.....何日ぐらいここに居たのかな。
私は巣の隙間から見える空を見ながらそんなことを考えた。
もう何度も日が昇り沈んだ。最初のほうは数えていたけど途中で空しくなってやめてしまった。
あのドラゴンに負けて私はすっかり腑抜けになってしまった。
あのドラゴンの巣で動かず、ずっとぼーっとして過ごす。
ドラゴンがいなくなると逃げようとするのだが、そんな時、思い出すのはあの戦いだ。
何とか鱗を突破しようと攻撃をためていた私をあの爪が正確に捉えた。
あの時の衝撃と痛みはすごかった。
前世で日常的に痛みにさらされ、そして死の痛みを覚えていたからこそあの痛みには耐えることができたんだと思う。
竜の巣から逃げる算段はまだついていない。
不在の時に出ようとしても近場に気配を感じるため逃げても追いつかれると思い動くことができないのだ。
(我慢、我慢。いつかチャンスは来る.....)
私は虎視眈々と機会を狙うことにした。
(なんだろう?気がとても立っている....?)
あのドラゴンが巣の中にいるのにとてつもなく殺気立っていた。
いつもならばこの巣の中にいる間は比較的穏やかな雰囲気であるのだが、今日はあの日の戦闘で感じた以上の殺気をまき散らしながら落ち着きがない。
(何かを警戒している.....?)
その様子から私はそう思った。
(一体、何に?)
バサッ、バサッ
その姿を見た時、竜がこんなにも警戒する相手に納得した。
そこには赤い竜がいた。
(竜と竜の縄張り争いかな?)
二匹はすぐさま飛び出し空中で激しい戦いを繰り広げている。
片方はブレスを放ち、片方は巨体を生かした体当たりを仕掛ける。
私はその戦いを見て思った。
(今なら、逃げられる!!)
そう、緑竜は赤竜で手一杯。そして2匹の実力は見たところ伯仲している。お互い以外が見えていない今のうちが逃げるチャンスだ。
久しく使っていなかった念動を動かす。自分を持ち上げ、急激に回転をかけていく。
解析で二匹の動きのパターンを読む。相手の動きを予測する。
魔力変換でここ数か月貯蓄していた魔力を消費し、攻撃力を上げていく。
そして....
(くらえ!!)
二匹の竜に突っ込んだ。
鈍い音を立てて私は緑竜の体をえぐった。
絶叫が響き渡る。
心臓は狙わない。片方の竜が倒れたら今度は自分が狙われる。
なのに私が緑竜を狙ったのは、
(ざまぁみろ)
どうやら私は、相当ストレスが溜まっていたらしい。殺さずにしかし、致命的な一撃を与えた。
二匹の竜の意識が私に向けられる。しかし、目の前の相手に対して隙はさらせないため私がここから逃げれば追えはしないだろう。
私はすぐに加速し巣から離れる。
緑竜は私を追おうとしたが、赤竜がその隙を突こうとしたためどうやら諦めたようだ。
私は逃げる。高速で飛行し巣からの距離を引き離した。
竜の縄張りから出る。そのためにどんどん魔力を消費して加速していった。
高月マコト視点
「お、期待のルーキー、
「毎日、雑魚狩りお疲れ様ね」
「たまには、大物も狙おうぜ」
「ダメよ、彼は『魔法使い見習い』だから」
「しかも、ソロだからな」
「魔法使い見習いのソロなんているわけないだろ」
「それがいるんだな、ここに」
「「「あっはっはっは」」」
冒険者ギルドに帰るなり、野次が飛んできた。
どうしてこうなった。
冒険者になって、三ヶ月が過ぎた。
最初のクエストでは、無事角うさぎを納品できた。
おまけに5体のゴブリンの討伐を報告。
そしたらギルドのお姉さんに「はあ? 信じられない」と言われた。
さらに無茶をしたわねと、叱られた。
別に無理したつもりは無かったんだけどな。
