ピクシブでも重複投降をしています
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「りんどう、が……?」
秋の顕現をそろそろ見据えなければならない夏の始まりのころ。大和の秋の代行者、
「だいじょうぶかしら……」
「護衛は
「ちがうの。ちがうのよ。そうではないの。あの、りんどうのおねつは……」
真葛を見上げて不安そうな撫子。その視線が宙を泳いだのを見て、真葛が横に控えていた白萩に顔を向ける。つられるように撫子の視線も白萩に向いた。
「侍医に突き出したところ、三八度二分でした」
「つきだし、た……?」
「『解熱鎮痛剤を飲めばこれくらい』と珍しく周囲が見えていなかったので致し方なく……」
「そうなのね……」
「感染症だったらどうするんですか、撫子様にうつすつもりですかって言わないと大人しくならなかったですからね……」
困ったように笑う白萩。しゅんとする撫子を前に、真葛が頭を下げる。
「申し訳ございません。撫子様のお許しがないまま、阿左美様には今日明日の出仕を控えるように言い含めました」
「いいのよ。りんどうがつらいほうが、わたくしもつらいもの。……お医者さまは?」
「……感染症などの心配はなく、すこし休めばよくなるそうですよ」
精一杯言葉を選んだ白萩の様子を見て。こくりと頷く撫子。
「わかったわ……りんどうに安心して戻ってきてもらえるように、しゃんとします」
「いつも通りですよ、撫子様」
そっと釘を刺されて、へにゃりと笑う撫子。撫子が白萩の言葉の裏に隠したものに気がついていることぐらい、真葛はわかっていた。
秋陣営お抱えの侍医が竜胆に下した診断は、『過労』。……要は気合いを入れて働きすぎたのである。
†
「撫子は大丈夫だろうか」
真顔の真葛に諫められ白萩に自室に押し込められた結果、仕事が何一つなくなった阿左美竜胆は、ベッドで横になったままそう呟いた。現在時刻は午前八時二十三分、ちなみに先ほどのつぶやきは本日二十八回目である。
撫子のかかりつけ医でもある侍医は、何があってもいいように常に控えてくれている。腕は確かであるし、まだ子どもで体調が安定しない撫子を支えてくれているのだから感謝しかないのだが、今回の診断には文句をつけたいところである。
「高ストレス状態の継続による心因性の熱発……俺が? 撫子の護衛が高ストレス?」
あり得ない。あるはずがない。たかだか日勤十六時間シフトの四十三連勤が高ストレスだと? いったい何を見ているのだ。
確かに秋顕現の事前折衝がたてこんでいたし、警護体制の刷新もあった。秋顕現の前後の業務量は平時と比べて多いとはいえども、撫子がさそってくれるおやつの時間で全部チャラだとなぜ理解しない。クッキーを『あーん』してくれて、俺が口をつけたら優しく笑ってくれる撫子がいるだけでこんなにも救われているのに。
それに俺の秋は『お姫様のキス』をしてくれるんだぞ。俺だけに許された現人神の祝福だぞ、超回復だぞ。それがストレスだという愚か者を前にすれば、十人が十人『万死に値する』と評定するはずだ。
「明らかにこの状態の方がストレスだが……」
それよりも怖いことがある。
「……白萩め、余計なことを言っていないだろうな」
この状況を撫子が聞いたらどう思うだろうか。あの子はとても聡い。そして『理想の子ども』であろうとしている。期待に応えて愛敬を振りまき、手の掛からない子どもであろうとしている。大人の、いや、他人の所有欲を満たしうる子どもとしての祝月撫子であろうとしている。寂しいなんて自分からは絶対に口にしない。迷惑をかけることを何よりも恐れ、期待に応えられない自身を責め抜いて生きてきたのだ。そうあることが彼女の生存条件であり、それに適応してしまった。……魂に刻まれるほどに深く、その生き方が馴染んでしまっている。
