シナリオ崩壊しても知らねぇぞ! 作:名無しのマスター
(評価、コメント、ありがとうございます)
西暦1273年、中東──
「──これより……殺戮の侵攻を開始する……」
「なんッかやたら強いんだけどアイツ!? 下手したらこっちの霊核、持っていかれそうなんだけど!?」
「あのサーヴァントは一体……! っ! 再び宝具、きます!!」
「てったーい!!!! 大統領、ちょっと周辺宇宙、作り変えてー!!」
初手敗走。
なんか荒野で暴れまくるやたら強いバーサーカーと接敵し、オルガ所長の火力でも致命傷に届かないので撤退した。
逃げてもどこまでも追ってきそうな気迫と狂気だったが、そこは大統領の固有結界一歩手前の空間支配力によってなんとかなった。ウルトラマニフェスト、つまり
いやぁすいません、スノーフィールドイベントの煉獄級が第一戦とかハードモードを越えた何かっす。
バーサーカー霊基、リチャードⅠ世。
殺戮の狂気に染まった十字軍の長から、我々は命からがら逃亡した……
◆ ◇ ◆
「──敵はまず間違いなく十字軍と見ていいでしょうね」
「しかし聖杯の反応はありませんでした……ですがあのサーヴァントが強力だったのも事実です。これは一体……」
さて、一度立て直せる距離にまで下がったところで。
原作知識を踏まえた現状整理といこう。
元第六特異点は色々と複雑な事情が絡んでくる場所だ。
まず史実で死ぬはずだった人物に聖杯が渡る。その際、欲をかいてファラオを召喚してしまう。そこで聖杯は取り上げられ、十字軍は劣勢になる。
問題はここから。
バーサーカー霊基のリチャードⅠ世を、その弟ことジョン・ラックランドが討ち、鎧をまとって『偽の十字軍』となり、やがて特異点に到達した獅子王=女神ロンゴミニアド=アルトリア・ペンドラゴンと反転の円卓の騎士とVSすることになる。
なんだ? 情報量が多すぎてコレで合ってるか不安になってきたぞ?
横から生えてきたイングランド兄弟のお陰で派生シナリオが増えてるんだよな?
つまり、現状は──
(まだジョンが召喚されていない……)
私たちが戦ったのは『偽の十字軍』ではなく、正真正銘、バーサーカーのリチャードⅠ世が率いる十字軍だった。
つまり事態がややこしくなる直前である。十字軍が聖杯を持っていなかったことから、私たちの目的を果たすにはエジプト領で
(あのリチャードⅠ世を放っておくわけにもいかない……)
ジョンが来る前に倒すべきだ、今ここで。
チャートはこう。
ジョンが来る前にあの獅子心王(狂)を倒す→聖杯を探す→ファラオがいるならこれに対応して共同戦線を張る→獅子王ペンドラゴンがきたらベディ探して聖剣返還RTA敢行。
……こ、これしかねぇ!! 第六特異点には色々と回収しなきゃならないフラグやマシュと融合しているサーヴァントに関する情報もある。これ以上、事態がややこしくなる前になんとか……! どうにか……!! 先手を打ちてぇ!!
「……ひとまず援軍が必要ね。ここは一度立て直して──」
「召喚をしましょう」
「はい!? 今ぁ!? もしかして貴方、またアイツと戦うつもりなの!?」
「ええ、分かっています。正直、今の戦力じゃあのサーヴァントを倒せない。というワケで
「英霊召喚をギャンブルって言うな!?」
「そこで戦力を確保できたら再戦、厳しそうだったら他に現地協力者を探しに行きましょう。……個人的な直感ですが、さっきの英霊はさっさと倒した方がいい」
『倒す、か……でも厳しいことを言うと、きっと言動からしてさっきのサーヴァントは今のキミたちの手に負えるものじゃない。おそらく真名は──』
「ロマニ」
と、所長が通信の声を遮った。
真名には、所長も察しがついているのだろう。神話や歴史に深いマシュもだ。
「いい、マスター? 私たちカルデアの使命は『聖杯を回収すること』。仮に戦力を召喚できて、その上であのサーヴァントに固執したところで、無闇な消耗は避けられないわ。……それでもやるのね?」
「倒した成果を持って、どこかにいる聖杯保持者に
「……まったく、楽観の入った甘い見通しね。でも成果にする、というのは良い考えだわ。あれほどの英霊、倒せばこの特異点にいるどの陣営からも感謝されるのは間違いないでしょうし」
