マゼランは前から歩いてくる黒ひげの一味を見据えていた。そして、その思惑を推測できずにいた。麦わらのルフィは兄の救出。その他の囚人たちは脱獄。だからマゼランから一目散に逃げ、LEVEL 3へ駆け込んでいった。
では、黒ひげは?最初は麦わらとの共闘を警戒していたが、その様子はない。下へ向かうからには救出したい囚人が居ると考えるのが自然だろう。しかし、その相手を聞き出す時間はマゼランにはない。
「黒ひげだな?」
「いかにも!おめえがマゼランか?」
「毒竜!」
黒ひげは構えもせず、悠長に会話を始めようとした。その隙を逃さずマゼランは問答無用の速攻を仕掛ける。黒ひげ一味は避けることもできずに紫色の毒の竜に飲み込まれた。
一瞬の間の後、黒ひげたちは床でのたうちまわる。
「おわああ!痛ええええ!ちくしょおおお!」
それを一瞥したマゼランはLEVEL 3へと急ぐが、門の前で倒れているハンニャバルを見つけると立ち止まった。
「・・・良くここまで持ちこたえた。くたばるんじゃないぞ!俺の後任はお前しかいないんだ・・・!」
さらに階段の前に立って叫ぶ。
「麦わらアアアアアアア!!!」
その声は囚人たちの先頭にまで聞こえた。
「なんだ!?」
「マゼランだ!走れ!すぐに来るぞ!?」
マゼランは続ける。
「貴様は絶対にここから出さんぞオオオオオオ!!!」
監獄の主の雄叫びが響き渡る。自然と囚人たちの呼吸が早くなっている。誰も表情に余裕がない。今転べば後ろの囚人たちは自分を踏みつぶして進むだろう。LEVEL 3へ到達し、次はLEVEL 2を目指す。
それでもマゼランの毒が追い付いてきた。最後尾の囚人たちが飲み込まれる。それを見て恐慌に陥った囚人が前の囚人を引っ張り、抜かそうとした。しかし、転がった囚人に足が引っかかって共倒れになってしまう。そのまま毒に包まれた。
恐怖は伝播していく。まだマゼランを見てはいない先頭側の囚人たちでさえ、前の囚人が遅ければ払いのけて進んでいる。
そんな中にも冷静な者はいる。イワンコフは先頭集団から離れ、LEVEL 3から2へ繋がる階段の前に立っていた。そして最後尾が階段に入るとイナズマへ声をかける。
「イナズマ!」
イナズマがハサミに変えた両手を構え、返事をしようとしたとき。関羽が二人を制止した。
「待て。」
「雲長?早くお行き!もう時間がナッシブル!」
「そう何度も助けられては我らの面目が立たん。代わっていただこう。」
関羽にとって海賊だの人攫いだのの囚人たちを助ける義理はないが、旧知であり今や命の恩人のイワンコフならば話が別だ。
「いくらヴァナータでもご自慢の青龍偃月刀がナッシブルな今、マゼランは厳しいのでは?」
「多少困難なことでなければ恩返しにはなるまい。」
関羽がイワンコフの肩をたたき、迫るマゼランの方へ近づいていく。
「行けい!イワンコフ!イナズマ!」
「すぐ追いついて来るのよ!」
「どうか無事で!」
イナズマは階段を登りきると、腕のはさみで切り刻んでしまった。切られた階段の落ちる轟音が関羽の後ろから響く。
「時間稼ぎか?」
「いや、貴公の毒が飛び散るのを気にしながら戦うのを避けただけのことだ。急いでいるところ、すまんが付き合っていただこう。」
「時間を稼ごうとお前たちに逃げ場などない。関羽といえど俺の毒の前には一人の人間に過ぎん!”毒竜”!」
3mはある関羽だがマゼランはさらに大きい。マゼランが巨大な3本の毒竜の首を関羽へ突撃させる。
「”通貫衝”!」
関羽が左足を踏み込むと同時に左拳で正面を突いた。衝撃波によって毒竜の頭は三匹ともはじけるが、すぐに再生してしまう。しかし、その隙にマゼランへ迫撃する。
「はああ!」
「
関羽の拳を毒で受ける。さらに毒液を噴射して一本の長い管を作り出し、その中を通って逃げようとしたが毒を貫いた関羽の拳がマゼランの背中に命中した。
殴られたマゼランは背後の壁に叩きつけられる。床に倒れ伏したマゼランが起き上がりながら顔を上げた。しかし、マゼランは笑みを浮かべていた。
「ハァハァ...。勝負あったな。」
