◇トーカの視点◇
マコトくんは女神を信仰している。
彼の持っている短剣はその女神さまから貰ったものらしい。
朝起きて顔を洗った彼がそれを持って祈っているのをよく見かける。十字架のようなものだろか。
あの短剣、同じ武器としての感覚で言うとかなりすごい代物なんだけど。
彼の持っている『精霊使い』スキルはその女神の信仰して貰えた
その加護のおかげでルーシーさんとの
そんなマコトくんの信仰している女神さまのことを聞いたことがあるのだが、彼はその時、
「あぁ~、えっと、まあいつか教えるよ」と誤魔化した。
怪しい。
いつもは、はっきりと物を言うマコトくんが濁しているのはとても怪しい。
だけど私はそのことに突っ込まないことにした。
彼が隠していることなら無理に聞かない方がよいだろうと思ったからだ。
私がそれを暴いたとして、もしかしたらそのことで私と彼の関係にヒビが入るかもしれない。
それなら放置していた方がいいだろう。
何か問題があるわけでもあるまい。
◇
光り輝く巨人 は、嬉しそうに大きく口を歪めながら、こちらへ話しかけてきた。
「……ヒトか」
低い声だ。巨大なスピーカーから、低音がずしんと腹に落ちるように響く。
藤原さんは、ぶつぶつ言いながら頭を抱えてしまっている。
ニナさんは、藤原さんを背に構えをとっている。
ルーシーさんは、青い顔でぽかんとしていた。
マコトくんは、ルーシーさんの手を引き、藤原さんとニナさんに肩を触れるくらいに近づいた。
「……礼をいおう。おまえたちのおかげで、封印がとけた」
七色の巨人は厳かな声でそう言った。
私たちが何かしたのか?それでこの巨人の封印が解けた?
「拙者です……。魔石を『鑑定』してしまったのがまずかったのです……」
藤原さんが震える声で答えてくれた。
「……我は戦争に敗れ石化の封印をかけられていた。……その封印は弱まっていたとはいえ、自力では解けない。……誰かに我を認識してもらう必要があったのだ」
「はぁ……、そういうのもあるのか」
マコトさんは初めて知ったという風に言う。
でも、そういうことなら藤原さんが悪いわけではなさそうだ。
「誰だって、あんなでかい魔石なら鑑定するし、仕方ないよ」
マコトさんが藤原さんをそういって慰める。私もそう思う。あれを軽率だと責めることはできないだろう。
「……並みの眼では、我にかけられた封印は見破れぬ。……神の偽装をも見抜く『神眼』でなければ」
「神眼……」
藤原さんの『鑑定』スキルが神級だったということなのか?いや、それはさすがに....
「拙者の鑑定は神級ではありませんぞ……」
「……それは知らぬ。……だが、我の封印は解けた。……それでよい」
言葉も通じるし、襲われずに済まないかな。彼のことは私たちが助けたようなものだから見逃してもらえないだろうか。
「……
そんなことを言われた瞬間、私は見通しが甘かったことを悟った。
ぞわりと、無いはずの背中に氷水が流された気がした。
「き、帰還!」
ニナさんが、藤原さんの持っていた緊急脱出アイテムを奪い発動させる。私たちは光に包まれダンジョンの前に転移する。助かった?いや、まだだ。
「ここから離れよう」
(ここは危険です!早く移動するべきです!)
私は自分のことがバレるのも構わず周りに念話で警告を発する。
「え!?え!?」
「何ですか!?これハ!?」
急に頭の中に響く声に事情を知らない二人は混乱している。
「ニナ殿、ルーシー殿、落ち着いて下され。この声に対して疑問があるでしょうが、まずは心を落ち着けることが大切です」
藤原さんが二人に声をかけ落ち着かせていた。
焦るあまり、自分の正体を晒してしまうなんて。軽率だった。
「あ、あれ、放置していいの?」
冷静になったルーシーさんが怯えた声で聞いている。
「戻ってギルドに報告しましょう!」
ニナさんの言う通りだ。あんなの私たちに手の負える相手じゃない。
「みんな、街に戻ろう。さっきのあいつが追ってくるかもしれない」
マコトくんの言葉にみな小さくうなずき、来た道を戻ろうとして。
――ぼこり、と。
目の前の地面が盛り上がった。
みるみるまに、土が人の形をかたどっていく。
そして、鈍く輝き始めた。
「……ドコへ行く?」
逃げられない。
「ご主人様! 逃げてください!」
ニナさんが、巨人に向かっていった。
「い、いけませんぞ! そいつに手を出しては!」
藤原さんが焦ったように叫ぶが、もう遅い。ニナさんの蹴りが、巨人の頭を捕らえるところだった。
「……マテ」
巨人の右手が伸びる。
「エ?」
ニナさんは、攻撃をしてすぐ離れるつもりだったのだろう。
