第二部を踏破して、アフタータイム突入──
やっぱりわかっていたことだが、実際にここまでくると嬉しいような懐かしいような、しかし世界の危機なので油断できない気分が続いている。
「ふぅ……なんか小腹がすいたな。とりあえず聖晶石食べつつ召喚するか……」
聖晶石をガリガリ噛み砕きつつ、段ボール箱から更に聖晶石を掴みとる。
さぁ! 今の私はAPがMAX!! つまりサーヴァント召喚確率100%! そう! 召喚できるまで回せばどんな確率も100パーセントなのだぁ──!!
「こんにちは。此度はライダーの霊基で現界しました、真名を太公望! 呼び名はまァ、色々あるので好きに呼んでくれて構いませんよ」
現れたのは黒髪に中華風の衣装をまとったサーヴァント。
Q全体宝具全体バフ自前NPチャージ持ち全体NP配布あり特攻持ち──
「大当たりすぎる! よろしくお願いします。マスターの成白明楽です。こちら、種火と再臨素材と聖杯を使って霊基を強化してください」
「おぉ、これがカルデア式の……ン? 聖杯? え?」
「ちゃんと15個あるので限界まで強化してもらっていいですからね!」
「怖っ!? ちょ、そんなに危機的状況なんですか!? 僕が救世主になる、的な!?」
「いや、余るほどリソースがあるので使って欲しいだけです」
「余る……聖杯が余る……??」
大いに首を傾げながら召喚サークルから出た太公望がもそもそと種火を食べ始める。
……とりあえず皆、まずは直で食べ始めるのなんなんだろう。魔術とか使える人は、それで霊基に取り込んだりし始めるけど……
「じゃ、そのままグランドライダーに戴冠してくださいね!」
太公望がむせたので水を出した。大丈夫ですか?
「あ、召喚テロやってる!」
通りすがりの白オベロンからそんな一言。
召喚してすぐに聖杯渡すことをテロって言うのやめない?
◆ ◇ ◆
それでは語ろう。
とあるマスターが辿った人理保障の旅、未だ途上にあるその話を。
◆ ◇ ◆
「──やあ、明楽ちゃん。今ちょっといいかな?」
その日。珍しく、Dr.ロマンが
その来客に私は肩をすくめ、やれやれ、まったく、と辟易した態度を分かりやすく出しながら、茶菓子を仕舞ってある棚へ手を伸ばす。
「なんですかドクター。やっぱりこの前食べ損ねたお菓子に未練がありましたか。仕方ないですねー。本当に仕方ないですねー。マリー所長やアズさんには内緒ですよ?」
「えっ。あ、ああ……ありがとう」
「お茶は砂糖多めですか。ミルク多めですか。いやドクターなんだからノー糖分ですか。はっはっは、砂糖十個入れてやりましょう。特別ブレンドですよ」
「い、入れすぎでは……」
「さぁグイッと一杯いってみよう! 人生何事もチャレンジ、ですよ!」
わはははとテーブルに置いた紅茶にざらざら角砂糖を雪崩のように入れると、うわぁ、だか、えぇ、と困惑を張り付けた笑顔で席についたドクター・ロマンがティーカップに口をつける。
「……なんだろう、この倒錯的な甘みは……キミ、こういうのが好きなのかい?」
「何を言いますやら。生活飲料水なら麦茶で結構」
「この紅茶の意味は!?」
「あんま好きな味じゃないし誰も飲んでくれないし余り物のインスタントだし丁度消費してくれる人のアテがドクターぐらいしかいなくて」
「えぇ……えぇー……」
割と真面目にショックを受けてるらしいドクターを笑いつつ、私も対面の席に座って箱に入ってる焼き菓子をばりばり食べ始める。
「それで話ってなんですか? ちなみに私はガチャ以外ではめちゃくちゃ正気なのでメンタルケアの必要性は皆無ですよ」
「……一応これでもお医者さんだからね。まぁ話っていうのは、ちょっとした雑談さ」
「──すみません。調子に乗りました。マギ☆マリの台詞朗読会はもう勘弁してください……!」
「全然違う!!」
ほんとぉ?