関羽が自身の拳を見ると皮膚が溶け始めていた。さらに、盾を破壊したときに飛び散った毒が服はもちろん、手足や胴体の至る所を溶かしている。
「厄介な能力だ。」
「毒雲!」
さらにマゼランは蜘蛛のような形の霧状の毒を生成し、自身と関羽を包み込もうとする。
「これで詰みだな。しかし、並の人間なら神経がいかれる猛毒なのだが...。大した武装色の覇気か。」
「マゼラン。」
関羽は腰を右に捻り、両手を上にあげる。まるで青龍偃月刀を上段に構えているようだ。さらに関羽は全身を武装色で全身を光沢のある黒色で覆った。
「相手の首を取るまでは、油断せずに二の太刀を打ち込め!。」
関羽が腕を振り下ろす。凄まじいい轟音と共に、無手による飛ぶ斬撃がマゼランを吹き飛ばし、インペルダウンの床と内壁を破壊した。
壁や床が破壊されたことで下層にあるLEVEL 4の熱気が毒雲を霧散させてしまった。関羽の全身に付着していた毒も武装色の覇気で吹き飛び、きれいさっぱり落ちてしまった。
「グハッ!ハァ,,,ハァ...貴様ァ!」
「体を震わせれば毒は落とせる。」
マゼランは手を膝に当てて立ち上がろうとするが、膝が言うことを聞かない。 関羽が床にできた大穴を跳び越えて、マゼランへ歩み寄る
「貴公は天下に必要だ。殺そうとは思わん。今は大人しく敗北を受け入れ、明日から再び民衆のために監獄を守れ。」
「ふざけるな!民衆のためにだと!自身の脱獄を正当化する気か?」
関羽は歩みを止めず、マゼランを見据えて言い放つ。
「世界政府には徳がない。加盟国とて海賊の被害、飢えから民を守れぬ。非加盟国の民は見殺しにするどころか、搾取さえしている。その結果が大海賊時代だ。ロジャーの一言はきっかけに過ぎん。すでに限界だったのだ。」
「ならば貴様らは何をする!?囚人を脱獄させればどれだけの民衆が泣くと思っている。たとえ完璧でなくとも世界政府は民衆を統治し、人の営みを守ってきた実績がある!貴様らの騒ぎは子供の癇癪にすぎん。民衆を巻き込み、政府に鬱憤を晴らしても被害者を増やすだけだろう!」
関羽がマゼランの目の前で立ち止まった。
「世界政府を我が兄劉玄徳が飲み込む。」
「正気か!?どれだけの血を流すつもりだ?」
「今血を流すとも、未来の民が笑って暮らせる世を作る。それが我らの大義だ。」
「そんな夢物語を信じろと?大ぼら吹き共が!貴様らはここから出させんぞ!”毒の巨兵 最後の審判”!」
マゼランが全身から一気に毒を噴出する。その気配を察知し関羽は飛び下がった。マゼランは震える足を自身の拳で叩き、無理やり立ち上がった。
マゼランから噴出した毒はドロドロとした流体的な動きをしながら巨大な上半身へと変化していく。頭はドクロ、背中には毒の羽が生えている。そして、毒が触れた監獄の内壁や床が溶けるだけでなく、さらにその周りまで溶かしながら広がっていく。まるで触れた物が毒になっているように、少しづつ侵食していくのだ。
「監獄を破壊してしまうが、貴様たちを逃すよりましだ!」
動きは早くないが、この狭い監獄の中で使えば囚人たちに逃げ場などない。関羽は右腕を振り上げ、マゼランに飛ぶ斬撃を放つ。マゼランを包む毒の巨兵の毒が削れるもののマゼランには届かない。
「先ほどまでの毒と同じと思うな!」
関羽は再び全身を武装色で覆い、マゼランへ近づく。
「大した能力だ。しかし、俺が溶けるより先に貴公を殴り倒せば良い。」
「それができないから、俺はインペルダウンの署長なのだ。」
死闘が始まる。
関羽とマゼランの戦いが始まってから少したち、囚人たちはLEVEL 2、LEVEL 1と抜けてとうとう地上の扉を開け放った。しかし、思い焦がれたはずの太陽の光を浴びた囚人たちは戸惑いの表情を浮かべている。
「軍艦がねえ....。」
「そんな....一隻も...。」
「おいおい!どうすんだ!?」
当てにしていた軍艦が一隻もない。インペルダウンは凪の海に建造されており、海を渡る手段がなければ脱出できないのだ。一行は監獄周辺の軍艦を奪って逃走するつもりだったが、それを読まれていた。
よく見ると遠くの方に軍艦が見える。しかし、誰があそこまで泳いで乗船し、海兵を倒して軍艦を奪うというのか?
