シナリオ崩壊しても知らねぇぞ! 作:名無しのマスター
『──Aa、Aaaaaaa──』
レイシフトの最中、暗い海の夢を見た。
それも一瞬のこと。目を開けたそこは第七特異点、バビロニア──
紀元前2655年、魔術世界において
率直に言うと。
あの金ピカ英雄王・ギルガメッシュがウルクを統治する時代である。
『いやぁ、今回は現地を知る
「……芸風……召喚事故は芸風……」
『あれ!? ちょっとショック受けてる!?』
レイシフトに同行してもらったサーヴァントは当然、土地勘のあるエルキドゥ。
しかし恐ろしいほどに誰もいない!
こいつはおかしい! エルキドゥの気配感知!
バビロニア全域の状況マップが明らかになった!
「……どうやら今のウルクは戦闘態勢に入っているようだね。多くの人間の気配、これは兵士だろう。それと戦っているのは、この地に多くはびこる魔獣の気配──」
『す、凄いな神造兵器の探知能力は。こっちからも明楽ちゃんを通して観測しているけど、ウルクまでは届かないぞ!?』
初手でマップ不明のダンジョンのマップを明らかにするようなスキル、気配感知。これだけでどれだけエルキドゥが破格の性能を持つ英霊かが分かるだろう。ちなみにまだ回避付与はできない。
「……ん? 近くになにかあるみたいだ。調べてみてもいいかな、マスター?」
「行こう行こう。情報収集は大事よ」
歩き始めつつ、マシュが当然の問いを投げる。
「魔獣……と言っていましたが、この
「うん、その心配はないみたいだ。どうも外の彼らもこの土地を恐れているみたいだね」
「住民がいないことと関係がある?」
「多分ね。恐らくこの手口は──おっと、あったよ」
「これは……粘土板……?」
天命の粘土板をゲットした!
「ギルの魔力を感じるね。彼のことだから瞑想して書き上げたはいいものの、ここに落としていったんだろう。なんて書いてあるかは分からないけど、ウルクに持っていってあげよう」
ギルガメッシュ王が「千里眼」で得た天啓を記したモノ。本来なら中盤辺りで探しに来るものを初手から入手とは、やはりRTAしているようだ……!
「英雄王の落とし物……しかしなぜこんなところに?」
「彼がクタ市に来る用事……か。もしかしたらこの時代の彼は、冥界から帰ってきた後のギルガメッシュ王なのかもしれない」
「えっ!? ということは……!」
『この時代はエルキドゥの死後……ってことになるのかな。本当にそうだったなら、サーヴァントについてとか、色々と事情説明が大変そうだ』
凄いぜ、エルキドゥ! 英雄王の理解者兼名探偵!
いやさすがに凄すぎるな……いくつ章節がスキップされてしまったんだコレ?
「次は……より状況の詳細を知っていそうな相手に会いに行こうか」
「それは……ギルガメッシュ王ではなく?」
「うん。彼の気配はジグラット……ウルク市からまったく動く気配がない。正確には玉座からね。それに、その周りをたくさんの人間が行き来している。きっと、この特異点解決のために王様として仕事してるんだろう。確かに直接彼に会えば、もう少し状況の詳細も掴めるだろうけど──」
「仕事で忙しい人に説明の手間はかけさせられないもんね。いいよ、どこに行くの?」
「──ありがとうマスター。何、ここからはそう遠くないよ。ちょっと
「──え? エルキドゥさん、今なんと──」
「着地頼んだ! マシュ!!」
言った直後だった。
天上に跳びあがったエルキドゥがその身を槍に変え、凄まじい衝撃と共にクタ市の大地に風穴を穿った。
シームレスに豪快な真似をやるよね、このデンジャラス兵器……
◆ ◇ ◆
まさか初手冥界下りをすることになるとは……
などと思いつつ視界はクタ市の地下。神代はなんと、地上と地下で死後の世界が
「エルキドゥさん! あまりに急だったので聞きそびれてしまいましたが、現状の説明をお願いします!!」
「この土地で気配を探った時、どうやらあの女神もいるらしいことが分かったからね。南の空辺りを右往左往していたけど……とにかく、彼女が召喚されているということは、必然、その神性と同一視されている方も召喚されている可能性が高い」
「ふむ。その神性とは?」
「──冥界の女神エレシュキガル。なに、かの女神は考えなしのイシュタルと違って聡明な神格だ。礼を尽くして振舞えば、マスターたちにも危険はないはずだよ」
「(初っ端から穴をあけて侵入したことは無礼とされないのでしょうか、先輩……!)」
「(女神様の懐が海よりも広いことを祈ろうね……)」
きっと大丈夫だろうけど──と思っている内に、暗い道の中に石の門が見えてきた。
「おや? 先輩、あれは……向こうからこちらに走ってくる人影は──」
「ちょっと──!! いきなりどこの誰!? びっくりして冥界の底から走ってきちゃったじゃない! イシュタル!? イシュタルなの!? また懲りもせずに冥界下りを──って」
「こんにちは、冥界の女主人。お久しぶりです、と言った方が正確な挨拶になりますか?」
「エ──エ、エルキドゥ!?!? しかもその魂──本物の!?」
走って迎えにきてくれたのは金髪の美少女、我らがエレちゃんこと女神エレシュキガル。
シークレットヒロインな彼女が初っ端から登場とは、やはりRTAしている気がするなッ……!
