ゾンビVSテロリストVS原作知識持ち転生者 作:カロ(ハーメルン)
──キィン、コォン、カァン、コオォォン……
「(……ん)」
まっしろなあたま。
ぼうっと目の前を。
窓ガラスの向こう、どんより重い空。真っ黒な鳥がバサバサと。
──キィン、コォン、カァン、コオォォォォン……
どことなく不安をにじませるソレから、思わず視線を外す。
黄ばんだ白い床。スライドドアに、数字のプレート。
「(廊下……学校?)」
誰もいない、仄暗い廊下。
教室の窓は先が見えないすりガラス。
音もない、不気味な世界。
「(いや、は?)」
まったく理解できない。
ここはどこ。
なんでここに。
「(……思い、出せない)」
それだけじゃない。
ここに来る前のこと。
「(何も……なにも、思い出せないッ)」
じわじわ深まる恐怖で、その手を震わせ──
──パンッ!
「(ヒッ……!?)」
甲高い音に、ビクッと全身を浮かせた。
強張ったままググ…と見下ろす。
足元にポツンと落ちていたのは、赤い手帳。
「(……生徒手帳)」
そう表紙に。
中心には、『高』の文字を囲むスズランのようなマーク。下には『国立鈴風高等学校』と。
ゆっくりかがんで拾う。
「(なんだ?)」
僅かな既視感。
真新しいサラサラの表紙をペラリとめくる。
「(これが……僕なのか?)」
顔写真にはどこか暗い雰囲気を纏う男子生徒。
見慣れない顔。
「(三年二組三一番……後藤、蓮)」
聞き覚えの無い名前。
ドクッドクッと吞みこまれそうな胸のざわめき。
無理やり抑えこもうと、目を閉じて深く息を吸いこみ──
──ガラガラガラッ!
「ッッ!?」
とつぜん背後から。
大きく身体が震える。弾かれたようにバッと顔を向けた。
「キャァッ……!?」
小さな悲鳴を上げる、黒スーツ姿の中年女性が。
「(──人、だ)」
こちらを見つめる彼女。
さらに奥には、ぬくもりが伝う明るい教室と、たくさんの生徒。
曇天に差し込んだ光が、ガチガチに強張っていた表情筋を融かすように緩めていく。
「ふふっ、もう。そんなにビックリされるとこっちまで驚いちゃうわよ」
上がっていた目尻をゆったりと垂らし、苦笑交じりに。
「えっ、と……すみません」
何を言えばいいか分からず、ぼそりと謝った。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ、みんな優しいから……ほら、自己紹介お願いね」
小声で囁いた彼女──先生は、フリフリと手招きして教室の中へ。
従うように、冷たい廊下から足を踏み入れた。
「(……転校生?)」
回り始めた頭が、今の状況を少しだけ……わけが分からないことは変わりない。
先ほどのやり取りも相まってか、生徒たちの好奇の視線が突き刺さる。別の意味で緊張が身体に走った。
──カッ、カッ、カッ……
「はい! 彼が今日から皆さんと一緒に過ごすことになる、後藤蓮くんです。じゃあ簡単でいいので、自己紹介をお願い!」
先生は黒板に『後藤蓮』と大きく書いた。
そんなこと言われても、名前しか。
「……後藤蓮、です。これからよろしくお願いします」
言い慣れないソレを声に出して、ペコリ。
──パチパチパチパチッ!