「ワシに任せてもらおう。」
ジンベエが監獄の大扉を持って、海へ投げ込む。
「乗れ!軍艦まで運ぶ。」
「ありがとう!おっさん!」
その言葉を聞き、ルフィが真っ先に、続いて劉備、張飛、クロコダイル、Mr.1が扉の上に跳び乗った。Mr.1はクロコダイルが途中で解放していた。さらに、バギーが少し考えた後、名乗り出る。イワンコフ、イナズマは後ろを警戒するために開け放たれた入口前に残った。
「俺様もいくぜ!」
バギーとMr.3を主犯とする一行もLEVEL 1で合流していた。この一行は自分たちを解放したバギーを盲信していた。
バギーが扉に乗ると歓声が聞こえる。
「キャプテン・バギーが乗り込んだぞ!それに加えて七武海2人に、あの劉備と張飛だ!」
「お願いします!キャプテン・バギー!」
「この人たちの戦いが見られると思うとぞくぞくしてきたぞ。」
ジンベエが下にもぐり、扉を腕で持ち上げた。
「急ぐぞ。」
「早くしろ。」
クロコダイルが返事をすると、ジンベエが泳ぎ始める。さすがは魚人海賊団船長。軍艦よりはるかに速い。すぐに軍艦の近くまで到着した。そして、当然軍艦の海兵たちに発見され、砲撃を受け始める。
「早えええ!親分、こりゃあ軍艦も要らなかったんじゃねえか?」
「いや、海軍本部までは疲れるわい・・・。甲板に打ち上げる!しっかり掴まれ!」
劉備が寝そべって扉の下を覗き込みながら言うと、ジンベエが扉を置いて潜ってしまった。
「な、なにいいい!?逃げやがったぞあの魚野郎!?」
「静かにしていろ貴様。」
ジンベエが潜ったのを見て慌てたバギーが騒ぎ出し、Mr.1が呆れた表情で苦言を呈する。
一方、水深数十m程度の海中ではジンベエが上を見上げていた。
「”魚人柔術 水心”。”海流一本背負い”!」
ジンベイは海水を両手で掴んだ。ジンベエが海水を振り回すと、まるで見えない膜につつまれたように一本の長い海流となる。ジンベエは背負い投げの要領でその海水を水面へと投げた。
その一本の海流は水面を飛び出し、扉を乗せて空中へ伸びあがる。
「すんっげぇー!」
「うぎゃああああ!」
「お前なぜ来た?」
驚愕して目玉が飛び出そうになっているバギーを見て、Mr.1が困惑する。隣でルフィは目を輝かせていた。
空中へ伸びた海流は途中で折れ曲がり、軍艦の甲板へと撃ち込まれた。扉も海水に乗って甲板へ叩きつけられる。バギー以外は両足でバランスを崩さず着地したが、バギーだけは頭から転んでしまった。
「脱獄囚たちだ!」
「軍艦を絶対に渡すな!」
海兵たちは将校を含め果敢に応戦するが、この面子と戦える強者は乗船していなかった。
Mr.1は海兵の銃弾をスパスパの実の能力で腕を刃に変えて防御する。さらに足を刃に変えた蹴りでまとめて海兵たちを切り裂いた。
「西ノ海の殺し屋、ダズだ!」
劉備と張飛はそれぞれ海兵を海へ放り投げ、蹴り飛ばし落としていく。軍艦を確保するのに大した時間はかからなかった。軍艦をジンベエが操縦し入口まで戻り始める。
「益徳そろそろ関さんを呼べ!おめえらは耳をふさげ!」
「おう!」
張飛が息を大きく吸い込む。劉備は耳を塞いだ。それを見て気絶中のバギー以外は耳を塞ぐ。クロコダイルは鉤爪なので砂で耳の穴を塞いだ。
「兄者あああああああ!軍艦を取ったぞおおおおお!」
耳を塞いだMr.1、ジンベエも一瞬片眉が下がる。バギーは一度跳ね起きて、再度気絶した。自然系の能力を持つクロコダイルも不快感はあるようで張飛を見て舌打ちをする。
インペルダウンの入り口前でも益徳の大声が聞こえ、囚人たちが耳を塞いでいた。
「うおっ!」
「なんだ!?」
一方その頃、関羽とマゼランは監獄を破壊しながらLEVEL 4灼熱地獄へと戦場を移していた。
お互い決定打を欠いていた。関羽は自身に付着した毒の広がりを武装色の覇気で抑えているが、それでも少しずつ広がってしまうので、近づくのが難しく毒を貫けるほどの攻撃ができずにいた。