「えーと──初めまして、こんにちは。エルキドゥのマスター、成白明楽といいます。貴方が噂に聞く冥界の偉大なる女神様、エレシュキガル様ですか?」
緊張からだろうか。女神エレシュキガルはやや硬直した後、
「……そ、そうよ。ええ。まったく、私の冥界に生者を連れ込むなんて、アナタにしてはどういうことかと思ったけど、そう、マスター。マスターなのねアナタ。サーヴァントになったエルキドゥの。そちらの盾の子は?」
「マシュ・キリエライトといいます。初めまして、エレシュキガルさん!」
「私たちはカルデアに所属する者です。魔術王によって狂った時代の修正、及びその原因となっている聖杯を回収しにきました」
「我々はさっきこの時代に着いたばかりなのです。そしてどうやら、僕が察知するところによるとウルクは危機的状況にあるようだ。イシュタルよりも聡明にして賢明なる冥界の女神よ、なにか存じていませんか?」
めちゃくちゃ礼を尽くしている……エルキドゥが分かりやすくエレシュキガルを持ち上げている……というか、イシュタル嫌いに相乗して結果的にエレシュキガルを超褒めてるように聞こえる話しぶりだ……
「──そう。事情はわかりました。けれど、私から話すことはありません」
「!」
思わぬ断りに、しかし即座に斬り込む。
「それは言えない事情がある、ということですか?」
「え、ええ。いきなり私を頼りにしてくれたアナタたちには申し訳ないけれど、何も知らないのなら尚更、私から明かせる情報はありません」
「ま、待ってください! せめてもう少し話を──」
無言で片手でマシュを制した。
マスターの話術に任せなさい!
「左様ですか。非常に残念ですが、人の身でかの女神に根掘り葉掘り聞き出すのも礼を欠くというもの。こうして直接応対してくれた貴方の広き御心を知れただけでもよかったと思いましょう」
「……いや、あの……」
「ごめん、マスター。地上には他にもいくつか神格の気配がしたけれど、メソポタミアで最も頼りになる女神に断られてしまっては僕にもなす術がない。余計な時間を取らせてしまったね」
「……あ、あぁ……だから……」
「いや、いいんだよエルキドゥ。人には人の事情があるってものさ。イシュタルと君を会わせるのは正直マスターとして気が乗らないけど、こうなってしまっては仕方がない。楽をせず、一から足で稼ぐとしよう……」
皆であからさまにしょんぼりな空気を出しつつ、すごすごと入口へ戻ろうとする。
その時である。
「──ちょ、ちょっと待った」
声はエレシュキガルのものであった。
「ええと──ええと、そ、そんなに気になるのなら、私も鬼ではありません。女神ですから。アナタたちが七つの冥界の門を越え、見事試練を抜けてみせたのなら、その覚悟に免じて、冥界の主として話くらい聞きましょう」
「──流石は聡き冥界の女主人。その寛大なる慈悲に感謝を」
「なるほど試練ですか! そういうのは得意です! 冥界式の歓迎ってやつですね!」
「冥界のルール……! きっと厳格な試練に違いありませんが、私も全力を尽くします!」
「っ、で、では待っています。せいぜい頑張りなさい!」
そうして一瞬でエレちゃんは消えていった。
では第一の門。
当然ながら問いかけの声はエレちゃんである。
『それでは罪深きもの、明楽に問う──
……エレシュキガルとイシュタル、賢きはどちらなりや?』
時間がなかったんだろうか。凄く簡単な質問だった。
◆ ◇ ◆
ありがとうエレちゃん。やはり我らが女神。
「三女神同盟、消えたエルキドゥの遺体の謎、絶対魔獣戦線バビロニア……」
「冥界の女神らしい厳しい七つの試練でしたが、同盟に属するというエレシュキガルさんを仲間にすることができました! あのジウスドゥラというご老人は……どこかで会ったことがあるような気配でしたが──」
会ったことがあるどころかカルデアに若い方がおりますよ、マシュ。
