風化の魔神フェネクス   作:風音 のえる

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◆その乾いた風を追って
砕けた杯、風化の残響・2
モンドに吹く風の様子がおかしい。それに加え、ある情報が騎士団に寄せられているようだ…


砕けた杯、風化の残響・2

「なぁ、旅人。なんか、少し前から風が変じゃないか?」

「…やっぱり、パイモンも気付いてた?」

「おう!なんて言ったらいいのか分からないけど、なんというか、スメールの砂漠を思い出すような風な気がするんだ…

まさか、オイラたちの計画がアビスにバレて、あいつらが変なことをしようとしてる訳じゃないよな…!?」

「とりあえず、一度騎士団に行ってみよう。もう既に何か動いてるかもしれないしね」

 

 

 

「お、栄誉騎士、いいところに来たな」

「ジン団長!ファルカ!聞きたいことがあるんだけど…」

「風のことだろう?私たちも今それについて調べているところなんだ」

「風だけじゃない。数日前から、モンドに異変が起きてる」

「異変?何があったの?」

「最近、奇妙な人影が相次いで目撃されていてな…ある目撃情報によると、まるで幽霊のようだったそうだ」

「ゆ、幽霊だって!?」

「それで?」

「巡回の人数を増やして範囲を広げたんだ。目撃情報はモンドの各地に散らばってるからな。

既に何人かの騎士がその人影を目撃しているが、すぐに消えてどこかへと行ってしまうそうだ」

「き、きききえて、いなくなる…!!」

「…さっきのファルカさんの言葉、私たちにも調査に加わって欲しいって思ってるでしょ?」

「あぁ、その通りだ。流石は栄誉騎士、話が早くて助かる」

「えぇえっ!?オイラ幽霊は嫌だぞ!!」

「でも、アビスが何か企んでるかもしれないでしょ?

ちゃんと調べないと」

「そうかもしれないけど………うぅ〜、分かったぞ…

旅人!もし本当に幽霊が出ても絶対オイラのこと置いていったりするんじゃないぞ!」

「もちろん」

「よし、決まりだな。

栄誉騎士、ここに目撃情報があった場所を纏めてある。使ってくれ」

「いい収穫があることを祈っている。では、よろしく頼んだぞ」

 

 

 

 

 

砕けた杯、風化の残響・2

その乾いた風を追って

 

 

 

 

 

「それにしても、本当に色んなところで目撃されてるんだな…」

ファルカから貰った資料を見ながら地図を確認していく。

旅人はひとまず、目撃情報があった中でも風と何かしらの由縁がある場所を調べていくことにした。

 

「よし、まずはまだ何も情報が無い風龍廃墟と奔狼領に行こう。

それから千風の神殿、星拾いの崖、風立ちの地、ドーンマンポート、療養所の跡地周辺。

その後、各地の七天神像だね」

「おう!」

 

 

 

 

 

風龍廃墟は変わらず寂しくて、風に包まれていた。

だが、その風の中にあの乾燥した風は無いように思えた。

 

「風龍廃墟…もしかしたら、トワリンが何か見てるかもしれないよな。

おーいトワリーン!いるか〜?」

 

パイモンが思い切り呼びかけるが、それに応える影は現れない。

どうやら留守のようだ。

 

「いないみたいだな…」

「だね。私たちだけで手がかりを探そうか」

 

下に降りて、元素視覚も使いながら周囲を見ていく。

しかし、高塔を取り巻く強風と辺りに散漫する風元素以外、異常は見られなかった。

ハズレのようだ。

 

「なんにもないな…あの変な風も感じないし、ここは違うのかもな。

幽霊もトワリンが怖いのか?」

 

 

 

明冠山地を南下し、蒼風の高地へと抜ける。

奔狼領に足を踏み入れて、まずは風を感じるかを確かめる。

 