さらに全身に覇気を纏い続けるのは体力の消耗が激しい。最小限の出力に抑えるため、すでに衣服はボロボロになっており、自慢の長ひげも半分ほどに溶けてしまっている。
そして、時間に余裕がないのはマゼランも同じだった。脱獄囚達が関羽を待つとは限らない。
突破口を探しているとき、張飛の大声が聞こえてきた。
「兄者あああああああ!軍艦を取ったぞおおおおお!」
関羽が口角を上げて静かに笑うと、マゼランは歯を食いしばりながら関羽を睨みつける。
「時間だな。」
「この犯罪者どもが!」
「海軍本部での戦いに備えて温存したかったが甘かったか。」
「それは傲りだぞ関羽!牢に戻り貴様の慢心を後悔していろ!!」
マゼランが毒の巨兵の両腕を伸ばす。関羽を確実に捉えるため、自身を覆っていた毒を腕へ移動させた。巨大な毒の腕が数を増やし、さらに腕とは呼べない無数の濁流となって周囲を飲み込みながら関羽に迫る。
マゼランは妥協策としてLEVEL 4を毒で蓋して、関羽を閉じ込めようとしたのだ。その間に他の囚人を捕らえれば良い。しかし、LEVEL 4を閉じ込める程の量の毒を出せば間違いなく、気化した毒で他の階に待機する看守にも死者が出る。インペルダウンもしばらく使い物にならない。マゼランにとっても最悪の手段であった。
しかし、誤算があった。マゼランは先ほどまでと同様、関羽は大量の毒を避けるものと考え、自身を守る毒さえ攻撃へと回したのだ。
それは焦りからくる悪手だった。関羽は毒の壁を避けなかったのだ。代わりに武装色の覇気をさらに放出する。関羽の力量をもってして数分も維持できるかわからない過剰な覇気だ。それでもあの毒の濁流へ飛び込むならばまだ足りないのかもしれな。
関羽は当たり前のように毒の中へ飛び込んだ。己の覇気を信じるがゆえの無謀だった。関羽の体を毒が押し返そうと包み込む。
「元より、無傷での勝利など願ってもいない!」
「抜かせるか!舐めるなああああ!」
関羽が左腕を前にして、両腕を交差させながら毒の中へ突っ込む。マゼランは周囲の毒を関羽へ集中させることでそれを止めようとした。しかし、間に合わなかった。
毒を抜けた関羽に対して、マゼランは自身の拳で迎え撃つ。関羽は膝を曲げて重心を落としながらその拳を避けた。そして、踏ん張りで床にひびが入るほどの勢いを乗せた拳でマゼランの顎をかち割った。
「”青龍拳”!」
「があッ!」
マゼランは崩れたLEVEL 4の天井を抜けて、LEVEL 3まで飛ばされていった。幸か不幸か毒を大量に放出しきる前に倒されたので、ガスマスクをつけている看守たちは無事だろう。それを見た関羽は呼吸を止めて助走をつけた。そして、壁を蹴って跳び上がる。マゼランの後を追いLEVEL 3へ到着した。仰向けに倒れたまま動かないマゼランを見て安心したのか、関羽の足元がふらつく。
「ふむ。一刻を争うな。」
関羽が膝に手を置いて姿勢を戻す。常人では耐えきれないほどの激痛が関羽を襲っていた。震える左手を右手で叩きマゼランに背を向ける。
「しばし休め。」
関羽がまた走りだそうとしたその時、背後から気配を感じた。関羽が驚いて振り向くと、マゼランの体から毒が流れ出ている。向かう先は関羽の足元だった。マゼランの顔は白目のままだ。
「見事であった。監獄を任すぞ。」
そう言うと関羽はLEVEL 3の階段へと向かって走り出した。
しばらくして、軍艦が入り口前へ到着するころに、重い響く足音が聞こえてくる。関羽が現れた。全身に武装色の覇気を纏ったままだ。
「待たせましたな。」
「おう!今取ったばかりだ。関さん早く乗ってくれ!」
劉備が関羽を呼ぶが、関羽は船ではなく海に飛び込んだ。
「何してんだ?」
益徳が問いかけると、関羽が体をこすりながら見上げた。
