プロローグを零が出る前にかけて良かったです。
それではどうぞ!
第4話 出会いの朝に部屋違い
「あっつい……そして寒い……」
「大丈夫かい?最初少し飛ばし過ぎだったんじゃ?」
「今日は少しペース上げたんだよ……そうでもしなきゃ……速く走れないだろ?」
「だからって全力疾走はないでしょ……」
日は少し顔を覗かせ、夕暮れのような薄暗さの中で寮の入口前に向かう二つの人影。
一人は遠目からでも分かる程肩を上下させ、息が切れ切れになりながらも歩く。
その横を付き添うように歩調を合わせ、相手の話に苦笑する。
「イツキ、一回部屋戻るの?」
「うん、息切れはしなくなったけど流石に喉の乾きと汗は何とかしたい」
「じゃあ、俺も戻ろっかな。相方寝てるしイビキうっさいけど。あ〜あ、俺も一人部屋が欲しいな」
「仕方ないよ、能力の近い者同士は同じ部屋っていう学長の御達しだから。僕と同じ力の人が居ないから今は一人で使えているけど、一年生が入ってきたら入居してくるかもしれないよ?」
「そうなんだよな〜、前の学長の時は部屋はどこでも良かったんだけどなあ」
そんな寮部屋の話をしているうちに二人は寮の入口に着いた。一輝は入口の自動ドアのオートロックに部屋の鍵を入れガラスのドアを開ける。
日本だけでなく、世界中の騎士学校はセキュリティ設備が備わっているところが多い。学生寮もそうだ。入口に警備員が配備され部屋の玄関にオートロックが付いているので、勝手に部屋に入られる心配はない。いつもは学生証をかざせばいいのだが、年度替わりのため一時学園側に預けている。
「なあ、イツキ」
入口を入ってすぐのエレベーターを待つ間、束が口を開く。
「何でお前だけなんだ?」
「……それは単位が足りないからってー」
「そうじゃない」
声を張り、一輝に詰め寄る。
「俺が知らないとでも思ったのか?お前は授業を受けれなかった。あいつらのせいで!お前だけだぞ、あんな理不尽な理由で。今の学長が何とかしてくれたのは有難いと思う。だったら何で!」
「もういいよ、束君」
一輝は束の体をゆっくり押し退ける。その顔は少し笑っていた。
「例えどんな妨害をされても、僕は今の夢を諦めるつもりはないよ。君やあの人がくれた大切な夢を僕は叶えたい」
「イツキ……」
「四月からはバラバラになるけど今生の別れじゃないし、これからもよろしくね」
「……ああ、よろしく」
束の言葉と同時にエレベーターが一階に到着した。二人はエレベーターに乗り込み自分の部屋の階に向かう。一輝は笑みを浮かべながら、束は悔しさを顔に滲ませて。
エレベーターが部屋のある階に着き、ドアが開く。
「……あ、そうだイツキ。お前に貸した本、あれ部屋にある?」
「うん、丁度読み終わったし今返すね」
「了解、なら一緒に行くか」
と、エレベーターを降り一輝の部屋に向かう。
部屋のカードキーをスキャンすると、短いブザー音と共に赤いランプが点灯する。
「あれ?閉まってる……鍵掛け忘れたかな?」
「いやそれはないだろ。カードキーを挿し忘れてたら気……」
途中で束は会話を止める。何か大きな音が落ちたような大きな音が聞こえた。一輝もその音を確認する。
「イツキ、警備員呼んで来てくれ。誰かいる。音を立てないよう階段で降りてほしい。俺は逃げられないよう見張る」
「分かった。束君も気をつけて」
そう言い残し、一輝は階段を降りる。残った束はドアの前で出てくるのを待つ。
(ドアはこじ開けられていないしロックも壊れてない……なんかおかしいな)
物音がドアの向こうから聞こえる。どうやら堂々と玄関から出て行くつもりらしい。
束は軽く拳を握る。相手が気付いて止まれば話が出来るが、もし見た瞬間に殴ってくる可能性もある。
がちゃり、とドアが開く。両腕を降ろし警戒していないように装う。
「わっ!何よあんた?人の部屋の前に立って……何か用?」
現れたのは赤いウェーブがかかった髪を黄色のリボンでくくった少女だった。少し吊りがちな橙の虹彩をもつ目が束を映している。
束は少女を刺激しないように話し掛ける。
「急で悪いけど、ちょっといい?あの……君は学園の生徒、だよね?」
「まあ、そうなるわね」
そうなる。断言ではなく、これからなるといった言いまわしだった。
「なら寮の学生は部屋を割り当てられるのは知ってるね?」
「当たり前じゃない!今更何よ?」
「ここは僕の知り合いが使ってるはずの部屋なんだけど、女の子がいるとは聞いてないよ?」
「ここの部屋使っていいって言われたの。カードも貸してくれたし、入ってたけど荷物なんて見当たらなかったわ」
お願いだけで鍵を渡されたことに束は右手で額を覆う。
(部屋を貸してくれた?気軽に貸すなんてセキュリティがスカスカだろ……)
「何の問題もないでしょ。ほらそこどきなさい」
ドアを開き切り強引に抜けようとする少女を、束は両腕を広げ遮る。
「どきなさいよ!」
「待った。その鍵は誰が貸してくれた?」
「学長先生よ」
少女の言葉で、束の顔が固まった。
「……は?」
「用は済んだよね?それじゃ」
少女は束の脇を潜り抜け、歩き去った。
その約二十秒後、一輝が警備員を連れて戻ってきた。
「お待た……束君?」
開き切ったドアに平行になるようにして両腕を広げているという、変な状況がそこにあった。
「……束君?」
一輝は両腕を広げている友人の顔を覗き込む。束は引きつった笑みが張り付けていた。
「ああ、イツキか……ごめん、逃げられたわ……」
「何だって!?じゃあ急いで追いかけないと……!」
「その必要はない」
広げた両腕を降ろし、警備員の方を向く束。引きつった笑みが呆れに変わる。
「警備員さん……」
「ん、何だい?」
束は左腕を伸ばして警備員の肩を掴む。目を細め、警備員の目を見ながら言う。
「ちょっと話しましょうよ」
ごめんなさい、前回予告の『3000度は太陽の半分だコラ!』は文字数の関係上次に回しました。
お待ちしていた人には誠に申し訳ありません。