そんな彼女を秋陣営皆でよってたかってかわいがって、ようやく甘えてくれるようになったのだ。それでもその呪いは消えてなどいない。撫子の心はまだ『ごめんなさい』と『ありがとうございます』でできていて、彼女自身の希望や願いはそれらに押しつぶされているし、撫子自身もそれを良しとしている。
そんな彼女が『あなたの護衛官である竜胆が、仕事のストレスで倒れました』と報告を受けたら、どうなるか。当事者間の認識はともかく、護衛官が四季の代行者の側で仕えるのは『仕事』なのだ。
――――わたくしといるのが、ストレスなの? ごめんなさい、気づいてあげられなかった。本当にごめんなさい。
――――それなら、離れたほうがいいと思うわ。きっと、おたがいのためになるもの。
――――これまでありがとうございました、りんどう。
――――わたくしのいないところで、どうか、幸せになってね。
考えるんじゃなかった。今ので絶対熱が上がった。悪寒が止まらない。
最悪極まる。そんな事を撫子に言わせてしまうことに比べれば、賊に単身飛び込んで壊滅させるほうが数億倍マシだ。この恐怖を原動力とすれば根絶派の根絶くらい造作も無い。
竜胆自身もわかっていた。冷静ではない。この状況で護衛官として服務してもまともな結果にならない。
「俺の体調管理が甘いせいで、俺の秋を泣かせる訳にはいかない……早く、早く戻らなければ」
復帰するためには発熱を押さえ込むしか無い。せめて今日だけで終わらせないとそれこそ本当にストレスでぶっ倒れそうだ。
現代医学万歳と心の中で賛美しつつゼリー飲料で服薬指示の倍にあたる解熱鎮痛剤を身体に叩き込む。枕元にスポーツ飲料を用意。アイマスク……は、さすがに必要無い。遮光カーテンで十分部屋を暗くできる。
「さっさと寝て、回復して、俺の撫子に会いに行く!」
布団を肩まで被り、断固たる決意をもって、竜胆は宣言する。
†
りんどうは、がんばりすぎている。わたくしはそれを知っていたはずなのに、見ないふりをしていたのです。
わかっているのだ。とっくにわかっていたのだ。それでも見ないふり、知らないふりをしていたのは、撫子自身だ。どれだけ言い訳にすり替えても、竜胆が倒れたのは本当で、言い訳にすり替えたことは自分自身がよく知っている。
「……だめな、子ね」
口に出して、すこしだけ後悔した。夕餉が終わった後、家庭教師から課された宿題を終わらせて、ソファで一休みしているのだが、真葛や白萩に聞かれたかもしれない。二人が侍女や護衛として不足しているわけではない。竜胆がいなくて気がふさぐからといって、その気持ちをぶつけていい相手ではない。真葛も白萩も撫子によくしてくれている。
「りんどう……」
もう今日は夕方。もうすぐ、夜。いつもより夕餉は軽くしてもらったのに、それでも残してしまった。厨のみなさんに申し訳がない。
「今日はよくがんばりましたね、撫子様」
真葛が声をかけてくれる。声をかけてくれるのだから、きちんと話をきかないといけない。わかっているのに、頭がおいついてくれない。
「今日は……さねかずらさんに全部おまかせしてしまいました」
「そのためにこの真葛がいるのです。そういう日もあります。撫子様はこの大和でただ一人の秋の代行者ですが、それ以前にまだまだ小さな女の子なんですから」
真葛はそう言って撫子の横に膝をつく。ソファにかけてもらえるように、ソファをポンポンと軽く叩く。そうしてやっと、真葛さんは隣に座ってくれる。
「……さねかずらさん。わたくしはりんどうのためになっているのでしょうか」
これは、よくない問いだ。真葛は侍女頭で主が撫子である以上、彼女は撫子が求める答えを置くだろう。大丈夫だと言ってもらいたいだけの、質問に似せたおねだりでしかない。安心させてほしいだけの、甘えた問い。