「この毒は触った者にも感染する。戦闘中に囚人に飛沫がかかっていたが、全身赤紫色になって死んでいた。俺は覇気を纏ってはいたが時間をかけすぎてな。左腕がまずい。」
左腕が変色している。皮膚がドロドロに溶けていた。武装色の覇気を維持できていた体のほとんどからは毒を洗い流せたが、攻撃を受けていた左腕だけは消耗が激しかったようだ。
地面を見ると関羽の通った場所にその毒が垂れており、少しずつ範囲を広げていた。それを見て囚人たちが関羽から離れる。
「ヴァナータ!?治癒ホルモン打ってあげる。毒の付いていないところを見せて!」
「すまんな。頼むイワンコフ。」
関羽は陸に上がり、舌を出す。
「口内炎になっても知らナッシブルよ。」
「かがわん。」
イワンコフが関羽の舌へ、貫手のように爪を突き刺す。
「ところで、マゼランを倒ッシブルの?」
「なんとかな。間違いなく傑物だった。」
関羽がそう言うと囚人たちが歓声を上げる
「あの下痢野郎!くたばりやがった!」
「ざまあ見ろ!」
囚人たちが鬱憤を晴らすようにマゼランを罵った。ある者はマゼランの失態を嘲笑い。ある者は失敗の責任を取らされる未来を想像して高笑いをした。
それを聞いた関羽は黙ってその囚人たちへ歩み寄る。それを見た劉備が口を開いた。
「関さん。」
「すまん。」
関羽が歩みを止めて劉備を見上げた。
「次は海軍本部だぜ。しばらく寝て休みなあ。」
「お言葉に甘えさせていただこう。」
関羽は船の方へ向きを変えて歩き始めた。軍艦へ上り、居住区へ続くドアをもたれかかるように開けて入っていった。
「よし!俺様が奪ってやった軍艦に乗り込め!」
「はい!キャプテン・バギー!」
バギーが調子よくこぶしを突き上げると、囚人たちもあわてて軍艦に乗り込んだ。軍艦はインペルダウン入口を離れ、沖の方へと動き出した。そして最後の難関が立ちはだかる。
「ところでよお。正義の門はどうすんだ?」
「突っ切る。」
「できるわけあるか!サメ野郎!!」
劉備の御黄な問いに対しジンベエは迷わず答えたが、横で聞いていたバギーはジンベエの胸ぐらをつかんで怒鳴りつけた。正義の門は山より大きいと評されるほどの巨大さを誇る。例え月歩でも上を抜けていくには高すぎる。門を破壊するにしても数日はかかるだろう。
途方に暮れているうちに砲撃音が響き、水柱が立った。
「海軍だ!」
「どうしますかキャプテン・バギー!」
「お、おお、落ち着け!」
「どうもこうも...。こっちも軍艦だ。撃ち返せ役立たずども。」
慌てるバギーを横目にクロコダイルが心底呆れた表情でぼやいた。
「よし!俺の提案だが!こっちからも撃ち返してやれ!」
「了解!キャプテン・バギー!」
バギーがクロコダイルの意見を我が物にしたが、指示がスムーズに行き渡っているところを見ると結果的にファインプレーだったかもしれない。脱獄囚たちは慌ただしく砲弾をはじき、撃ち返し何とか対応する。
「このまま軍艦を沈めて、増援も返り討ちにして脱出するしかねえな。」
「ハデバカが!バスターコール並、いやいや大将も来るだろうからそれ以上の増援をか!?」
「やかましいぞ!赤っ鼻あ!」
「誰が!?はいすみません。」
「益徳よお。それじゃあエース救出に間に合わねえよお。何か手はねえか!?」
劉備が焦りながらジンベエに泣きつくがジンベエとて今はバギーの鼻を取ろうとする張飛を止めるくらいしかできない。せめて一刻も早く軍艦を沈めるかと、左腕の包帯を縛り直した。
その直後だった。
「あれえ?正義の門が開いてる。」
「あんだとお!?」
ただ驚愕する劉備達の後ろからルフィの声が聞こえる。
「本当か!?ボンちゃんが!?」
「そうじゃ!」
「置き去りにするのかよ!?」
ルフィがジンベエに食ってかかっていた。
「どうした?」
「ボンクレーが正義の門を開けるために監獄の動力室に向かった。」
劉備、張飛の三人は目を見開いて監獄の方へ向いた。