ギルドの職員を驚かせたことに気分を良くした俺は、翌日からもゴブリンを狩った。
見つけたゴブリンの集落は、2週間かけて全滅。
これが冒険者ギルドで、ちょっとしたニュースになった。
ゴブリンの集落がどこにあったかを問い詰められ、魔の森の近くだと答えると、納得してくれた。
魔の森付近には、いつもたくさんのゴブリンがいる。
ただし、魔の森は
そのうちブロンズランクにしてやるから、あまり無茶をするなと、注意された。
冒険者ランクを上げたいから、無茶をしていると思われたらしい。
もっとも俺の目的は、『レベル上げ』と『寿命延長』である。
冒険者ランクは、重視してない。
冒険者ランクを上げても、魔法使い見習いってだけで他の冒険者にはバカにされるし……。
レベルが上がるとステータスが上がる。
体力とか筋力とか魔力とか。
ステータスが上がると冒険者につきものな怪我をしづらくなる。
生き延びるために、レベル上げは必須だ。
ゴブリンは、人を襲う危険な魔物なので、倒すと『貢献ポイント』が溜まるのも嬉しい。
角ウサギや大ネズミでは、ポイントにならない。
『貢献ポイント』が溜まると寿命が延びる。
俺の寿命は、未だ10年弱。
コツコツ稼ぐしかない。
レベル上げは楽しい。
『魂書』を見てレベルが上がっている瞬間、テンションが上がる。
ゴブリン狩は、慣れれば楽だ。
リスクが少なく、堅実にレベル上げできる。
魔の森の近くで、ゴブリンを見つけては狩りまくった。
その結果、
かっこ悪いよなあ。
どうせならもっとイカす二つ名がよかった。
自分の二つ名をからかってくる他の冒険者を無視しながらギルド内にある串焼き屋台の前のベンチに腰掛け、屋台の店主に注文した。
「大将、串焼き盛り合わせ」
「あいよ」
「飲み物はどうする?」
「りんごソーダで」
注文を聞かれたので串焼きとソフトドリンクを注文する。お酒は苦手だ。
目の前では、タレが焦げる匂いが鼻孔をくすぐる。ギルドの屋台は他にもいろいろあるが、ここが一番のお気に入りだ。日本の焼き鳥に味が近い。
なんでも、この味は昔異世界人が広めたのだとか。
その異世界人は、きっと日本出身なのだろう。
追加注文したおにぎりと一緒に甘辛いタレ味のぷりぷりのモモ肉の串焼きにかぶり付く。
「美味い」
「ありがとよ。ところで今日の狩りはどうだった?」
大将は、顔なじみで気さくに会話できる。
「ゴブリン22体に、角うさぎ5体かな。肉はこの店に入れるように言っておいたよ」
「いつも悪いな、マコト。飲み物代はタダでいいぜ」
これもお決まりのやり取りだ。
そんな風に世間話をしていると隣に誰かが座った。
「おう、盛り上がってるな。大将、エールと適当に串焼いてくれ」
「あいよ。ルーカス、帰ってきたのか」
「
「たったの5日ぶりですよ。お疲れ様でした」
「おし、乾杯。ぷはー、美味ぇ」
ルーカスさんは、この町のベテラン冒険者でランクはゴールド。二つ名もあり『竜狩り』。俺みたいな新人の指導役としてギルドからの信頼も高い。
「にしてもマコトもそろそろ、ダンジョンとか挑戦してもいいんじゃないか? レベル15近いだろ」
「レベル20になったら、近くにある初心者ダンジョンに挑戦しようと思ってますよ」
「あそこの適正レベルは、10~12くらいなんだけどな……」
「僕は、弱いですからね。慎重にいきますよ」
変なことは言っていないはずだが、大将とルーカスは顔を見合わせている。
「なんだ、このルーキー」
「ベテランから注意することが何もないな」
いいだろう、慎重なほうが。
「お、飲んでるねー。諸君」
「マリーさん、お疲れ様です。仕事上がりですか」