怪訝な目を向けていると、ゴホン、とロマニが切り替えるように咳払いする。どうやら真面目な話をしたいようだ。本当に珍しい。
「まぁちょっと個人的な話も込み入ってくるけどね……成白明楽。これまでの連続的な人理定礎の修復の功績、間違いなくキミは優秀といえるマスターだ。けれどこうも思う。──なぜそこまで必死になってやるんだい?」
「そりゃあ、人類が死滅しているからでは」
「いや、人類最後のマスターとしての使命や責任感の話じゃない。動機の話だ。
「ふむ? 労働に対する対価が見合っていない、と?」
「──そうだ。キミの行いは徒労だ。いやそれよりもっと惨いのは、キミ自身、徒労だという自覚があることだ。ただ死ぬ方がまだ救いがある。これから行く自分の人生、死ぬような思いをして勝ち取る成果、積み重ねていく
今日は酷く感傷的なドクターだ。
徹夜しすぎて遂にメンタルケアされる側に回るとは。
仕方ない人だなー。
「人間の人生なんて徒労の塊ですよ、ドクター。遥かな過去、顔も知らない誰かによって生かされて、遥かな未来、顔も知らない誰かの糧になれるかもしれないだけのギャンブルです。大層な意味とか価値とか成果とか、極論、なくてもいいんです。なくてもいいのが、人間の人生の唯一の利点ですから」
「────意味が分からない。そんなものは資源の無駄だ。まったく無意味だ」
「まぁ、なるべく意味はあった方が嬉しいですけど。でも──もしそんな“無意味な終わり”を見届けてくれる誰かがいたのなら、それはそれで救いです。都合よくはいませんけどね、そんなの」
「──は」
第一の獣くんはサボッてるしな~~救いがない救いがない。
というかFGO世界は「アレ」が成立した時点で終わりのドン底ですからな。おのれマリスビリー、許せねぇ!(義務呪詛)
「……キミに、恐怖はないのか?」
「ありますよそりゃあ。でも」
私は、まだちょっと慣れない、苦味のある珈琲を口に含んで飲みこんでから、
「──でも。誰にでもできることなら、誰かがやらないと」
「……何故」
「もちろん、楽しく生きるためです。終わりがあるなら、後悔は少ない方がいいじゃないですか」
「その後悔すら、なくなるというのに?」
「あはは。やだなぁ、死と何が違うんですか、ソレ。
「────」
「厳しい世界でみっともなく生き続けるのは人間の得意技です。そうでしょう?」
重りのような沈黙。
時間というものが物質化したのなら、こういう重みだろうか、なんて思うくらいの沈黙だった。
さっきから当たり前のことをなんで論じてるんだろう、この人は。
人間学基礎の復習かなにかかな?
「たとえ消える旅路だとしても、それは足を止める理由には不十分ですから。そういうドクターはどうなんですか? ネットアイドル以外の趣味とかないんですか貴方」
ドクターからの答えはなかった。
というか気付いたら消えていた。
あれれ?
『──間抜けもここまでくると傑作だな。馬鹿すぎて見逃されるとか、前代未聞だろ』
直後、落ちていた。
グルッと空間が入れ替わったように、平和なマイルームから真っ暗な奈落を落ちるユメに切り替わる。そしてそこには、なんか、この世全ての倦怠を詰めて煮込んだような表情をした黒い奴が──!!
「──あれぇ!? 夢だったのかこれ──!?」
「今更かよ。ま、危機は脱したんだ。とっとと起きたら? 人間の人生は短いんだろう?」
まずい、もう朝が近い気配がする。
だがこの際だから訊いておきたいことがある──!