「...!今からでも戻って助けるか!?」
「やめろ益徳!...侠の覚悟に水差すんじゃねえ。監獄にはまだシリュウと黒ひげが居る。下手な動きをすれば今までの苦労が水の泡だ。」
船の柵から身を乗り出し、今にも飛び込みそうな張飛を劉備が抱き着いて止めた。
「マネマネの実の能力でマゼランの顔に変身できるそうじゃ。それで内部から開かせたんじゃろう。」
「そうか...。」
「小電伝虫じゃ。まだ繋がっとる。門を出るまでじゃろうな。」
ジンベエがルフィに小電伝虫を渡す。
「ボンちゃん...。ボンちゃん!いるんだろ!?返事してくれよ!俺助けてもらってばっかりでじゃねえか...。なんでまた...。」
「Mr.2!!」
「いろいろごめんなー!」
震える声で通信するルフィの後ろで、バギーと共に脱獄してきたMr.3も意外とバロックワークス時代の仲間意識があったようで、顔を曇らせる。バギーもすぐに忘れるだろうが、素直に申し訳なさそうにしている。
「俺行くよ。」
軍艦が門を通過し終わると、再び門が閉じ始めた。通信のノイズが大きくなり始める。
「ありがとう!!」
『麦ちゃん!必ず兄貴救ってこいやーっ!!!』
ボンクレーの叫びを最後に通信が途絶えた。
「玄徳。お前さんに伝言じゃ。見ず知らずのアンタらのためにアチシは命を懸けた。だから海軍本部で麦ちゃんを助けてあげて欲しいだそうじゃ。」
「もとよりこいつは命の恩人だ。助けなきゃ益徳に殴られちまうぜ。なあ?...やべえ耳を塞げ!」
劉備の見た方を見ると益徳が軍艦の端まで走り、大きく息を吸い込んでいた。慌てて周囲の人間が耳を塞ぐと、張飛は顔に似合わない涙を流しながら監獄へ叫んだ。
「お、おお、お前の伝言は確かに受け取ったああああああああ!!!」
叫び終わると周囲で伸びている数人の脱獄囚には目もくれず、ルフィの方を振り向いた。
「麦わらのルフィ!必ずエースを助けさせてやるからなあ!」
「ああ、ありがどう!お前良いやつだなあ!」
ルフィと張飛が泣きながら抱き合っている。
麦わらのルフィ一行が門を抜けた頃、インペルダウンLEVEL 5では倒れていたはずの黒ひげたちが再び起き上がっていた。シリュウが看守から奪ったガスマスクとコートをつけている。
呆れた声でシリュウが黒ひげに話しかけた。
「何てギリギリの人生を送っていやがる。俺が解毒剤を持ってこなけりゃ死んでたぞ。マゼランをなめすぎだ...。おまけにマゼランと関羽の余波に巻き込まれたときは終わったと思ったぞ。」
LEVEL 4で倒れていた黒ひげたちは戦いの余波で床が壊れたためLEVEL 5に落下し、運よく毒の巨兵には巻き込まれなかった。
「生きるも死ぬも天任せ。恐れたやつの負けなのさ。ゼハハハ!次の一瞬を生きようじゃねえか。ハックション!助けてくれてありがとよ。ずずっ。さて、改めて歓迎するぜ。」
「ここにいても俺の未来は見えすいている。お前のような男との出会いを待っていた...。途中で風邪薬ももらっとくか?」
「気にするな、俺は昔から体は頑丈だ!」
黒ひげは自身の胸をたたいてアピールするが、シリュウは黒ひげを見ていない。
「お前はそうかもしれねえが、馬の奴死にかけてねえか?馬も。」
「ドクQ!顔色が泥みてえだぞ!?」
「もともとだ船長。...ゼエ...ハァ,,,,お構いなく新入り。」
「ホホホ。これでもうちの船医ですからね。」
「...まさかジャンケンで役職決めたんじゃねえだろうな?」
「これも巡り合わせなのである。」
「正気か!?」
「ウィッハッハ!腕は確かだ。安心しろ!」
歯をがたがたさせているドクQの状態を確認すると、黒ひげが先頭を歩きだした。一味もそれに続く。シリュウも、この解毒薬は馬にも効くんだなあと思いながら後に続いた。一行はLEVEL 6を目指して進む。黒ひげの海賊団の暗躍はまだ終わっていなかった。