転生サモナー、相棒のスライム娘を丹精込めて育ててたらヤンデレラスボススライムに進化し始めたけど変わらず愛でる 作:らいむらいむ
サモナーっていいよな。
召喚術はロマンだ。
呼び出した魔物だったり幻獣だったりが、かっこよく敵を蹴散らす。
これがまたたまらない。
問題は、テイムするのを一匹に絞るか、複数に選択肢を広げるか。
後者のほうが手数は増えるだろうけど、俺に複数の魔物を使い分けて指示するとか高度なことができるのか?
一匹に意識も成長リソースも集中させて、最強を作り上げた方がいいかもしれない。
なんて、転生した当初は考えたもんだ。
結果として、俺は一匹の魔物に全てを注ぎ込むこととした。
注ぎ込んだ魔物の名は――スライム。
いわゆる最弱と呼ばれる類の魔物だけれど、最弱っていうのは特別ってことだ。
少なくとも俺は、それを信じて育ててきた。
実際向こうも、それに答えてくれていると思う。
とはいえ――
流石にスライム娘になるのはちょっと想定外だったけど。
△
ダンジョンを出て冒険者ギルドに戻ってきた。
ダンジョンへと直接つながる転移陣を一歩出ると、ギルドの喧騒は更に大きくなる。
早速俺は、受付で今日の成果を報告しようと足を向けた。
「すいません、素材の換金をお願いしたいんだけど」
「あ、ルモンさんおかえりなさい。素材の換金ですね、わかりましたー」
『いっぱいー、とれたー、とれたー』
見知った金髪の受付、リサに声をかけるとリサの方も解った様子で、パタパタと裏の方に消えていく。
何やら他にも声が聞こえた気がするが、この声は俺にしか聞こえないので周囲が視線を向けることはない。
『たくさん、たくさん、おいしー、おいし!』
『よかったなぁ、”ルイ”』
『んへへー!』
ルイ。
それは俺がテイムした魔物の名前。
スライムから連想してルイ、なんてちょっと安直すぎる気がするけど、本人が気に入った名前なので問題はない。
ルイが選んだということが、一番大事なのだ。
「――――おい、あれ見ろよ。あれが雑魚専か?」
「やめろよ、聞こえるぞ」
不意にそんな話し声が聞こえてきた。
ちらりと視線を向けると、見知らぬ冒険者と、たまに顔を見かける冒険者。
俺のことを雑魚専と呼んだのが見知らぬ冒険者で、顔を見かける冒険者がそれを咎めていた。
「けどよ、たかがスライムしかテイムしてないサモナーが、Aランクってのもおかしいだろ」
「おかしくねぇよ、ギルドが認めてんだから。いいから黙れ」
雑魚専という呼び名は、もうずいぶん昔から俺に対して使われている蔑称だ。
新人だった頃は、誰も俺を名前で呼ばなかったな。
いつしかこのギルドの人間は言わなくなったが、嫉妬というのは恐ろしいもので。
この街にスライムしかテイムしていないサモナーがいる、そいつが何故かAランクである、そいつは雑魚専と呼ばれている、という情報だけを都合よく耳に入れてくるやつがいる。
他にも色々話は広まってるだろうに。
『ねーねールモン』
『なんだ?』
『――――きょーのゆーはん、どーしよっかー』
そして、俺に話しかけてくるルイの声音が、低くなった。
聞くものが聞けば末恐ろしいと思うだろう。
明らかに、先程雑魚戦だなんだと話をしていた男に意識が向いている。
その意図は、確かめるまでもなくわかる。
でもまぁ、なんだ。
『今日はハンバーグにしようかね、俺特性のデミグラスソースをかけよう』
『わーい、ハンバーグ、おいしー』
ルイはかわいいなぁ。
ちょっと好物の話をすると、すぐにそちらへ意識が向く。
もう、雑魚専だなんだと言っていた男のことなど、記憶にすら残っていないだろう。
「おまたせしましたー、早速ですけど、取ってきたアイテムを出してもらってもいいですか?」
「ああ、ありがとうリサ」
『りさりさー』
それだとなんか別のあれに聞こえるからやめようね。
ともかく、俺はリサが持ってきたでかい
「サモン:ルイ」
一言、テイムした魔物を呼び出すワードを口にする。
すると――タライの横に、小さなスライムが出現した。
スライムの――少女だ。
全身は青く透き通っており、不純物のようなものはない美しさを持っている。
髪に相当する部分は地面まで伸びており、そして非常に毛量が多い。
前髪も瞳を覆うか否かというほどまであり、その髪の奥から感情の読めないぼーっとした瞳が覗いていた。
体は衣服のようなものを身にまとっている。
敢えて空気のようなもので水を白くさせ、それを羽衣のようにしているのだ。
装いからすると、一言で言えば天女のような雰囲気を持つ。
彼女が、ルイ――の小さいバージョンである。
「きゃあ、今日もルイちゃんかわいい!」
『いえいえい』
「よし、ルイ。いつも通り頼むぞ」
『あいさー』