「………」

「………」

「旅人ー、ここの風はいつもと同じじゃないか?」

「ここも違うのかもね。となると、ボレアスも何も見てないかも」

「もし他の場所を全部回っても何も見つからなかったら、ダメ元で聞いてみようぜ!」

 

 

 

千風の神殿は海のそばということもありしっとりとした潮風を感じられるが、それでも今は何処か乾いた風が旅人たちの頬を撫でた。

 

「旅人!なにか見えるか?」

「えっと…あ」

 

元素視覚で見た先、神殿の東側に淀んだ風元素が見えた。

その場所へ向かえば、地面には変に多く砂が散乱していた。

 

「この砂自体はこの辺りにあるものみたい。でも、どうしてここに集まってるんだろう…

とりあえず、ちょっとだけ持っていこう」

「も、持っていくのか!?」

 

 

 

神殿を出てそのまま星拾いの崖の先へと進む。

その道中、いつもこの辺りに咲いているセシリアの花が少ないような気がした。

崖の先には、やはり淀んだ風元素と砂、それからセシリアの花の花弁が落ちていた。

 

「この散らばり方…巻き上げられたのがそのまま落ちたみたい。

セシリアの花が少なかったのは幽霊が摘んだから…?」

「なんで幽霊がセシリアの花を持っていくんだ…?」

「よし、砂と花びらを持っていこう」

 

 

 

風立ちの地にある巨樹は今日も変わらず七天神像の傍らで風を受けている。

それゆえか、淀んだ風元素が巨樹の至る所にまとわりついていた。

 

「この木、もしかしたら凄い手がかりかも」

「旅人!ここに砂まみれの葉っぱが落ちてるぞ!」

 

もしかしたら幽霊は何度もここを訪れたのかもしれない。

旅人は青々とした葉を何枚か持って行くことにした。

 

 

 

ドーンマンポートもブリーズブリュー祭で盛り上がっているようだ。

そして、淀んだ風元素もやはり街中に残っていた。

 

「ここは他の場所より目撃情報がちょっと多いみたい。

一番風元素が残ってるのは…灯台だね」

 

灯台を登れば、案の定足場に砂が散乱していた。

ただ、その場に散らばっている訳ではなく、砂の着いたものを引きずった後のように細く尾を引いていた。

 

 

 

療養所跡地は以前と変わらず陰鬱な雰囲気だ。

心なしか風も少しだけ強いように感じた。

 

「ここ、砂が散らばってる範囲が広いね。かなり動き回ったみたい」

「まさか、療養所で死んだやつの幽霊だったりしないよな…!?」

「案外そうかもしれないぜ?」

「ひぃいっ!?」

 

突然後ろからした声にパイモンが飛び上がる。

一方当然その気配に気付いていた旅人が振り返れば、なんともいたずらが好きそうな悪い顔をした騎士が立っていた。

 

「ローエン、貴方も巡回?」

「…ちぇ、やっぱお前には気付かれてたか」

 

西風騎士団第5小隊副隊長、「第5小隊の最も鋭い矢」ローエンは、つまらなさそうに旅人に答えた。

 

「な、なんだよおまえだったのかよ…」

「よぉ、幽霊調査お疲れさん」

「ちょうど良かった、ローエン、貴方は幽霊を見た?」

「見たぜ、一回だけな」

「みッ、みみみ見たのか!?」

「おう、風立ちの地の辺りでな」

 

思わぬところに収穫はあるものだ。

再び飛び上がるパイモンを落ち着かせつつ、ローエンの話を聞く。

どうやら彼が幽霊を見たのは風立ちの地の近くらしい。

 

