the other ~2番目の騎士~   作:お兄ちゃん

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夏が終わろうという時にあげて申し訳ありません。最新話です。


それではどうぞ!



第9話 黒鉄一輝という男、ステラ・ヴァーミリオンという女

第九話 黒鉄一輝という男、ステラ・ヴァーミリオンという女

 

 束と黒乃は第三訓練場に近い学生寮に二人を運んだ。訓練場は寮の他に校舎運動場が隣接しており、怪我人の搬送を素早く行える為ようになっている。また、訓練場それぞれに強固な防護魔法がかけられているので周囲に被害が及ぶことはない。

「市花、黒鉄をそっちのベッドに寝かせろ。ヴァーミリオンはこっちに寝かせる」

 黒乃がステラを部屋に入って左のベッドに、束が右のベッドに寝かせる。

「さて、さっきのお前の行動について聞きたいのだが?」

 壁にもたれ左胸ポケットから煙草箱を取り出し、開け口からシガレットを出しつつ束に問う。

「あれは……そうですね、『自衛のための防御』をしただけですよ」

 束は一輝の右手にさっきとは違う石を握らせる。束の言葉に溜息を吐きながらも黒乃は渋々納得する。

「ふん、そういう事にしといてやる。ただしこれからは軽率な行動は止めろ、いいな?」

「分かりました、ありがとうございます。それと理事長…」

 黒乃の左手にあるジッポライターを指差しながら、束は眉を寄せる。

「学生寮内は禁煙です。害しかない煙を学生に吸わせる気ですか?」

「……チッ、分かったよ。咥えるだけならいいだろ?」

 口惜しそうにしながらも煙草を咥える黒乃。ライターはポケットに直す。

「ユリーシャの子供らしいな、その言い方は」

「母ならもっと言ってると思いますよ?あなたが煙草を吸ってると知ったら、この世から煙草を消すぐらいにね」

「アイツならやりかねないから内緒にして貰いたいんだが……」

「ならせめて本数を減らす努力をして下さい。ヤニ臭いスーツは嫌いです」

 束が腕を組み、煙草について言い合いが始まるかという状態になる手前でステラの瞼が強く瞑る。

「ん……っ」

 ステラが目を開けると白い光が滲む。それから直ぐに目に映る景色がはっきり分かる。

「目が覚めたか」

 天井を見ていたステラは黒乃のほうに顔を向ける。

「理事長先生……?ここは……」

「君の部屋、もとい黒鉄の部屋だ。《幻像形態》での殺傷による極度の疲労と軽度の外傷のため、ここに運んだ。外傷の手当ては済んでいる」

 一度、束のほうを見た後もう一度ステラを見る。

「心配するな。外傷の治療の時は彼には退室してもらったから 見られてはいないぞ?」

 ステラは左肩から右脇腹に貼られた保湿パッチに服越しに触れながら、悲しみの表情を浮かべた。

「……負けたんだ、アタシ」

「そうだ、皇女さんは負けた。あんなに驚いていたFランクにな」

 ステラを見下ろしながら、束は言い捨てる。

「忘れていたわ、こういう負けた気分をね」

「あまり気に病むことはないぞ、ヴァーミリオン。剣術に加え身体能力を強化した黒鉄は強い。私も、あんなに剣術に特化した伐刀者は見たことがない」

 一分間で自身の魔力を使い切る強化術、《一刀修羅》。それを実現させる覚悟と執念。剣を交えたステラはそれを直に感じることが出来た。

 一体、彼はあのような戦いをしてまで魔導騎士を目指すのか。

 スッ、っと横のベッドに横たわる一輝に目を向ける。

「理事長先生、彼は大丈夫なんですか?」

「お前よりはずっと重傷ではあるが、市花の看病で命に別状はない。黒鉄がこんな状態になった時はいつも任せてる」

 青白い顔の一輝。制服は横のサイドテーブルに畳まれて置かれ、上にランニングシャツを着て寝息を立て横たわっている。

  ステラは一輝の左手に何かが握られているのに気付いた。確かめようと一輝の左手に触れようとするが、束に止められる。

「今それに触れるな」

 伸ばした腕を止め、ステラが質問する。

「じゃあ、それは何よ?」

「魔溜石だ。溜まっている組み立てた供給路で魔力を与えているから、今イツキに触れたら供給路が崩れて死ぬ」

