戦闘シーンまで書こうと思いましたが、これ以上の文字数の増加は読者様の集中力が切れてしまうと思い直前まで投稿しました。
楽しみしていた皆様、本当にごめんなさい。
それでは、どうぞ。
第7話 選手入場
魔導騎士を育成するのに必要なのは何か。
異能の力をもつ以上、まず異能や戦いを学ぶことが出来る環境。それらを記憶し独自に発展させる知識。異能と戦いを自身の力として身につける実践。
そして、戦い競い合う相手。
破軍学園を含む魔導騎士育成機関ではこれらを学生に提供する事で、能力や技能の向上を目指す方針を取っている。
破軍学園が所有する十の闘技場の一つ、第三訓練場の観客席にはまばらながらも数十人程の学生が集まっていた。
平たく丸まった屋根が上に被さり、茶碗のように窪んだ内側に客席が並んでおり中央には半径五十メートルのリング(戦闘場)が設けられている。
皆、もうすぐ始まる試合を待っている。なかには二人について話す者もいる。
「ヴァーミリオンってあのヴァーミリオンだよな?ニュースで見たけど綺麗だよな」
「ああ、しかもAランクってすごいよね」
「でもさ、黒鉄ってだれよ?」
「黒鉄君って、確か留年した子だったよね?なんでそんな子が戦うの?」
「さあ……二年生であの子の事知ってる人いる?」
ひそひそ話していたのは三年生だったようで、一輝について二年生に話し掛ける。
「同じクラスだったんですけど実戦は見たことないですね。授業受けてるの見たことないんで」
「実戦に出てないって……どういうこと?」
「なんでも、受講基準満たしてなかったらしくてそれで単位足らずで留年になったそうですよ」
「そんな子が戦うのって……ちょっと無謀というか、自棄というか……」
「まあ、この試合はステラさんの勝ちですわね」
一輝の良くない噂を話す学生達。今回の戦いは《紅蓮の皇女》の独壇場となるだろうという空気が漂っていた。
一方、選手控え室には一輝とステラが向かい合い椅子に座って待機している。それぞれ飲み物を飲んだり、目を閉じるなど気持ちを落ち着かせる。
闘技場の控え室は構造上向かい合わせに作られているため大会で使用する際は両方使われるが、模擬戦や実戦授業では片側のみを使用する事もある。
「あなたの噂、色々聞いたわ」
水の入ったペットボトルのキャップを閉めながら、ステラは苦笑しながら一輝の方を見る。
「Fランクで授業も受けていない、総魔力量は最低で実戦経験もない……聞けば聞くほどにあなたがこの学園にいるのが不思議だわ。伐刀者より普通に生活する方がいいんじゃないの?」
「そうだね、確かに僕がここで誇れることは無いかもしれない。それでも僕は自分の夢の為に諦めるわけにはいかない」
「この戦いが終わってから言うつもりだったけど今言うわ。アタシが勝ったらあなたはアタシの奴隷、犬にようにこき使うつもりよ。この条件でもあなたは勝負を降りないのね?」
あまりにも不公平な条件。それでも一輝は退かずにステラを見る。
「降りない。僕が勝てばその話はなかった事に出来るし」
「あくまでもアタシと戦いたいのね……しかも勝つつもりで」
「その為に僕は努力してきたつもりさ」
困ったように曖昧に笑みを浮かべる一輝。
「……努力、ね」
努力、という言葉にステラは少し腹が立った。その言葉で自分は頑張っている、力を得ていると慢心し挑んできた者を多く見てきたから。
ヴァーミリオン皇国に生まれ、一人で歩くことが出来るようになった時に自身の能力が開花した。ステラの赤い髪と同じ、赤い炎が掌から燃えていた。その時は驚いたが不思議と手が熱いと感じなかった。
『第二皇女様が魔法の力に目覚めた』という事実はあっという間に国中に広まり、皆がステラに期待と羨望の眼差しがステラに注がれた。ステラ自身もこの力で、人々を守る魔導騎士になりたいという夢を持っていた。
しかし、それとほぼ同時期にステラの全身から炎に包まれるという大事件が起こった。
幸い、川の近くにいたため川に飛び込みすぐに消化出来た。だがこの事件がきっかけで世間の反応が変わっていった。
『第二皇女様は能力が強すぎていつか自身を燃やし尽くす』とまで言われた事もある。
父も母もステラの夢を応援する気になれなくなっていった。最近になって知ったが、もしまたあのような事が起きたら……という不安からだったそうだ。
誰も手も、助けも差し伸べない。それでもステラは諦めなかった。
(アタシにしか出来ないことを、この国を守っていくんだ!)