「なんで──」
「なんで、どういう気持ちで、どういう気分で、って? そんなに重要なことかい、それ?」
気になるんだから仕方ないだろもう起きるぞ早く教えてぇ──!!
「というか俺が答えると思ってるワケ? ああ、別に同情でも気まぐれでもないとも。たまたま通りがかった劇場で、一回きりの上映があったら気になるだろう? それと同じ。どうやら役者は物好き極めたキワモノらしいがね。まったく、救いようがなくて反吐が出そうだ。──あとさ、少しは慎み深さを覚えたら?」
「はい?」
「こっちの
目が覚めた。
そこはマイルーム。特にお茶菓子とかも出してない、一般常用マイルームである。
枕元に淹れたてらしい珈琲がある以外は。
「おはようございます。……うーん、なんか楽しい夢を見た気がするけど思い出せないな」
人生ってこんなことばっかりー!
◆ ◇ ◆
終局特異点での決戦は近く、幸先に色々な不安はある。
しかしどれも具体的な言葉にできるようなものではない。
なので、自分の手がつけられるものから問題を片すことにした。
「レポートおわりー」
ぐっ、と机の前、自室で伸びをする。
そう、私は優秀なマスターなので特異点の報告書やレポートをなるだけ早く書き上げておくのだ……でも読むのは英語圏の方々なので、これからこの日本語下書き原稿を英語に直す作業が入る。つまりまだ出来上がったのは下書きなのだが、これでも進捗が進んだことに変わりはないので一区切りついたと言ってもいいだろう。うん。
カチャッ、と目の前に淹れたての珈琲が差し出された。
横に出現した人物を見上げる。
「ありがとう、アヴェンジャー」
「……ン」
白髪に物憂げな表情をしている青年、巌窟王は短く答えると、その視線を此方から外す。
正確にはこのマイルームの寝台を占領している者たちを。
「なに、レポート終わったのマスターちゃん? お疲れ様ねぇ」
「それじゃあこっちで一緒にだらだらしましょうよ~だらだら~」
「怠惰の極み」
「怠惰の大天使だからね~」
ごろごろと二人で寝転がっている片方は漫画を読んでいる水着霊基の邪ンヌ、それにぐうたら霊基のメタトロンなジャンヌだ。
それらを巌窟王が呆れた眼差しで見やる様で、どれだけ緩慢な空気かが察せられるだろう。アヴェンジャー霊基にこんな顔させるって相当ですよ?
ひとまず、珈琲のお礼をしよう。
テーブルの一番下の引き出しから聖杯を取り出す。
「ほい巌窟王」
「いや待て。なんて物を取り出している」
「いや、そろそろ君の番かなと思って……」
「いいじゃない、受け取っときなさいよ。カルデアじゃ今さら珍しくもない魔力リソースでしょ」
「レベル100の邪ンぬさんの言う通りだぞ。早く保管庫の種火を消費してくれ」
「おまえというものは……はぁ……」
溜め息混じりに巌窟王が聖杯を受け取ると、瞬時に聖杯が霊基強化のアイテムとして消費される。何度も見てきた光景だけど、一つあるだけでも歴史を乱す聖杯が、こうしてスナック感覚で消えるのって異常光景だな。
「──拝領した。霊基の上限が向上したようだ。まったく、炎に焼かれても知らんぞ。クク」
「あー、いいなぁ。私も欲しいなせいはーい。チラッ」
メタジャンが視線を寄越してくるが、彼女には言っておかねばならぬ言葉がある。
「また今度、縁があればね。──ところで君は誰かな? 召喚した覚えがないんだけど」
その瞬間、巌窟王と邪ンヌの動きが停まり、静けさを保ったまま彼らの行動が開始する。
漫画を置いたオルタがメタジャンの右腕を、巌窟王が反対の左腕を掴み、そのまま「捕まった宇宙人」の格好でマイルームを出て行く。
「あ。あーあー、やめてー。連れていかないでー。ちょっとゆっくりしてただけなのに~」
問答無用であった。
