やはり俺のアイドルプロデュースは間違っている 作:stein0630
社会人になると、理不尽にも給与が発生する。
学生時代の俺は、金も出ないのに他人の厄介事へ首を突っ込み、頼まれてもいない悪役を引き受け、最後には関係者全員から微妙な顔をされるという、およそ労働基準法の外側にある活動へ従事していた。
それに比べれば、依頼を受けて問題を解決し、月末に給与をもらう現在の制度は健全である。
もっとも、問題の内容が十七歳の女子高校生の人生でなければ、もう少し素直に喜べたのだが。
「今日から君には、ノクチルを担当してもらう」
入社初日の午前九時十三分。
社長室の机を挟み、天井努社長は天気の話でもするように言った。
「その中でも、樋口円香のプロデュースを主に任せたい」
なるほど。
新人研修、先輩への同行、資料整理、雑用。このあたりを想定していた俺の社会人生活は、開始十三分で予定を大幅に上回る速度を記録したらしい。新入社員に未成年者の将来を預ける会社。文字にすると、労務管理以前の問題が浮上してくる。
「確認なんですが」
「何だ」
「今日、俺の入社初日ですよね」
「そうだな」
「実は三年前から働いていたとか、そういう叙述トリックは」
「ない」
即答だった。
社長室の隅に立つ七草はづきさんが、口元に手を当てた。笑っているのか、あくびを隠しているのかは判別できない。どちらにせよ、新人の将来に対する反応としてはだいぶ軽い。
「安心してください、比企谷さん。スケジュール管理や経費処理については、私もお手伝いしますから」
「そこじゃないんですよね。不安の本体」
「あはは……ですよねぇ」
俺は膝の上に置かれたファイルへ視線を落とした。
表紙には、四人の少女が写っている。
浅倉透。樋口円香。福丸小糸。市川雛菜。
幼なじみ四人で構成された新ユニット、ノクチル。宣材写真の中にいながら、四人とも同じ場所を見ているようには見えなかった。
浅倉透はカメラの存在を忘れているように立ち、福丸小糸は忘れまいとしすぎて肩に力が入り、市川雛菜は自分がどう映れば楽しいかを知っている顔をしている。
そして樋口円香は、写真を見る人間の期待を、撮影された時点ですでに拒絶していた。
もちろん、写真一枚で人間が分かるはずはない。証明写真を見て犯罪者みたいだと言われ続けてきた俺が保証する。静止画は人間の一瞬を切り取るが、その一瞬を選んだのは本人ではなく、たいてい撮影者だ。
「なぜ俺なんですか」
俺が訊くと、天井社長は机の上で指を組んだ。
「採用試験の企画課題を覚えているか」
「忘れたい程度には」
架空の新人アイドルユニットを売り出す企画を立てろ、という課題だった。
他の応募者が市場分析、動画戦略、ファン参加型企画などを提案する中、俺は『メンバー間の温度差を解消しない』という、協調性の欠如を自白するような企画書を提出した。
本人たちが同じ夢を見ていないなら、同じ夢を見ているように加工するべきではない。違いを欠点と決めつけて矯正すれば、残るのは従順な商品の集合体だけだ。
そう書いた。
就職活動に疲れていたので、落ちてもいいと思っていた可能性は高い。
「四人をひとつの型にはめない人間が必要だ」
「俺が協調性に欠けるからですか」
「自覚があるのは結構だ」
否定しろよ。社長だろ。社員の自己肯定感を育てろ。
「彼女たちは、君が来る前から四人だった」
天井社長の声がわずかに低くなる。
「完成しているという意味ではない。だが、外から来た人間が、自分の理想とする完成形へ作り替えていい関係でもない」
「俺も外から来た人間ですが」
「ああ。だから、割り込んでいる自覚を失わない者を選んだ」
ずいぶん高く評価されたものである。
