◇マッカレン出発前
「おう、お前たち。大迷宮に行くんだって?」
「寂しくなるな」
私たちはギルドの屋台で飲んでいるとルーカスさんとジャンに声をかけられた。
「ジャン、エミリーはどうしたんだ?」
マコトくんが聞く。彼らはいつも一緒なのだが。
「さっき、ルーシーと一緒に外でご飯食べてくるって言ってたぞ」
「そーいえば、ルーシーも見当たらないな」
やっぱり仲いいんだね、あの二人。
「で、いつ出発するんだ?」とルーカスさん。
「まだ全然決まってませんよ。おっちゃん、エールひとつ」とマコトくんは答える。
頼んだお酒がすぐに出てくる。私はソフトドリンクだ。
今日もここの料理はおいしい。
「ルーカスさんは、大迷宮は行った事ありますよね?」
「当たり前だろ。ゴールドランクの冒険者で、大迷宮に挑戦したことないやつなんていねぇよ」
「どこまで行けました?」とジャンが聞く。
確かに気になるかもしれない。
「うーむ、大迷宮は普通のダンジョンじゃない。10階層、20階層なんてもんはないんだ。上層、中層、下層、深層、最深層の5つだけだ。俺が行けたのは深層までだが……お前たちは、まだ行くなよ?」
「わかってますよ、下層から深層は『竜の巣』なんですよね?」
有名な話だ。「ユーサーの冒険記」という本に書いてあった。
「ああ、地竜や水竜、火竜が
「……ヤバイですね」
「だが、上層の魔物は雑魚ばかりだ。注意すべきは、ミノタウロスぐらいだな」
「ラビュリントス上層の番人ですね」
「まあ、今のお前たちなら、アイツらに複数に囲まれてもなんとかなるだろ」
ルーカスさんは、揚げた鶏肉をかじりながら、エールを飲み干した。
「中層は?」
「中層は、種類が多過ぎて言い切れないな。ゴブリン、オーク、人食い巨人、ゾンビ、スケルトン、ヴァンパイアらの不死族、ラミア、アラクネ、ハーピー……なんでもだ」
「でも、そこまで強い魔物はいませんね」
これなら俺でも、とジャンは考えてそうだ。
確かにそれ以上の魔物も私たちは狩っているし、その程度なら大丈夫そうだ。
「甘めぇな。中層の魔物は全て『群れ』だ」
「む、群れ?」
「群れの中にボスが居て、そいつが一斉攻撃と撤退の指示を出す。並みの冒険者じゃ、一瞬で取り囲まれて食われるぞ」
「「「……」」」
怖!
さすが、大陸最大のダンジョンというべきか。難易度が高い。
そういう集団で連携攻撃を仕掛けてくる魔物とは、あまり戦ったことが無い。
ゴブリンが近いだろうか?でも、強さが比べ物にならないな。
「注意するのはそれだけじゃない」
「まだあるんですか……」
「大事なことだぞ。大迷宮だと、新人冒険者狩りがある」
「えーと、生意気なルーキーを、怖い先輩冒険者がシメルってことですかね」
それくらいなら、どこの街でもありそうだが。
「全然違う。大迷宮ってのは冒険者の憧れだ。地方のダンジョンで、自信をつけたやつが頑張って、少し奮発した装備で挑もうとするだろ? それを狩るんだよ」
「「「……」」」
「狙われやすいのは、貴族の息子が冒険者になって名を上げようってパターンだな。見るからに高価な鎧をつけた新人冒険者はカモだ。身ぐるみ剥がされて、ダンジョンで魔物のエサになる」
「まこと! 大迷宮に行くのはやめよう!」
完全にびびったのか、ジャンが私たちを止めてくる。
いや、私もテンションだだ下がりだ。なんか冒険の聖地っていうイメージだったのに、今はそんな幻想がうち砕かれている。
「あっはっはっ、びびったならやめとけ。俺は大迷宮に挑むって冒険者には全員同じ話をしてるからな」
「まあ、行くのは止めませんけどね」
マコトくんはやる気を見せる。女神さまの助言で、数日前までの気配とは打って変わって覇気が戻ったような気がする。
「なら止めないが、準備はしっかりしろよ」
真剣な目でルーカスさんが、言ってきた。
「わかりました」
私たちは彼の言葉で気を引き締めるのだった。
◇
大迷宮探索、二日目。
私たちは再び表層を探索することにした。
「今日のルートはどうするの?」
「水の洞窟」
「えぇー、またぁ?」
「まあまあ、これ見てよ」
今日の計画を話していると、マコトくんが入口で貰った「上層マップ」なるものを見せる。
観光地かな?