 下げていた腕を組みながらも説明をする。

「死ぬって……随分大袈裟に言うわね。魔力は休めば自然に回復するものよ。そんなことをしなくてもいいんじゃない?」

「それは皇女さんだから言えることだ」

「皇女じゃなくてステラで良いわよ。皇女って聞くと無理にかしこまってる感じがして嫌なの」

 ステラの言葉を聞きながら、束は組んでいた腕を解き一輝の側まで近づく。そしてズボンの右ポケットから一輝のとは違う石を取り出して話を始める。

「そもそも魔力の制御を外して使うのが一輝の伐刀絶技だからな。まあ簡単に言えば、電気スタンドと火だ」

「電気スタンドと……火?」

「そうだ。ヴァーミリオン、君は自分の霊装に炎を纏わせる或いは消す場合はどうしている?」

 黒乃からの質問にステラは当たり前のように答える。

「炎を使う時は念じれば直ぐに出てきます。消す時も同じです」

「電気スタンドのスイッチを押すように簡単にこなせるよな。だが、イツキの場合は違う。流れをコントロールする事さえ放棄し最低限必要なはずの魔力も使う。消さない限り燃え続ける火のようにな。だから誰かが止めなきゃいけないんだよ。この石を使ったりしてな。本当に、命を賭けて闘ってるんだよ、こいつは」

 右手に持った石を手の中で弄びながら束は言う。

「何なのよ、彼は……」

「それはどういう意味だ?」

「そこまでの能力がありながらFランクで留年?おかしいに決まってるでしょ」

「そうは言うがな、黒鉄のランクは妥当な判定だ。そもそも伐刀者としての能力わかりやすく区別するものだからな。剣術体術などの実戦力は評価対象ではないし、これらは超常の力を行使する伐刀絶技の前では無力に等しい」

 どんなに優れた体技があろうと異能の前では無力、無価値。それがこの世界での当たり前のルールなのだ。高ランクでない限りは。

「現状の評価システムで黒鉄に特筆した能力を測ることは出来ない。先程言った事と逆の事を言うが、黒鉄は今まで見た中で最低の騎士だ。ヴァーミリオンを十年に一度の天才というなら、彼は間違いなく十年に一度の劣等生だ。それは戦った君なら分かるだろう?」

「それはそうですが……でも、『留年』っていうのはやりすぎなんじゃ……?」

「そういう風に判断されたんだよ、こいつだけな」

 そう言った束の方にステラは向く。石を持っている右手を拳にし、力を入れているのか震えていた。

「何か、理由があるの?」

「……理事長、俺から説明してもいいですか?」

「構わん。当事者に近い者からの話も今後の活動の参考にもなる」

「ありがとうございます。それじゃ……」

 と、備えられた椅子を勉強机から持ってきてステラのそばに置き、そこに束が座った。

「はっきり言わせてもらうが、留年というのは学園側からの建前に過ぎない。学園というかある所、だけどな」

「ある所?」

「ステラ、『黒鉄』という名字に心当たりあるよな?」

「……まさか『サムライ・リョーマ』のこと?」

 サムライ・リョーマ、本名を黒鉄(くろがね)龍馬(りょうま)という。第二次世界大戦時に日本を戦勝国へと導いた極東の英雄である。一輝の曽祖父にあたる、と束は聞いている。黒鉄家は明治から代々、優秀な伐刀者を育成、輩出してきた日本の名家であるそうだ。

「その英雄さんの生まれた黒鉄本家は世界、特に日本の騎士の間では強い影響力があってな、この学園に圧力をかけてきたんだよ。理事長、その時なんて言われたんでしたっけ?」

「『黒鉄一輝は黒鉄家にとってはぐれ者。そちらに入学となれば、どんな手を使っても卒業させるな』……だったかな。私はそう聞いている」

「どうしてそんなこと……」

「面子がどうとか家名に傷がどうとかだろう、どうせ。優れている家系から落ちこぼれ出したら泥を塗るものっていうのがそういう家系が考えそうなことだ」

 束の話を聞いた瞬間、ステラは体が熱くなるほどの憤りを感じた。

「それが……親のすることなの!?」

「黒鉄家だけじゃない。その言葉を真に受けた前の理事長は、【実戦教科を受講する際は最低基準を満たしていなければならない』というありもしない規定をでっち上げ、黒鉄一輝を全ての授業から締め出した。自主練習のみしか許されなかった理不尽な結果が今のこいつだ」

