「さて、じゃあハーピーの女王を倒す作戦会議だな」
「「「「「おー」」」」」
翌朝、私たちは酒場の奥の席でまた集まって話合っていた。
議題はハーピーの女王の討伐方法。
「そうだ、佐々木殿これを」
「私?」
佐々木さんは、昨日ニナさんと服を買いに行ってたらしい。今は、ワンピースのような服を着ている。
「こちら、冒険者カードですぞ」
「え? それって冒険者ギルドじゃなくても、貰えるんだっけ」
どうやら、また彼の交友関係が火をふいたらしい。藤原さんの、苦笑がそれを裏付けていた。
「えーと、名前は佐々木あや……。種族が、亜人?」
「通常の方法でギルドに行くと、魔物だとばれてしまいますからな」
「ああ、たしかにそうね」
「知る人は少ない方が良いですもんね」
私たちが、その記述に納得している中、マコトくんが疑問を出した。
「魔物ってばれるとまずいの?」
ええ~、マコトくん、それはちょっと
「高月様……」
ニナさんも、呆れた顔をした。
「魔物や魔族は、冒険者カードが作成できません。この人族の世界では、討伐の対象ですからな」*1
「そうなんだ」
「じゃあ、ラミアってことは隠せばいいのね」
「はい、佐々木様の肌は青白いので、種族を聞かれたら海人族とでも答えるのがよいでしょウ。南国のほうでなければ居ないので、めったに会う心配はありません」
そうなのか。さすがは有能な二人。色々考えて手を打ってくれているらしい。
「では、本題ですな」
藤原さんが、取り出したハーピーの女王の手配書と、他にも何枚かの紙を広げる。
「ハーピーの弱点は、火魔法?」
「まあ、羽はよく燃えるからな。頼むぞルーシー」
「ええ、任せて!」
「雷魔法も効きそうですね」
やはり、空を飛ぶ相手には魔法が有効だね。まあ空中で肉弾戦をやれる人がいるかはわからないけど。
「ハーピーの数ってどれくらいなんでしょうネ?」
「ラミア族の家族が、大体100人くらいの規模だったから、同じくらいじゃないかな」
「そんなにいるなら、私は剣にならずにそのままに、頭数を増やした方が良いかもしれないですね」
「その数をまともに相手にするのは避けたいですな」
「まとまっているところを、不意打ちで一網打尽にできないかな」
「ルーシー様の火魔法でしたら、うまくいけば……」
「ルーシーのノーコン魔法に、過度の期待はしないほうがよいよ」
「ちょっとぉ! まこと」
う~ん。やっぱり、空を飛ぶのと数が多いのがネックか。
「ねえ、高月くんの水魔法? あれも凄かったじゃない」
隣に座る佐々木さんがマコトくんに聞く。
あぁ~、うん。それか~。
「水魔法は、攻撃に向かないんだよ。魔物に囲まれた時に使った『水龍』の魔法は、魔物を吹き飛ばしただけで、倒したわけじゃないよ。中には溺れ死んだやつもいるかもしれないけど」
そうなのだ。水魔法は他の魔法に比べて攻撃力が低く見た目ほどダメージはないのだ。
それにマコトくんの魔力量だと私を装備するか精霊に力を借りるかをしなければ使えない。
前者は頭数が減ること、後者は連発ができないことであまり使えない。
「水魔法・水龍! 超級の魔法ではないですカ」
「精霊にお願いして使ってもらったので、俺が使えるわけじゃないですよ」
「それでも大したものですぞ」
「うん、高月くん凄かったよ」
確かにすごいことだ、そんなに使えるものではないとは言え、彼の魔力量で私の力を借りずに超級魔法を使えるのは隠密性が高い。
「攻撃は、私がやるわ。問題は、ハーピーの親玉がどこにいるかね」
ルーシーさんが言う。
確かに彼女が適任だろう。私たちの中で一番火力の高い遠距離アタッカーだし。
だから、その、くっついている佐々木さんに対抗してマコトくんに近づかないでもらえると.....
「たぶんだけど、ラミアと同じでどこかに住処があると思うの」
佐々木さんはますますマコトくんにくっつく。
それを見てルーシーさんはますます近づく。二人に挟まれてマコトくんは窮屈そうだ。
二人ともうらやましい......じゃなくて、あなたたち、今は作戦会議中ですよ。それは後にしてください。
「うーむ、冒険者ギルドで色々聞き込みをしてみたんですが、ハーピーの巣についての情報はありませんでしたな」
「自分たちで探すしかないか……」
「じゃあ、今日は二手に別れよう。俺とさーさんは、大迷宮を探索。ふじやん、申し訳ないんだけど残りの二人を同行させてもらえないかな。二人は、ニナさんたちと冒険者の町の聞き込みを頼む」
確かにその割り振りが適任かな。
「ええ! どうして。私も大迷宮に行くわよ」
ルーシーさんが抗議の声を上げるが.......