「阿左美様ががんばれるのは、きっと撫子様だからですよ」
「わたくしのせいで、働きすぎたのに?」
「『せい』じゃないんですよ、『だから』なんです」
真葛はよくわからないことを言う。撫子は小首をかしげる。
「それは……わたくしが秋だからですか?」
「いいえ、撫子様。いいえ」
優しく目を細める真葛さんはそっと髪に手を乗せてくれる。普段は見せてくれない真葛さんの、姿。
「それは撫子様だからです。権能があるからでも、現人神であるからでもないのです」
「でも、わたくしが秋じゃなかったら、さねかずらさんも、りんどうもいないでしょう?」
「出会いはそうかもしれませんね。真葛が侍女頭としてお仕えする機会を頂けたのは、確かに撫子様が秋の代行者だからです。阿左美様が護衛官になったきっかけもそうでしょう。ですが、ね? 撫子様。私達は撫子様が神様だから仕えているのではないのです」
「……よく、わからないわ」
すこし寂しそうな真葛の表情。間違えた答え方をしてしまったと、心臓が跳ねる。
「始めたきっかけと、続ける理由は違うんです。不敬なことですが、もし何かあって撫子様が代行者でなくなったとしても、この真葛は喜んでお供します。きっと阿左美様もそうお答えになるでしょう。きっと追い出されても帰れと命令されてもついて行きますのでその時は諦めてくださいね」
「でも、ただのわたくしは、さねかずらさんにもりんどうにもお給金を払えないわ」
「ご安心ください。我々が稼ぎます。家政婦としても事務職としても働けますし、阿左美様は央語も堪能ですから真葛よりも稼ぐでしょう。贅沢では無くとも、不自由はさせませんよ」
真葛は笑う。朗らかな笑みだった。
「……そう、なのかしら」
「そうです。……ね、撫子様。撫子様は、阿左美様のことを、慕われていますよね」
真葛の指が撫子の髪を梳く。
この気持ちは、好きという気持ちなのだろうと思う。でも好きにはいろいろ種類があって、撫子自身が抱いている好きがどういう好きなのかは、決めかねていた。それでも、竜胆を慕っているし、焦がれている。はしたなくも彼を欲している。
「……そう、そうね」
「それは、阿左美様が護衛官だからですか?」
「ちがうわ! りんどうは……りんどうは……」
竜胆は。なんだろう。何を続けようとしたのだろう。撫子は自分の気持ちに対して迷子になってしまった。
「わかっています。わかっていますよ撫子様。阿左美様は優しくて、誠実で、誰よりもあなたを大切にしている。大切にしてくれている阿左美竜胆様その人を、撫子様は大切にしたいと思っている」
「……わたくしはそんなに、わかりやすいです、か?」
自分のほほが火照っているのがわかって、撫子は視線が自然に落ちてしまった。
「阿左美様もきっと同じなんだと思います。だから、たくさんがんばれるんです。今日の撫子様がたくさんがんばったみたいに、です」
そうなのだろうか。撫子にはわからなかった。
くすりと笑った気配。撫子が顔を上げると、真葛さんの手が頭から離れ、そっと前に回り込んで、膝をついた。
「撫子様。阿左美様のために、ほんのちょっとだけ悪い子になれますか?」
「悪い子に……?」
いきなり話が飛んだ気がして、また首をかしげることしかできない。
「幸い阿左美様の症状が感染症由来ではないことがわかっています。会いに行っても差し支えないでしょう」
「え……でもりんどうはお医者様から仕事を休むようにいわれているのよね?」
「はい」
「わたくしが会いにいったら、りんどうにとっては、お仕事になるわよね……?」
「なりますね」
「よくないことよね?」
「はい。よくないことです。でも、きっとお二人に必要なことです」
だから。と真葛は口元に指を寄せる。
「これはちょっとだけ悪い子になって初めてできる秘密のお仕事。侍医さんにバレたときは、一緒に怒られましょう。白萩君も黙ってくれるわよね?」