俺の長所とはつまり、どこへ行っても自分を異物だと思えることらしい。履歴書の自己PR欄に書けば、人事担当者が静かに不採用通知を準備するやつだ。
「それと、樋口円香は言葉を安売りしない」
「俺は愛想を売れないだけですが」
「似たようなものだ」
「全然違うと思いますけどね」
少なくとも本人の前では言うなよ、と心の中で付け加える。
このときの俺は、まだ知らなかった。
樋口円香という人間が、他人から勝手に『似ている』と分類されることを、俺が想像するよりずっと嫌うということを。
午前十時。
事務所の打ち合わせスペースに、ノクチルの四人が揃った。
最初に入ってきたのは福丸小糸だった。ドアを開けるなり、椅子の横に立っていた俺と目が合い、肩を跳ねさせる。
「ぴゃっ……! す、すみません!」
「いや、まだ何もされてないから謝らなくていい」
「す、すみま――あっ」
口を両手で塞ぐ。
謝罪を止めようとして謝罪する。これは高度な自己参照構造である。社会人研修の教材に使えば、先輩社員から「相手に謝らせない配慮も必要です」という新たな責任を課されそうだ。
「小糸、早いね」
続いて浅倉透が入ってきた。
彼女は俺を見たあと、机に置かれた資料と、壁の時計と、もう一度俺を見た。
「新しい人?」
「たぶんな」
「たぶんなんだ」
「入社手続きはした。まだ社員証が機能するか試してない」
「じゃあ、外に出たら戻れないかも」
「初日にしては魅力的な提案だな」
浅倉は小さく笑った。
会話が成立しているのかは怪しい。ただ、本人は成立させる必要を感じていないようだった。言葉を投げるのではなく、その場に置いておく。拾うかどうかは相手に任せている。
「プロデューサーさん、新しいプロデューサーさん~?」
明るい声とともに、市川雛菜が入ってくる。
彼女は俺を上から下まで眺め、にこりとした。
「なんか、大変そう~」
「まだ自己紹介もしてないんだが」
「でも大変そうなお顔してるよ~?」
「生まれつきだ。健康状態に問題はない」
「よかった~。途中でいなくなったら、また覚えるの大変だから」
心配の方向が一貫して自分側を向いている。むしろ信用できる。人間、自分のために動いていると明言する者のほうが、世界や仲間のためと言いながら他人を巻き込む者より被害範囲を予測しやすい。
最後に入ってきた樋口円香は、空いている椅子を確認してから、浅倉の隣に座った。
俺を見る。
宣材写真よりも、視線に温度があった。
温かいという意味ではない。
氷にも種類がある。冷蔵庫で作られた透明な氷と、雨水の混じった冬の路面では、踏んだときの危険性が異なる。彼女の視線は後者だった。こちらが勝手に安全だと思って足を乗せるのを待っている。
七草さんが四人の前に立つ。
「皆さんに、新しい担当プロデューサーをご紹介しますね。今日入社した、比企谷八幡さんです」
「今日」
樋口が初めて口を開いた。
短い二文字だったが、必要な疑念はすべて含まれていた。
「今日です」
俺が答える。
「人手不足なんですね」
「会社側の事情については否定できない」
「比企谷さん」
七草さんが困ったように俺を見る。
だが、初対面で嘘をついても仕方がない。彼女たちを任せられるほど優秀だから抜擢された、などと言ったところで、俺の名刺に漂う新品のインク臭までは消せない。
「でも、わたしたちのプロデューサーなんですよね……?」
小糸が不安そうに訊く。
「そういう契約になってる。正確には、四人の活動全体を担当する。その中で、樋口さんの個人仕事は俺が主に見ることになる」
樋口はわずかに眉を動かした。
「お気の毒に」
「同情される側は俺で合ってるのか?」
「他に誰が」
声は平坦だった。
怒っているわけではない。少なくとも、怒りを俺に見せるほどの関心はないらしい。
俺は五部用意したファイルを配った。
