「おい看守!上で何が起きてる?!」
エースが監獄の中から叫ぶ。牢の前を通りかかった看守が足を止めた。しかし、看守たちが情報を与えるわけがなかった。
「いや・・・。なにも。」
「通常通りだ。」
それだけ言うと看守たちは巡回を再開し、エースの前を通り過ぎて行った。
「エースさん。あの女の話。嘘と考える方が、」
「じゃあわざわざここまで嘘つきに来たってのか!?」
ジンベエの疑問は一般的に考えて当然だったが、エースには確信があった。ルフィなら成功するかは別として、インペルダウンまで助けに来てもおかしくない。
「悪い。だが、そういう弟なんだ!ガキの頃から無茶して心配かけるバカなんだ!あいつは!」
ジンベエはその様子を見て唾をのむ。エースがここまで言うならば来ているのだろう。しかし、来ていたとしてここまでたどり着けるとは思えない。エースから聞いた強さでは覇気も使えないルーキーだ。偉大なる航路前半ならトップクラスの実力だろうが、マゼランを倒せるとは思えないのだ。
「エース、落ち着け。今我らにできることは一つだ。」
「その通り!賭けでもやってルフィを待つ!それだけだ。」
劉備と張飛は相変わらず双六を続けている。今のところ劉備の勝ち越しだ。
「ルーキーに命運を握られていると思うと情けねえがな。だが、監獄まで乗り込んで来やがる馬鹿なら悪くねえ。」
益徳はエースを助けるためにインペルダウンへ侵入したと聞いて以来ルフィのことを大層気に入ってしまった。負け越しているが全く機嫌が悪くなっていない。
しかし、現実は非情だ。再び重い足音が近づいてくる。また動物系能力者の成れの果て、あの牛が来たかと音のするほうを見ていると、現れたのはマゼランだった。
「ポートガス・D・エース。お前の身柄を処刑台のあるマリンフォードまで護送する。」
「エースさん!」
「皆、最後に世話になった。」
「おう!またな!」
劉備は笑顔で手を振るが、エースはすでに覚悟している。素直にマゼランの指示に従い、上階へ繋がるリフトへ向かって行った。しかし、心残りはルフィだ。
エースが牢から出されてしばらくすると、今度はドタバタとした数人の走る足音が聞こえる。今度はリフトの方ではなく、逆側にある階段からだ。
「エース!助けに来たぞ!」
麦わらのルフィ、オカマ王イワンコフ、革命家イナズマの3人だ。
「麦わらのルフィだな!?」
ジンベエが叫ぶ。ルフィは驚きながらそちらを振り向く。
「あ、ああ。おっさん、だ」
「エースさんはもう連れて行かれた!そっちのリフトでだ。行け!まだ間に合う!」
ルフィが、誰だ?と言い終わる前にジンベエが叫ぶ。
「そうか!誰だか知らねえけどありがとう!」
ルフィ一行はリフトの方に駆け寄った。リフトはエレベーターのような形状で、円筒状の大きな筒の中を鎖につながれた箱が上下する仕組みだ。ドアは付いていないので、ルフィはそのまま中を覗く。その瞬間だった。
「危ねえ!」
リフトの代わりに上から棘付き天井が落ちてきた。ルフィは慌てて顔を引っ込める。そして、一行はまた階段の方から登ろうとするが、そちらも上から格子が降りて塞がれてしまった。
さらに、ガスを噴射されてしまう。
「毒だろうが知るか!ぐーzzz」
「無謀にも程があるよ麦わらボーイ!」
「誰だか知らねえが、俺たちを巻き込むな!」
ルフィが階段を無理やり登ろうとするが、ガスを吸って眠ってしまった。LEVEL 6の囚人がそれを見て怒鳴るが、看守達も囚人といえども全滅させるわけにもいかず、致死性のガスは使えなかったのだろう。
ひとまず、イナズマのチョキチョキの実の能力で床を切り、まるで紙のよう床で階段を覆った。これで、毒ガスは防げるはずだ。
しかし、結局ここから上へ行く2つしかない通路も塞がれたことになる。
「カニちゃん!これじゃあ上に行けねえよ!」
