決戦! 昭和ゴジラで最も人気が高い作品はどっちだ! 作:昭太郎
◇◇◇ 全作品の人気ランキング ◇◇◇
■最後に、ここまで詳細に分析したのだから、ついでに、導き出した比率をもとに「昭和ゴジラ全十五作品の人気ランキング」を策定してみることにする。
ルールは、初公開時とリバイバル上映時の比率をすべて合算した「累計比率」で順位を決める方式とする。
ただし、作品によってリバイバル上映の回数は二回のもの、一回のもの、あるいはゼロ回のものに分かれている。
当然、上映回数が多いほど累計比率は跳ね上がるため、単純に全作品を一括で比較するのはフェアではない。そのため、順位は回数ごとのグループ内に留めるべきだろう。
しかし、そもそもリバイバル上映の機会を何度も与えられていること自体が、東宝のお墨付きを得た「人気の証」に他ならない。
リバイバルに恵まれなかった後期の新作にはいささか酷な条件となるが、ここはあえて、第一位から第十五位までの総合順位を厳密に弾き出してみることにする。
――リバイバル上映二回組
第01位『モスゴジ』 2.912=0.813+0.287+1.812
第02位『キンゴジ』 2.368=1.694+0.265+0.409
――リバイバル上映一回組
第03位『怪獣大戦争』 1.637=1.014+0.623
第04位『地球最大の決戦』1.504=1.001+0.503
第05位『南海の大決闘』 1.404=0.998+0.406
第06位『怪獣総進撃』 1.100=0.412+0.688
第07位『ゴジラの息子』 1.069=0.740+0.329
――リバイバル上映ゼロ回組
第08位『ゴジラ』 1.066
第09位『ゴジラの逆襲』 0.960
第10位『ゴジ対ガイガン』0.950
第11位『ゴジ対ヘドラ』 0.803
第12位『ゴジ対メカゴジ』0.716
第13位『メカゴジ逆襲』 0.557
第14位『ゴジ対メガロ』 0.529
第15位『オール怪獣』 0.521
何よりも、リバイバル上映二回組において、『モスゴジ』が『キンゴジ』を抑えて堂々の第一位に輝いたのが嬉しい。
東宝のお墨付きとも言えるリバイバル二回組の中で、僕がその感動や面白さを主張し続けた『モスゴジ』が競り勝ったのだ。
これで、社長との「駆け引き」は完全に勝負あったと言えるだろう。
リバイバル上映一回組の順位も、ずばり、僕の好きな作品の順に落ち着いてくれた。
ふと、後輩・田中が口にしていた言葉を思い出す。
(……個人的には『モスラ対ゴジラ』『地球最大の決戦』『怪獣大戦争』のあたりが好きですね。世界観が綺麗に繋がっている感じがして)
田中と僕の意見が同じであり、まさに、この順位がそれを証明してくれた形だ。
ちなみに、昭43年『怪獣総進撃』は、東宝チャンピオンまつりでは、昭47年『ゴジラ電撃大作戦』と改題されてリバイバル上映されている。タイトルに「ゴジラ」を冠することで、子供たちにゴジラ映画であることをより分かりやすく伝えるための施策とのことだった。
この『怪獣総進撃』は観客動員数258万人だが、これは昭和43年のみの数字である。リバイバルである『ゴジラ電撃大作戦』の動員数は公表されていない。
そのため、内訳を出すことができなかったため、僕はとりあえず、「ゴジラ映画の比率」の計算では、仮として半分ずつ分け合うようにし、初公開時129万人、リバイバル時129万人として計算を進めている。
昭43年『怪獣総進撃』初公開時には、昭和ゴジラとは別の東宝怪獣特撮映画(怪竜マンダ初登場)の昭和38年の名作『海底軍艦』が併映として再上映されている。
横道に逸れるが、この『怪獣総進撃』について深堀りしてみる。
昭43年の初公開時の動員数を258万人とした場合、ゴジラ映画の比率は0.823となる。一方、昭47年冬のリバイバル『ゴジラ電撃大作戦』の動員数を、仮に80万人と見積もった場合、こちらの比率は0.427だ。
ちなみにこの80万人という仮定は、同年夏のリバイバル『南海の大決闘』の動員数76万人という実績を考慮して弾き出した、現実的な数字である。
すると、第06位『怪獣総進撃』1.250=0.823+0.427となる。
結局のところ、『怪獣総進撃』は、精査によってゴジラ映画の比率そのものは上昇するものの、ランキングの順位そのものは微塵も揺るがないという結果に至った。
さて、リバイバル上映ゼロ回組だが、このグループは、やはり初期の二作品である『ゴジラ』と『ゴジラの逆襲』が上位を占めていた。ここには、かつての映画黄金時代が放っていた、眩いばかりの熱気の名残があるのだろう。
社長の息子が最高傑作と推す初代『ゴジラ』の比率は1.066である。
ルールの仕組み上、リバイバル上映回数の異なるグループ同士を単純比較することはできない。だが、ここではあえて無理矢理にでも比較の土俵に乗せてみる。
