シナリオ崩壊しても知らねぇぞ!   作:名無しのマスター

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あ^~シナリオ崩壊の音ぉ~

 「人理保障」という世俗では聞き慣れない単語になぜか親兄弟の名前でもないのにまるで人生の半身かのような馴染み深さを覚えてしまう奴はそう、大抵が“その作品”を知ってる者ではないのかと、私は思う。

 

 Fate/Grand Order。

 

 惰性で達成感を失いながらもネットの話題を100%とはいかずとも80か60%ぐらいは楽しむためにやる義務周回と偶に物凄い角度から殴られる良質シナリオが話題の大人気ソーシャルゲームだ。

 

 前世の。

 

 そう上述している私はそう、お察しの通り何の縁かどこぞの上位存在の悪ふざけか、少なくとも世界が三回ぐらい滅ぶこと確定の末世世界に転生してしまった。

 

 いや最初は普通の一般家庭で人生二周目だと意気揚々と構えてましたよ、最初は。

 

 だがそれも軽い気持ちで行った献血サービスとかいう罠にかかって砕け散った。血を提供しに行っただけなのに世界を救う使命を負わされる羽目になるとかほぼ詐欺被害の心境である。そんなお釣りいらねぇよ!

 

 しかしカルデアに連行されてしまった私には、まだ一縷の希望があった。

 そう、転生者という自覚。一度は死に、再びこうして現世を生き直しているという、唯一のアドバンテージ。

 FGOにはきちんとビジュアルの決まった主人公がいる。ゲームでもアニメでも漫画でも色んなコンテンツで見た「藤丸立香(仮名)」がいる。

 

 そう、転生者としての私が最後に縋った希望は──“死”だ。

 

 序盤でレフ爆弾に巻き込まれてこの世ログアウトすることで人類最後のマスターとなることを確定回避し、無事、原作ゲーム展開に繋げるという危機回避のその向こう側に突っ込んだ作戦である。

 

 だって別に死が終わりでないことを「知って」いますし……

 明らか未来のこととか知ってる異物を除外しつつ、原作そのままをお客様にお届けする! それを世界も望んでいるに違いないのだ! ないったらないのだ!

 

 コングラチュレーション!! FGO、完!! アトヨロシク!!!!

 

 これぞ死を大前提にした究極陣地、汎人類史の流れを護りつつ、自動世界救済も視野に入れた作戦だ!

 

(──ふむ)

 

 さて場所は管制室。

 集められた48人のマスターに向けて、我らがオルガマリー所長が説明会をしてくれる場面である。

 

 ここで行うことは一つ。

 居眠りせずに所長の話をちゃんと最後まで聞くこと!

 

 それだけ──そう、それだけだ。それだけで死亡フラグが建設完了し、まもなく我々はレフ爆弾で所長もろとも吹き飛ぶことになる。

 

 でもしょうがないよね……人理を護る、いや取り戻すためだもんね。大丈夫だ、一回ぐらい転生があったんだから二回目もきっとアル! 未来を信じて、死に身を委ねよう!

 

「それではこれから作戦の具体説明を──」

 

 ふむ、流石はオルガ所長だ。厳しい口調、張りつめた緊張でピリピリしているが、とても分かりやすい。授業の上手い先生のようにスルスル説明が頭に入る。

 

「こうしてレイシフトによって──」

 

 ……だが、しかしおかしい。

 何がおかしいって? 所長の説明があまりにも滞りないからである。

 

 本来なら。

 本来ならばこの最前列には一人、堂々と寝こける不届き者がいるハズなのだ、が──

 

(…………んん!?)

 

 説明を一区切り終えて、所長が一息ついた頃だった。

 所長の厳しい命令──「自分の指示は絶対」とか「学生気分を捨てて本気で挑め」という至極当然の方針説明に、ざわざわしだす周りに紛れて、私は素早く列の左右を確かめた。

 

 ……寝てる奴(藤丸立香)、いねぇ!?

 

 いない、ということはつまり。

 ここから、キレた所長によって部屋を追い出され、生存ルートに進む「主人公」がいないということであり。

 

「では次に──」

 

 ──このままじゃ普通に爆弾でマスター全員死んで第一部ラスボス大勝利で完!!