リサに褒められて自慢げなルイが、手を上に掲げて、それからタライへと振り下ろす。
すると――空中から水に包まれた”素材”が大量に出てきた。
魔物の皮や肉、骨などがどばどばと。
水浸しになっているから、タライの上でないととてもじゃないけど解放できない。
これらは、ルイの
この世界にアイテムボックスのようなものはない。
しかし俺は、ある方法で普通なら運べない量のアイテムを一気に運ぶ手段を開発していた。
副作用として、こうして入れたアイテムが全部水浸しになるので、書物とかは無理だけど。
運べないものだけ俺が運べばいいわけで、かなり有用な能力といえる。
「相変わらずすごいですよね、ルイちゃん」
『ほめるがよいぞー、ぞいぞい』
「えらいえらい」
――ところで、ルイはリサに嫉妬しないのか、疑問に思うものはいるかもしれない。
するよ? 普通に。
ただ、流石に慣れて来たのか日常では嫉妬することがないくらい、仲良くなっているだけで。
まぁ、それはいいのだ。
『あと一つあーる』
「悪いんだけどそれはタライに入り切らないから、外でいいか?」
「わかりましたー」
タライ一杯の、無数のアイテム。
魔物の素材だけではない、剣とか盾とか、宝箱の中から出てくるものも複数。
結構な量だ。
これでしばらくダンジョンに潜らなくてもいいだろう。
あそこは金を稼ぐ場所としてはいいんだけど、修練の場所としてはなぁ。
ちょっと使いにくい。
どっちかというと、育てに育てたルイが無双するところを楽しむ場所というか、なんというか。
まぁ、それはそれで楽しいんだけどな。
「……んだよあの雑魚専、どんなインチキすりゃあんな素材だのなんだのかっぱらえるんだ。スライムも小せえし」
「おい、バカ!」
――そこで。
さっきから色々言っていた冒険者が、いよいよルイの地雷を踏み抜いてきた。
俺も興味がなかったから視界にすら入れていなかったんだが、隣の冒険者が止められなかったらしい。
『
その時。
冒険者ギルドに響き渡るような、低く、そして重い、轟くような声が聞こえた。
恐怖だ。
それは、畏怖と恐怖を引き出す声音。
思わずリサすら顔を青ざめるようなそれは、ギルド中が静まりかえるには十分なものだった。
「……ルイ」
『ねえ、だれ? ルモンをバカにするの、だれ? だーれー? ねーえ?』
答えは、ない。
先ほどから俺をバカにしていた冒険者は、今更自分が何の尾を踏んでしまったのか気付いたようだ。
尻もちをついて、その場ですくみ上がっている。
俺も一応停めるべく声をかけるが、こりゃあちょっとくらい脅しを付けないとルイも満足はしないだろうな。
『――――みつけた』
「っ!!」
声は、天井の方から聞こえてくる。
先ほどまでいた小さなルイは姿を消し、上から何かが現われようとしていた。
それは
否、正確に言えば
水球に包まれた竜の骨といえば、伝わるだろうか。
「な、な、なんなんだよこりゃあ!!」
『――――たおしたの』
「は――」
それは、今回のダンジョン探索でルイが倒した魔物だった。
竜。
一般的に、それは冒険者にとって憧れとも言える存在で、倒せばドラゴンスレイヤーなんて称号がつくくらい。
しかしルイはそれを――
『とかしたの。どろどろにして、ぐちゃぐちゃにして、めちゃくちゃにしちゃったの。――
――単独で、蹂躙した。
まあ実際には加減する余裕がなくて、溶かすしかなかったんだけど。
肉とか皮も結構高く売れるんだが、それを採取する余裕はなかったんだよな。
まぁ、それは眼の前の冒険者には関係なくて。
『――――あなたも、こーなりたい?』
脅しとしては、あまりにも十分すぎるだろう。
「――そこまで」
『あう』
なので、俺はルイをそこで止める。
水球に軽く触れて、静止させた。
「う、うわああああああああああああああっ!!」
それを見て冒険者は脱兎のごとくその場を逃げ出し、ルイは『べーっ』と舌を出すようにしていた。
まったく。
水球が床に触れていたら、床がびしょびしょだったぞ?
触れて無くてよかった。
△
――Aランクサモナーのルモンと、彼がテイムしたスライムのルイ。
ここ、ファウストの街で彼らを知らぬ者はいない。
かつては雑魚専などと呼ばれ、スライム
しかし今――彼らはAのランクにまで上り詰めた。
すべてはルイが、ドラゴンすらも討伐できる魔物に成長したがゆえに。
そんなルイは、ルモンにたいして強い執着を見せている。
誰もが、ルイの逆鱗に触れることを恐れるだろう。
しかし、きっとルモンだけは知らない。
人々が、恐ろしいのはルイではなく――暴走しかけたルイをこともなげに止めて見せるルモンの方だと思っていることに。
これは、いずれ最強に至るスライムのルイと、それを愛でまくってヤンデレ化しても気にせず育てる異常な男の物語。