◇高月まことの視点◇
「高月くん……?」
え?
この魔物、今なんて言った?あれだけ反応していた『危険感知』のアラートがぴたっと止む。
「ま、まこと!? 魔物が!」(どうしたんですか!!マコトくん!!)
ルーシーは、突然現われたラミアに悲鳴を上げている。
トーカさんは突然動きが止まった俺に声を上げる。
「高月……まこと!?」
ラミアが
俺をフルネームで叫ぶ、魔物。
なんか、発音も日本人のそれだ。
これは……。
間違いない。このラミア、1年A組のクラスメイトだ。
しかし、こんなことがあるのか?
(ええい! 駄目でもともとだ!)
「なあ、この辺に隠れられる場所はないか?」
ラミアに尋ねる。
ラミア族は、大迷宮の中層を縄張りにしている。俺たちより、土地勘があるはずだ。
「こっち!」
「わかった」
ラミアが指差したのは、大小ある滝の中でもひときわ大きな滝。
たぶん、滝の裏に行けってことだと推測する。
「ルーシー、俺に捕まってろ」
「え、わ、わかった!」
ルーシーが俺の腰にしがみ付く。
なぜかラミアが、少しムッとした顔をしてきた。
がしっと、ラミアまでしがみ付いてきた!?
「ひっ! な、なにこいつ」
(大丈夫なんですか?!マコトくん!)
「心配するな。大丈夫だから」
若干、自信ないけど。油断させてガブリ、とかないよな?
「精霊さん! 助けてくれ! 水魔法・暴れる水龍」
地底湖の上なら水の精霊が多い。水魔法は使い放題だ。
さっきの倍くらいの水龍が、暴れ狂う。
俺たちを取り囲んでいた、魔物が吹き飛ばされて、流されていくのを片目に、俺たちは滝の裏に逃げ込んだ。
◇剣咲刀華の視点◇
「はぁ、はぁ、はぁ……しんどかったぁ」
「はぁ、はぁ、はぁ、逃げられた……、ってこいつまで何でいるのよ!」
滝の裏で私たちは一息ついていた。
ルーシーさんが目の前のラミアを見て慌てて飛びのく。
先ほど、魔法が避けられラミアと私たちのにらみ合いとなった時、彼女はマコトくんの名前を呼んだ。
魔物が彼の名前を知るわけない。それどころか、彼女はそれまで纏っていた殺気を消し、まるで知己に会ったかのように喜ぶ様子を見せた。
彼女の助けがあり、私たちはこの滝の裏に避難したのである。
「高月くん」
「は、はい」
マコトくんは名前を呼ばれ、思わず返事をしてしまう。
知り合い.......なのか?魔物とどこで知り合ったのか。
「高月くんだぁ……」
彼女はマコトくんの答えを聞いて、涙顔で彼に近づき抱き着こうとする。
ちょっと!
私は人化し、彼女と彼の間に入りそれを阻止した。
「あなたは誰?一体何者?どうして彼の名前を知っているんですか」
急に現れた私にラミアは目を白黒させている。
「え!?女の子?どこからあらわれたの!?」
「いいから、答えなさい。どうして魔物であるあなたが私たちを助けたんですか!」
私は喧嘩腰になっていた。
だって怪しいだろう。こんな来たことない迷宮の奥で彼の名前を知っている魔物がいる。
もしかしたら、この魔物は私たちを罠にはめるつもりなのかもしれない!
「落ち着いて、トーカさん。その子は俺のクラスメートだよ。.....たぶん」
「......へ?」
強い言葉を使う私を見かねたマコトくんが私を止める。
え?クラスメイト?
「えーと、あのさ」
彼はラミアに話しかける。
「さーさん、だよね?」
「気づいてなかったの?」
ラミアは凄い不機嫌になる。マコトくんは慌てて言い訳をした。
「いや、だって。姿が全然違うし」
「あー、そっかぁ。ほい、『人化の魔法』」
ラミアが魔法を使うとだんだん人の姿に……って、ちょと、待って!
「え!?」
「あんた、服くらい着なさいよ!」
ルーシーさん! ナイスツッコミだ。
人の姿になった、ラミアは全裸だった。慌てマコトくんの目を塞ぐ。
「あなた!何か着るものないの?」
「うーん、だって魔物だし」
なんか恥じらいがない!