「なんだよ、割り込むなよ、マリー」
そこに冒険者から人気のギルドの受付のマリーさんも来た。
新人に対して世話好きであり、そして無類の酒好きである彼女は、仕事終わりには必ずギルドで飲んでいく。
おかげで、最近は絡まれることが日課になっている。俺は、飲まずに夕食を食べてるだけなんだけどな。
「私エール一つね。あと、野菜を適当に焼いて!」
「あいよ」
「それじゃ、かんぱーい、はぁー。仕事上がりの一杯は格別だわー」
「おう、マリー。こんな小汚い屋台で飲まずに、男でも作ってお洒落なバーにでも行けよ」
「マリーさん、ペース早すぎですよ」
黙っていると美人なんだけどなぁ。飲んでる時のマリーさんは、冒険者に引けを取らない酒豪だ。
周りから嫉妬の視線で居心地が悪い
そんな風に夕食を食べていると
「はっ! ゴブリン狩りくらいで偉そうにしやがって」
そんな声が聞こえた。
振り向くと、若い戦士姿の男が立っている。ジャンとかいう、新人冒険者だっけ。
半年くらい前に冒険者になったらしい。現在のランクはブロンズ。半年で昇級はなかなかのスピードだそうだ。
しかし冒険者暦三ヶ月の俺が『ゴブリンクリーナー』として有名になってしまったのが気に食わないらしく、たまに絡まれる。
「おいジャン。新人同士、仲良くしろよ」
「ルーカスさん! 最近は、なんで稽古をつけてくれないんですか!」
「俺はストーンランクの間は、面倒見るが、ブロンズランク以上は一人前として扱ってるよ」
「だめよー、ジャンくん。マコトくんはおとなしいんだから、怖がっちゃうでしょ」
別に怖がってはいない。
いや、どうかな。
ジャンの後ろには、魔法使いと僧侶の2人が立っていた。3人パーティだ。
正直、1対3は怖いので、大人しくしておこう。
「別にいいんじゃない。彼、魔法使い見習いでしょ? 『中級剣士』のジャンが気にすることないと思うけど?」
ジャンに声をかけたのは、赤い髪の魔法使いの女の子だ。随分、露出の多い服を着ている。
派手な美人だな。
「そうそう、さっさと討伐クエストをこなしてアイアンランク目指すんでしょ」
と言っているのは、僧侶の女の子。こちらは少し童顔の可愛い系。
女が多い。
ハーレムパーティか……。
けっ!
男は黙ってソロだろう。
「お、討伐クエストか! 相手はなんだ?」
ルーカスさんが、話の矛先を変えてくれた。
「
「ほう! ブロンズ級パーティで、オーガか。通過儀礼だな。がんばれよ!」
「はい! やり遂げて見せますよ! おい、マコト! 先にアイアンランクになるのは俺だからな!」
言い捨てて、去って行った。
僧侶の女の子からは、申し訳なさそうに頭を下げられた。僧侶の子はいい子だな。魔法使いの女の子は、こちらに興味ないようだ。
「気にすることないわよ?」
マリーさんが、慰めてくれる。
いや、全然気にしてはないですよ?
「俺はマイペースにやりますから」
明日も、日課のゴブリンを倒すだけだ。
「言っておくが、ゴブリン22匹を一人で、1日で倒すのは、マイペースとは言わないからな」
ルーカスさんにあきれたようにツっこまれる。
いいんだ、これが俺のマイペースだから。
しばらくは、今のやり方でいこう。
「そうだ、マコト」
夕飯も食べたので今日はもうお開きにしようという空気になってきたところで、ルーカスさんが声をかけてきた。
「今度、竜の討伐隊が組まれるんだがお前も一緒に来ないか?」
ルーカスさんはそう言って、俺に『竜』に関する依頼を持って来た。
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hoi愛好家様、評価ありがとうございます。