蹴りを入れて、すぐに距離を取ろうとしていた。動きはすばやく、巨人には反応できていないように見えた。
巨人の動きは、ゆったりとしているように感じられた。
気がつくと、巨人の指先が少しニナさんに触れたように見えて。
――ニナさんが吹っ飛んでいった。
ニナさんはシルバーランクの冒険者だ。それを一撃でダウンさせた巨人の実力は想像できない。
「ふじやん! あいつは何なんだ!」
マコトくんは藤原さんに焦った声で問う。
「聖神の怒りをかって、石に封印されていた邪悪な巨神だと……。拙者の鑑定で、封印が解けてしまったと……。それしかわかりませんでした」
邪悪な巨神……。何とも不穏な単語だ。
「ふじやんは、ニナさんをアイテムで回復させてみんなで下がってくれ。俺とトーカさんで時間を稼ぐ」
「わかりました! 無理はしないでくだされ」
「ま、待って、まこと!私も一緒に戦うわ」
マコトくんは三人を下がらせ右手に私を、左手に短剣を持つ。
ルーシーさんが私も力になると食い下がろうとするが
「奥の手を使うんだ、巻き込んでしまうかもしれない。ルーシーも一緒に下がってくれ。ふじやんは大事な友達なんだ。頼むよ」
「……死んだら許さないわよ」
「ああ」
いつものマコトくんとは違う、強い口調に押され、彼女もおとなしく下がった。
「すみません、トーカさん。力を借ります」
(仕方ないよ、最初から全開で行くよ)
「ええ」
――ステータスをマコトくんと共有。魔力吸収、魔力変換、攻撃予測スキルを起動。戦闘モードに移行し彼との思考の同期を開始。
まずは、
『
彼は精霊語を話す。精霊魔法で水を生成し、それを操って霧に変えた。
一瞬で、周りが霧につつまれる。
「……精霊魔法か」
低い声が聞こえた。博識な巨人だ。
隠密スキルも併用して霧の中にまぎれながら私たちは近づく。
視界の悪い中で一気に巨人の体に近づきマコトくんは私を振りぬいた。
しかし.....
((かたい....!!))
魔力変換で少なくない魔力を攻撃力に変換したのに巨人には傷一つついていない。
当たった巨人の肌の感触はまるで動かない山のようだった。
でも、接触したんだったら『魔力吸収』で.....
その一瞬で私の貯蓄は満杯になってしまった。
こいつ、なんて魔力の密度と量!!
短い時間での接触で私の魔力タンクを破裂寸前にまでさせるほどの出力と量の魔力を常に纏っているなんて底が知れない。
一番怖いのは、相当な量を吸ったはずなのに全く堪えた様子がないことだ。
「くっ!」
マコトくんはすぐさま離れ魔法を放つ。
――水魔法・青龍
水でできた巨大な龍が巨人に向かう。
私の
だが、それを受けても巨人は怪我一つ負っていない。
「フム、なかナカの威力の攻撃ダ。」
(!!)「!!」
巨人の手がこちらへ伸びてきた。やばい! 捕まる!
そうなったら逃げられない!
いや、食べられる?
絶望的に近い距離まで迫ってくる。
マコトくんは回避スキルを発動しながら両腕をめちゃくちゃに振り回した。
手ごたえはなかった。
しかし、運よく巨人の手から逃れることができた。
助かった。
「何をシタ!」
急に巨人が怒った声を上げた。
「キサマ」
震えた声には怒りが混じっている。
地面が揺れ、突風が私たちが出した霧を晴らした。
(え?)「あれ?」
巨人の手の指が……1本欠けている?
私が切ったのか?
いや私では巨人の体に傷をつけることすらできなかった。指を両断するなどできるわけない。
ということは、
マコトくんの左手にある短剣に目を向ける。
これが指を切断した。
ふつうは、私よりも短く小さい短剣にそんなことができるとは思わないだろう。
だけど私はこの短剣の性能がおぼろげながらも感じ取れるため困惑は少なかった。
思考が繋がっているマコトくんも同じことを思ったようだ。
いける!!
私たち二人の攻撃が通じないときはどうしようかと思ったがダメージを与えられる手段があるなら希望はある。
ニナさんがやられた動きはまだ未知数だけど希望が見えてきた。
「……その短剣……どこで、手に入れた?」
そんな考えは巨人の増した威圧感で一気に消え去った。
「それはヒトには、過ぎたものだ……」
「え?」
気が付くと目の前に、巨人が居た。
避けるまもなく、その巨大な手が目の前に迫る。
私たちはあっけなく捕まってしまった。
巨人の両手で身体を拘束され、その顔が近づいてくる。
もう駄目だと私たちが思ったその時、
「待ちなさい!」
天から透き通るような美声が響いてきた。
次回で1巻の話は終わります。
原作未読の方にネタバレすると
マコトの持っている短剣は原作と今作で人が振るう武器の中では最強です。
主人公ちゃんとは比べるのもおこがましいほど格が違います。