少しの静寂の後、皆が拍手を送ってくる。
「よろしくお願いします! ではさっそく後藤くんは自分の席に、って言いたいところなんだけど」
明るく話す先生。
「もう始業式に行かなきゃいけない時間なのよ! ほら、廊下に並んで!」
パチンと手を合わせて。
生徒たちは「かとちゃんの惚気話が長いから~」「めんどくせぇ…」「後藤くんよろしく!」などと騒ぎながら、席を立つ。
なんとなく遠い視点でそれを見つめながら。
強い、強い既視感。
「(始業式……鈴風……鈴風高校の、始業式?)」
何もかも消え去った記憶の中、次第にぼぅ…と浮かび上がってきた知識。
「(……は? いや、そんな、まさかッ……!)」
背筋が凍り付いたように冷たくなっていく。一人の生徒が教室の電気をカチッ、カチッ…と消していく。
「(ま、まだ分からないッ! 分からない、けど……)」
汗をじんわりかきながら、廊下で待つ先生へフラフラと。
心配そうに──しかしどこか慣れたような雰囲気で、こちらを見つめる彼女。
「お腹が痛いので……始業式には遅れていきます」
曇天の向こう、遠雷がゴゥゥ…と鳴り響いた。
*
『ゾンビVSテロリスト』というゲームがある。
カテゴリーとしてはステルス×アドベンチャーになるソレは、比較的キャッチ―なタイトルに反してかなりの鬱ホラーゲーム。
『絶海の孤島に存在する鈴風高校。発生するゾンビとテロリストの襲撃。どんなに頑張っても生き残る生徒は自分だけ』──内容を簡潔にまとめるとこうなる。
『どんなに頑張っても』というのはつまり『プレイヤーが周回を重ねても』ということ。周回前提のトゥルーエンドで初めて、主人公は生き永らえる。
逆にトゥルーエンドを含めたあらゆるエンドにおいて、主人公以外の生徒は全員殺されるかゾンビになるのだ。
「(耳がよくなっている訳でもないし、犬歯もたぶん普通……)」
ここは男子トイレ。
鏡の前で口をイィーと。薄暗い鏡に映る顔は、生徒手帳と全く同じ。
「(でも……ステージIには、なってるんだろうな……)」
洗面台を両手でつかみ、重く感じる身体をズシリと預けた。
ポタポタ落ちていく水滴が、排水口に消えていく。
「(クソッ……クソッ……!)」
思わず手の力をギリィッと。
排水口の先は、暗い暗い闇。
なんでこの記憶だけ──そんなこと、もはや考えてる場合じゃない。
「(いまさら何をしようと、もう手遅れじゃないかッ……!)」
ヒンヤリしている空気の中、ガタガタと震えていた。
「(……トゥルーエンド)」
暗闇を見つめていた顔をわずかに持ち上げる。
「(だったら、トゥルーエンドしかない)」
握る力を緩めて、荒れていた呼吸を落ち着かせていく。
「(原作の流れに乗るしか、生き残る方法はないッ……!)」
冷え込んだ空気を深く吸って、フゥゥと大きく吐く。じんわり熱が灯った。
テロリストによる体育館襲撃が始まるのは、始業式が始まってしばらくしてから。時間的にはまだきっと余裕がある。
でもゾンビ──アミット転化体のアウトブレイクは、襲撃より前。今から寮の方に行ってもギリギリ。
「(それでも、行かなきゃ……主人公は簡単に、死んでしまう)」
バシンッと頬に気合を入れて、トイレから廊下に飛び出る。
簡単に死んでしまうのは僕も同じ──そんな気持ちを強く押し殺して。
*
森の中。
不気味にザアザア揺れる深緑。
暗がりに隠れた歩道沿い、木の上にジッと座り込む。
視界の先には洋館のような大きな建物──あれが寮。
悲鳴に、衝撃音。ヴグゥゥ…と気味の悪いうめき声。冷たい風に乗ってかすかに。
アウトブレイクは、既に発生していた。
ここまで無事に来れたけど、中に入るのはリスクが大きすぎる。
信じて待つのが、きっと得策。
大丈夫、大丈夫……主人公には最初、彼がついているから。
ギリィと張りつめた心を無理矢理落ち着かせていると──
──ドガアアアァンッ! ドガガアアアアアァァンッ!!!!
校舎の方で、島全体を揺るがすような大爆発がいくつも巻き起こった。
主人公が目覚める合図……悪夢のような物語の、はじまりの合図だ。
※見切り発車。需要があれば続きます。
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