『……戦果を交渉材料兼、脅しの道具に使うのか……“こっちにはこれができるだけの戦力があるぞ”と。……キミ、本当に新米マスターかなぁ!? やることが戦慣れした軍師なんだけど!?』
「まぁ、まずは
というワケで霊脈地を探しに更に移動。
一時間ほど歩いたところで、目ぼしい地点に到着した。
「召喚サークル、設置します!」
「手元にある聖晶石はここで拾った六個のみ……二回、二ガチャ……!!」
「冬木では私以外、箸にも棒にも掛からなかったしね、貴方」
「逆になんで来れたんですか?」
ノーコメント。
目を逸らされた。
では、と掌の中の石を握りしめる。
「唸れ運命力!! 聖晶石、ゴー!!」
投げた。
光った。
三本線。
「無演出!! サーヴァント確定!!」
「うっ……な、なにかしらこの感覚。なにか私、イヤな予感が──」
きらきらきらーっと光り輝いて、サーヴァントの召喚が確定する。
光の中から出てきたのは──
「「あっ」」
所長の天下、終わったわ。
◆ ◇ ◆
荒野。
煉獄の炎燃え盛る戦場で、狂戦士のクラスとして顕現したリチャードⅠ世は顔をあげた。
それは先ほど己から逃げおおせた好敵手たちの気配。
逃亡を諦め、再び己に挑みにくる。それは自棄となった愚か者の所業にも思える行為だが──
「……見事だ」
一度刃を交えただけの関係だが、狂気にありながらも彼は既にそれを見抜いていた。
或いは、戦神の遣いそのものともいえる今の霊基だからこそ感じ取れた戦の勘、だろうか。
いずれにせよ。
──今一度、戦いの時である。
眼前。
盾のサーヴァントに護られたカルデアのマスターが告げる──
「勝負だ!! 獅子心王!! 惑星国家元首の真の力を思い知れ!!」
「……惑星……国家……?」
「スキル、3→2→1!! 宝具BBチェインでゴー!」
「前から思ってたんだけどなんでそんなに指示が手慣れているのよぉ──!!」
瞬間──地球大統領の宝具が開帳され、フィールド上に地球上で発生するあらゆる災害、あらゆる文明が再現される。
「セット、グランドオーダー。小さきものたちよ、70億年実にご苦労! この惑星は私がもらう──既に人理の終は過ぎた! “
あらゆる攻撃へのデバフと共に人を滅ぼす特攻攻撃が叩き込まれる。
リチャードⅠ世、その属性は「人」。
初見の攻撃。常軌を逸した宝具。どれほど人間としての傑物であろうとも、星一つを滅ぼす「攻撃」の前には常識を置き去りにされ、意味不明のダメージを負うしかない。
「フレ
更なる追撃が獅子心王の霊核を襲う。
しかしその身はサーヴァント。
「クッ……!!」
その目に殺戮の狂気が宿る。
一度消し飛ばされた傷が
狙うは一点。
あの超級のサーヴァントを使役する、カルデアのマスターただ一人──
「──兄上?」
……それは完全にまったく予想だにしない事だった。
このリチャードⅠ世にとっても、カルデアにとっても、またはこの特異点にとっても。
横槍。イレギュラー。何の因果かどういう理屈か。
説明できる者はこの場にいない。
だが起きた事象は三つ。
突如として、リチャードの背後にジョン・ラックランドが現れたことと。
その身内の声で、戦場にも関わらず、狂気に染まった霊基にも関わらず、この場でリチャードは理性を取り戻したことと。
そして──その兄・リチャードの様子を視界に入れ、ジョン・ラックランドがその霊基に刻まれた復讐の炎が燃え上がる、まさにその直前。
「もっかい宝具いきま──す!!」
「えっ」
「待っ」
無慈悲。まさに無慈悲。
ジョンの出現に気付かぬまま、カルデアのマスターが令呪を切った。
なにせこのマスターは頭転生カルデアマスター。
思考がRTA走者に近い。一分一秒でも早くリチャードを倒し、偽の十字軍戦とかいうクソゲーを回避したくてたまらない。
「再び公約を果たしてあげるわ!! ──“
滅亡おかわり。
再び地表が滅んだり文明が再現したりと目まぐるしく景色が変わり、二騎のサーヴァントを飲みこんでいく。
「アレ? なんか一人多かった?」
そんなオルガマリーの呟きも滅亡の嵐の中ではマスターに届きようもない。
固有結界に近い異常空間──でなければ本当に地表は跡形も残っていないだろう──が解除された後、戦場には転がる霊基が二つ。
「なんだ今の……なんだ今の……?」