 ──となる。

 

 え、いや、そ、それはマズいんじゃ……、

 

「そこの君」

 

「えぁっ」

 

 急にオルガ所長の視線がこっちを向いた。

 …………彼女について色んなものが脳裏をよぎっていくが、何から言葉にしていいか分からず、固まってしまう。

 

「さっきから視線をきょろきょろさせているけど。何か不満? それとも質問でも?」

 

 正直言って。

 これが最後のチャンスだと思った。

 

 このまま「なんでもありません」とノーコメントなら当初の作戦通り。

 でも、でも。だけど、ここで何もしなかったら──

 

 ──確実に終わる。と。

 

 自分の中の、何か、強烈な、確信に近い直感がそう告げていた。

 

「……あー、あの……」

 

「何?」

 

「…………特異点って、なんですか」

 

 鏡を見なくても分かる半笑いだったと思う。

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 至極当然ながら追い出された。

 IDをチェックされ、訓練もしていない素人と分かるや否や、せめて最低限の訓練をして来いというカンカンぶり。

 

 まともな司令官の判断すぎて参っちゃうんすよね……

 

 キレてる上に第一印象となると分かりにくいが、オルガマリー所長はカルデアという人理最後の砦を預かる最高責任者。

 

 そんな施設の大事な大事なファーストミッションに、素人同然の一般人を投入するなんて、とんでもねー話である。おのれマリスビリー(義務呪詛)。

 

「……困ったなー」

 

 色々と一気に考えることが増えた。

 この場合、死は思考放棄、生はつまり考え続けることだ。生き延びることがほぼほぼ確定してしまった以上、やるべきタスクが見えてきて目が遠くなるのを感じる。

 

「先輩」

 

 そして廊下を歩く足を重くさせる要因がここにまた一人。

 

「顔の色が優れないようですが、大丈夫ですか?」

 

 マシュ・キリエライト。

 我々マスター(ゲーム)の命綱である。

 彼女がいなかったら何回か死にますからね。

 

「あー、うん。いきなりやらかしちゃったから、ちょっとね。申し訳ないよ」

 

「それでも貴重な人材の一人であることには変わりません。所長も無責任に先輩を放り出せる人ではありませんよ」

 

 マシュは良い子マシュな……

 しばらくくたびれた人間社会で生きてきたので、ぶっちゃけこんな見慣れているようで全然慣れていない場所でも、彼女という清涼剤がいると落ち着くものがある。

 

 外界を知らないマシュは、物語のスタート地点前なので、精神性はまっ白もまっ白。

 ……それもこれからの旅を通じて色々と学んで、培っていくのだろうけど。

 

「……ところで、君の名前は?」

 

「──そういえば。申し遅れました。Aチーム所属、マシュ・キリエライトといいます」

 

「私は──」

 

 と、言いかけた時だった。

 どこからか、ぴょんぴょんと跳ねるようにして床を駆けまわる気配があった。

 白いリス。ではなく、アレこそは白きリトルビースト、フォウ君である。

 

「あ、フォウさ──」

 

 しかしフォウは、私たちの足元をそのまま駆け抜けて行ってしまう。

 まぁカルデアなんだしいるよなぁ、と一般通過ビーストを二人して見送ってしまったところで、

 

「あら? マシュちゃん?」

 

「……」

 

 廊下の向こうから。

 二人の人物が現れ、エンカウントした。

 

 一人は背の高いイタリア風の顔つきに見えて実は日本人、スカンジナビア・ペペロンチーノ。

 

 一人は常に虚空を見ているような凪いだ瞳と彫りの深い顔立ちが特徴のアメリカ人、デイビット・ゼム・ヴォイド。

 

「あ、ペペロンチーノさん。それにデイビットさんも」

 

 どうも、と新参者としてマシュに倣って私も頭ぐらい下げるべきなのだろうが、普通にできなかった。

 ある一つの感情が胸も頭も埋め尽くしていたからである。

 

 

 ──初手でこの二人は反則じゃねェかァァ──!?

 

 

 運が良いのか悪いのか。

 いやきっと良いハズだ、うん。当たりには違いない。──違いないけれどもッ!!

 

 ……如何やって「全て」を説明すればいいんだッッ……!?!?

