつけない。
それにその聞き方だと、断ったら暇じゃなくなるみたいじゃないか。
なので、何となくその後に来る言葉を予測しつつも素直に答える。
「まあ暇だけど」
「じゃあ一緒に勉強しよう」
「嫌だ」
即答だ。
せっかく今日は部活が休みなんだから遊びたいのだ。
琴葉と一緒にいられるのは嬉しいけど、わざわざその時間を勉強にはしたくない。
それに、この返答には明確な理由がある。
というのも、うちは中高一貫校なのだ。進級に困らない程度に点を取っていれば、それで十分。
少なくとも俺はそう思っている。
しかし琴葉は
「一体いつから悠人に拒否権があると錯覚していた?」
と凄味をだして言う。可愛い。
しかし好きな子に、ここまで言われると断りずらいのも男のサガってやつで…
「じゃあ勉強し終わったら、一緒にゲームしようぜ」
結局折衷案をだすことにした。あわよくば勉強時間を少しでも減らしたい。
「いいよ」
すると琴葉は、思いのほかあっさり了承する。
拍子抜けしたが、帰る準備をし始めることにして座りながら教科書を鞄にしまってると、
不意に背後から身を寄せてきた琴葉が、ごく自然な動きで俺の肩へ腕を回す。
「じゃ、早く帰ろ」
耳元で聞こえた声と同時に、昔と変わらない甘くて落ち着く匂いがふわりと鼻をかすめる。
そのまま肩越しに伝わるやわらかい感触に、一瞬心臓が大きく跳ねた。
「ッ……ちょっ、近いって」
と言うと、琴葉は一瞬だけ動きを止め、
「……あっ」
と小さく呟いて、腕を離した。
……もしかして、言い方きつかったか?
別に嫌だったわけじゃない。ただ、不意打ちだったから驚いただけで……。
そんな言い訳を、本人に言えるはずもなく。
そんな少しだけ気まずい空気のまま、俺たちは教室を後にした。
恋愛小説は書いたことがないので、試行錯誤になると思います。
視点ごとの書き訳でない部分で、話ごとの文体などに少しズレを感じてしまうかもしれませんが、いずれ落ち着くと思うのでお手柔らかに。