さらばメタジャン。もっと先の未来で、また相見えよう。
◆ ◇ ◆
時間神殿の玉座にて。
──統括局ゲーティア、及び魔術王の玉座に就く72柱の魔神たちは思考を続けていた。
『不明! 不可解! 不可思議!』
『まったくもって遺憾である。まったくもって異議がある。だが──』
『全能なのに問題を増やすな、だとッ!? これほどの屈辱は初めてだ! 許すまじ、許すまじ! ……だが……』
『我々では天体受胎は叶わない……この偉業に益はない……』
『今すぐにでもカルデアスの破壊を試みるべきだ』
『できたら苦労しないわそんなもん! 異星の神に察知されたらどうする!?』
『然り。地球漂白を解決した後の布石は何が残っている? 何を残せるというのだ』
『その前に何を優先するべきなのか。我々は、なんのために行動を起こすのか?』
「……なんのために……」
悲劇を憎んだ。死という欠陥を持って生まれる人間の在り方を憎悪した。
故に、その欠陥を克服した新たな星の創造を試みた。
だが結果が出る前に、答えを知る者を彼らは視てしまった。
世に例外は付き物。
ソロモン王の遺体から発生した自分たち然り、あの「」から零れ落ちただけらしい全能者の成り損ないの人間然り。
──自分たちの野望は叶わない。
──その先で、白紙の未来を走り続ける者がいる。
わかっているのはそれだけだ。
『普通に協力すればよいのでは?』
「ぶっ」
不意に声をあげた一柱の声に統括局が吹き出す。
お前、言うのか。薄々分かっていたことをあえて言うか。ここで。
『協力……協力……? あんな人間風情に使われるだと……?』
『……人間性自体はソロモンよりはマシだろうが……』
『そういう問題か? 魔神としての矜持はどうした』
『一理ある。0.1%の成功率を、我々が助力すれば100になる』
『雑な計算をやめろ。私はご免こうむる』
『離脱したい者はそうすればいい。一柱欠けた程度で曇る全能性ではないわ』
『なんだと!!』
『というか離脱しなくてはならん者はそうするべきでは? ──ゼパルとか』
『ヤダ──!!!!!!』
『うるさっ』
『変なのに手を出すからおまえ……』
『おまえも他人事じゃないぞハーゲンティ』
『ウッ』
『……そういえば前から声が聞こえないが、フェニクスは?』
『あんなんもういないぞ』
『いらんいらん』
『え? じゃあ今71柱なの?』
フェニクスは死んだ。もういない。
ともあれ。
カルデアのマスターの知識を通して知ってしまった自身の末路に、何柱かの魔神が怯え始めている。全能者が聞いて呆れる醜態会議だ。
「──暫定的な結論から言って。失敗する計画を保持するよりも、あの
『……我々がどう行動しようと、あの人間の結末は変わらんぞ。統括局』
『フラウロス! MVPのフラウロスじゃないか!』
『おまえさては人理の防人なんじゃないか? ん?』
『我々の中でも結構オイシイ立場を獲得して! ずるいぞ!』
フラウロスもゲーティアも外野の声は無視した。面倒なので。
「わかっている。結末は不変だ。人間は例外なく死で終わる。だが──」
『?』
「結末はなにも変わらない。されど過程を変ずることはできる。──あの徒労の道行きを。僅かばかり照らすくらいは、造作もない」
その時、時間神殿に侵入してくる気配がある。
カルデアのマスターだ。この神殿を消し去り、人理を取り戻さんとやって来た、あの──
「『“無意味な終わり”を見届けてくれる誰か』、か……まったく、愚者と言葉を交わすものではないな。気が迷う」
あの人間は教えてしまった。愚かにも。
魔神たちに、その存在意義の、意味というものを。
それは、彼女が知る原典の叡智にはないものだ。彼女自身の思想から生じた解釈だ。
ただの
──ならばこれは、あの人間が負うべき当然の罰である。