「……もちろんです」
部屋の隅で控えて様子を見ていた白萩へのそれは脅しでは無いのかと思うけれど、それでも。
「……会いにいって、いいの?」
「きっと阿左美様も寂しがっていますよ」
それでも、胸が高鳴ってしまう。
「……もしものときは、さねかずらさんも一緒に怒られてくれますか?」
「もちろんです」
こんな形で笑い合ったのは、初めてかもしれなかった。
「それでは作戦会議です。名付けて、阿左美様のお部屋でお泊まり大作戦です」
「え……? りんどうのおへやに、泊まるの!?」
†
撫子も竜胆の部屋の場所はよく知っていた。撫子の寝室の真向かいで、夜間になにかあってもすぐに駆けつけてもらえるようこの配置になっている。実際に眠れなくてこの部屋でココアを飲ませてもらったこともあった。それでも、招かれたわけでもないのに彼の部屋に入るのは初めてだ。
部屋着として使っている浴衣が乱れていないか確認する。この姿は竜胆に何度も見せているのだが、それでも今はしたない姿を見せるのは嫌だった。
「さねかずらさん。わたくしおかしくない?」
「バッチリですよ。ご武運を」
真葛が部屋の前で送り出してくれる。手には撫子でもしっかり持てるサイズの編み籠があり、中にはミネラルウォーターのペットボトルや保冷袋に入ったアイス、ゼリー飲料。おでこに貼って使う冷却ジェルシートに、清拭用のウエットシート。ついでにちゃっかり撫子用の歯ブラシとコップも入っている。これで夜にアイスを食べても大丈夫だ。
一度深呼吸をして、ノック。
「りんどう?」
返事はない。ハンドルをゆっくり回すとドアは音を立てずに内側に開いた。真葛から『いつ撫子様がいらしてもいいように、ご滞在中はいつも鍵をかけていないそうです』と聞いていたのだが、それでもドキドキする。
「りんどう……? 入るわね……?」
踏み込む前に振り返ると、真葛が笑顔で手を振っていた。振り返して、中へ。ドアを閉める。効いているのかいないのかわからないほどゆるく冷房が掛かっている部屋は仄暗かった。足元灯だけが照らす部屋に目が慣れてくる。顕現のために各地で泊まるホテルはこんな感じの部屋だった。
「りんどう……」
竜胆の香りがする。わずかに甘い、いぶしたような香り。この部屋では吸っていないけれど、やはりどこかに残る煙草の香。大人っぽい、憧れの香だ。
足音を殺して、前へ。小さい冷蔵庫を開けると、青白い光が目を焼く、部屋が明るくなってしまったような気がして、急いで水とゼリー飲料とアイスを突っ込んで閉める。起してしまわなかったかしら。そう思いつつ振り返る。子どもの撫子の部屋にあるベッドよりも小さいシングルのベッドに、その人がいる。
「りんどう」
名前を呼ぶ。起したいような、起したくないような。そんな気持ちでベッドサイドへ。夢見が悪いのか眉に力が入っていて、足元灯だけが照らす世界で苦しんでいるようにもみえる。
「おねつは……まだ、あるわ……」
そっと触れたおでこは少し熱い。ジェルシートを貼った方がいいだろうか。それでもこの暗さで、初めての作業。それも意識のない眠った人にはるのは難しそうに見える。
ベッドサイドの足下には空になったペットボトルが転がっていた。恐らくはゴミ箱に投げ入れようとして外したもの。普段の竜胆ならこんなことはしない。投げて外すこともないだろうし、そもそも投げないだろう。外したとしても拾って入れ直すだろう。それができないくらいに疲れてしまっているように見えた。
サイドテーブルにはいくつか穴があいた錠剤のシート。これも整理されずに投げるようにおかれている。これも、らしくない。
ねぇ。
「りんどう……」
どうして、そんなにがんばってくださるの? わたくしが秋の代行者だから? あなたが代行者の護衛官だから?