「今月のレッスン予定、学校行事との調整表、事務所の連絡規則。最後に、活動方針についての確認用紙が入ってる」
「活動方針……」
小糸がすぐにページをめくり始める。
「得意なこと、避けたい仕事、優先したい活動、本人の同意が必要な条件。書ける範囲でいい。今日中でなくても構わない」
「書いたら、聞いてくれるんですか」
樋口はファイルを開かずに訊いた。
「検討材料にはする」
「便利ですね」
「何が」
「聞いたという事実だけ作っておけば、採用しない理由はいくらでも後から用意できる」
小糸の指が止まる。
七草さんが何か言おうとしたが、俺は先に口を開いた。
「できるな」
樋口の目が細くなった。
肯定されるとは思っていなかったのかもしれない。あるいは、肯定することで誠実な人間を演じる可能性まで疑っているのか。
「だから、希望を採用しなかった場合は、理由を記録に残す。本人にも共有する」
「記録」
「言った言わないになると、立場が上の側が勝つからな」
「自分が信用されない準備だけは、よくできてるんですね」
「信用は前払いされるものじゃないだろ」
俺としては、事実を述べたつもりだった。
樋口は初めてファイルへ視線を落とした。だが、開こうとはしない。
「そうやって最初から期待されない側に立っておけば、失敗しても楽ですからね」
室内の空調音が、急に大きくなった気がした。
「円香ちゃん……」
小糸が小さく名前を呼ぶ。
「何」
「その、まだ最初だから……」
「最初だから言ってるんだけど」
樋口は小糸を責める調子ではなかった。
むしろ、自分の言葉で小糸が困ることを知っていて、声から刃を一本だけ抜いたように聞こえた。
「別に怒ってないよ、小糸」
「う、うん……」
「ほんと?」
浅倉が訊いた。
「透は黙ってて」
「はい」
浅倉は素直に引き下がった。まったく反省した様子はない。
市川はファイルの確認用紙を眺めている。
「雛菜、朝早いお仕事は避けたいな~」
「何時以前」
「起きたくない時間以前~」
「地球上の時刻では指定できないらしい」
「じゃあ、プロデューサーさんが雛菜の起きたい時間に合わせて~」
「社会のほうを動かす権限はまだもらってない」
「そっか~。新人だもんね」
樋口の視線が、再び俺へ戻ってきた。
「反論しないんですか」
「何について」
「失敗しても傷つかないようにしてる、って」
反論は簡単だった。
仕事だから慎重にしている。新人だから間違いを減らしたい。記録を残すのは当然のリスク管理だ。
どれも嘘ではない。
ただ、嘘ではない言葉を並べれば本当になるわけでもない。
「初対面の相手に自己分析を訂正してもらうほど困ってない」
「そうですか」
樋口はそれ以上追及しなかった。
代わりにファイルを開く。
俺は自分の手元にある進行表へ視線を戻した。
「もうひとつ。来週、若者向けウェブマガジンのテスト撮影がある。正式な広告案件の候補選考で、事務所から一人出せる」
「一人……」
小糸の表情が固くなる。
「今回は樋口さんを推薦したい」
三人の視線が、樋口へ集まった。
浅倉だけは少し遅れて顔を向けた。
「円香」
「聞こえてる」
樋口は俺を見た。
「どうして私なんですか」
「先方の過去記事を見る限り、笑顔より目線の強さを重視してる。服も寒色系が中心で、屋外撮影。四人の宣材とレッスン時の記録映像を確認した結果、条件に合うと思った」
「透のほうが、絵になるでしょう」
浅倉は樋口を見ている。自分の名前が出たことに驚きも期待もない。
「今回は違う」
「何が」
「浅倉さんは、本人が何もしていなくても、撮る側が勝手に画面の中心に置きたくなる」
「褒めてます?」
樋口の声が少し低くなった。
「評価してるだけだ。今回の媒体は、被写体の存在感より服と日常感を優先してる。浅倉さんを出すと企画のほうが負ける可能性がある」