 

 途方に暮れる。

 いきなり目の前に聖杯が落ちてきたようなものだ。途方に暮れるしかない。こ、ここからAチーム大生存ルート行って第二部拒否とか……イケますかッ!?

 

「ただいま、所長の指示で先輩を個室に案内していたところです」

 

「所長ちゃんの?」

 

「数合わせの一般枠か」

 

 見てください、自己紹介もしてないのに一瞬で此方の情報を把握したデイビットさんの観察眼を。

 ここまでくるといっそ見抜いてほしいまである。単独第二部RTA走者は格が違う。というかこの人だけ格が天井知らず過ぎる。

 

「先輩。こちら、Aチームのペペロンチーノさんとデイビットさんです」

 

「……初めまして。大変ですね、あんなところでレイシフトをするなんて」

 

「?」

 

 気付け気付け気付け~~!

 いや気付いたってどうしようもないのかもしれないけど!

 ちょっとは……ちょっとは抗ってみたい! コンマ以下の可能性に賭けてみたい~ギャンブラー魂~~!!

 

「確かに、特異点の探索には危険が付き物です。でもAチームの皆さんは一か月前からチームとして訓練を重ねているため、申し分ない成果を期待できるかと」

 

「あら、マシュちゃんも一員でしょう? 頼りにしてるわよ」

 

「はっ……はい。ご期待に沿えるよう頑張ります」

 

 マシュとペペさんが和やかな会話をしているが、その中で私の視線はデイビットとかち合う。

 ……ペペさんも並外れた観察眼を持っているのは違いないが、洞察力に関してはデイビットの方が一線を画す。

 

 正直、この場で対抗策(キップ)を渡せそうなのは、彼しかいない。

 

「……どうにかなりませんかね?」

 

「どうにか」

 

 軽く小首を傾げられる。

 しかし、

 

「……難しいだろうな」

 

「……じゃあ、こっちもこっちで出来る限りはやります」

 

「……すまない。よろしく頼む」

 

 言葉が重い。

 というかこんな会話パルクール状態でも通じるって、デイビットさんってすげぇや。

 

「……では、お手柔らかに」

 

「ああ」

 

「ええと、二人とも?」

 

「先輩……?」

 

 じゃ、では、と会釈を返して、歩き出したデイビットとすれ違っていく。

 完全に置いてけぼりにしてしまったマシュが遅れて駆け寄ってくる気配と、ペペロンチーノもまた同じようにしてデイビットへついていく気配を感じながら、

 

 ──どうしたもんかなー、これ……

 

 FGO、序盤から極ハードモード過ぎて辛い。

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

「はーい入ってま──っうぇぇぇぇ!? 誰だ君は!?」

 

 マシュに案内された個室へ行くと、案の定というかいっそ感動すら覚える予定調和で、ロマニ・アーキマンがいた。

 

 なにやらベッドの上で今まさにケーキを乗せた皿を片手におやつタイム! といったところだった。

 

 くつろぎすぎだろ。

 

 まあいいや。

 

「ボクのさぼり場に誰のことわりがあって入って来るんだい!?」

 

「あー、はいはい」

 

 適当にあしらいながらその手にあるケーキとフォークを強奪する。

 呆然とする彼を放置したまま、そのへんにある椅子に腰かけてケーキを食う。

 

「ボクのおやつ!? あまりにも自然な流れで奪われたけど、君一体なんなんだい!?」

 

「はい? 何を言ってるんですか。私の部屋にあるものは私のものに決まっているでしょう。あ、ドリンクあります?」

 

「君の部屋……? って、あー……そっか、ついに最後の子が来ちゃったかぁ……にしても物凄い図太さだな!?」

 

「ミッション前にサボってる人に言われたくないですよ」

 

「うっ……そ、それは言わないでほしい。ともあれ、はじめまして。ボクは医療機関のトップ、ロマニ・アーキマン。君は?」

 

成白(なりしろ)明楽(アキラ)です」

 

「明楽ちゃんかぁ、よろしくね!」

 

「はい。よろしくお願いします、ドクター」

 

 ケーキを食べ終わったので皿を返す。

 ごちそうさまでした。

 

「え、えぇっと……君はどうしてここに?」

 

「献血サービスに騙されて……」

 

「騙されてきたの!?」

 

 束の間の、そしてきっと最後の平和な時間だ。

 生き残れるのだろうか……

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 前略。

 管制室が爆弾で吹っ飛んで特異点・冬木にレイシフトした。

 

 なんだこの運命のスピード感?