「無茶言うな。既に詰みだ。これから上に行けたとして看守に罠を越えなければ地上にたどり着くことさえできない。一方でエースは既にリフトで海軍に引き渡されているころだろう。」
「麦わらボーイ、ビブルカードがあったわよねえ。指しているのは真上じゃないんじゃなあい?」
ルフィはアラバスタでエースからもらってビブルカードを手に乗せる。ビブルカードは斜め上に動いている。つまり、少なくともすでに最上階につきリフトからは降りているようだ。
「後は白ひげに賭けて、ヴァターシはヴァナタの脱獄に全力を尽くす。良いわね?」
「ごめん。俺行くよ海軍本部。」
イワンコフとイナズマは一瞬固まった。そして、イワンコフが叫ぶ。
「ヴァカなことおっしゃい!ヴァナタ、白ひげ海賊団の強さ、海軍将官の強さ知ってんの?いくら3億のスーパールーキーでも命は無ッキャブルよ!」
「諦めたら悔いが残る。俺は行く。」
イワンコフは戸惑っていた。やはり、ルフィの父、イワンコフの同志モンキー・D・ドラゴンを思い出す。理性では無謀と理解しているが、どうにも感情が見捨てることを拒否してしまうのだ。
「どちらにせよ、ここから抜ける方法がない。」
イナズマがそう言うと、囚人の一人が立ち上がった。
「ここを抜けたきゃ俺を解放しろ。」
「お前!」
「クハハハ。俺の能力は知ってるよな?俺なら天井に穴を空けられる。」
元七武海 サー・クロコダイルだ。アラバスタでルフィに敗北した後海軍に捕まり、インペルダウンへ収監されていた。確かにクロコダイルのスナスナの実の能力を使えば、天井に穴を開けることなど容易いだろう。
しかしルフィは怒鳴る。
「ふざけんな!ビビの国をめちゃくちゃにしたお前なんか誰が出すか!」
「解放しましょう。」
「イワちゃん!?」
「大丈夫。全く信用できないけれど、ヴァターシはコイツの弱みを握ってる。ねえクロコボーイ?」
「イワンコフ・・・!?」
「おとなしく力を貸すなら黙っててあげるけど、どうする?ヒーハー!」
「・・・!!」
クロコダイルが冷や汗を流す。今殴ったら砂になれないのだろうか。なんにせよ、元七武海の協力は心強い。裏切りをイワンコフが抑えられるなら解放するのが良いだろう。
「わしも連れて行ってくれ!必ず役に立つ!エースさんが白ひげ海賊団に入った頃からの付き合いじゃ!わしもエースさんを助けたい!死に場所をくれ!」
「海俠のジンベエ。大物ね・・・!」
ジンベエが声を上げる。イワンコフも面識はないが、七武海であるジンベエのことは知識として当然知っている。
「いいぞ。」
「大丈夫か?我々は海俠のジンベエの人柄、危険度も何も知らないんだぞ?」
「いいんだ。出してくれ。」
「かたじけない!」
ジンベエの嘆願に対して、イナズマは戸惑ったが、ルフィは迷わずに解放することを決めた。
そして、ジンベエの対面の牢からも声がかかる。
「じゃあ次はおいらたちも頼むぜ。」
「誰だ?」
劉備と面識のあるイワンコフがルフィに説明をする。
「玄徳、姓名は劉備だけど本名は生国の文化で目上しか呼んじゃいけないのよ。元海軍少佐にして、世界政府非加盟国を海賊から守っている、うーん、守ろうしている組織のトップよ。後ろの2人は雲長と益徳。玄徳、雲長、益徳の順で義兄弟よ。」
「へえ。つまりヒーローか?」
「いい加減なやつだけど、民衆からしたらそういう風に思われてるわ。ほとんど尾ひれの付いた噂話ッブルが一人歩きしてできたヒーロー像だけどねえ。」
「そうだ!おいらがヒーローだ!」
「おおっ!」
ルフィが拍手で答える。
「そして!おいらはひとつなぎの大秘宝を手に入れて天下の主となり、世界中の民を笑顔にすんのさ。ルフィ!おめえほどの男なら大歓迎だぜ!一緒に天下に行こうじゃねえか!」
「ひとつなぎの大秘宝は俺が手に入れて海賊王になるけど、まあ今はいいや、こいつらも出そう!」
