ゾンビVSテロリストVS原作知識持ち転生者 作:カロ(ハーメルン)
──少し遠くから、大きな音が聞こえた気がした。
「(……ん)」
ゆっくりと眼をひらく。いつも通りの天井。
からだを起こす。ペラペラの布団が落ちると、肌寒い空気。
思わず手のひらで腕をさすりながら、ぼんやり横の置き時計を。
「(九時…十六分……九時十六分!?)」
恐ろしい数字でバッと一気に目が覚めた。日付は九月一日、二学期の始業式。
「(なんで今日に限って!)」
いつもちゃんとしてるのに。
夏休みとか関係なく、食事や就寝時間までキッチリ。みんなもそうだけど。
洗面台で顔を流しながら、もやもや。ピチャピチャ。
軽くタオルで拭くと、馴染みある顔が鏡の奥から。中性的な顔立ちに、パサパサしてる肩までのボブ。おはようわたし。
遅刻が確定してるなら焦っても仕方がない。
ゆったりモゾモゾ下着姿に。
「(さ、さむい)」
長袖シャツ、赤地のチェック柄スカート、ネイビーのニットベストと赤リボン。制服で高校を決めたわけではないけど、意外に可愛くて結構嬉しかった。
「(……そういえばさっきの音、何だったんだろう)」
ふと疑問を抱き、窓際へ。
シャァとカーテンを開けた。
──うねる炎と大きな黒煙が、沈んだ空を赤黒く。
「ぇ……」
──眼下の森で蠢く、数百を超えるナニカ。
「(なに……なに、あれ)」
ウジャウジャ素早いヒトガタ。
カラダがおかしな曲がり方をしていたり途切れていたり、臓器や骨がまろび出ているようにも。
「ゥ゙ッ」
反射的にえずく。
非現実的で恐ろしい光景。
「(ゆめ、ゆめだ)」
凍り付いた身体でひたひた離れる。
力なくベッドに座り込んだ。
ふるふるとサイドテーブルのスマホを。
「(……圏外?)」
そんなの今まで……。
たった、ひとり。
得体の知れない恐怖がジリジリと──
──パリンッ
「(ッ!)」
遠くで、何かが割れる音。
外からじゃない、恐らく寮の中から。
──ガンッ……ガンッ……バキィッッ
──キィィィ………ガダンッ
──グチャ……グチャァ
よくよく耳をすませてみれば、不気味な音がそこかしこから確かに。
カタカタと震えだした身体を包むように、薄い布団を抱き寄せる。ハァハァと荒れはじめた息を隠すように、必死に口を抑え込む。
物音を追って目まぐるしく動く視界が、だんだんぼやけて。
──ドンドンドンドンッ
──ァ゙ァ゙ァ゙……
早く、早く、早く覚めて。
ギュッと強く目を閉じて、おぞましい悪夢に怯えていた、その時。
「──れか……だれかッ……だれかァッ!!」
男性の叫び声。
ドスドス走る音やぶつかる音と共に。
「(ひ、ひと……!?)」
バッと勢い良く顔を上げ、ドアの方向を見つめる。
ほんの小さな希望がこころに。
ゴクリ…と固唾を飲んでベッドから立ち上がり、慎重にまえへ。
「た、たすけてェ! たすげでェッ!!」
裏返った声が扉の向こうで、はっきりとこちらに近づいてきた。
同時に、響き渡る恐ろしい物音も大きくなっていく。
「……ハァ……ハァ……ハァッ」
苦しくなる息。
一筋差し込まれた光を、再び覆い隠そうとする闇。
「だすげてェッッ!!!」
それでも。
──ピッピッ…ガチャッ!
