それはあの雪の日から始まった。
番外 雪の思い出
「ツカムー!早くしないと夕方になるわよ!」
「はいはい、そう思うなら荷物を一つぐらい持ってくれてもいいんじゃねえの?」
「あなたは女の子に荷物を持たせるような軟弱なの?それなら持ってあげてもいいけど……」
「……いや、いい。自分で持つ」
男が荷物を運ぶということについて、束は話すのを諦める。
学園を含む学区内のスーパーマーケットで買い物をし、両手に溢れんばかりにお菓子を詰めたビニール袋を提げながら寮に帰る束とステラ。束は二、三種類選んで一日で食べきれる量だけ選んだつもりだったのだが、選び終わってレジに向かった時には籠を一杯にするお菓子とカートに載せられた籠(こちらもお菓子が山盛り)が現れ仕方なく買った。
「あとで金払えよ」
「……買ってくれるんじゃないの?」
「『遠慮する』事をステラが分かっていたらこんなに多くはならないと思うんですが?」
と、見せつけるように両手の袋を顔の高さまで上げる。中には小さな袋に詰めたものもあるのだがステラはそれすら持とうとしない。
「むう……分かったわよ」
そんな会話を交わし、赤いレンガで造られた歩道を歩いていると何処からか子供がはしゃぐ声が聞こえてきた。いつの間にか小学校の横の道を歩いていたようだ。
「小学校か……あの頃は無邪気に遊んでたな……」
その声を聞きながら、束は幼い頃を思い出す。学校での勉強や遊びをどちらも思い切りやった日々は、本当に楽しいものだった。
「何考えてるの?」
「……いや、小学生は良かったなって思っただけだ。ステラにもそんな時があっただろ?」
ステラが声を掛けてきたので話を振ってみる。彼女にもそんな思い出があって笑顔を見せると思いきや、悲しそうに笑みを浮かべた。
「ないわね、幼い頃から城で家庭教師や家族に色々教えてもらっていたから。他の貴族とのパーティーで会った同世代の子とは今もたまに連絡をとるけど、それぐらいだわ」
「そっか……貴族の子供が通う学校とかなかったんだ」
「それだけ大事にされてたんだと思う。私のこと、すごく期待していたのもあるし」
幼い頃から能力を発現させ、それに期待する大人達。そんな環境の中でステラは生活していた。そう思うと彼女が可哀想に思えてくる。
「なんかごめん、嫌なこと思い出させて」
「ううん、そんなことはないわ。それにこれから楽しい思い出を作っていけばいいじゃない」
ステラは悲しみの表情から優しい笑みに変え、束に向ける。
「そうだな。なら、その思い出作りを早く帰ってしないとな!」
笑みを返して束は歩くスピードを速める。両手の袋をできるだけ揺らさないようにしながら。
「そうね、そうしましょ!」
束の前のステラもそれに続くようにやや駆け足気味になりながらも、足を速める。
これからの学園生活で楽しい思い出を作っていくという思いが現れているかのように、道は明るく日が差していた。
「イツキ……どこだよ……」
「束、もういいだろ。一輝君ももう家に帰ってるだろう」
「さっき電話で『まだ帰ってない』って言ってただろ?こんな時間なのに帰らないなんておかしいよ!」
日が沈み、商店街の街灯に照らされた道を束は咲継に強く言った。先程から雪も少し降ってきて寒くなってくる。
家を出て二、三時間が経っても束と咲継は一輝を探していた。少し前に黒鉄家へ確認したが、『まだ家には帰っていない』の一点張りでそれ以上は分からなかった。だか一輝が家に戻っていないのは確かだった。束は一輝が無事だと分かるまで、探し続けていた。だが、咲継はもう自分達の限界を感じていた。
「……これは、お巡りさんに頼むしかないよ。僕達が出来るのは行方不明の子供がいるって電話することまで。さ、束は先に家に帰りなさい」
「……」
「大丈夫だ。一輝君なら見つかるさ」
「……いやだ、俺は一輝を探す。ちゃんと見つけるまで!」
束はそう言い放つと、商店街の外へと走り出す。まだ探していない場所はある、そこにきっと一輝はいると信じた。
「束!待ちなさい!」
父の言葉を無視し、束は一輝を見つけるために走った。
そして、見つけた。
「小僧、こいつを探しているのか?」
髭を蓄えた大柄な老人の肩に抱えられた親友を。
「……おっさん、そいつをどうするつもりだ?」
「病院に連れて行く。かなり衰弱しているしな、このままだと凍え死ぬかもしれん」