イナズマがチョキチョキの実の能力で手を細長いハサミに変えた。そして、ピッキングの要領でクロコダイル、ジンベエ、劉備、関羽、張飛らの牢と手錠の鍵を外す。
「さァてこうなったら力づくの強行突破よ!時間はナッシブル!ヒーハー!」
「安心しろ白ひげに会うまでは共闘してやる・・・。」
「クロコダイル!オヤジさんには手を出させんぞ!」
「なあ、本当においらのとこ来ねえか?居心地良いぞ?」
「だぁから!俺は俺が海賊王になりてぇの!」
「はっはっは!大した野望だ!」
「なんにせよ、貴殿は命の恩人だ。我ら義兄弟、全力で助力する。」
「元も含め七武海二人に、噂の三義兄弟か。豪華な顔ぶれになったな。」
濃い面々を見てイナズマが呟く。一行は上の階で囚人たちを解放している面々と合流するために、クロコダイルが開けた穴からLEVEL 6を抜け出した。
少し経ってから看守たちがLEVEL 6へ突入して来る。しかし、当然ルフィ達はいない。
「天井に穴が!」
「麦わら、イワンコフ、イナズマを探せ!」
「馬鹿野郎!」
看守達は罵声を聞いてそちらを振り向く。牢のなかにはほかの囚人達と異なる、むしろ看守達に近い服装の男が一人座っていた。
「穴開けて逃げねえ馬鹿がいるか?抜けた仕事しやがって。」
「シリュウ看守長!」
この男はインペルダウンの"元"看守長にして、現死刑囚、雨のシリュウだ。腕は立つが、囚人を気分次第で斬り殺す行動が問題となり、ここに収監されていた。
「マゼランに伝えろ。俺が力を貸してやると!」
「!!」
場所が変わってインペルダウンのモニター室。監視電伝虫によってインペルダウン中の映像がモニターに映されるここは、各看守達に情報、指示を伝達する首脳部だった。
『こちらLEVEL 4!並の看守では歯が立ちません!応援を要請します!』
LEVEL 4のモニターにはルフィ達だけでなく、他の囚人達も暴れ回る様子が映し出されていた。クロコダイルに解放されたかつてのバロックワークスMr.1も看守達を斬り裂きながら進んでいる。
「了解!他の階層の看守は直ちにLEVEL 4で戦闘に加われ!」
「待ってください!LEVEL 2は周囲を確認しろ!囚人が檻から出ているぞ!」
『え!?あ、全員構えろ!』
『後ろにもいるぞ!』
「一つ二つではない!複数の牢から脱獄しているぞ!すでにそこは囲まれている!」
『そんな馬鹿な!?うわあああ!』
「どうした!?」
通信していた看守の声が聞こえなくなり、代わりに遠くの声が微かに聞こえる。何百人もの人間が叫ぶ声だ。
『・・・うおおお!俺たちの救世主キャプテン・バギー!』
『さあ!野郎ども命懸けで騒ぎまわれ!』
『はい!キャプテン・バギー!』
『3兄さんの鍵だ!ほかの奴らも解放しろ!』
脱獄して囚人の声だ。モニターにも脱獄した囚人がさらにほかの囚人を解放する様子が映っている。
モニターを見ていた看守達は青ざめた顔で固まってしまった。一人が固まった看守から電伝虫を奪う。
「ハンニャバル副署長!聞こえますか?」
『どうした!?』
「LEVEL 2と4で囚人の大量脱獄です!罠も作動していますが全く数が足りません!」
『ウウ!?どうしたら?』
「LEVEL 4の囚人を率いているのは行方不明になっていたイワンコフとイナズマ、Mr.2です!さらに他にも行方不明になっていた囚人たちが、画期的な格好で混ざっています!」
『なんだそれは!?』
そして、別の電伝虫から通信が入る。玄関口から通信だった。
「こちら、モニター室!ハンニャバル副署長にも繋いである。どうした!?」
『黒ひげです!』
「七武海がなぜ!?」
『わかりません!しかし、乗ってきた軍艦の海兵は全滅していました!明らかに敵対的です!』
『なな、な?!』
ハンニャバルからの通信は切れていないが、返答がない。
モニター室の看守達は誰よりも状況を理解している。だからこそ、ハンニャバルの気持ちが痛いほどわかる。