「ルーシー様、今の大迷宮はどこでドラゴンと遭遇してもおかしくない状況。探索は危険ですヨ」
「うっ、確かに……。でも、それならまことだって!」
「俺は周りに水さえあれば、逃げるだけならどうにでもなるよ。あと、精霊魔法を使うために、毎日水の精霊に会いに行く必要があるんだ」
「そうですね、私たちの中で一番隠密性が高いのはマコトくんです」
しかし、精霊魔法を使うには精霊とコミュニケーションを取らないといけないのか。
なかなか、難儀な魔法である。
「そうなのですか。なかなか大変なんですな」
「そのおかげで、超級魔法が使えるからね」
「私は高月くんにダンジョンを案内すればいいのよね?」
「ああ、ついでにスキルの練習をしよう。隠密スキルは覚えておいたほうがいいと思う」
「わかったわ。高月くん、楽しそうね」
「え?」
確かに、ワクワクしているように見受けられる。
こういうのが好きなのかな?
「ごめん、さーさん。もっと真剣にならないとな」
「ううん、私一人だと滅入っちゃってたから。みんなで協力するのって良いね」
佐々木さんは昨日と比べて表情が柔らかい。よかった。
そうして、方針が決まった後、私たちは分かれて行動することになった。
「ねー、まこと。二人っきりだからって変なことしちゃだめよ?」
「なんだよ、変なことって……」
「夜は私と修行だからね」
「当たり前だろ。ルーシーの火魔法が、今回の肝だからな」
「うん!」
「では、ルーシーさん。私たちも準備することにしましょう」
「アイテムなどの消耗品は任せてくだされ」
「必要なものがあればいってくだサイね」
「よし。じゃあ、みんな行動開始だな」
◇佐々木あやの視点◇
「どう? さーさん、隠密は使えそう?」
「うん、なんとなくわかってきたかも。でも難しい」
私は高月くんと一緒に大迷宮の中層の地底湖の巨大な滝の裏の広場に来ていた。
現在『隠密スキル』の練習中である。
「…………」
隣をみると、高月くんが空中に手を広げ、何か小声で話をしている。
「何してるの?」
「この辺の精霊に話しかけてるんだ。仲良くなろうって」
「えーっと、精霊と仲良くなると精霊魔法って強力になるんだっけ?」
「そうそう、癖のある魔法でさ」
「精霊とは仲良くなれそう?」
「ああ、大迷宮の精霊はノリがいいね。話しやすい」
「ふぅん」
私には、精霊とやらは見えないのでぴんとこないが、高月くんは楽しそうだ。
いつだったか、この世界に彼がいたら喜ぶだろうなと思ったその通りの様子だった。
そんな彼をぼんやり眺めながら、スキルの練習を続ける。
「しっ! さーさん、ハーピーがいる」
「!」
体が冷える。少し浮かれていた心が緊張と憎悪で引き締まった。
「さーさん、あいつらはいつもあの辺からやってくるの?」
「……うん、私の知る限り光が差し込んでる、あの大穴のあたりから来るわ」
「となると、巣もあの辺にあると考えたほうがよさそうだな」
「でも、空を飛べない私たちじゃあそこには行けないし……」
それを聞いた高月くんは「う~ん、トーカさんに運んで行ってもらうか?でもな......」とつぶやいた。
へ~。トーカさんって、剣咲さん.....あの剣の女の子だっけ?そんなこともできるんだ。
「まあ、方法はあとで、みんなで考えよう。……あいつら、どこかに飛んで行ったな」
高月くんの言う通り、ハーピーは地中湖の奥へと消えていった。
「もう大丈夫だね」
「うん」
空気が戻る。魔物に見つからないようにしているためとても静かだ。
(でもねー)
全てが心穏やかかというと、そんなこともない。気になることはある。
(二人きりの機会って、実は貴重かもしれないし)
なるべく、さりげなく。自然に会話するように声をかける。
「ねぇ、高月くん。パーティーの二人とはどんな関係?」
あ、ちょっと聞き方がストレートだったかも。
変に思われてないかもなー。でもね、気になる。
二人ともかなりの美少女。女の私でもドキッとしてしまうくらいの。
どっちも、私の事情を聞いて力を貸してくれるいい人だ。
(あの、高月くんがねー)
中学時代は私以外親しい人がいなかったのに。
「どんなって、言ったろ。半年くらい前に一緒のパーティーを組んだ仲間だよ」
「女の子が多いパーティーなんだね?」
「ふじやんと一緒だったり、他の冒険者と組んだりその時々で面子が変わるよ。一番多いのは、ソロかな」
「一人で冒険するの?」
「気楽だからね。ゴブリン狩りとか、俺プロだから」
なぜか、どや顔をしている。
そういう彼は、中学の時一人休み時間にゲームをやっていた時と同じ顔だった。
(こういう所は変わって無いなー)
「でも、今度からはさーさんも入れて4人パーティーだね」
「え?」
「あれ? だめだった?」
「ううん! 勿論、いいよ!」
びっくりした。
そのうちこっちからパーティーに入れてもらおうとお願いしようと思ってたから。
そっか、私はもうパーティーの仲間なんだ!
