ようこそ幼馴染達のいる教室へ   作:〇彪

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プロローグ

「──で?その男とは上手く行ったのか?」

 

「それが全然ダメだったの。ナイフとフォークをちゃんと持てない男子って、その時点で候補から外れるんだよねぇ。ところでさ、佐枝ちゃんはどうなの?好きな人とかいないの?」

 

 私は足の指の爪を切りながら話を進めた。

 

「前から言っているだろう、いる訳ない」

 

 いつもの同じ返答を繰り返される。

 しかしながら私の好む話題が出来る希少な同僚の同性、更に同い年。

 それに、高校の1年から同じ環境で育った仲。

 一時期は吐き気がするほど嫌いな相手ダントツトップだったのだが、今はなんとか自分を抑制することが出来ている。

 

「へぇ…つまんないね」

 

 パチッと爪切りの音が聞こえた。

 耳元では携帯の先で呆れるため息。

 

「そんなことにかまけている暇はない。綾小路清隆が抜けてから私たちのクラスは一杯一杯なんだ。知恵が少し、情報を渡してでもしてくれたら堀北達に面目が保てるんだがな」

 

 品行方正、は言い過ぎな気がするが生真面目な茶柱が教師としての職務を逸脱しそうな話題を振ってくる。

 Aクラスで卒業する担任教員になるのは佐枝ちゃんの前からの悲願。

 それは彼女自身が過去の失敗でクラスポイントを失った件が原因なのは私が一番知るところだ。

 

 それにしても、綾小路清隆くんか。

 

 星之宮は改めて彼の人となりを改めた。

 茶髪で無表情な顔、あの理事長の天才娘とも競う学力──を、隠していた数年前を。

 すると、何かが引っかかった。そして、遠い記憶を思い出そうとした。

 

 ぽっかりと何か重大な事を忘れている感覚を味わう。

 

 何か、大きな約束を忘れている。

 まるで元カレにベッドの上で言われた言葉の言質を取るかのように、何かを思い出そうとする。

 

「…おい、聞いているのか、知恵」

 

「ごめんごめん、聞いているよ。でも、ごめんね、やっぱり情報は渡せないかな?ジョーカーが何を考えているのかは特に、ね」

 

「せめて普通に会話するくらい許してもらえないだろうか」

 

「ストーカーまがいのことして学年主任に刺された人が言う台詞じゃないかな~」

 

「……それを言うな」

 

 茶柱は現在、綾小路清隆に対して滅多な行動が取れない状態にある。

 それは本人の自業自得でもあるが、同情する部分もないわけではない。

 

 綾小路清隆は、三年生になってから明らかに立場を変えた。

 表向きは、どの派閥にも属さない普通の生徒。

 けれど実際には違う。二年Aクラスの天沢一夏、二年Bクラスの八神拓也。

 そして同じく三年Bクラスにいる、椿雪という同じく頭角を現した女子生徒。

 

 もっとも、その4人が堂々とカフェで会話をすることがなく、中心人物と思われる彼が普通の生徒と異なり、一見すると明確な卒業後の目標がないことから、愉快犯的な装いではあるのだが、高校3年の龍園くんや、2年の宝泉くんといった素行悪目な生徒からも避けられているらしい。

 

 私のクラスの一之瀬帆波は彼を妄信的に信じていた。

 

 そこに至る具体的なやりとりは分からない。

 ただし、例の4人組が現在の高育の全生徒のプライベートポイントを握っていると見て間違いないだろう。

 

「ん-、どうしよっかなぁ」

 

 と、今まで優位に立っていた相手を焦らす。

 これは非常に優越感を刺激される。

 星之宮はグラスを取った。

 

 カラン

 

 と、ウイスキーに入れていた氷が鳴った。

 

「酷いことを言うな、そう言うなら私もお前が大学時代に清楚系美少女にハマって、黒髪にしていたことをネタにゆすらなければならなくなるだろう」

 

 伝わってくるのは佐枝ちゃんの悲痛な願い。

 彼女も彼女で相当追い詰められているという事だろう。

 

 しかし星之宮はその時、何かを思い出した。

 そのため、茶柱との電話をすぐに切りたくなった。

 

「──ごめん、佐枝ちゃん、電話がかかってきたからまた今度ね」

 

「…おい、勝手だな…あぁ、また明日学校で」

 

 プツ。

 

 と、電話が切れる。

 そして星之宮はグイッと残ったウイスキーを飲み干すと、何かを思い出したように入り口のクローゼットを開けた。

 

 ──確か、写真が一枚残っていたはず。

 

 すると星之宮は大学の卒業アルバムを出し、さらに当時使用していた携帯電話を出した。

 

 残っていること、持ってきていることにホッとしたのもつかの間、一緒に入れている充電器をコンセントに差し込むと、ウイスキーグラスに氷を入れて液体を注ぎ込んだ。

 そして携帯が復活する間にどうせならと、卒アルを見始める。

 

 携帯の画面が映りだす。

 SDカードに保存するというテクニカルな事が分からなかった時代。

 私はガラケーの写真を見た。

 すると1000枚以上の写真が表示されている。

 

 これは大学4年生まで使用していたものだ。

 

 ポチポチと上まで進めていくと目的の写真に辿り着く。

 

 するとやはり、思った通り、8月の3日から7日がポッカリと空いていた。

 

 3日の朝、リクルートスーツスタイルで黒髪の星之宮が空港で撮った写真がある。

 

 5日間、大学時代の私がプライベートで何も撮らないという事があるだろうか。

 

 ふと思いつき、私は写真のゴミ箱欄を押してみた。

 

 表示されたのは空のマーク。

 

 携帯の中を漁るがそれらしい痕跡は見出すことが出来ない。

 

 私はデータボックスの容量を探ると、写真に数メガと、メールで数メガを使用している事に気付く。

 

 私は既に使用できなくなったキャリアメールの送信欄まで見た。

 

 そこには1枚の写真が送られている痕跡がある。

 

 私はそれを開いた。

 

 すると、4人の小学生らしき少年少女と、星之宮が映っていた。

 

 内側カメラに笑顔を向ける大学生の私。

 今とは異なり、表情豊かな椿雪。

 無表情な天沢一夏と、今とほとんど変わらない顔の綾小路清隆。

 そして少し不機嫌そうな八神拓也。

 

 やっぱりあの時の子達だったのか。

 

 しかし、なぜ私は今まで忘れていたのだろう。

 

「……やっぱり、でもなんで私は今まで……」

 

 背筋がぞっとした。

 

 何か、大きな組織的な犯罪に巻き込まれた感覚を感じる。

 

 それよりも、星之宮に大きな衝撃を与えるものがあった。

 

 砂浜で遊ぶ4人の少年少女。

 

 彼女らは、今高育を動かす4人組だったのだから。

 

 

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