どこから手を付けて良いかわからない。脱獄は過去一度だけ。地獄と例えられる監獄への信頼は崩れ落ちた。
そんな看守たちへ新たな通信が入る。マゼランからだった。
『マゼランだ。LEVEL 2の暴動への処置を完了した。出入り口を閉じて毒ガスを充満させている。直に鎮圧できるだろう。』
モニターでマゼランを中心に数え切れないほどの囚人が倒れているのを確認できた。
『黒ひげにも、苦肉の策だがな。手は打った。お前たちはLEVEL 4の鎮圧へ向かえ。俺が到着するまで持ち堪えろ!』
本来であれば海軍本部へ応援を要請すべきたが、エースの処刑を行うために白ひげ海賊団の警戒にほとんどの戦力を削いでいる今の海軍にはそれができない。
『うおおお!署長!へい署長!署長!署長!』
「良かった!」
「さあ情報を集めて作戦を練り直すぞ!洗練された軍ではなく、ただの囚人共だ。どこかに弱点がある!」
ハンニャバルは歓喜の叫びをあげ、看守室も希望を取り戻した。マゼランへの信頼がいかに大きいかわかる。ハンニャバルはLEVEL 4へ向かった。
同時刻、LEVEL 4では囚人たちが上階へ進みつつ、途中の牢を開けて囚人を開放し、さらに暴動を大きくしていた。牢番長のサルデスが横笛で指示する海のゴリラ、ブルゴリを投入し制圧を試みている。
しかし、殿を務めるイワンコフのDEATH WINKと地獄のWINKで吹き飛ばされてしまう。DEATH WINKはただのまばたきによって衝撃波を生み出す技で、地獄のWINKは自身のホルホルの実で顔面を大きくしたのDEATH WINKだ。自身の目の方へはダメージがないのだろうか。
「DEATH WINK!麦わらボーイは後ろに構わず先に行きなさい!後ろはヴァターシたちに任せて!」
「ああ。先に行かれよ。」
「あちしたちも必ず合流するわ!」
「益徳は前に行って助けてやんなあ。」
「おうよ!行くぜ麦わら!」
「わかった!ありがとう!」
後方にイワンコフ、劉備、関羽が残りルフィと張飛が集団の先頭へ走り抜けていく。すると、前の方から悲鳴が聞こえた。
「獄卒獣だ!」
「さあ行っちゃうのよ!」
サディちゃん率いる獄卒獣たちだ。牢の中で劉備達をぶん殴った牛もいる。巨大なコアラ、サイ、シマウマ、牛が二足歩行で駆け寄ってくる。もっと小さくて武器を持っていなければかわいらしい光景だが、囚人たちが踏みつぶされ、金棒で殴り飛ばされる様子はまさに地獄絵図だ。しかし、橋の前を塞いでいるため、ここを突破しなければLEVEL 3へはたどり着けない。
「ぎゃああ!」
「引き返せ!みんな殺されるぞ!」
「ホルスタインも復活してやがる!」
囚人たちが先頭から引き返す中、張飛とルフィは前に出てジンベエとクロコダイルに合流する。張飛は他の三人を振り返って大声を上げる。
「牛は俺の獲物じゃあ!”送炮”」
「じゃあ俺コアラ!ギア3。”巨人の”!」
「ワシはサイじゃ!”五千枚瓦”」
「好きにしろ...。」
張飛が牛の棍棒を左腕で受け止め、右腕で牛の腕を掴む。張飛の指が牛の皮膚に食い込んだ。ルフィが右手親指を噛んで右拳を膨らます。ジンベエは手のひら側を上に右腕を腰の横に添え、さらに左足を一歩踏み出して構えた。クロコダイルは右手のひらに砂塵の竜巻を生み出している。
「”盤打”」
「”銃”!」
「”正拳”!」
「”砂嵐”!」
張飛に腕を掴まれた牛はそのまま鈍器として看守たちに叩きつけられた。監獄の床にめり込んで沈黙している。張飛の手には牛の腕からちぎれた肉付きの毛皮が握られていた。
コアラはルフィの巨大な拳に殴り飛ばされた。白目を向いて立ち上がってこない。サイはジンベエのアッパーカットを受けて、天井に激突し、看守を巻き込みながら落ちて来た。クロコダイルによって砂嵐で巻き上げられたシマウマは回転しながら吹き飛ばされ、橋の下の炎の中に落ちていく。
「きゃあああああ!」
「ええええええ!」