「風立ちの地…確かにあそこには淀んだ風元素がたくさん残ってた。

ねぇ、その幽霊はどんな姿をしてたの?」

「そうだな…ハッキリしねぇ姿だったな」

「ハッキリしない…?どういうことだ?」

「俺と同じぐらいの身長の姿になったり、クレーみてぇな子どもの姿になったりしてたな。

かと思えば、モヤをかき集めたみてぇなぼんやりした姿になったりもしてた。

それと、尻尾みてぇな帯が背中の辺りから出てたな。

そいつの周りは景色が霞んでたから、そいつが砂塵を巻き上げながら進んでるんだろうよ」

「ふんふん…他にはなにかあるか?」

「そいつの周りはこの変な風が強かった。幽霊をなんとかすりゃ、この風も止むんじゃねぇか?」

「なるほど…やっぱり、この砂と風は幽霊と関係があったんだな…」

「………ありがとう、ローエン。後でもう一度風立ちの地に行ってみる」

「おう、いいもんが見つかるといいな。

じゃ、俺は見回りに戻るぜ。またな栄誉騎士、パイモン」

「またな、ローエン!」

 

 

 

 

 

「よし、あとは七天神像だな…先にここの南にある七天神像に行ってから、風立ちの地に行こう!」

 

ドーンマンポートを通り、そのまま南の七天神像へ向かう。

純粋な風元素が充満する神像は、何の変わりもなくそこに立っていた。

それに、神像の近くにいる時は乾いた風も感じない。満ち溢れる風元素に押し負けてでもいるのだろうか?

だが、足元を見ればやはりそこには変に砂が散らばっていた。

 

「淀んだ風元素は残ってないけど、ここに来たのは間違いないみたい」

「だな…それじゃ、風立ちの地に行こうぜ!」

 

 

 

***

 

 

 

清泉町の前を通り抜けた先、先に違和感に気付いたのは旅人だった。

 

(…向こう、霞んでる?

まさか、幽霊…!)

「パイモン、アタリを引いたかも」

「えっ?どういう……あっ!?」

 

パイモンも霞に気付き、二人で追いかける。

やはり、風立ちの地に向かっているようだ。

 

「まさか出たのか!?」

「消える前に早く行こう!」

 

霞の奥、特に景色が揺らいでいる場所があった。

旅人が目を凝らせば、確かにそこには人の形をした何かの影が浮かんでいた。

本当に幽霊を見つけたのだ!

 

 

 

だが、いくらか霞に近付いたところで、影が止まって、振り返った………ように見えた。

その瞬間、一気に霞が消え、影も見えなくなった。

 

「あぁーっ!消えちゃったぞ!旅人!!」

「…大丈夫、見える!ついてきて!」

 

しかし、元素視覚で見れば淀んだ風元素はしっかりと残っていた。

ここまでハッキリと捉えたなら、後はもう追いつくだけだ。

元素の跡を追いかけ、いよいよ巨樹と七天神像まで辿り着く。

そして──

 

 

「ッフェネクス!!待って!!」

 

 

七天神像が目前に迫ったところで、旅人は思い切り声を張り上げてその名を呼んだ。

 

 

影は、立ち止まった。

 

 

 

「…えっ?旅人、いま…」

『………ぼ、ク?』

「そうだよ。やっぱり、幽霊の正体は貴方だったんだね、フェネクス」

 

もう一度その名を呼べば、不明瞭だった影が次第に形を取って現れる。

それは、幼い少年の姿をしていた。

無感情な砂漠色の瞳が、ぼんやりと旅人を見上げた。

 

『…フェね、く、ス?』

「貴方の名前だよ。風化の魔神、風と砂塵の主、ヴェルンの長…風神バルバトスの眷属」

『バル、バとス…』

「そう、貴方の友だちだよ」

 

パイモンが不安そうに旅人と子どもを交互に眺める隣で、旅人が子どもに話しかける。

 

ローエンから話を聞いた旅人は、姿が安定しないということはその存在が不安定なのではと予想していた。

また、コンラートに見せてもらった古い記録に記されていたフェネクスのそれと情報がいくらか一致していたことから、幽霊はフェネクスだろうとも考えていた。

 