「ラビュリントスの大瀑布?」
「大迷宮の中でも、一、二を争う絶景なんだって」
「へぇ……、カップルにも人気。大瀑布見学ツアーは、冒険者ギルドで受け付けていますって。……ここって本当にダンジョンなの?」
やっぱりただの観光地じゃないか。
「最近は、魔物が多いから見学客は少ないらしいけど」
「ふうん、カップルか……」「.........」
「二人とも、どうかした?」
「え? いや、何でもないわ!ね、トーカ!」
「え、ええ」
「まことがどうしても行きたいって言うなら、仕方ないわね!行きましょう!!」
カップルという言葉に反応してしまう。
この男はわざとやっているんだろうか。.............無意識なんだろうな........。
水の洞窟は昨日に続いて2回目。
ただし、ミノタウロスがうろうろしている可能性もあるので、気は抜かない。
出てくる魔物が弱いこともあり、のんびりと探索できた。
昨日、ミノタウロスが出たことが知られているからなのか水の洞窟ですれ違う冒険者は少ない。
私たちはゆっくりと進んでいった。
私は後ろから感じる気配に意識を向ける。
私たちの歩幅に合わせて進み、一定の距離をそれは保っている。
(尾けられている.......?)
一体、誰に?と考えた所で昨日絡んできた冒険者を思い出した。
(あいつらかな?)
これは今日、ダンジョンに入る前から感じていた。
どうやら、私以外も気づいているらしく警戒を解いていない。
いつもの感じで会話しているのも、相手に尾行がバレていることを気づかせないためだろう。
「ルーシー、トーカさん」小声でマコトくんが囁いてきた。
「俺たち、つけられてる」
「はい、もちろん気づいていますよ」
「え?今頃、何言ってるの?」
え?もしかして気づいていなかったの?
「え?」
「ダンジョンに入る前から、ずっとつけられてたわよ?」
どうやら、本当に気づいていなかったらしい。
ええ、じゃあ私、めっちゃ恥ずかしいじゃん。
何が、「いつもの感じで会話しているのも、相手に尾行がバレていることを気づかせないためだろう。」キラリ☆彡だよ。
ただ単純に気づいてなかっただけじゃん。
「早く言ってよ!」
「まことは、とっくに気づいてると思ってたから……ゴメン」
しゅんとする、ルーシーさん。分かるよ、マコトくんはとっくに気づいていたものと思っていたもんね。
「あー、いや。索敵は俺の役目だった。にしても、よく気付いたな」
「なんか、私たちのこと見ながらぶっ殺すとか、物騒なこと言ってたから。あいつら、冒険者ギルドでからんできたやつらね。こんなところまで追いかけてくるなんて、陰湿なやつらね」
「……」
「たかだか、ミスリルの剣を壊したくらいで大げさな連中ね」
「彼らのような輩はなめられたら終わりだと思っているんでしょう。自分で価値を低くしているプライドを必死に守ろうとしているのは滑稽ですね」
「う、うーん……」
マコトくんは、どうやらこちらが危ないんじゃないかと心配のようだが心配はあるまい。
「大丈夫ですよ、マコトくん。あの程度の相手なら余裕で相手にできます。」
そういうと、彼はさらに不安が増したような顔をした。
どうしたんだろうか?