「獄卒獣たちがやられたら止めようがないぞ!」
獄卒長サディちゃんをはじめ、看守たちが驚愕している中、一行は快進撃を続ける。
「お待ち!興奮の檄 ”赤魔鞭”!」
しかし、サディちゃんとて並の使い手ではないのだ。すぐに冷静さを取り戻し、武器の鞭をふるう。囚人たちを一斉に制圧し返した。
「よくも私のかわいい獄卒獣たちを!ただじゃ、ッ!!」
「ヒーハー!道をお空け!」
ホルホルの実の能力で女へ転換したイワンコフがサディちゃんへ飛び蹴りを放った。サディちゃんは身をかがめてそれを避ける。
「イワンコフ!?このどっちつかずのアナーキスト!」
「今は女の気分ーん。」
イワンコフはスリムになった分動きが軽やかだ。さらに看守の応援が参戦した。
「ここが地獄の大砦。絶対に通さんぞー!」
副署長のハンニャバルだ。武器は柄の両端に刃の付いた薙刀、血吸だ。それを回転させて囚人たちを次々と斬りつけている。それを見た看守たちから再び歓声が上がった。
「血吸だ!」
「じゃあ頼りになるぞ!」
「副署長の後ろ、LEVEL 3への扉にはバズーカ部隊が詰まっている!これならいけるぞ!」
ハンニャバルが前に出ていたルフィに向けて宣言する。
「か弱い庶民の明るい明日を守るため。前代未聞の海賊麦わら!署長に代わって極刑を言い渡す!」
「どけ。」
「やだねー!ご存じハンニャカーニバル!”焦熱地獄車”!」
「あちち!」
ハンニャバルが血吸を縦に回転させると両方の刃が燃え上がった。ルフィは熱がりながらもそれを危なげなくかわす。
「どかねえならぶっ飛ばして行くぞ!」
「笑わせるな!簡単にぶっとば、うん?」
ルフィから湯気が立ち上る。
「”JET銃乱打”!」
「ゴボボボ!」
ハンニャバルには見えなかったが、数十発の拳に殴られ後ろに倒れそうになる。だが、ハンニャバルは踏みとどまった。
「まだまだ!」
「副署長に続け!」
看守たちの勢いが戻り、戦闘の激しさが増す。バズーカ部隊による砲撃で囚人たちが次々倒れていく。しかし、ハンニャバルとルフィの戦力差は覆らない。ルフィの一発ごとにハンニャバルは膝をつき、出血を増やしている。立っているのがやっとといった状態だ。
「副署長!もう立たないで!」
「死んでしまいます!」
看守たちも悲鳴を上げる。しかし、ハンニャバルの表情は変わっていない。
「何を!海賊に謀反人どもが、何が兄貴を助けるだ!綺麗ごとぬかすな!貴様らが存在するだけで庶民は愛するものを失う恐怖で夜も眠れない!ここが破られちゃこの世は恐怖のどん底だろうがい!出さんと言ったら一歩も出さん!」
張飛の横で、先頭に追い付いてきた劉備と関羽も静かにハンニャバルを見つめていた。
「おい、あのままじゃ死んじまうよ。もったいねえ!もったいねえ!」
「欲しいですか?ハンニャバルが。」
「ああ!だがよお。」
「でしょうな。」
劉備が物欲しそうな顔をするが、一度ため息をつくと表情を戻した。民衆を守るため、圧倒的な戦力を前にその信念を貫き必死に戦うハンニャバルが欲しいのだ。しかし、だからこそハンニャバルがインペルダウンを裏切ることはない。
「俺はエースが大事だ!だからどけ!」
「馬鹿には何を言っても、ッ!?」
ルフィとハンニャバルが言い合っていると突然、ハンニャバルの後ろにいた看守たちが、足元に発生した黒いモヤに吸い込まれていく。
「うわあああ!」
「抜け出せないぞ!」
「え?どうした!?」
そして、ハンニャバルの頭上から5人の男が飛び降りて来た。
「やめときな。正義だ悪だと口にするのは。そんなもんこの世のどこを探しても、「邪魔だ!」ごはっ!」
そのうちの一人、恰幅の良い男がハンニャバルの顔面を踏みつけようとしたその瞬間、すっ飛んで来た張飛が蹴り飛ばした。男は壁に当たって床に落ちた。腹を抑えてうずくまっている。
「うおおおおおっ...。」
「侠どうしの戦いに水を差すんじゃねえ!」