そう言われ、束は一輝を見た。寒さで頬が赤くなっており、眠っている。
「そんなこと言って、実は誘拐する気だろ」
「もしそうなら、どうする小僧?」
束の言葉に老人は口角を上げ笑う。まるで自分がそうであると子供のように、笑った。
「決まってるだろ……」
と右手に魔力を込め拳を老人に突きつけ、老人に言う。その目は細めつつもしっかりと老人を見ていた。
「俺の親友だ。返してもらう」
「ほう、小僧に何が出来る?」
老人は束を挑発する。互いに右脚を後ろに下げ、構える。老人は一輝を右肩に抱え直す。
「一発食らえば分かるだろうな!」
引いた右脚を前に出し、束は拳を振り上げながら老人に迫る。踏み切った地面から雪を後ろへ跳ねていき自分が出せる全力のスピードで殴りつけることは出来ず、
「……」
無言で老人が地面を蹴り上げ、積もった雪を束にかける。それを咄嗟に右手の魔力を消し、両腕を二の文字のように前に出し雪を防ぐ。そこに老人は左手を伸ばし束の首を捕らえる。
「所詮子供のやることだな」
そのまま左手を自分の目線まで上げ、束と目を合わせた。束は手から逃れようと腕を殴ったり、人差し指と親指の間に指を入れ隙間を作ろうとするが金属のように硬く外せない。
「くっ、こっの……放せよ!」
「なら小僧、お前はこいつのー」
「こいつじゃねえ!イツキを返せよおっさん!」
「……こいつはそんな名前じゃねえんだけどなあ」
そう言い、老人は指の力を抜き束を地面に落とす。雪が重さで潰れ、束の体の跡が出来た。
「っげほ!けほっ……」
上体を起こし食い込んだ指の跡をさするように左手を首に当て、息苦しさを消すため咳をする。
「どうした、儂に一発食らわすんじゃなかったのか?」
「はぁっ……はあ、おっさんイツキを知ってるのか?『そんな名前じゃない』って言ったのは」
「ああ、しかし儂の顔は誰だって有名人だと分かるはずだぞ?」
束は老人の顔パーツ一つ一つ見る。白髪に薄い眉、少し切れ長な黒い瞳、ラウンド髭、年齢から考えられない大柄な体格……
「……龍馬、さん?」
「そう、儂が黒鉄龍馬だ。そんなことも知らないで殴りかかったのか?」
「……」
束は気づかなかった。一輝を見つけたこと、何処かへ連れて行こうとする老人ということが頭で一杯になってしまい、顔を確認することなく発作的に動いてしまったからだ。だがその事よりも束は違う考えが浮かんだ。
「……龍馬さん、先程までの無礼を許してもらいたいのとお願いしたいことがあります」
「おお、礼儀はきちんと出来るようだな。で、お前の願いを儂が叶えられるとは思わないが一応聞こうか……何だ?」
束は伸ばした足を自分に引き寄せ、足に力を入れて立ち上がる。そしてそのまま龍馬に対して直立の姿勢を示す。
「イツ……、一輝君を助けてやって下さい。自分の家に居場所がないって話聞いて悲しそうで、僕はそれを助けることができなくて……一人で苦しいことや悲しいことを抱え込んで一人で頑張ってるのを見るのが辛くて耐えられないんです。だからあなたに、龍馬さんに一輝君を助けて欲しいんです、お願いします!そいつを、助けて下さい!!」
自分の気持ちを声に出し、頭を思い切り下げる。束は、一輝の周りを何とかして変えたかった。
辛くなった時はウチに来ればいい、俺は味方だと言っても出来ることは一輝から話を聞いて相談に乗ることだけだった。そんな自分が許せなかった、親友のことが心配で仕方なかった。
だから束は龍馬に頼んだ。親友を助けて欲しいと、自分の願いを言った。それに対して龍馬は申し訳なさそうに首を小さく振る。
「残念だが、それは儂でも難しいと思うぞ」
「何で?あなたも黒鉄の家なんでしょう?助けられないわけがないでしょ!」
龍馬は肩に担いだ一輝を両腕で持ち上げるように抱え直しながら話す。
「小僧には悪いが、儂もこいつがそういう扱いをされているのを知ったのはつい最近の事でな。気付いた時にはもう手遅れだった、家の者は子供すらこいつをいないように扱い部屋に閉じ込め近づこうともしなかった。儂にすら話さず、こいつの事を聞いても知らないの一点張り。あの家であいつは一人きりなのはもう、あの家では当たり前になってしまっている。……だから変える事は難しいって事だ」
眉を少し寄せ、可哀想だという表情を一輝に向ける龍馬。束はその言葉に、何も答えられなかった。
