本編前の話は難しかったです。
それでは、どうぞ!
第3話 夢の始まり
「ふう……疲れた」
公園の木陰に座り込み、俺は自販機で買ったジュースを口にする。
ふと、今まであった事を思い返す。
十歳手前までの頃は、本当に何も考えずにただ毎日遊んで、毎日食べて、毎日寝る。それだけで過ごせた毎日というのが心身ともに成長していくにつれ、羨ましく思う。
中学生になると遊んでばかりではいられなくなる。勉強という自分の人生を左右する一生の課題だ。ただ机と向かい合い、作業を行うことは始めは苦痛でしかなかったがそのうち当たり前になってくる。
俺もその一人だった。高校卒業間近の大学入試に向けての受験勉強をコツコツ頑張っていた。
大学に行っても普通の学生生活を送り、普通の会社に就職し、変わりばえのない人生を送るんだと思っていた。
「束くん、次はチャンバラしよっか?」
それがどうだ。布団に入ったらどこか分からない場所にいたり、子供に人生を勝手に決められそうになり力づくで止めようと殴ってしまったり、ペンデュラムみたいな機械を壊そうと手に力を入れた直後違う人として人生を送ることになったり……。
「束くん?おーい」
俺がいた世界とは似ているようで違う世界。ここで俺は前とは違う人生を送るのか、あるいはいつか元の世界に帰るのか。その疑問がずっと頭から離れないでいる。
「……」
「ん?どうしたイツキ?」
「なんだか今日の束くん、変」
「どこが変なんだ?」
「なんかさっきから眉寄せて考え事してるから」
横から覗き込むようにして顔を近づける男の子が言った。
男の子の名前は
黒いショートカットでツンツンとした髪型に丸っこく深い色合いの黒い瞳、少しぷくっとした顔の輪郭が子供っぽさを強調させている。
「別になんでもないよ。さ、早くやろうぜ。また新しい技作ったんだ!」
細長く手頃な長さの枝を右手に取り、イツキと相対する。
友達になった直後に家の話になったのだが、イツキの家は代々伐刀者の名家なのだそうだ。それ故なのか、イツキの刀捌きは剣筋が綺麗で子供ながらも力強さが見える。
そんな彼と、チャンバラをしている俺も自己流で刀を使えるようになった。
だからこうして打ち合えるのかもしれない。俺たちだから。
「よーし、来い!」
イツキも枝を正眼に構える。
「やああっ!」
「えい!」
二人の掛け声が公園に木霊する。
木は緑の葉を風に揺らし蝉が鳴き、日が暑さとともに照っている夏のことであった。
窓の外に目をやると触るだけで溶けてしまいそうな雪が、薄暗くなった空から降っている。
年の変わり目に雪が降るのは束にとって初めての経験だ。もっともこの世界では当たり前のことである。
「あら束、帰っていたの?」
一階のリビングで絵本を読んでいた束は母ーーーユリーシャの声で顔を上げる。
玄関からやって来たユリーシャは両手にパンパンに膨らんだ買い物袋を、腕をプルプルさせながらゆっくりとリビングへ持っていく。
「母さん、俺が運ぶよ。凄い量の買い物だね……っうおっ!?」
ユリーシャの手から買い物袋を持とうとする。しかし余りに重たかったのか束が持った瞬間、袋を床に落としそうになる。
「ありがと〜。何故かスーパーでセールやってたからつい買いすぎちゃったわ♪」
「よくこんな量の買い物してきたね……」
「玄関にまだまだあるわよ〜」
束が玄関の方を見ると、そこには今持っている袋より大きい袋が四つ見えた。五歳で持てるギリギリの重さだと直感した束は父ーーー
「……父さん、お雑煮食べてないで手伝ってよ!」
「ちょっと待ってくれ。あと少しでユリーシャが作った最高に美味しい雑煮を食べ尽くす。それまで頑張れ!」
「食ってる場合じゃない!はよ来い!」