解錠ボタンを押してドアノブをひねり、手前に勢い良く引っ張った。
「こ、こっち!!」
身を乗り出し、一心不乱に叫ぶ。
死に物狂いで走る大きな男性がすぐそこに。
「ッ!? お゙あァ゙ッ!」
気づいた彼は一瞬驚いた後、崩れ落ちるように部屋へ。
ハッと廊下の方に視線を戻す。
──通路いっぱいにダンダンダンダンッ!と猛スピードでこちらへ迫ってくる、数え切れない程たくさんのナニカ。
「キャァァァァァァッ!!?」
あたまが真っ白になり、全身からブワッと冷や汗が噴き出した。
無我夢中でドアをつかみ、思いっ切り奥に。
向こう側からガンッガンッ!と激しくぶつかる衝撃。扉がグイッとこちらに開け放たれて──
「──おっら゙ァ゙ァァッ!」
物凄い勢いでタックルが飛び込んできた。
ドアがバゴンッ!と跳ね、ギリギリ枠に。
そのままググググと、身体が引きちぎれそうな力で抑え込む。
──オートロックが、カチャリ。
「……ヒィギッ……ゼェエ゙エ゙……ハァァ゙」
「ハ、ハァッ……ヒィッ……ハァッッ……」
私たちは二人して汗だくになりながら、無意識に止まっていた呼吸を荒げる。
ドッドッドッと鳴り響く鼓動。
すぐ隣で倒れ込む彼をちらっと。
ガタイの良い大柄の中年男性で、上下ブルーのウェア。寮でよく見る清掃員の服装。
「(ほんとに、ほんとうに良かったぁ)」
コレを乗り越えたこと、ひとに出会えたこと。
「ゼェ……ありがとう。たす、かっ……」
この人といればきっと大丈夫。この人と……あぁ、そうだ、名前──
「あ、の……」
──そんな彼はバケモノを見るような目で、私を。
「な、な、なんで生徒がここにいるッ!?」
ビクビクと脅えに満ちた表情。
──ガンガンガンッ!!
──ア゙ァァァ゙ッ! ヴグァ゙ア゙ア゙ア゙!!!
ロックがかかってからも鳴り響いていたナニカの音が、その勢いを増す。
「キャァッ! ぇ……ね、ぼ」
「お前もアイツらと同じなのかッ!? そ、そうなんだろッ!?」
私の言葉を遮って、ずりずりと後ろに下がりながら怒鳴る。
まずい、まずい。
──ドンドンドンドンッ!!
──ミシッ……メキッ……
「ちが、ちがいますッ! ね、寝坊して、さっき起きたんですッ!!」
うしろから聞こえる不吉な悲鳴。
がむしゃらに大声を。
「ああ゙ッ!? は、あ……寝坊、だと?」
こちらを睨みつけた顔のまま動きを止める。
口をパクパクさせた彼は、しばらくしてハッと。
「チッ、ややこしい! と、とりあえずベランダに逃げるぞ、急げ!」
「ぁ……は、はい!」
崩壊寸前のドアが軋みだす音を背に、走る彼へとついてい──
──バギャアアアアンッ!!!
ドアがはじけ飛んだ。
無数のナニカが雪崩れ込んでくる。
──部屋の中には、誰もいなかった。
閉ざされた窓の外で、物音も立てず息もせず、私たちはギュッと固まって身を潜めていた。
*
──ア゙ァ゙ァ
白い貫頭衣を着たゾンビがゆらゆら。
赤黒い皮膚で、ガリガリにやせ細った女子高校生ほどの体躯。ガサガサと音を立てながら、草むらの向こうへ消えていく。
「(……やり過ごせた)」
大爆発直後、寮から躍り出たやつらは校舎方面へ押し寄せていった。
風や生き物の自然音にも反応し、未だ森の中を彷徨っている。
胴体や首がゴキリと折れ曲がったものと目が合った時は、身の毛がよだち生きた心地がしなかった。
「(でもここでじっとしていればきっと……きっと、大丈夫)」
隠れ始めてから何度も何度も言い聞かせていたこと。再び胸の奥で。
止まっていた息を、スゥ…ハァ…と深く刻む。
「(……主人公は今ごろ、あいつと一緒)」
記憶通りなら。
そもそも僕が転入している時点で、バタフライエフェクトのように原作と同じ展開にはならないかも。
だけど、もはや待つことしかできない。それでもって──
「(──彼が助けに来てくれることを、願うしかない)」
手のひらを支える樹皮にギシッと力を込めながら、僕は洋館の方を鋭く見つめていた。
※見切り発車。需要があれば続きます。
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割と危なかった主人公ちゃん回でした。ちなみに性別は選べます。
それと今回みたいな蓮くんが出てこない原作描写を丸々カットしようか迷いましたが、一応書いてみました!もはやただのホラーですが欲しいですか……?