「……もう行っていいか?こいつも危ない」
「……はい」
束の小さな声を聞いた龍馬は一輝を抱えたまま、束の横を通り病院に続く道へと消えていった。
束は立ち尽くしていた。肩には雪が積もり、白くなっていた。
束の右頬に涙が音もなく流れる、そして左からも。声を上げることなく束は泣いていた。
「束!ここにいたのか!」
父の声に束はゆっくりと振り返る。隣には母の姿があり、二人で息子を追いかけてきたようだった。
「つーくん!?泣いてるの?誰かに叩かれたの?」
息子が涙を流しているのをユリーシャは肩に積もった雪を払いしゃがんで束を抱き締める。
その瞬間我慢していたのか束は声を殺しながら母の抱き返し、泣いた。
次々と目から流れる涙は一つ、また一つと頬を伝いユリーシャの肩を濡らしていく。
「よしよし、大丈夫。もう何も心配ないからね」
と、ユリーシャは束の頭を優しく撫でる。咲継も隣にしゃがみ込み束の背中をさする。
「きっと一輝くんを探してて、見つからずに不安になったんだろ。束、一輝くんのことはお巡りさんに話して探してくれるって言ってたからあとはお巡りさんに任せて帰ろう、な?」
「……父さん」
ユリーシャからゆっくりと離れ、束は右手の甲で鼻をすする。目と鼻は赤くなっていたが涙はもう止まっていた。
「俺、強くなりたい。誰でも救える力を持った騎士になりたい。……俺を、鍛えてください」
この時から束は自分の道を決めた。
『イツキの味方になってイツキを守る』という自分の使命とも言える夢を叶えるために。
耳元で鼓膜が破れると思うぐらいにベルの音が鳴り響いた。耳を押さえながらその音源に手を伸ばし、上から手の平で叩いて止める。
「ん……もう朝か」
音源だったベッドの棚の上に置いた時計に目をやる。周りはまだ薄暗いが、針が午前五時十分を指しているぐらいは分かる。
「懐かしい、夢だったな」
束はまだ寝ているルームメイトを起こさないようにゆっくりとベッドから降り、パジャマを脱ぐ。一輝と同じような細身ながらもしっかりした体格の上からジャージを着、ズボンも着替える。
「あれから十年……一輝はまだ諦めず、か」
ジャージのジッパーを襟近くまで閉め、部屋に設置されている物置からスポーツドリンクが入ったペットボトルを革手袋で包まれた右手で取り出す。
「ま、俺も諦めていないけどな」
さっき見た夢を思い出すように独り言を呟く束。その言葉を最後に彼は自分の両手と左手首に腕時計をはめているのを確認し、部屋のドアを開けて外へ向かった。
親友と、その新しいルームメイトのもとへ。
やっと入学が書けるぞー』と言って作者が寝てしまったので、代わりに挨拶する」
「どうも皆さん、市花束です。お久しぶりですね」
「さて、現在この物語の原作が絶賛放送中らしいですね。まあ内容は全く知らないんだけどね」
「作者が『新刊が出てもうたーやっちもうたでー』とか『三話……許さん……』とかブツブツ言ってたけどなんかあったんですかね?」
「そうそう、作者から伝言があったんだった」
「『どうも皆さん、お兄ちゃんです。いつの間にかUAが9000を超え、お気に入りしていただいた方が100人を超え本当にありがとうございます。今回は代わりに主人公に挨拶という形で申し訳ありません。今回の話は本編にはあまり関係のない話となっていますので飛ばして読んでいただいても大丈夫です。もし、アドバイスなどありましたら遠慮なく言ってください』、だってさ。……なんかキャラクターの差分した絵が描いてるけど、まあいいや」
「さて、次回はやっと入学編。一体どんな話を作者は作っていくのか……駄文書きませんように」
「それでは、また次回!」
市花 束 (いちはな つかむ)
所属:破軍学園二年三組
伐刀者ランク:E
伐刀絶技:なし
二つ名:「
人物概要:学園最下位の伐刀者
攻撃力×→魔力攻撃性 C
防御力×→回復量 E
魔力量 F
魔力制御 E
身体能力 A
運×→魔力質 B+
メモ:ん?原作と違うパラメーターになってる?当たり前だ。作者曰く、『運ってなんだよ』『RPGじゃないんだから』と変更したらしい。こっちの方がいいみたいだ。見ての通り魔力が低いので、体術などでカバーしている。霊装は出す事が出来ないから表面に魔力を纏わせて手甲や鉄靴みたいにして戦っている。
自分の事はこのぐらいだな。
では、また。