 

 もっと丁寧に解説すると、突然カルデア内が停電したので、ロマニと管制室へ向かうと火災が発生していて、地下発電所をロマニに任せ、私は瀕死のマシュを見つけたところ、カルデアスが起動して冬木へレイシフトしていた。

 

 そして現在、霊脈地。

 オルガマリー所長と合流し、マシュの盾をレイポイントに設置。召喚サークルが設置されたところだった。

 

「所長、所長。戦力補充とかできないんでしょうか、召喚で」

 

「……はぁ」

 

 これだから素人は、とでも言いたい目を向けられる。

 いい? と人差し指を立てられた。

 

「カルデアでも何度か召喚実験は行いました。でも上手くいかなくて、成功例は数えるほどなの。それに縁も触媒も足りないわ。ま、貴方が歴史に名を刻むほどの偉人かなにかだったなら、『歴史に名を刻んだ自分』を呼び出す、なんて芸当もできるかもしれないけどね?」

 

 プレラーティじゃあるまいし……

 

「じゃあさっき拾ったこの石、使えませんかー」

 

「石? 特異点で何をやってるの貴方……って!?」

 

 両手一杯に持っていたのは虹色に光る聖晶(ガチャ)石。

 探せば落ちてるなんて特異点は最高ですね!

 

「聖晶石……疑似霊子結晶。数多の未来を確定させる概念が結晶化したもの、ですよね。流石は先輩、抜け目ありません。これなら触媒としては充分な機能を発揮するのではないでしょうか」

 

「ば、馬鹿言わないで。触媒はあったとしても、システム・フェイトによる召喚には英霊側とマスター側、双方の合意が必要よ! 大体貴方、新米マスターがどんな英霊と縁があるっていうのよ!?」

 

 それは……そうなんですが……

 でもこのリアルFGO環境、これからキャスニキという助っ人が出てくるとはいえ、マシュ一人に前衛を任せたまま突き進むのはかなり無茶な気がしてしまう。せめてあと二人くらいは戦闘要員が欲しい。

 

『やるだけやってみたらいいんじゃないですかね? こうして通信が安定したし、今のカルデアの電力なら……最低でも二騎までサーヴァントを維持できる。少しでも所長たちの生存率が上がる可能性があるなら、試みても悪くないんじゃないかと』

 

「ロマニ、貴方ね……」

 

 思わぬ援護射撃に、はあ、と本日何度目かの溜め息をつくオルガ所長。

 やがて。

 

「……いいでしょう、召喚を許可します。ただし、私の命令には絶対に従うこと! いいわね!?」

 

「了解しました、オルガマリー所長」

 

 では、と召喚サークルに向き直る。

 

「いい? 私の後に詠唱を唱えて。そしたら聖晶石を陣に──」

 

「人権来いッ!!」

 

「──ほぁぁああ!? いきなりぶっ込む奴がいるか──!?」

 

「えっ」

 

 とりあえず石三個を投げ込んだところ、なにやら召喚サークルが虹色に輝き出す。

 半発狂した所長に胸倉を掴まれるものの、輪は三重を描き、そして──

 

「……! サーヴァントの気配です!」

 

「えっ、嘘!? 初回一発で!? この土地、なにか強力な結びつきのある英霊がいたってこと!?」

 

『クラス解析! これは──これは、エクストラクラス……? なんだ、このクラスは!?』

 

 えっ、いきなりビーストとか来ませんよね?

 ここでティアマト母さんとかが顔を出したら、バビロニアで相当気まずい空気になると思うんですけど……

 

 斜め上の不安を覚えながら、やがて召喚サークルから顕現したのは巨大な角を持った人影だった。

 

 

 

召喚に応じここに参上! 力と公正の化身!! 地球国家元首、U-である!!

 

 

 

 ──なんて?

 

 




 夜間モードをオフにした方が綺麗に見えるかと思います。
 続くかわからない。
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