 彼の進む道をなくした学園と彼の生家に抑えられない怒りがステラにこみ上げる。

「腐ってるわ……この学園」

「そう思われるのも仕方ないが、そういう大人がいる事はステラも知っておいて欲しい。俺も何度も教師に反抗的になったりサボったりしたが進級させられたし」

「その話は後にしろ」

「……すいません。ともかく、この件に関与あるいは協力した教師と生徒は俺と理事長で徹底的に排除した」

「それで黒鉄の一年が返ってくるわけではないがな。それでも腐らなかった。家を追われチャンスを奪われ、落ちこぼれだと学生達から後ろ指をさされようが諦めるという事をしなかった。自分に限界を作らずに決して良い環境とは言えない所で理不尽と今も戦い続けている。その果てに魔力を全てを使う『最強の一分間』ともいえる奥義を会得した。大した男だよ」

 ステラは知っていた。自分を信じ続け、努力することの難しさを。

 自分の、炎という能力を使いこなせれば皇国の大きな力になれるという信念で頑張ってきた。家族や皇国所属の騎士も手伝ってくれた。

 それはこの男にはなかった。魔力の乏しく能力も身体強化しかない、そこに周りの人が誰も手を差し出さず逆に道を阻む。

「何が、彼をそうさせるんですか?自分の可能性を信じ続けるんですか?」

「……」

「何か目標があるのだろうがそこまで私も分からない。もしかしたら、七星の頂を目指しているのではないか?と私は思うがな」

 言って、咥えていた煙草を煙草箱に戻しステラが寝ていたベッドに座り、黒乃は尋ねた。

「君は、二人に会う前に私の所に挨拶に来たな。その時私は『何故留学に来たのか』という問いに『皇国にいると上を目指せなくなるから』だと言ったな。何故だ?」

 その問いに、ステラは姿勢を整えるが、顔を背けてしまう。しかし言葉を詰まらせながらも口を開く。

「皇国では国民の皆が私を褒め称え、『第二皇女様は天才だ』とよく言われました。……最初はその言葉が誇らしく思えて『誰にも負けることはない』、『何でも出来る』という気持ちでした。でも、それが恐ろしかったんです」

「恐ろしい……?どういう意味だ?」

「その思い上がりが自分を押し込んで気力が削がれるのだと気付いたんです。誰かに褒められることは確かに嬉しい。でもその言葉を聞くことで知らないうちに逃げ道が出来てしまい、上を目指す努力を忘れてしまう……」

 太腿に置いた右手で左手を強く握る。皇国での辛いことを思い出していた。そして黒乃に顔を何かを決心した表情で黒乃の方を向く。

「でもそれじゃ駄目なんです。愛する皇国を守るために、私はもっと強くならないといけない。だから自分より強い伐刀者を求めて日本に来たんです」

「……なるほど、理由を聞けて良かったよ。」

 ステラの話を聞き、ホッとした表情を浮かべる黒乃。ベッドから立ち上がりステラを見る。

「だったらこの一年間で黒鉄の、次いでにこの市花の背中を全力で追いかけてみろ。きっと、ステラ・ヴァーミリオンという人生において多くの事を学ぶだろう」

「……それは、未だ分かりません」

 黒乃の促しの言葉に、ステラははっきりとした答えを返さなかった。

「私はまだ、二人のことを知らないから……」

「……それもそうだな。まあ詳しく知りたいなら市花に聞くといい。こいつは黒鉄の介添人だからな」

 あとのことを束に任せ、黒乃はドアへと向かった。ドアノブに手をかけステラに告げる。

「《一刀修羅》は魔力も体力も気力も全て使い切る一日一回限りの大技、市花が言ったように自力で止める事は出来ない暴れ馬のような能力だ。もう少ししたら目を覚ますと思うがそれまで休ませてやれ。こいつらの話を聞いてどうしても相部屋が嫌なら言え。特別待遇で一人部屋を用意する。……あとはよろしく」

 束にも声をかけ、黒乃は部屋から出て行った。頼まれた束は、

「仕事押し付けて逃げられた……えぇー……」

  と、呆れと落ち込みの表情を浮かべていた。

 




鈴虫が鳴き、蝉が鳴く。虫忍、ハリ(略

どうも皆さん、お兄ちゃんです。
夏休み如何でしたか?思う存分満喫しましたか?勉強した?(ブーメラン)プール行った?(ブーメラン)
私は日焼けもせず(すると怒られる)毎日楽しいことやってます。
最近は小、中学生向けの小説を読んでいるんですが、いいですね。何も考えずに読書するのは。
ラノベ読むとどうしても考え事してしまうんです。
今回もカット部分はありますが、楽しんでいただければ幸いです。

とまあ、今回はこの辺で。
次回は一輝とステラ、束のやりとりです。入学式はもう少し先ですかねえ……
では、次回をお楽しみに!
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