「ああ、もしかして強力な冒険者の援軍がいるかもしれませんね。確かにそれは盲点でした。警戒は解かない方がいいですね」
「……とりあえず逃げようか。水魔法・霧」
(このままだと別の問題が起きそうだ)
彼は魔法を使い霧を洞窟全体に発生させて目を眩ました。
「くそっ、気づかれたか」
「探せ! 遠くには行ってないはずだ」
「離れるなよ。魔物もいるからな」
どたどたと足音が遠ざかる。どうやらあちらは慌てているらしい。
「居なくなったわ」
私たちはその場で待機し、やり過ごした。
どうやら行ったらしい。ルーシーさんの耳で確認したから、確かだろう。
「はぁ……、ごめんね。二人とも」
「なんで、まことが謝るのよ」
「俺の判断ミスだったよ」
「何言ってるのよ、気にしてないわよ」
「そうです、私たちも彼らを煽りすぎましたし、今日のことも気づいたらすぐに言うべきでした」
「.......二人が仲間で良かったよ。これからどうしよっか?」
「とりあえず、当初の目的の大瀑布を目指そう。さっきのチンピラ冒険者の問題は……ちょっと、頭が痛いな」
「無視すれば、いいんじゃない?」
「そういう訳に行かないだろ」
「帰ったら、藤原さんに相談してみましょう」
あの人なら解決案を出してくれるかもしれない。
◇
――大瀑布
大陸最大のダンジョン『大迷宮ラビリントス』で、もっとも美しい場所のひとつと言われるそこに私たちは到着した。
「ナイアガラだ……」
「わぁ……」
マコトくんは思わず前の世界の、世界一有名な滝のことを呟いている。
ルーシーさんも隣で、見惚れていた。
(確かに前世で見た本のあれにそっくりだ)
私もその雄大な景色に感動していた。
ダンジョン上層の奥に、現われた大きな地底湖。
その周りに、巨大な滝がどこまでも続いている。
全容が見えないほど巨大な地底湖には、上が吹き抜けになっているのか日差しが差し込み、暖かな雰囲気を作っている。
その日差しの中を、大きな鳥たちが飛びまわって幻想的な景色を演出していた。
「ねえ、ところでナイアガラって何?」
ルーシーさんがマコトくんのセリフにつっこむ。
「前の世界の観光名所かな」
「ふーん、ところでこの崖の下って中層なんだっけ?」
「ああ、落ちたらマズイな」
マップによると、この崖の高さは200メートル以上。下に広がる地底湖は、中層に位置するらしい。
つまり、美しい景色だがその中には魔物がひしめいている。
その時だった。
「「「!?」」」
背中側に気配を感じる。二人も気づいたようだ。一斉に振り向く。
「おいおい、本当にいたよ」
「だから、言ったろ。ルーキー共は絶対ここに来るって」
「よお、マッカレンの冒険者。この前は世話になったなぁ」
現われたのは、昨日絡んできた冒険者たち。
それに加えて、仲間であろうガラの悪そうな連中だった。
総勢10名。これほどの大人数に気づけなかったということは。
「隠密スキルか」
「ごめん、まこと。気づかなかった」「すみません、マコトくん」
「いや、俺も同罪だ」
「おい、女は傷つけるなよ。高く売れそうだ。赤髪のエルフはちと珍しいが」
「いくらだ?」
「それは、きちんと査定しないとなぁ」
ニヤニヤと下種な会話をしている。この下郎が!
「なあ、あんた。武器を壊したのは悪かったよ。謝るから、どうすれば許してくれる?」
マコトくんがダメもとで声をかける。
「あぁ? お前はここで死ぬんだよ。ろくな装備持ってなさそうだが、その短剣はいい値段になりそうだ」
「新人狩りってやつか?」
「おお、わかってるじゃないか」
男はニヤリと笑った。
「おまえら! 囲め!」
ミスリルの剣(壊)を持っていた男の合図で、私たちは崖を背にするように取り囲まれた。
こんな奴らに手加減は不要だろう。
私は魔力を滾らせ、足を踏み込もうとして――
滝から感じられる気配に振り向いた。
「まこと……?トーカ......?」
どうやら、マコトくんも気づいたようだ。急に滝の方を向いた私たちにルーシーさんが困惑している。
「おーおー、女を守る騎士ってか? 健気だねぇ」
チンピラが何か言ってるが、それどころではない。
どこだ?
どこにいる?
どこから来る?
――ォオオオオオオオオオオオッ!!
空気を震わせるような声が響いた。
ぼこりと、地面が盛り上がり巨大な何かが姿を現す。
ちょうど、ガラの悪い冒険者たちと私たちの間に。
「ド、ラ……ゴン?」ルーシーがつぶやく。
冒険者たちは、誰も反応できていない。
「ドラゴンは、全種類『災害指定』だからな。とりあえず見かけたら全力で逃げろ」
ギルドの屋台で、ルーカスさんに説明された言葉を思い出した。
次回、さーさんが出ます。
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