「あ、でもまだ二人に相談してないな」
「……」
「でも、きっと大丈夫だよ」
そういえば、剣咲さんはまだしも、ルーシーさんは呼び捨てにしていた。
私の知る限り、高月くんが呼び捨てにするような女友達はいなかったはずだ。そう考えると、ルーシーさんとは随分親しげだ。
呼び捨てではなくても剣咲さんとは信頼し合っている感じだし。
(ただ、こっちの世界だと名前呼びが普通みたいなんだよねー……)
一緒に命を預けて冒険をする仲間だ。呼び捨ては信頼の証ということなのだろう。
同じ理由で剣咲さんも。
(私も「まこと」って呼んだほうがいいのかなー。でも、急に呼び方かえると変だし……うー)
もやもやしながら、その日の修行と探索を続けた。
◇ルーシー・J・ウォーカーの視点◇
「じゃあ、炎をコントロールする練習をしようか」
夕食を終えて、冒険者の町のはずれで、まことと修行を始める。
私は今日一日、トーカ、ふじやんさんとニナと一緒だった。
冒険者ギルドや、商人たちからハーピー女王の情報を集めていたが、結果は芳しくなかった。
みんな噂しているのは『忌竜』と『太陽の騎士団』と『光の勇者』の話ばかりだ。
「なんでも2、3日中に太陽の騎士団が、『忌竜』の討伐に出るんだってさ」
「へぇ、じゃあ討伐が終われば、大迷宮の魔物も落ち着くかな」
「そういう噂よ。冒険者も商人も、上層でドラゴンが出たせいで探索者が減って商売にならないって嘆いてたわ」
「まあ、そうだろうなー」
そういいながら、まことは水魔法で小さな龍を作って、フワフワ飛ばしている。
ちょっと、前までは水弾だったのに。
どんどん芸が細かくなってる。
ふと、トーカの方を見る。
彼女は魔法闘技の型の練習をしているのだ。
視線を向けた先には素手で鉄板に穴をあけているトーカの姿があった。
…………強化魔法を使わずに、「あれ」っていったいどうなっているのかしら
「ルーシーは、岩弾はいくつまで出せるようになった?」
「3つだけ……」
「おー、いいね。増えたね」
そういうまことの周りにはミニサイズの水龍が9匹飛んでいる。
バカにされてる気分だ。
「何をどうやったら、そんな細かいコントロールができるの?」
「水魔法の熟練度が120超えたら、できるよ」
「……もういいわ」
聞いた私がバカだったわ。
まったく参考にならない。
熟練度:120ってなに?私の周りには変態しかいないの!?
私の火魔法の熟練度は15で土魔法が11。
ただし、土魔法のほうが使いやすいのは杖のおかげだ。
正確には、巨神にかけてもらった魔法の杖のおかげか。
今の修行は、土魔法と火魔法を組み合わせた『隕石落とし』の数を増やす修行だ。
今回の敵であるハーピーは数が多い。
初手で、なるべく多く仕留めたい、というのがまことの意見だった。
(ハーピー
今回の冒険は、最近知り合ったラミアの少女が原因だ。
異世界からラミアに転生した女の子。そして、まことの知り合い。
(どんな知り合いなんだろ)
なんでも「同じ学校で勉強した友達だよ」とは聞いた。
前はもっと大人しい子だったけどね、と言って笑っていると「どーいう意味よ」ってあやが、まことの頭をはたいていた。
仲がいい。
だけじゃなく、距離が近い。
(今日は二人きりで、大迷宮を探索してたし……。しかも、パーティーに誘うって言ってたし)
佐々木あやをパーティーに誘う。
それは、何の文句も無い。
まことやふじやんさんの友人。彼女に異世界人でこっちに知り合いは他に居ない。
しかも、魔物に転生しているから、事情を知らない人とはいられない。
困っている友人を助けようとするのは、当然だろう。
ただ、気になるのが。
(多分あやは、まことのことが好きなんじゃないかなぁ……)
昔から惚れていたのか。
こちらの世界で再会して惚れたのか。
それはわからない。
「ところでさ、ルーシー。明日なんだけど、トーカさんと一緒にさーさんに町を案内してもらっていい?」
「え? きゃぁ!」
急にまことに話を振られて、コントロールしていた岩弾を落としてしまう。
火魔法で熱せられた、岩石が地面を焦がした。
「大丈夫?」
「う、うん。ところで私たちだけ? まことはどーするの?」
「俺は引き続き大迷宮の探索と精霊とのコミュニケーション。こういうのは女子でだけのほうが話も弾むだろうし」
「一人で大丈夫なの?」
「抜け道は全部、マッピングしたから一人でも大丈夫だよ。さーさんに、買い物の仕方とかお金の使い方とか教えて欲しいんだ」
「わかったわ……」
3人でお出かけ。トーカとは服を買いに行ったことはあるけど、そこにあやが入る。
何話せばいいのか……。
私は修行が終わってもやもやしながら、その日を終えた。
次回、女子会。
ちなみに、トーカの接近戦能力はさーさんに一歩及ばないレベルです。
彼女の方が才能が有り、そしてトーカは人間態が真の姿ではないからです。
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