「負けるんだ」
浅倉が呟く。
「勝たなくていいよ、透」
樋口が言った。
「うん」
「そこで納得しないで」
「はい」
樋口は短く息を吐き、俺へ向き直る。
「それで、私はちょうどいいと」
「そういう言い方をされる可能性は考えてた」
「なら、もっと上手な言葉を用意すればよかったのに」
「用意した言葉で本人の判断を誘導するよりはましだろ」
「正直であれば、無神経でも許されると思ってるんですか」
「思ってない。正直さにも使い方がある」
「今のが正しい使い方?」
「検討中だ」
「仕事中に?」
「新人なんで」
俺が答えると、樋口は笑わなかった。
怒りもしなかった。
ただ、一瞬だけ視線を逸らした。
窓の外では、雲の切れ間から差した光が、向かいの建物のガラスに反射していた。明るいはずなのに、打ち合わせスペースの奥までは届いていない。
「受けるかどうかは、今日の十八時までに連絡してくれ。断っても、ユニット内の評価には影響させない」
「そんなこと、証明できますか」
「できない」
「でしょうね」
「ただ、断った理由を勝手に解釈して、次の仕事を減らすつもりはない」
「つもり」
「未来の行動について、今保証できるのは意図までだ」
樋口は俺を見続けた。
試されているのだろう、と考えた。
だが、そう考えた時点で、たぶん俺は間違えている。
彼女がすべての言葉を試験として発しているなら、その向こうには必ず正解を期待する気持ちがあることになる。そんな都合のいい構造を他人に当てはめるのは、理解ではなく攻略だ。
「分かりました」
樋口はそれだけ言った。
打ち合わせが終わると、四人はレッスン室へ移動した。
小糸は退出する直前に俺へ頭を下げ、市川は「お昼、何食べるか考えといてください~」と、担当業務に含まれていない課題を残した。
浅倉はドアの前で一度振り返る。
「比企谷さん」
「何だ」
「名前、言いにくいね」
「取引先にも一回で覚えられないと言われる。営業職としては致命的だ」
「じゃあ、八幡でいい?」
「距離の詰め方が高速道路なんだが」
「だめ?」
悪意はない。
だからこそ断りにくい。悪意は拒絶の理由を提供してくれるが、善意や無邪気さは、拒絶する側に説明責任を押しつけてくる。
「仕事中は比企谷で頼む」
「分かった、比企谷」
浅倉はそう言い、廊下で待っていた樋口の隣へ向かった。
樋口がこちらを見る。
浅倉の呼び方に対して何か言うかと思ったが、何も言わなかった。
午後五時四十七分。
事務所に残って撮影資料を整理していると、打ち合わせスペースの机に影が落ちた。
顔を上げる。
制服姿の樋口円香が立っていた。
レッスンを終えたらしく、額の近くの髪がわずかに湿っている。手には、午前中に渡した確認用紙があった。
「まだいたんですね」
「新人が定時に帰ると、翌日から伝説になるらしい」
「そういうところ」
「何が」
「いえ」
樋口は用紙を机に置いた。
テスト撮影の参加欄には、本人の字で丸がつけられている。
「受けます」
「了解」
「理由、聞かないんですか」
「必要なら話してくれ」
「午前中は、今後の判断材料にするって」
「聞かれたくなさそうだからな」
「また勝手に判断してる」
「じゃあ訊く。どうして受ける」
樋口は黙った。
俺の顔を見ているが、答えを探しているようには見えない。どの答えを渡すか選別しているようだった。
「透のため、と言えば満足ですか」
「いや」
「どうして」
「俺に納得させるための回答に聞こえる」
樋口の指が、用紙の端を押さえた。
「勝手に嘘にしないでください」
「嘘とは言ってない。全部ではなさそうだと言った」
「同じです」
「違うだろ」
「あなたの中では」
言葉が途切れる。