「これ、貸してあげるから」とルーシーさんがマントを、渡す。
彼女は、それをドレスのように巻きつけた。
「あと、これ着て」
マコトくんが上着を羽織らせる。これで見れる格好になった。
「久しぶり、さーさん」
「高月くん!」
今度こそ彼女が彼に抱きついた。
「ねぇ、まこと。誰なのよこいつ」
ルーシーさんの声は不満げだ。
私もマコトくんに親し気なその女のことは気になる。
「ごめん、ごめん。この子は佐々木あやさん。俺と同じ異世界の出身だよ。さーさん、こっちの子はルーシー。そっちはトーカさん。同じパーティの仲間なんだ」
私たち、3人は互いに見つめあう。
「……はじめまして、ルーシーさん、トーカさん」
「……はじめまして、えっと、佐々木さん。」
「どうも、とりあえず、まことから離れなさいよ」
「久しぶりの再会なの。別にいいでしょ。……あなたたち、どっちか高月くんの彼女?」
「ち、違うけど!」
「......違います」
佐々木さんは、小さくほっと息をついた。
どうやら、彼女も”そう”らしい。
「さーさん。ところで、何でこんなところでラミアやってるの?」
マコトくんは彼女に聞く。
「高月くん! 聞いてよ!」
さらに強くマコトくんを抱きしめた。
「「…………」」
彼女の行動に嫉妬が沸き上がる。
「あのね、私……」
◇
それから、彼女の話が始まった。
彼女は、遭難したバスの中でその環境に耐え切れずに意識を落としてしまい、気づいたらこの世界にラミアとして転生したらしい。
その状況には聞き覚えがある。
(私の時と似ている.....)
どうやら、彼女はこの世界に来る前にその命を落としてしまったようだ。そうして彼女は私が剣に憑依したようにラミアに転生したというわけだ。
彼女はこの滝の裏に居を構えていたラミア
最初は常識や生態の違いから苦労したらしいが徐々に慣れていったそうだ。
そして、彼女は強かった。
生まれ持ったステータスが高く。クイーンの率いる群れの中でどんどんと頭角を現していった。
そんな時、事件が起こる。
狩りに行った彼女と同時期に生まれた兄弟が無残な姿で帰ってきたのだ。
「なんで……なんで……」
「氷虎は私たちの天敵なんだ。あいつらの吐く息は、冷たい空気を出してラミア族の動きを鈍くする」
「なんで、先に教えてくれなかったの!」
「狩りの掟は知ってるだろう。実際に敵を見るまでは、勝手な想像はしないほうがいい。経験を積んで強くなっていくんだ」
「違う! 先に氷虎のことを教えてくれれば、みんな死ななかった!」
「じゃあ、私が間違ってるっていうのか!」
「そうよ! 大姉様は間違ってる!」
「おまえは何もわかってない!」
「石頭の大姉様! あんたがみんなを殺したのよ!」
「おまえならうまくやれるって言うのか!」
「あんたよりマシよ!」
そうして彼女は群れのNo.2の姉に逆らった。
群れは彼女と姉の派閥に二分されたらしい。
大姉のグループは、今まで通り若い子達が中心となって年上がフォローに入る狩り方法。
かたや、佐々木さんグループは、私が先頭に立って狩りをする。
最初は、敵に襲われても被害が少ない自分のグループのほうが優れていると彼女は思っていたらしい。
しかし、大姉の方法のほうが、個々が成長する。
佐々木さんのグループは、彼女に頼りきりになってしまうのだ。
(失敗したなぁ……大姉様が正しかったのかも……)
彼女は自分の方法が間違っていたと思い姉に謝ろうとしたらしい。
タイミングを図り、近づいて耳打ちしたそうだ。
「ねえ、今夜二人きりで話がしたいんだけど。滝の裏に来て」
「!? な、なんだよ。今でもいいだろ」
(イヤよ。皆の前で頭を下げるのは、何となくみっともないし。)「今夜ね」
「……わかった」
(これで姉妹喧嘩を追わらせよう)
その夜、待ち合わせ場所に向かおうとした彼女は気づいた。
(空気が冷たい?)