「さて、迎撃の時だ。応報の時だ。あの愚か者たちに一泡吹かせてくれる。
──魔術王ソロモン。奴の愚行の清算は、奴自身に
◆ ◇ ◆
結論から言って、時間神殿の攻略は肩透かしといえる難易度だった。
原作ストーリー的には万本の魔神柱が出てきて、それを縁だけで来てくれた各時代、各特異点で繋がりを持った英霊たちが参戦してくれるという熱い王道モノだったが──
「……馬鹿な……バルバトス君を絶滅させていたら他の魔神柱がもう死んでるだって!? 並行世界から他のマスターでも参戦したのか!?」
「お、惜しんでいる場合ではありません先輩! 道は開けました、玉座の間へ行きましょう!」
なんかこう、全体的に魔神柱側がやる気なかった。
もしやロンドンでのクレームがそんなに心を抉ってしまったんだろうか。或いは罠か? 拍子抜けしつつ、マシュと共にソロモン/ゲーティアが待つ玉座へと向かい──
向かい──あれ? 何があったんだっけ?
よく思い出せない。いや、思い出せる。憶えているはずだ。ショックで忘れたのか?
消滅。生還。青空。第一部のあの結末を。
……だが何かを忘れている気がする……
◆ ◇ ◆
『汎人類史は2017年を以って終了した。──この惑星の歴史は、我々が引き継ごう』
2017年、12月31日。カルデアは襲撃され、異聞帯を巡る旅が始まった。
FGO、第二部の始まりである。
◆ ◇ ◆
地球白紙化。
極寒の永久凍土帝国。
……覚悟だけはしていた展開だが、いざ実際に直面すると、途方に暮れたくなる。
襲撃前、カルデアスへのアクセスは、最後まで迷ったが行わなかった。
第二部から始まる多くの旅をスキップできるラストチャンス。今も嵐の向こうで戦っている人を、いち早く救い出せるタイミング。
『やめておきなさい』
──他ならぬ本人から言われてしまっては、どうすることもできなかった。
やはり、異聞帯を巡る旅路は必要なのだろう。そう考え、私は最大のチャンスを棒に振った。
「召喚、一度だけなら、いけます!」
吹雪の中で見つけた洞窟で。
霊基トランクの蓄電量を見たマシュから合図がくる。
私はすぐに右手を突き出し、高らかに英霊召喚の文言を口にする。
これから来るサーヴァントも、これから何が待ち受けているのかも、大体は覚えている。
しかし七つの特異点を修復していた時とは違い、RTAを易々と狙える場所ではない。じっくりと、着実に、一歩ずつ進まなければ、異聞帯攻略は叶わない──
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!」
まさか実際に詠唱する時が来るとは思わなかった、などという感慨はありつつも。
召喚光の中、そこにいるだろうゴーレムマスターの姿を予想して、
「────、え?」
先にマシュの呆けた声が聞こえ、違和感を覚えた。
──まったくもって遺憾だが。
──どうやら私には、本当に召喚の才、というものが欠けているらしい。
「残忍にして無能、外道にして冷酷。──キャスター、ソロモン王。魔神72柱の決議と統括局が選択した意志のもとに顕現せり」
「ちょっと意味がわからねぇ──!?!?!?」
前代未聞の召喚事故であった。
◆ ◇ ◆
「この旅路が出すべき結論は明らかだ」
終局特異点、冠位時間神殿ソロモン。
雪花の盾を残してデミ・サーヴァントの少女は消滅した。
その献身あってカルデアのマスターは傷の一つも負いはしなかったが、盾の影で気を失って倒れていた。
ロマニ・アーキマンが踏み込んだのは、そんな現状だった。
「明楽ちゃん……!」
さすがの彼も青ざめたくなる。確かにマスター・明楽は優秀だ。しかしその身は一般人。
──一切の慢心も削ぎ落としたゲーティアにとって、目の前でマシュが消えると同時に見せた彼女の精神の隙を突き、魔術で意識を奪うことは容易かった。
