ゾンビVSテロリストVS原作知識持ち転生者 作:カロ(ハーメルン)
「……いったか」
ベランダをヒュゥと通り抜けた風。森を焦がす炎に温められているよう。
「ハァ、嫌になるぜ」
真横にいる彼が。
「あの人たち……なんなんですか」
私たちを襲ってきた、ヒトの姿をしたナニカ。しばらく部屋をうろつくと、他の物音に引かれたのかこぞってどこかへ去っていった。
「……さあな。だが、人間じゃねえってことは確かだ」
お互い静かに呟きながら、遠くで校舎を照らす赤をぼうっと。
「……」
これはきっと、夢じゃない。
あの恐ろしい音が。声が。衝撃が。
目の前でおきた現実だと、無理やり刻み込んでくる。
「(なんで……なんで)」
昨日まではいつも通り。
みんなと遊んで、寮で美味しいご飯を食べて、友達と一緒に勉強会を。
「……」
なんでこうなったの。なんでこんな目にあわないといけないの。
空を覆う、真っ黒な煙。
ズッシリと重く。
「……」
これはきっと、夢じゃない。
それでも──どうしようもなく、悪夢だ。
「──はァァァ……佐々木」
「……え?」
隣で、ぼそりと何か。
「俺の名前だ……佐々木さん、と呼べ」
急に。
「佐々木、さん……」
「あぁ」
視界の端で頷く。
じわりと揺れる炎。
「ぁ……わたしのなまえ」「待て」
そういえば、自分も伝えていなかった。だから。
食い気味に止められる。
「え?」
「それは言うな」
正面をぼんやり向いていた彼が、こちらを鋭く。
怖い顔。
「……な、なんで」
わけがわからない。名前を伝えるだけ。
「……後悔するぞ?」
脅すように、恐れるように。
佐々木さんはググ…と立ち上がり、部屋の中へ消えていこうとする。
何を考えているの。
わからない。
ただ──
「──斉藤、優希」
伝えたかった。
「お前……意外と押しが強いんだな」
反対を向いたまま、ピクッと驚いたように。
「お前じゃなくて、優希です」
念のためもう一度。決して、ムッときたわけじゃない。
「はいはい……分かりましたよ、優希様」
どこか諦めたような声色で、佐々木さんは軽くそう返した。
*
私たちは、人がたくさんいる校舎の方へ行くことに決めた。この悪夢から脱出するために。ほんとはベランダから一歩も動きたくなかったけど。
やつらからひっそりと身を隠して廊下を進み、時には花瓶や小物を投げておびき寄せる。
知能が低く、耳はとてもいい。佐々木さんがコソコソとそう教えてくれた。
──ハァッ、ハァッ
階段付近は彼らが多すぎて、通ることは出来ない。
二人とも思わずヒッと悲鳴を出して見つかってしまい、離れ離れになったことも。
床や壁にはところどころにおびただしい血痕や、ヒトの一部がグチャグチャに散らばっている。
その色、その匂い、そのカタチ。気分は最悪で、吐き気が治まらない。何回もオェ゙ェ゙…と吐いた。
──ハァッ、ハァッ
作動停止していた職員用エレベーター。管理室でキーを探し出し、なんとか二人で復旧させた。
永くながく感じた恐怖を経て、とうとう──
──ハァッ、ハァッ、ハァッ
「(こ、これに乗って一階に……もうすぐ、こんなところから……!)」
下からノロノロと上昇してくるランプ。
ドクドク荒ぶる鼓動を眼前の希望で抑え込む。
「クソッ……遅ぇ……!」
カチカチカチッと、すでに光っているボタンを押し続ける佐々木さん。
張りつめたココロ。薄暗い周囲をチラチラ。
──ハァッ、ハァッ、ハァッ
「(大丈夫、大丈夫、だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょう──)」
──チンッ
エレベーターが……!
僅かな光が、ドアの隙間から。
──ヴァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!
死角になっていた曲がり角から、大きなバケモノが。
「キャァァァァァッ!?」
「ヒィッ!?」
大きなおおきな腕を引きずって、ダンダンダンッ!
ふたつのあたま。
ふたつの口から、ビチャビチャと。
「いやぁぁぁッ! はやくぅ……!」
「はやくッはやくッはやくッ!!」
スローモーションみたいに開くドア。
こわい。
だめ、ダメ。
──グイャァ゙ァ゙ァ゙ッ!!
バケモノが、大きなうでをふりかぶる。
もう、まにあわな──
──めのまえに、バケモノのからだ。
「……ぇ」
──ドンッッ!!
ソレと勢いよく、ぶつかった。
なにが。
グルグルと床を跳ね、壁にバンッ!と打ち付けられる。
なんで。
パニックの中、全身の激しい痛みだけが。そう……特に、せなかの──
「──さっきは言わなかったが、ソイツらがなんなのかを知っている」
佐々木さんの声が、遠く。
バケモノの足音が、ギシ…ギシ…とこちらに。
「お前ら生徒がもう助からないことも」
あのとき……ベランダで最後に話したような声色で何かをいっている。
ぼやけた視界、エレベーターが少しずつ閉ざされていく。
「じゃあな、優希……お前の分まで、せいぜい生きてみるさ」
光がフッと消えた。
なにもわからない。
この状況も。この痛みも。息のしかたも。
それでも。
──ギシ…ギシ…ギシ…
アイツは、かまわず近づいてくる。
ボタボタと唾液を垂らして。
「ぁ……」
わたしは動けない。口をはくはくさせながら、心臓がギュッと掴まれていてうごけない。
──ア゙ア゙ア゙ィ……
ニタリと嗤ったような気味悪い音があたまに響く。
ビチャリッと顔に唾液が。
「ぅ……ぁ」
なんで。
なんでこんなにゆっくり。なんでこんなにながく。なんでこんなめに。なんで、なんで。
グパァ…とひらかれた、ふたつのおおきなくち。
いたそうな歯が、わたしのかおに、めりこ──
──ドスッ!! ガンッッ!!!
「……ぁ」
バケモノで覆われていた視界がいきなりパンッと。
「おいッ! 大丈夫かッ!?」
ずっと、ずっと、なにがおこっているかわからない。
わからないけど。
手を差し伸べてくる木刀を持った男子が、わたしを救ってくれたことだけは──ハッキリとわかった。
※見切り発車。需要があれば続きます。
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蓮くんがびっくりするほど空気ですが、カットよりこっちの方が読みやすいのかなと……?次回きっと登場します。