ハンニャバルとルフィともに侠と認めてたたきを見守っていた張飛にとって横槍は見過ごせなかった。止めを刺そうと男のもとへ歩み寄る。
「船長!」
「大丈夫だ。ハア...フウ...生きてる...。」
「次でしまいじゃああ!」
「待て!益徳!」
ジンベエが後ろから叫ぶ。
「なんでじゃあ!?」
「そいつが黒ひげ ティーチじゃ!」
「んあ?確かに白ひげの親父さんのとこで見た顔だなあ。だからどうしたってんだ!?」
張飛が拳を振り上げて追撃しようとするが、落ちて来た男たちの一人、ヴァン・オーガーの狙撃で一歩下がる。さらに、背中に翼を生やした”保安官” ラフィットが頭上から、正面からは”チャンピオン” ジーザス・バージェスが攻撃を加える。オーガーの狙撃のタイミングがいやらしく、張飛は思うように殴れないでいる。
「うっとおしい!」
「益徳!ここは下がれ。おいらたちは時間がねえんだ!」
「かああああ!わかったよ!」
「ルフィくんも良いな!?今やそいつはエースさんを倒す程の実力を身に付けておる!ここでの戦闘が長引くほどエースさんの救出が不利になるぞ!」
「~~~ッ!わかった...。」
「ラフィット、バージェス!お前たちも下がれ。ああ、ひでえ目にあった。まさか玄徳たちも脱獄してやがるとはなあ。」
張飛、ラフィット、バージェスともに跳び下がった。ルフィもこの男がエースを捕らえた黒ひげと聞いた瞬間襲い掛かろうとしていたが、ジンベエに肩を掴まれギア2を解除した。
「よお黒ひげ。どうだい?おめえらも協力して逃げねえか?」
「おい!そりゃあ筋が違うんじゃねえか!?」
劉備の思わぬ発言に張飛が怒鳴る。しかし、劉備は構わず続けた。ルフィは何も言わず、じっと黒ひげを見ている。白ひげの船で仲間を殺し、さらにはエースを捕らえた黒ひげとの協力などできるわけがないと、ジンベエも驚愕と怒りの入り混じった顔をしている。
「怒るな益徳!今はとにかく時間がねえ!これが王者の度量ってもんだ。七武海になったと聞いたが、見た感じ政府に従っているって様子じゃねえよな?なら脱獄までは一緒にどうだい?ついでに海軍本部への殴り込みも。」
「ゼハハハハ!その大雑把さは嫌いじゃねえ!だが俺たちは下に用があるんでな!」
その時後ろから囚人たちの叫び声が上がった。
「マゼランだあああ!早く進めええ!」
「ぎゃああ!」
逆に押され気味だった看守たちには希望が戻ってきた。しかし、マゼラン本人は到底安心できる状況ではなかった。
「黒ひげもいるのか?シリュウは何をしている!?」
元看守長のシリュウは気ままに囚人たちを斬りつけていたため、LEVEL 6に収監されていた。今回、ルフィとは別口で侵入してきた黒ひげの対応ができる職員が居ないため、苦肉の策として解放したのだ。黒ひげを倒せば復職できるという条件を出していた。
モニター室から返事があった。
『モニター室です!映像受信用の大電伝虫がやられ、各階の状況が分かりません!』
「なぜだ!?囚人の中に大電伝虫の位置を把握している奴がいるのか!?」
『外部へも、あがっ!』
「どうした!?」
モニター室から応答はない。
「誰か確認に向かわせろ!まずいぞ、黒ひげがここにいるならLEVEL 2を塞いでいた毒の壁も破壊済みのはずだ!」
ルフィ達はマゼランが来る前に急いでLEVEL 3へ向かわなくてはならない。ルフィが黒ひげを睨みつける。
「俺は絶対エースを助けるぞ!」
「ゼハハハハ!無駄とは言わねえ!この世に不可能はねえ。空島もあっただろう?ひとつなぎの大秘宝もそうさ!」
ルフィが黒ひげの横を通り過ぎる。黒ひげは振り返らずに大声で話す。
「数時間後、お前たちが生きていれば世界を震撼させるショーを見せてやる!楽しみにしとけ!ゼハハハハ!」
ルフィ一行は一刻も早く脱獄するためにLEVEL 3へ走る。黒ひげ一行は逆にマゼランの方へ向かって歩いていた。