各作品の累計比率ではなく、それぞれの興行における単発の「最高比率」だけを抽出し、「ゴジラ映画の比率」としてぶつけてみるのだ。
まず、リバイバル上映二回組との比較。
第01位『モスゴジ』最高比率1.812、第02位『キンゴジ』最高比率1.694なので、さすがにこの怪物二作品の牙城を崩すことは、どうあがいても不可能だと分かる。
しかし、リバイバル上映一回組との比較になると、風向きが変わる。
初代『ゴジラ』の比率1.066という数字は、第03位『怪獣大戦争』最高比率1.014、第04位『地球最大の決戦』最高比率1.001を明確に上回っているのだ。
このことを鑑みれば、初代『ゴジラ』は『モスゴジ』『キンゴジ』に次ぐポジションに位置していると言える。かなり好意的に解釈するならば、全作品の中で「第03位『ゴジラ』」と評価することも不可能ではないかもしれない。
あと他には、個人的には『ゴジ対メカゴジ』が好きなので、もう少し上位に食い込んでほしかった気もするが、まあ、これがデータの示す現実というものなのだろう。
◇◇◇ 決戦を終えて ◇◇◇
■夕方。金曜日の高級寿司店。僕と後輩・田中。
カウンターの向こうで職人が握る寿司を眺めながら、田中が目を丸くして尋ねてくる。
「佐藤先輩、どうしたんですか? 今日いきなり僕を誘うなんて。しかもここ、高級寿司店じゃないですか」
「まあ、な……。たまにはこういう気分の日もあるさ」
本当に、そういう気分だった。田中には「今日は全て奢る」と伝えてある。
*
今日は金曜日。社長との「決戦の日」であり、そして、すべてが終わった日でもあった。
僕の頭の中の脳内映画「会社島の決戦! 社長vs僕」は、今日、ついに千秋楽を迎えたのだ。
「駆け引き」の中身が仕事以外ということで、決戦の舞台は昼休みの一時間。弁当持参の密室の会議室で、社長と僕は一対一で対峙した。その結果――僕は勝った。
予想通り、社長は『キンゴジ』の「動員数1,255万人」という数字を絶対視しており、僕が『モスゴジ』で何をどう足掻こうが覆せるはずがないと踏んでいた。所詮は、一人のファンとして感情論で攻めてくる程度にしか思っていなかったのだろう。
だが、日本全体の映画人口を分母に組み込み、「ゴジラ映画の比率」を弾き出した僕の精緻なデータの前では、社長は一言も反論できなかった。僕がここまで徹底的な分析を仕掛けてくるとは、夢にも思わなかったに違いない。
さすがは会社経営者。往生際は悪くなかった。目の前の数字を凝視したあと、潔く敗北を認めた。
思えば、数字に冷徹でシビアな社長だからこそ、今日までこの会社を維持できたのだ。日々多忙を極める社長には、僕のように趣味の領域にまで時間を投資する余裕などない。
そこに、有り余る時間をすべてロジックの構築に注ぎ込んだ僕が挑んだのだから、勝てて当然の勝負だったのかもしれない。
給料の「駆け引き」に勝ったことで、僕の今後の給料は二倍になる。表向きは「昇進」という名目がつけられるそうだ。これでようやく、僕の収入も世間並みの水準に追いつく。
しかし、負けた社長の顔に悔しさの色はなかった。
僕はあと数年で定年を迎える。あと数年で退職する社員の給料を、最後くらい花を持たせて倍にしたところで、会社としては痛くも痒くもない、ということなのだろう。
AIの時代が本格化する今、社長もそろそろ引退を考え、AI信者で「初代『ゴジラ』」推しの息子に会社を継がせようとしているようだ。
「駆け引き」開始の二週間前、社長は自身の勝率を「九割以上」だと言っていた。過去に一人だけ、社長を負かした社員がいたらしいが、それが誰なのかは分からない。しかし、それが誰であろうと、僕がその二人目になった、ということは事実だ。
――思えば、僕の勝利の最大の要因は、他でもない田中のアドバイスだった。
彼の何気ない助言がなければ、社長に勝つことなど到底できなかっただろう。だからこそ今日、その特大の恩返しとして、全額自腹を宣言してこの店に誘ったのだ。もちろん、その理由は口が裂けても言えないが。
田中が美味そうにウニを頬張る姿を眺める。
この優秀な後輩が、これからもこの会社を牽引するエンジンとなって支えていくのだろう。たとえ経営者が社長の息子に代わったとしても、彼がいれば大丈夫に違いない。
「先輩、気分なんて言葉で誤魔化さないでくださいよ。こんな高い店、普通じゃあり得ないです。もしかして……ぼくに何か、とんでもないことを企んでますね?」
「バーカタレ。僕がそんな腹黒い男に見えるか?」
「はい!」
「見えるんかい!」
もしかしたら、社長の不敗神話を最初に打ち破った「一人目の社員」というのは、今、目の前で呑気に箸を動かしている、この田中なのかもしれないな……。
(終)