「殺してはいない。そしてその生命は、ここで失われてはならないものだ」
「何を……」
「末路は変わらん。我々を打ち倒したところで、その人間の旅路は徒労に終わる。カルデアスの停止さえも成ったところで、この人間は解放されはしない。元の日常になど戻れない」
「……なにを……言って、るんだ……?」
「
それはゲーティアからすれば狂気の沙汰。
未来を知る、という点では彼女も立ち位置は全能者に程近かった。彼らからすれば、報われもしない未来のために身を投げる愚者そのものだ。
故にこそ──
「私たちの野望は途絶する」
「……!?」
「目指した
ゲーティアの双眸が一人の人間を捉える。
すなわち、この場で唯一意識を保って立っている、ロマニ・アーキマンに。
「貴様は貴様の責務を果たせ、ロマニ・アーキマン。魔術王のやり残しを片付けるのは
「……はい!?」
◆ ◇ ◆
『ソ──ソソソ、ソロモン王だとぉ──う!? 貴様! マスター・明楽! 貴様の天運はどうなっている──!?』
シャドウ・ボーダーからの通信で狼狽しまくっているのはゴルドルフ新所長だ。
さっきの静寂からして、驚きと畏怖で行動不能に陥っていたらしいが、どうにか回復してきたようだ。
いやしかし、こっちが聞きたい。
なんだこのギネスとか飛び越えたガチャ結果は!?
「そ、ソロモン……?」
「ああ。ソロモンだ。よろしく」
「よろしくじゃないが……? じゃないが……?」
あれ? いつの間にもう二部終章って感じですか?
貴方が来るのはさすがに早すぎるってレベルじゃ──いやこれまでにもなんか異聞帯のサーヴァントは何体か来てたけどぉ──というか初手からU大統領だったけどぉ──!
「経緯は省かせてもらう。よくあるやつだ」
「よくあってたまるか! それが許されるのは大統領だけと知れ!?」
「──ならば代替の説明係に任せるとしよう。そちらの方が、おまえたちの理解も容易いはずだ」
何やら魔力光が閃き、ソロモンの姿が──というかおそらく霊基の方に変化がみられる。
再びその目を開けた彼は、呆然とする此方を見て、
「……えーっとぉ……久しぶりって言った方がいいのかな。それともただいま? 魔術王ソロモン、なんか残ってた御使いたちと……それと、ある人間の記憶を元に顕現した。──いやホント、なんでこうなってるんだろう。正直、自分のことよりも、君たちの置かれている状況の方が
理屈はわからない。
理由もわからない。
だが、ただ一つ。今も隣で感極まっているマシュに代わって、マスターとして言うべきことはわかっている──!!
「シナリオ崩壊しても知らねぇぞ! 馬鹿ぁ!!」
◆ ◇ ◆
もしもこの世界に最終回というものがあったなら、きっと獣国での初召喚がそれに相応しい。
しかし旅は続く。今も続いている。
終わりを迎えてなおも、その先に。
私たちは歩いていく。
「うわっマイルームにいた」
「居て悪いか?」
太公望の強化が終わってからマイルームに戻れば、白髪褐色で白黒を基調とした、いかにも王様らしい服装のサーヴァントが、堂々とテーブルの席についていた。
「もう少し日頃から片付けておけ。掃除しておいてやったぞ」
なんで掃除してくれるんだよとか、なんでテーブルに茶菓子出しつつ読書してんだよとか、なんで魔術王なのに魔術書じゃなくてハートフル系の漫画読んでるんだよとか、ツッコミが一人じゃ追いつかない。
自由か? こいつ。
「……あの、ドクターは」
「また勝手に霊基を分離して仕事に勤しんでいるぞ。今は所長室でオルガマリーに少しは休めと小言を言われているな」
マジで便利に千里眼を使ってるじゃんこいつ。いやまぁ、悲劇を観すぎるのに使うよりはいいだろうけど、いいのかそれで?