子供が手伝いを求めているのをよそに、食卓で木の椀によそわれた雑煮を食べている父親。つい怒鳴る風に束が叫んでも箸を止めない。
「いいわよ束〜。お父さんは夕食抜きにするから〜」
ユリーシャの一言で、咲継の箸がピタリと止まる。
「……冗談だよね、ユリーシャ?」
「束〜、牛乳先に入れてね〜」
「ああ分かった、分かったから夕食抜きはやめてくれ〜!」
脅しが効き、咲継はお椀と箸を置き手伝いに参加する。最初から手伝えと束は思った。
ビニール袋から牛乳パックを取り出そうとすると、咲継が束の横にこっそり耳打ちする。
「束いいか、女の子を怒らせちゃ駄目だぞ。特にお母さんみたいに……」
「あなた〜束に余計な事吹き込まないでね〜」
「ちょっ、ユリーシャ目が笑ってない。あと拳をプルプルさせー」
五秒後、咲継の頭に拳骨が落ちたのは言うまでもない。
「そうそう束、さっき黒鉄君見かけたけど遊ぶ約束してたの?」
冷蔵庫や食品庫に物を直し終わった後ユリーシャが聞く。
「してないよ。どうして?」
「家に着いた時、立派な着物を着た一輝君がいたの。あの子家の前にいたから『どうしたの?』って声かけたんだけどね、『なんでもないです』って言って走って行ったの。こんな寒い日に一人でいるのもおかしいし……」
ウチに用があるなら、呼び鈴を押せばいい。なのに家の前で立っていたのはおかしい。幼い束でもそんな違和感を感じた。
「一応イツキの家に電話してみる。もう家に帰っているかも」
「そうね、何かあったら大変だから連絡しときましょ」
電話の子機を取り、黒鉄家の番号にかける。
『はい、黒鉄です』
電話口から少し掠れた老婆の声。おそらく世話役の方なのだろう。
「もしもし、一輝君の友達の市花です。一輝君いますか?」
『はあ、少々お待ちください』
直後に保留音のメロディーが流れる。家に帰っていれば話を聞けばいいし、いなかったら外出していると伝えればいい。束はそう考えていた。
『お待たせしました』
十数秒が経った頃だろうか、メロディーが止み、先程と同じ老婆が応える。
「もしもし、黒鉄一輝君はー」
『申し訳ございませんが、只今出掛けているのかまだ帰ってきていないようです』
「え、そうなんですか?……分かりました」
予想していたのとは違う答えで束は戸惑った。さっきよりも暗くなっているからすでに帰っていると思っていた。
「じゃあ、もし帰ってきたら僕から電話があったと伝言を伝えてくれませんか?」
『承知しました。それでは、失礼します』
電話が終わった後、束は椅子に掛けてあったコートを羽織る。
「……父さん、イツキが心配だから探そうと思うんだけど一緒に行ってくれる?」
「構わないけど、そんなに心配することか?今日は寒いし子供なんだから家に真っ直ぐ帰るだろう」
顔に少し焦りの色が浮かぶ束に対し、咲継は心配する様子はない。
「確かに心配しすぎかも知れない。でも友達が何処にいるか分からないのは私でも心配するわ。あなたお願い、一緒に探してあげて」
ユリーシャも束に賛成する。妻と息子の眼差しに根負けしたのか、
「……分かった、行こう。寒いから手袋もしなさい」
自身も分厚いコートを着る。束はそんな、なんだかんだと言いつつも協力してくれる父が大好きだ。
こうして束と咲継は街の光によって照らされた寒空の中、一輝を探しに向かった。
もう動きたくない。寒い。動くと余計に冷えるだけだ。
そんな考えが、一輝の頭をいっぱいにしていた。今は風によってさらに体温が奪われないように大きな木の陰で風に当たらないようにするしか出来ない。
もう、家に居たくない。居ても辛くなるだけだ。
許可なしに出ることも出来ない部屋にずっと閉じ込められ、分家の子供達でさえ受ける魔力の修行に本家の生まれでもある自分は受けさせてもらえず、人に会うこともきつく制限された。