ともあれ、一般通過冠位の助けを得つつ、この時点でエレシュキガルを仲間にすることが叶った。というか神性相手にはエルキドゥが刺さり過ぎる。
さて、現状の情報もかなり得られたので冥界から地上へ。
いよいよこの特異点の本命にして人理最後の砦──ウルク市である。
「ドゥはしばらく霊体化していた方がいいかもね」
「そうだね。『僕の体』が今、どんな意志で動いているかもわからないし……それにエレシュキガルの話からして、きっと今の人々にとって、僕の形は敵として映るだろう。しばらくは姿を消して様子を見るよ」
──というわけで、クタ市からいざウルクへ。
実際にエルキドゥが王様や『彼』に出くわしたらどんな会話をするんだろう……という一沫の不安は覚えつつ、西へ西へ。
警戒していたイベントはその道中で起きた。
「! フォウゥ、フォーウ!」
「フォウさん? いきなりそんなに飛び跳ねて、一体──、! ドクター、六時の方角を! 何かが此方に一直線に飛んできます!」
来たか……
いや、来ない理由がないだろう。基本性能は同一。こちらが察知したのなら、あちらも察知できて当然だ。
凄まじい着地の衝撃をマシュの盾で受け止めてくれたところで、地上に降り立った影が見えた。
それは緑髪を長くなびかせた人ならざる者。
「──カルデア、か」
「マスター、あの方は……!」
「この時代のエルキドゥ、かな? いや、どうやらもう死んでいるはずみたいだけど」
「──、理解が早いじゃないか。なるほど、見かけによらず優秀のようだ。余計な茶番を挟まなくてよかった。少し楽しみは薄れたけどね」
初っ端から殺る気しかしない。
この時代のエルキドゥ──否、キングゥ。聖杯を動力炉に新生した、いわばエルキドゥの後継機。
さて、彼がいかに事故らずに済むかを検討していたが……これなら精神ダメージは少なく済みそうかな?
「面白い見世物ができなかったのは残念だけど……それならここで確実に排除するだけだ。旧人類最後の希望。──てっとり早く、
「なるほど、よろしい。それならこっちにも考えがある。やってやろう、
「──……は……?」
「──いいね。本当に滅多にない機会だ。性能比べといこう」
霊体化を解き、顕れるカルデアのエルキドゥ。
その姿に向こうが一瞬、完全に硬直し、呼吸までも停まったのがわかった。
しかしそれもエルキドゥが一瞬で第三再臨にまで霊基を更新した瞬間、我に返る。
「サーヴァント……英霊になったエルキドゥだと!?」
「そうです! これがカルデア式テロです!! ごめんね!!」
「実感が篭りすぎです、マスター……!」
直後、魔力の閃光と嵐が吹き荒れ──特異点の大地に、一つの激闘の痕が刻まれた。
◆ ◇ ◆
「流石に撤退されてしまったね」
「でしょうな」
宝具こそ使わなかったが、キングゥの狼狽っぷりは同情すら誘うものがあった。
本当にごめんな、事故ばっかりのカルデアで……
ネタとしてなら面白がれることだけども、本人を前にコレは「人の心案件」である。カルデアに帰ったらA・Aに「もっと考えましょう」と怒られかねない。すみません。反省はしてるんです。後悔はないけど。
さて、敵を退けた後はウルク市への移動を再開する。
途中途中で休みを挟みつつ、なんならガイド役のエルキドゥのナビも楽しみつつ、城門が見えてきたところで我に返った。
──……あれ……? コレどうやって中に入ればいいんだ……?
本来なら──というか原作なら、マーリンの手助けによって通過できたはずだ。
しかしそれがない今──
「キミたちは新顔ですね? どこの市の方でしょうか?」
「えー……あー……」
「え、ええと、私たちは……」
門番さんを前に、チラリ、とマシュと顔を見合わせた。
まずいぞ!
どんなに優秀なマスターでも手続きはRTAできない。通学電車、入浴前の風呂掃除、人生は「決してスキップできない時間」で大体構築されている。これはその類だ──!