「あー……っていうか今、どっちなんですか。ドクターがいないってことは──」
「それぐらいそろそろ見分けをつけろ。そんなことではいつまで経っても一流の魔術師になれんぞ」
「クソッ! ソロモン王のガワで親が言うようなこと言われると脳がバグる!!」
しかもマスター礼装以外の魔術なんて、生活や野宿で使うくらいのものしか教えてもらったことがない。カルデアのマスターには保護者が多いね。いつものことか……
「……ていうかその漫画は誰から」
「妖精王が置いていったものだが」
「オーベーローンー!!」
伝統芸なので廊下に向かって叫んだ。
そしてツッコミ所はまだある。
「……なんで星見のティーポット飲んでるの」
「期限があと三時間だぞこれ」
「すまん……忘れてたわ……私も飲むわ……」
席についてカップを手に取る。
え? なに淹れてくれるの? なんで淹れてくれるんだよ……ありがとう……期限間近でも美味しいねこれ……魔術で味を保ってるの? 技術ってスゲー!
「この別にふざけていない具合の優しさ……皮肉と悪口の少なさ……ゲーティアか?」
「さてな」
偽典くんはここまで優しくないと思うんだよ、私。
食べてるお菓子もスコーンじゃないからね。
「ゲーティアビームについて一言」
「……まぁ、誤謬として正すほどでもないからな」
器が大きいんだわー。これは統括局ですわー。人の王になれる器ですわー。
「……そろそろか」
「?」
彼がそう零した直後、緊急招集のアナウンスが響いた。
どうやら特異点探索の時間のようだ。
「これでティーポットを消費できる……!」
「三時間で終わらせるつもりか? あまり急ぎ過ぎるな。余裕を保て」
「はぁい」
二人でテーブルを軽く片付けてから廊下に出る。
こうして並び立って歩くのも、異聞帯を攻略する中で徐々に慣れてきたことだ。そういえば第六異聞帯ブリテンでは、心を見透かせるオベロンやアルキャスがいる以上、ソロモンに原作知識に関する記憶を一時的に消してもらった上で攻略に臨んだりもした。
しかしそれでも最後に出てきた奴に向かって、「うわ、最高! そういうの待ってた! そっちの方が好きかも!」──とか口走ってしまい、「感嘆しておる場合か──!」とゴッフ所長に怒られたりもした。言われた人は嫌そうな顔してた。ごめんって。
「……旅は楽しいか?」
「楽しいよ。お陰様で」
七つの特異点修復の時も、私なりのアドリブ続きだったけど。
それより厳しい旅路となる第二部も、割かし楽しく行けたのは、彼が追加してくれた「注釈」のお陰だ。
「ところでいつ退去するんですか……?」
「あの
……どうやら、やはり長い付き合いになりそうだ。
エンディングの別れは約束されているが、それだって、いつものこと。少なくともこの、あり得ない旅路を楽しむことを忘れては、それこそ旅に出た意味がない。
やがて廊下の向こうからマシュが走ってくる。ドクターも一緒のようだ。
もしかしたらオルガマリー所長になにかあったのかもしれない。おっかない経営顧問が動く前に、早く対処しなければ。
──これはとあるカルデアの旅路。
結末に向かう足取りは軽く、明るく、楽しく。
次の目的地へ向かって、歩み続ける──
FIN
おまけ
ソロモン王内訳イメージ
第一再臨:ゲの字(ほんもの)
第二再臨:カルデアの者(あの人)
第三再臨:ロマニ
主にこの三者が主軸で合体した霊基。霊衣で人王verがあるとなおよい(あれ好き)。
日によって勝手に霊基が分裂して人格ごとに単独顕現とかしてそうだな……自由だな、この魔術王……