廊下の向こうから、コピー機の作動音が聞こえた。紙を一枚ずつ取り込み、同じ形で吐き出していく音。
「分からないなら、分からないままにしておけばいいのに」
樋口が言った。
「仕事ではそうもいかない」
「仕事だから、本人が言っていないことまで読むんですか」
「言われたことだけ処理して、問題が起きたら本人の説明不足にするよりはいい」
「だから、自分が先に悪者になる?」
俺は答えなかった。
午前中の会話を覚えていたらしい。
樋口は俺の沈黙を見て、ほんの少し眉を寄せる。
「そういうの、誠実じゃないですよ」
「別に、誠実だとは言ってない」
「また、それ」
低い声だった。
怒りではない。
呆れでもない。
思った場所に手が届かなかったとき、人が立てる音に似ていた。
「先に自分を悪く言えば、他人に何を言われても予定どおりですか」
「防災訓練みたいに言うな」
「火をつけているのも自分なのに」
そこで初めて、俺は返す言葉を失った。
学生時代なら、適当な屁理屈を組み立てていただろう。
誰かが火傷するくらいなら、自分で火を引き受けたほうが被害は少ない。どうせ嫌われる役は必要になる。俺なら慣れている。
そういう計算は、何度も役に立った。
役に立ってしまったから、間違いだと認めるまでに時間がかかった。
いや。
今でも、本当に間違いだったのかは分からない。
結果だけ見れば、あれ以外の方法がなかったこともある。あれよりましな方法を見つけられなかっただけかもしれない。雪ノ下はたぶん、そこを混同するなと言う。由比ヶ浜なら、正しいかどうかより先に、傷ついた人間の顔を見ろと言うだろう。
どちらも正しい。
正しい意見が複数あるとき、人は決断を誤る。
「樋口さん」
「その呼び方、やめてもらえますか」
「じゃあ、樋口」
呼び直すと、彼女は一拍遅れて視線を上げた。
拒絶されると思っていた。
だが、何も言わない。
「俺は、お前のことをまだ知らない」
「当然でしょう」
「だから、言葉の裏を読んで、分かったことにするつもりもない」
「もうしてますけど」
「してたな」
認めると、樋口は目を細めた。
警戒が薄れたわけではない。むしろ、認めること自体にどんな目的があるのか探っている。
「直すんですか」
「努力はする」
「信用できない言葉」
「俺もそう思う」
「本当に、そういうところ」
今度は、続きがなかった。
樋口は用紙から手を離す。
「撮影を受けるのは、私が決めました」
「ああ」
「透のためでも、仕事だからでも、それ以外でも。あなたが勝手にひとつに決めないでください」
「分かった」
「簡単に言わないで」
「じゃあ、記録しておく」
俺は用紙を引き寄せ、余白に日付とともに書き込んだ。
本人の動機を単一化しない。
書かれた文字を、樋口が覗き込む。
「気持ち悪い」
「議事録に対する感想としては新しいな」
「そういう意味じゃないです」
「じゃあ、どういう意味だ」
「聞けば答えてもらえると思わないでください」
午前中、俺が言われたことを、そのまま別の形で返された。
樋口は踵を返し、二歩進んだところで止まった。
「あと」
「何だ」
こちらを振り返らないまま、彼女は言う。
「私を使って、あなたがいい人になろうとしないでください」
「その予定はない」
「そういう人ほど、予定外を自分の美談にしますから」
返事を待たず、樋口は事務所を出ていった。
閉じたドアをしばらく見たあと、俺は机上の確認用紙へ目を落とす。
参加欄以外にも、いくつか記入されていた。
希望する仕事の欄は空白。
将来像も空白。
避けたい仕事の欄には、短い一文だけがある。
『本人の意図と違う物語を、勝手につけられること』
俺はその一文を読み、手帳にも同じ内容を書き写した。
忘れないためだった。
少なくとも、そのときの俺は、本気でそう思っていた。