旅人の予想通り、幽霊の正体はフェネクスのようだった

そして、こちらもやはり予想通り、今の彼は存在が不安定な状況にあるようだ。

存在が不安定なら、その名を呼べばいい。あの時消えかかっていた、月の神の少女(コロンビーナ)の時のように。

 

「モンドのみんなが、バルバトスが、貴方の帰りを待ってるんだよ。

だから、思い出して。

…帰ってきて、フェネクス」

 

もう一度、旅人が呼びかける。

きっと届くと、思い出してくれると信じて。

 

 

その期待は、風に攫われることは無かった。

 

 

『……あァ、そウだ、そうだな…

俺は、あの呼び声に、あの思いに、あの祈りに応えるために、この手を伸ばしたんだ』

 

 

一際強く風が吹いた。

砂埃を巻き上げ、巨樹を揺らす。

その勢いに旅人は目を閉じ、パイモンは飛ばされないように必死で旅人の服を掴む。

 

それからほんの僅か、何事も無かったように風が止み、旅人はそっと目を開けた。

 

 

そこに立っていたのは、美しい黄金色の短髪とリボンのような髪飾りを揺らした少年だった。

 

 

『…俺は魔神フェネクス、風神バルバトスの眷属で、モンドの属国ヴェルンの王だった。

思い出させてくれてありがとな、お嬢さん』

「ほ、本当にフェネクスだったのか…!?」

「ローエンの話を聞いて、もしかしてって思ったの」

 

先ほどまでの様子とは打って変わって親しみやすい笑みを浮かべた少年は、しっかりとフェネクスであると名乗った。

 

『それで?お前らは一体どこのどちら様で?』

「私は旅人。西風騎士団の栄誉騎士をしてる。こっちは旅の仲間のパイモン」

『へぇ、旅人なのに称号持ちの騎士とは、凄いな』

「そうだろ!旅人は凄いんだぞ!

………でも、一体どういうことなんだ…?まだ透けてるし…

なぁ、おまえって封印されてるはずなんだよな?封印はどうなったんだ?

まさか、もうとっくに死んでて幽霊になったのか…!?」

『あー…それなんだがな…

死んでは無い、多分な』

 

バツが悪そうに目を逸らしそう答える。

まだ死んではいないとすればいい事のはずだが、それ以上に何か悪いことが…?と考えたところで旅人は思い至った。

 

「もしかして、封印の場所が分からない、とか?」

「えっ!?」

『おぉ、よく分かったな、正解だ』

「えぇえっ!?」

『というのもな…気が付いたらさっきまでのあの状態でこの辺りに立ってたから、何も分からないんだ。

ただ、ぼんやりと俺を呼ぶ声がしたから、それに応えようとしたことは覚えてる』

「…もしかして、ブリーズブリュー祭でモンドじゅうのやつらがおまえのことを思ったり、名前を呼んだりしたからか!?」

『ブリーズブリュー祭?あれはバルバトスのための祝祭だろ?どうしてそれがここで出てくるんだ?』

「実は…」

 

一連の流れをフェネクスに説明する。

最初は訝しげに聞いていたフェネクスは次第に納得の表情を浮かべるようになった。

 

『つまり、どうにかして俺を見つけたかったからそんなことをしたのか?』

「そうだよ」

『なるほどなぁ…全く、バルバトスのやつ』

 

文句を言うような言い方だが、その顔は嬉しそうだ。

 

「つまり、オイラたちの作戦は半分成功したってことだよな?

みんなでフェネクスのことを呼んだから、それがフェネクスに届いた。

フェネクスはそれに応えようとして、封印の中から中途半端な状態で抜け出してしまったから、あんな風に幽霊みたいになったんだ。それで、色んなところで自分を呼ぶ声に反応して、モンドのあちこちに出現するようになった」

「そして、その中途半端な状態だったから力が少しだけ暴走状態にあって、あの乾いた風が吹くようになったわけだね」

「そういうことだな!アビスのせいとかじゃなくて良かったぜ!