この気持ちは、報われてはいけない気持ちだ。竜胆の好きはきっと子どもに向けたそれであって、対当なものではない。子どもと大人、主と従者。関係性もまた、対当ではない。だからこの気持ちは、報われてはならない。それが叶うときはきっと竜胆にさまざまなことを諦めさせることになる。今まで以上に、きっと。
それを強いることだけは、撫子自身が許せない。こんなにも愛してもらったのに、彼の自由も幸せも奪うなんて。
「それは、いけないことよ」
自分自身に言い含める。
「いけないこと、なのよ……」
「なでしこ……」
いつもよりもふにゃふにゃとした声で名を呼ばれる。起してしまっただろうか。怯えてしまうけれど、なんとか様子を見た。まだ、夢の中のようにもみえる。
「はい、りんどう」
小さく答える。それだけでも、たくさんの勇気が必要だった。なんとかかき集めて答える。
「どこに、いる……なでしこ、どこだ」
どんな夢をみているのだろう。夢の中で、撫子を探している。
「ここにいます、りんどう」
両手でそっと彼の手を取る。
「許してくれなくても、いい、から……」
許す、なにを?
わからない。竜胆が撫子に許しを乞うようなことは何一つない。本当に何一つないのだ。
「護れるだけ、強くなるから。もう傷つけさせないから」
春のことだとわかる。拐かされたときのことだ。
「でも、りんどうは助けにきてくれたわ。りんどうが、わたくしを助けてくれたのよ」
「違う、違うんだ。あれは……」
夢の中の竜胆は夢の中の撫子を追っている。ここにいる撫子を見ていない。
夢の中のわたくしは、りんどうに何を言っているのでしょう。
「俺の甘さが撫子を殺しかけたんだ。信じてくれていたのに、守るべきだったのに、俺は、撫子を裏切った……」
「りんどう」
声をかける。届くだろうか。
「それでもあなたは……あなただけが、わたくしの王子様なのよ。りんどう」
あぁ、かみさま。撫子はダメな子どもです。いけない子どもです。
それでも、わたくしの竜胆の平穏くらい、願ってはいけませんか。
わたくしに愛を、わたくしが秋をもたらすべき世界を見せてくれた彼の幸せすら、願うことは許されないのですか。
夢の中ですら彼はこんなにも苦しまなければならないのですか。
「ごめんなさい、りんどう。わたくしが子どもじゃなかったらよかったのにね。ごめんなさい」
取っていた手を放す。やはり竜胆の側にいてはだめだ。
「……っ!」
涙で歪む視界で立ち上がろうとしたら、袖がぐいと引かれた。強くない抵抗だった。それでもそんなことがあるなんて構えていなかったから、ぐらりと姿勢を崩してしまう。
いけない。このままだと竜胆の真上に落ちる。でも、どうしようもない。
目を閉じる。
「いくな。なでしこ」
竜胆の声がする。撫子はそっと目を開ける。竜胆は寝返りを打つように姿勢を変えていて、ちょうど、撫子を正面から抱きすくめるような姿勢になった。
「いくな。……なでしこが必要なんだ」
だめよ、りんどう。いけないことなの。わたくしは、だめなの。そうじゃないといけないの。そうじゃないと。
あなたに恋い焦がれていることを、認めないといけなくなるの。
いつかこの気持ちを捨てないといけなくなるの。あなたが愛するにふさわしいひとになんて、なれないのよ。関係は変ってしまって、それはきっとあなたを傷つけて、わたくしはそれを一生悔やんで生きることになるの。
「そばに、いてくれ」
竜胆は熱に侵されている。きっとこれは彼の望みではない。彼が望む関係はこれではない。
それでも。
それでも、いつか罰は正しく受けますから、神様、どうか。
今だけはどうか、わたくしが悪い子でも見ないふりをしてくれますか。
「はい、りんどう。わたくしの、王子様」
抱きすくめられた姿勢、彼の右手が撫子の胴に乗る。重たい腕だった。普段どれだけ気を遣われているのかがわかる。でもその重さがこんなにもうれしい。こんなにも愛おしい。
「わたくしは、ここにいます」
規則正しい寝息にかわるまで、そう時間は掛らなかった。
……その翌日、彼の胸の中で眠る撫子を見た竜胆の素っ頓狂な叫び声が響くのは、きっと別のおはなし。