ラミア族の住処は、近くに溶岩流の洞窟があるとかで、いつも温度は高いはずらしい。
彼女らは冷気に弱いから。
「みんな! 姉様! 大母様!」
異変を伝えようと回りを見渡して。
「え?」
悪夢があった。
姉様は、キョウダイは、皆白く身体が変色してぐったりとしている。息はしていないように、見えた。
中には、息がある家族をハーピーが襲っていた。
「おまえら! 一体どこから!」
彼女は戦った。しかし戦おうとして、冷気で体が鉛のように重いことに気づく。
「大母様!」
私じゃ何もできない。そう思いクイーンに助けを求める。
しかし、いつも母が座っている台座にいるのは見知らぬ金髪の女だった。ハーピーの女王だろうか。
「大母様ぁ!」
彼女は駆け寄ろうとして、周りのハーピーたちに取り押さえられたらしい。
「放せ!」
「あら? あなたが私の家族を苛めてた噂の若い蛇の子かしらん」
「あんたは、誰よ……」
「私はハーピーたちの母よ。ラミア族と争って300年、ついにこの憎い女にトドメをさせるとはねぇ」
「うぅ……」
蹴りつけられたクイーンは呻き声を上げた。
「か、母様!」
「あんたか……、逃げな」
「あははははっ! 見てなさい。あなたの母の最期を」
そういって、そいつはクイーンの胸に手をねじ込み心臓を抉り取った。
「あああああああああああああああっ!」
「綺麗な色」と言って、ハーピーの母を名乗る女は、心臓を飲み込んだ。
「おまえっ!! 殺す!」
「さて、残りはあなただけね」
「え?」
周りを見渡すと。
姉様も。キョウダイたちも。みんな。
死んでいた。
「そんな」
「しかし、呆れた生命力ね。まだ、若い魔物のくせに。特殊固体かしら」
「そうだ! 大姉様! 大姉様助けて!」
自分たちの家族のNo.2。それを彼女は呼ぶ。こんなときに何をしてるの!
「あなたの家族の長女よ。私たちを招いてくれたのは」
「え?」
「ラミア族は、家族の結束が固い種族なのにねぇ」
「嘘」
「生意気な末っ子を、殺してくれとさ。姉妹で殺し合いをするようになっちゃあ、ラミア族もお終いね」
彼女はその言葉に真っ白になる。
「それじゃあね。最後のラミア族」
ハーピーの親玉の鋭い鉤爪が胸を切り裂いた。
それが彼女が見た最後の光景である。
◇
「……って、ことがあって……」
佐々木さんは、自らの波乱万丈のラミア人生を語り終える。
空気が重い。彼女の話で私たちの雰囲気はとても沈んでいた。
「許せないわね、そのハーピーと裏切り者は! 私の魔法で吹っ飛ばしてやるわ、あや!」
「え、ええ。ありがとう……」
「.....すみません。そんなつらいことがあったのに、先ほどはひどい態度を.......」
「あ、うん。私は気にしていないから........」
どうやら、許してくれるらしい。優しい。
「……」
「高月くん? どーしたの?」
(ああ、
「もっと、がんばろ……」
マコトくんは彼女の話を聞いて、私の時と同じようにショックを受けたらしい。
また、うなだれていた。
「なんか、苦労してるのね。高月くん」
佐々木さんは彼の様子に同情したように言った。
こんなことをしている場合じゃない。
早くここから出なければいけない。
佐々木さんに上層に上がるための道を聞く。
「上層? 地底湖の上に上がる抜け道なら、姉様たちに聞いたからわかるよ」
「よし! 二人とも、行こう。戻れそうだ」
どうやら知っていたらしい。これなら帰れそうだ。
「えっと、その......ねぇ、私は......?」
佐々木さんが不安げな顔をする。
「一緒に行こう」
マコトくんが手を差し出す。
「うん!」
はあ~、また女の子を
私は、彼を呆れを含んだ目で見たのだった。
過去回想が長くなってしまった。
さーさん出せた。これから女子組の絡みを書いていきたいです。
大姉さまの設定はweb版と書籍版を採用しています。
最後になりますが、お気に入り登録、感想、高評価を貰えると励みになります。
なにとぞ、よろしくお願いします。