…でも、どうする、旅人?風も幽霊も全部分かって多分解決したけど、どう報告すればいいんだ…?」

 

こうしてフェネクスが自らを思い出し力も安定したのだから、あの風がむやみやたらに吹くことももう無いだろう。

だが、問題はこの後だ。騎士団本部まで連れて行くべきなのだろうが、こんな状態のフェネクスを民衆の前に晒す訳にはいかない。

 

さてどうしたものかと悩む旅人に、何かに気付いたらしいフェネクスが声を掛けた。

 

『旅人、お前が持ってるその髪飾り、貸してくれないか?』

「髪飾り?…あ、これ?」

 

それは、先日コンラートから借り受けた、代々ハルトマイヤー家に受け継がれてきたという例の髪飾り。

 

『そうだ。それから、お前が拾い集めたそれもな』

「これも使うの?って、わぁ」

「ほ、本当に拾った砂とか花びらとかが役に立った…!?」

 

巻き上げられた砂塵や花弁が、フェネクスの手元へと飛び立つ。

それらは髪飾りの周りを衛星のように飛び回り、そして二つの交差した輪となって回り始めた。

 

『器としては不安定だが…これまで俺が撒いてきた断片みたいなものだ。

本体が見つかるまで、これを肉体代わりにするとしよう』

「依代にしたんだ」

『あぁ。これを持って行ってくれ』

「分かった」

 

フェネクスの姿が風に溶けて消えた。

そして、髪飾りにはめられた宝玉が煌めいた。

それを見届けた旅人はそっとバッグにしまい込み、風立ちの地を後にした。

 

「さて、モンド城まで戻ろうか」

 

 

 

***

 

 

 

「やっほー旅人、お疲れ様!」

「我まで呼び出したということは、作戦に問題でも出たのか?」

「まさか、何か重要な手がかりでも見つかったのですか?」

「来てくれてありがとう、三人とも。

問題ってわけじゃないけど、ちょっと皆に話を聞いて欲しい…というか、見て欲しくて」

 

騎士団本部、団長室。

集められた作戦メンバーを前に、旅人は髪飾りを取り出した。

それがすぐに自身が渡したものだと気付くコンラート、それが宿す気配にハッとするトワリン、そして、もう全てを見通していそうなウェンティ。

 

「もう出て来て良いよ」

 

そう言い終わるよりも前に、髪飾りから乾風が飛び出す。

あっという間に少年の姿を取るそれに、その場にいるほとんどの者が呆気にとられた。

 

『ありがとな、旅人。で、ここ、は………

ッ!バルバトス!?バルバトスじゃないか!!久しぶりだッうぉお!?』

 

勢いよくウェンティに向かって飛び込んだフェネクスは当然のようにすり抜けて転けかけた。

 

「あはは、随分熱烈で盛大な挨拶だね、フェネクス?」

『うぅ…不発したせいで物凄く恥…忘れてくれ…』

「…本当に、フェネクス、なのか」

『………は?と、トワリン?バルバトスがいるのは分かるけど、なんでお前まで…

ッというか、毒は!?魔龍の毒は、どうなったんだ!?』

「ま、待て、落ち着け、今度こそ転ぶぞ」

「トワリンを苦しめていた毒は、とっくに無くなったよ」

『そう、なのか…良かった…よかった………それで、どうしてトワリンまでいるんだ?』

「………逆に聞くが、旧友を助けるのに何故理由がいる?」

「トワリンはただ、大切な友人である君のことを封印から解放してあげたかっただけだよ」

『………………』

「…フェネクス?」

『………へへ』

「…?」

「ふふ、良かったね、フェネクス」

 

 

 

………風のもの達が和やかに再会を喜ぶ隅で、残された人間たちはと言うと。

 

「………なぁ、栄誉騎士、一体何があったんだ?」

「簡単に言うと幽霊の正体がフェネクスで風はフェネクスが起こしてたの」

「何だと!?」

「待ってください、フェネクス様の封印は一体どうなったと言うんですか!?」

「まだ見つかってないぞ!ただ、オイラたちがフェネクスを呼ぶ声に応えたから、ああやって幽体離脱みたいになったんだ!