外から聞こえる自分と同じぐらいの歳の子供が家の庭ではしゃぐ声。
それを笑顔で見守りながら、それぞれ談笑する大人の声。
自分の部屋を通るたびに囁くような小さな声で言われる陰口。
心がゆっくり押し潰され、胸が苦しくなっていった。僕にとって家は、[牢屋]と何も変わらない。
そんな苦しみを、束君は和らげてくれた。
ある日、僕が自分の能力のせいで家でどんな目に遭っているか、どんな扱いをされているか。そしてお父さんに『何も出来ないお前は何もするな』と言われたかと愚痴をこぼした時があった。真剣な眼差しで目を合わせ、適度に相槌を打っていた束君。そして僕が話し終わった後、彼はこう言った。
『絶対おかしい。何で能力がないだけでそんな扱いされるんだ?そりゃあ確かに今は能力がないかもしれない。けどな、成長する時って人それぞれ違うんだよ?俺みたいに早く開花する人もいればおじいさんになってやっと力がつく人もいる。それを《能力がない》って勝手に決めて家に閉じ込めて、イツキを物扱いして何だよその家。自分の息子をすぐ見限るなんて家族なんかじゃない、外道だ。
それにイツキ、家に閉じ込められてるからって落ち込みすぎだ。少しは努力することも大事じゃないか?』
一輝の肩に手を置いて言った。
『もし、お前が家を出るって言うんならウチに来い。いや、抜け出すだけじゃない。苦しい時、辛い時に来てもいい。俺はずっとイツキの味方だ。お前が背負ってるものを俺にも背負わせてくれ』
その言葉に僕の心の重りが無くなった。誰からも言われなかった優しく、温かい言葉が胸に染みていった。
束君の言葉で僕は決心した。
ここに居たくない。早く抜け出そうと。
元旦の時は本家分家を含め、一族が集まり新年会が開かれる。当然僕の席は用意されていない。
だから、抜け出した。玄関から靴を取って窓を割り、屋敷から逃げ出した。
窓を破ったのに家の人は誰も追いかけては来なかった。寧ろ居るだけで迷惑な存在が居なくなって清々してるのだろうか。
窓の先は山だった。この屋敷の裏には本家所有の山があり修行にも使われ、道も整備されている。その山で雪が自分の足首の高さまで積もった斜面をひたすら走った。
山を抜け、束君の家の前に着いた。門扉の横のチャイムに目をやる。
これを押せば束君が助けてくれる。そんな藁にもすがる思いでチャイムに手を伸ばした。
「あら?一輝君じゃない。どうかしたの?」
横からの声に手が止まる。顔を声がした方に向ける。
束君のお母さんだった。買い物をした後なのか両手に袋を提げている。
「束に用があるなら家の入る?」
「いや……大丈夫です。失礼しました」
僕は心配の声を
今になって思えば、勇気を出して言えば良かった。『束君に会いに来ました』と、ただ一言。
そんな勇気が僕には足りないのだろう。
空が青から少しずつ黒く変わっても走り続けた。ちらちら降っていた粉雪が粒が多くなり吹雪になった。
そして、今の状況になった。
(僕は一人ぼっちで死んでしまうんだろうな。こんなことなら家にいた方が良かった。
そうして一輝の意識は睡魔に襲われたように落ちていった。
同時に、
ラウンド髭を蓄えた老人と黒髪の少年が一輝を見つける。
この時から一輝は一つの夢を持つようになった。
『七星剣王になる』という夢を。
プロローグ、終
龍馬さん、あなたの出番一瞬だから!(ふぁ!?)
はい、みなさんどうもお兄ちゃんです。
長い長い(?)プロローグ、終了です。次からやっと本編突入です。
まだまだ張り切っちゃいますよー。
あと、今回一段落下げるという風にしました。読みやすくなりましたか?
次回、the other〜2番目の騎士!
『3,000度は太陽の半分だコラ!』
お楽しみに!
10月19日 龍馬の髭変更