という後はソロモンで中身ロマニ(+a)のキャスターと共に行く第二部とその先。やっぱ色々シナリオ壊れそうだし、それでも結局アフタータイムまで行くんだろうなぁ……
ちなみに1.5部は新宿でホームズ回収せにゃならんのでバアル君が頑張ったと思う。たぶん。きっとセイレムのラウム君も。
あと主人公の壊滅的かつ天文学的な確率の召喚事故は、もし理屈をつけるなら魔術王が未来から裏で干渉してた、みたいな。ふわっとしたそんな裏設定のイメージ。
更におまけ
第一特異点エルサレム 後日譚
「なにか分からないが文句があるぞー!」と笑顔でカルデアに召喚されるリチャード。
「なるほど、では案内してあげなさいアーサー君。きみ新米でしょ」
現れる異世界のアーサー王。卒倒するリチャード。カルデアは今日も平和です。
第七特異点バビロニア 後日譚
聖杯を奪われたキングゥはその後、賢王のもとへ。さらにそこへ、召喚サークルの余剰魔力でひょっこり出てきていたティアマトが合流し……的な話があるとよい。
サーヴァント一覧
U-オルガマリー:所長超つぇえ! でもあなた一体なんなんですか?(公式情報待ち)
アズライール:実はヒロインレースがあったならぶっちぎり。実装をお待ちしてます。
アンデルセン:
ジャンヌ・オルタ:忘却補正で別世界の記憶も持っていると思われる。そんな解釈。
エミヤ:台所番頭。裏では周回で過労死組。
嫁ネロ:ノリで出した。コアトル攻略で起用されたのは意外なファインプレー。
オベロン:書くの超難しい。マスターが好意全開なので辟易している。そこまでにしろ。
若モリアーティ:ロンドンだし……でノリで出した。アラフィフと一生喧嘩してろ。
老モリアーティ:同上。やはりカルデアのどこかでバーを開いているに違いない。
両儀式:剣・殺・月の全てを兼ね備える。自由人。というか猫。
巌窟王:うっかり未来の霊基も来ている。イドはちょっと手加減するかもしれない。
アルキャス:術・狂の複合。いつも本当にありがとう。これからもよろしく。
エルキドゥ:最強にして最終兵器。キングゥとは良い具合に熱い対決して、後日スキル強化したと思われ。
テスカトリポカ:なんか急きょ参戦していた。この人も書くの難しい。全能神だし未来のこと知ってていいだろ……そんな感じ。
レディ・アヴァロン:マーリンが増えた! 美しいと思います。
マシュ・キリエライト:RTA気味の旅路でも、微小特異点や日々のやり取りで成長している。きっとそういう子。俺たちの後輩を信じろ。
成白明楽:ギャグやってる奴が反面、ガンギマッてるのっていいよね。
経歴的には恵まれた進路コースでFGOと衝突しなければ普通に優秀なひとで終わっていた。運命ってさ、事故なんだよね。それはそれとしてマスター生をエンジョイしていて、育成・交流にも余念がない。内心は基本ハイテンションで好意全開。その調子で地獄を歩き続けるし勢い余って未知の第二部へ進んでそのまま踏破した。FGO……わからねぇ……!
ソロモン王:どうしてこんな事に! と慌てる一人がおり、当然だが? と後方で腕組みする二人がいる。なお第二部の間は霊基が三分の一欠けている。二部終章を踏破すると完全体に戻る。
──どうせ徒労ならその横にいるべき人物を配置してもいいだろう。魔術王をナメるなよ。そんな明るいエンディングを目指したらこうなった。
行き当たりばったりでしたが、推し鯖をたくさん出せたりして楽しかったです。
では短いながらもこれにて完結。お付き合いいただきありがとうございました~