でも、そのせいで力が暴走してたから、あの風が吹くようになってたんだぞ」

「なるほど…つまり、私たちの作戦は、完全では無いが成功したとも言える、という訳か」

「結局封印は見つかってないから、フェネクスの肉体はそこに残ったままって事だな」

「…でも、私たちの行動は間違ってなかったという事ですよね」

「そうだね」

 

 

 

一通り話したいことは話し終えたのか、ウェンティが旅人たちに向き直る。

 

「さて、思わぬ方向に転がったわけだけど、作戦は完全に成功して終わった訳じゃない」

「あぁ。話を聞く限りじゃ、まだ肉体の方が取り残されてるんだろ?フェネクス本人がこうしてここにいる以上、当初の想定よりは見つけやすくなったかもしれんがな」

『元々ブリーズデイに民たちの声と思いをバルバトスが集めて、どこかにいる俺に届ける予定だったんだろ?

そこは変えずにいてくれないか?それがあればかなり力を取り戻せるはずだから、俺がなんとかして身体を見つける』

「そしたら、あとはその場所に行って封印をどうにかするだけだな!」

「そういうことになるね。これも全部君のおかげだよ、旅人」

「…栄誉騎士?どうかしたか?」

 

そう、まだ作戦は終わっていない。成功率がぐんと上がっただけだ。

いや、ある意味では失敗する可能性が上がったとも言える。

何故ならば。

 

「…フェネクスの身体は今、完全に無防備な状態にあるはず。

それってつまり、簡単にアビスに奪われてしまうってことだよね?」

『俺の身体がアビスに乗っ取られて、こっちに仕掛けてくるかもしれないってことか』

「そう」

「あるいは、それがここにいるフェネクスにも影響を及ぼすことも考えられる」

「…確かに、その可能性もありますね」

「そ、そんな…」

 

結局最悪の可能性は消え去っておらず、寧ろ上がったなど、なんと嬉しくないニュースだろうか。

それでも、ここまで来た以上、やるしかないのだ。

フェネクスを助けるために、モンドに潜む脅威を打ち倒すために。

 

「ブリーズデイはすぐそこだ。それまで、モンドに何の脅威も訪れないことを祈るしかないな」

『悪い、面倒をかけるな…』

「フェネクスは悪くないよ。民の声に応えようとするのは、神として当然のことなんだから」

「恨みは全てアビスの魔物共にぶつければいいだけの事だ」

『バルバトス…トワリン…あぁ、そうだな。

皆、当日は頼んだ』

「あぁ、もちろんだ。もしもの時は俺たち騎士団も全力を尽くそう」

「私たちに任せて」

 

 

 

ブリーズデイ(作戦決行日)まで、あと二日。

 

 

 

 

 

砕けた杯、風化の残響・2 完了

その乾いた風を追って

 

 

 

 

 

「そういえば、なんで風龍廃墟や奔狼領には現れなくて、風立ちの地や療養所の跡地にはたくさん跡が残ってたんだ?」

『あー…あんまり覚えてないけど、風龍廃墟と奔狼領にはあんまり近付きたくなかったような気がする』

「どうして?」

『………拒絶されるような気がしたから』

(…もしかして、トワリンが言ってたことって、こういうところ?)

「じゃあ、風立ちの地と療養所の跡地はなんでなんだ?」

『風立ちの地に満ちる風元素を浴びてると、凄く落ち着くんだ。

療養所の跡地…ってのは、どこだ?

「ドーンマンポートの北にある廃墟だよ」

『あーっと…多分、懐かしかった、から?』

「懐かしい?なんでだ?」

『…かつての俺の民を、感じたような気がしたんだ』

 

 

 

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