「ん?」
ぐいぐいと、左腕の裾を引っ張る力に目をやった。
そこにいたのは銀色の毛並みが美しい狼っぽい獣。しかしそこに感じる魔力は間違いなく──エルキドゥのものだった。
「先輩、この生き物は──」
「あ、
──「変容」スキルの応用といったところだろうか。
そうか、人型・エルキドゥ体では警戒される。それなら警戒されない、獣の姿に形を変えればいいだけのこと──!
ところでユーザー視点的にはとても気になる姿形だ。
わぁー、毛並みふっさふさ。
「その獣は……キミたちの家族ですか?」
「あ、はい。そうです。そんな感じです。ええと──そうだマシュ、アレだアレ。拾ったやつ!」
「え? ──あ、それがありましたね!」
よいしょ、とマシュが盾の魔術的ポケットから取り出したのは、クタ市で拾った粘土板だった。
「こちらの粘土板、もしやギルガメッシュ王の落とし物なのではないかと……」
「おや? ……これは……もしや最近、王がマーリン殿に探させている粘土板? 届けに来てくれたのですね」
「そうです。それでですね。えー、私たち、星見の天文台のカルデアという者でして……できればギルガメッシュ王にお目通り願いたく……」
「星見の天文台のカルデア……ああ! 王が仰っていた方々ですね!」
「えっ」
「ん?」
既に知られている……? こんな展開は知識にないが──
「いえ、一時間前に指令があったのです。『粘土板を持ってカルデアと名乗る者が来たら通せ』と。クタ市の人々の魂を解放してくれたのも貴方がたですね? お礼申し上げます」
「マスター、これは……」
「さすがすぎるぞ王様……」
既にこちらの状況は把握されているようだ。
それでは手っ取り早く、謁見といこう。
◆ ◇ ◆
──生で感じるウルク市の賑わいに圧倒されながらも、ギルガメッシュ王が仕事場とするジグラットまでやってきた。
そして会うなり、
「うむ。来たか。よい、では構えよ。戦いを以って貴様らの真偽を計ることとする」
王の間に入ってきた此方を見るなり、玉座から立ちあがって
……なんか色々と話が早すぎないか!?
「あの、粘土板……」
「うむ。後にせよ」
「あの、戦線とか……」
「うむ。後にせよ。二度言わせるな」
「(……マスター。ギルガメッシュ王からは何か……何か楽しそうな……期待しているような気配を感じます……!)」
同感です。
──いや、心当たりなんか一つしかないけどね?
「あの……王よ? どう見てもウルクの市民ではない方々ですが、一体何を……」
ほら、シドゥリさんも困惑を隠し切れていないよ。
しかし王様は玉座から降りてきて構えるのみだ。つまりは、
──彼らの間に問答は不要、ということだろう。
「……まぁ、じゃあ空気を読みましょう。マシュは下がってて。ここは任せたよ、ランサー」
「────」
すると前に出た銀狼の姿が変化する。
魔力の光に包まれ、緑の長い髪と、白い服をまとった人型が露わになる。
シドゥリさんの息を呑む顔が見え、ギルガメッシュ王が口角を上げ、エルキドゥもまた、その身に魔力を篭め始める。
向き合った両者に言葉はなかった。
次に、ジグラット中を揺らす激突があった。
◆ ◇ ◆
ターン換算でいえば3ターン。
彼らの戦いが終わったのはそのくらいの時間が経った頃だった。
「ぬゥお……!! この無駄なく鳩尾に響く一撃……! 貴様、本物のようだな! しかしなんだその切れ味は、
「説明しましょう!」
斧を立ててどうにか倒れまいとする王様の疑問に司会風に答える。
「そう、アレは『第三回カルデア
「なんだそのこの世の終わりのような名の大会は」
集うバッファー。厳選され強化され並べられる概念礼装。刻印される限られた数のコマンドコード。QPが消し飛ぶコマンドカード強化。アペンドスキルの解放と強化。とりあえず『
「はい……数々の努力と話し合いと分析の果てに、カルデアは霊基強化の更なる可能性に行き着いてしまいました……」
「王様。私たちは何も、魔術王が乱してきた時代や特異点だけを修正してきたわけじゃないんです。この第七の特異点に来るまでに、様々な微小特異点にも足を運んできたのです……結果、我がカルデアの多くの主力サーヴァントの例に漏れず──」
スッ、とドヤ顔で佇むエルキドゥに私は親指を向けた。
「こいつ
「ばかもの──! 契約者の鑑か貴様──!!」