ジョン・ラックランド──兄の姿を垣間見て世界を敵だと認識しようとした瞬間になんか世界が滅亡する光景を叩き込まれて宇宙猫状態。これが夢か現か分からぬまま光になって退去した。
あんまりである。
カルデアに勝因というものがあるなら「召喚事故」の四文字以外に記載するものなどないだろう。出た場所とタイミングがあまりにも悪かった。トラック事故と大差がない。
「────」
そして。
「獣の尖兵。生きては還さん──“
二度の滅びを前にして尚も。
未だ尋常ならざる力で留まっていたリチャードⅠ世の霊核を、過ぎ去った告死の刃が刈り取った。
◆ ◇ ◆
偽の十字軍、おそらくキャンセル完了。
出番がカットされた英霊たちの活躍は、本家本元のカルデアで発揮されることを願う。
しかし──
「……通ってしまった……ゴリ押しが通ってしまった……」
『パワーイズヴィクトリーだったねぇ……アレ? これボクたちの方が侵略者だって誤解されない?』
「されそう。所長強すぎ。ありがとうございます」
「有難がるのは結構だけど。こういう戦いはあまり濫用しない方がいいわね……今回は戦力の関係上仕方ないけれど、戦術パターンが狭まるのは貴方の将来のためにならないわ」
まったくもってその通りである──ところで。
「U所長。なぜ私の後ろに?」
「言わなくても分かるでしょう!? 首! 首狙われてるのよ、わたし!?」
「アー……」
マシュと共に視線を向ける先には、新しくカルデアのサーヴァントとして赴任した新顔の姿がある。
白い衣に鎖が巻きついているというか左手には杭が刺さっていたり一冊の書物が繋がっていたりという中々ロックな容貌の青い長髪に褐色肌の青年だ。まぁそんな容姿よりも、「地獄から徒歩でやってきました」と言わんばかりの死の気配の方が特徴的だが。
『アサシンのサーヴァント、アズライール。ビーストの兆しを知り、召喚に応じこの領域に到達した。共に手を取り合ってビーストを抹殺しよう。──抹殺しよう』
以上が彼の召喚挨拶である。
蒼きアズライール──山の翁、その若かりし頃の姿……のハズだ。
今回は土地の縁が作用した結果だろうか? 地元の人だから? まぁ、事故がなくてよかったですね。
ところで貴方がプレイアブル化していた記憶は私にはないんだが……
「……仕方ないのでは? ホラ、所長ってあの、クラスがこう、現時点では胡乱だし」
「その通り」
肯定を返したのはアズライールさんだった。
「オルガマリー・アニムスフィアにはビースト容疑がかけられている。此度の人理焼却案件、仮に当人が関わってはおらずとも、そのクラスの存在が関与している可能性は大いにある」
故に、
「冠位を代表し、人理修復の道中、近場で監督させてもらう」
「はい」
そういうコトらしい。そういうコトになった。
「それに先ほどのオルガマリーの申告通り、マスターがビーストの力に頼るがあまり、人理を脅かす危機になっては本末転倒。此度の案件が完了したのち、早急に戦力の拡充を推奨する」
『そ、そうだね。ひとまずこっちでサルベージできる聖晶石がないか確認してみるよ。えー……明楽ちゃん。サーヴァント同士の仲を仲介したり調停するのもマスターの君にしかできない役割だ。……健闘を祈るよ!』
「はい。まぁ、大丈夫だと思います。所長はどんな時でも頼れるカルデアの所長ですからね」
「! ……!!」
「オルガマリー所ちょ……いえ、大統領? 空手で宙をかいて、どうかしましたか?」
「い、いいえ! なんでもない、なんでもありません!」
そんな会話をしている間に、荒野にいくつか生命反応が集まってきた。
十字軍は消えた。獅子心王は退去した。それを察知して真っ先にやってきたのは──
「貴様たち、何者だ。オジマンディアスの手の──って!? 貴方は!?」
「ほう。出会い頭に聖杯の目星を伝えるとは殊勝だな、百貌の。我らが星見の天文台から遣わされたと、よく初見で気付いたものだ。賞賛しよう」
「ひぇぇぇぇ……!!」
現れたポニーテールの髑髏面の女性が戦慄している。
土地補正とはいえアズさんを呼べたことで、色んな手続きがスマートになるかもしれない。あの太陽王も、話ぐらいは聞いてくれるだろうか。
(しかしなぁ……)
──ここだけ面子がアフタータイムだな……(※まだ第一特異点)