ヴァーミリオン皇国のように規模が小さい国は争い事で巻き込まれることが多い。国を守るためには強い力、魔導騎士のような存在に頼るしかない。
その力に、目標のためにステラは力を使いこなせるよう何千回、何万回も練習を重ねた。
何度も大火傷になり、挫けそうになった。両親に止められ部屋に閉じ込められたこともあった。
そして三年かけて《
十歳を過ぎた頃、ステラに勝負を仕掛けてきた伐刀者がいた。
『君は天才だ。しかし、私のような凡人でも努力をすれば天才にだって勝てる事を証明しよう』
勝負はステラの圧勝、しかも霊装を出すことなく終わった。敗れた伐刀者は悔し紛れに呟いて去って行った。
『努力したのに、才能には勝つことができなかった』、と。
まるで、天才に何をしても勝てないというように。
「そんな言葉……どうせ負けたら言い訳に使うに決まってるわ」
「言い訳?」
ステラの言葉に首を傾げる一輝。
その直後、控え室のドアが開き束が姿を見せた。何故か携帯電話を耳に当て話しながらではあったが。
「本人に許可取らないと色々まずいって知ってるでしょ?……わかった、後で本人に言ってみるから。じゃ!……ごめんお待たせ。二人とも準備は出来てる?」
「電話いいの?」
「だーいじょうぶ、大した用事じゃないから。それより、いけるか?」
「大丈夫。それより、今回も?」
「いつもの事だろ?それにこんな勝負は滅多にないし間近で観戦するのも悪くないかなって思って」
「ちょっと、なに平然と話してるのよ!ここは選手や関係者以外は立ち入り禁止よ。応援するならさっさと客席に行きなさいよ」
一輝と束の会話に割って入るステラ。それを束はきょとんとした顔になる。
「いや俺、関係者だから」
「それはあなたが選手ってこと?アタシはこの人と一対一で勝負を希望したはずだけど?」
「選手じゃない。確かにアンタらと同じ場所に立つけど、あくまでも後ろにいるだけだから。セカンドとしてね」
「セカンド?」
『ステラ・ヴァーミリオンさん、黒鉄一輝君。入場して下さい』
遮るように場内アナウンスが行われ、入場を促される。
「さあ、行くか」
そう言うと束は二人の背中を押し、入場口まで進んだ。
「来た!皇女様よ!」
「素敵な髪の色……綺麗ね……」
「あれが黒鉄君……?見たことないわね」
ステラの赤い髪に魅せられる者がいれば、一輝を見る者も。
「ちょっと待て、あいつ誰?」
三人が入場したことで、観客の視線が集中する。特に選手でも審判でもない束に集まっていた。因みに審判は黒乃が担当することになっている。
「また市花かよ……『セカンド』らしいね……」
「『セカンド』って、二番目ってこと?何が二番目なの?」
観客の男子生徒の呟きに、ステラは先程聞きそびれた質問を束にする。
「ああいや、二番目じゃなくてこの場合は『介添人』って意味。校則や大会の特別ルールになってるの知らない?」
学生証の試合についての項目や大会規則の最後のほうには『特殊事項』としての決まりが書かれている。その一つ、『
「知ってるわよ!それにペナルティで『選手として出場はできない』とも書いてるのも知ってるわ」「まあ公式でする人はいないし、今回は別に選手じゃなくても戦いを間近で観戦するのが目的だからね。さて二人とも、開始位置まで移動してね」
選手の二人は闘技場の真ん中の方へ歩き、束から見て一輝が手前、ステラが奥の位置で立ち止まり向かい合う。二人の間は約二十メートル空いており間合いも遠い。束は邪魔にならないように闘技場の端で壁にもたれかかる。
観客席の最前列に待機していた黒乃は席を乗り越え、二人の直線上より少し離れた位置まで近づく。
「ただいまより模擬戦を始める。双方、
「来てくれ、《陰鉄》!」
「傅きなさい、《
黒乃の指示で二人はそれぞれの霊装を出し、構える。
幻像形態は実像形態とは違い、生物に対しての攻撃を体を透過し体力を削る形態である。この形態時は霊装自体が薄くなり見た目から判断がつきやすい。
(だが、幻像形態でも物を斬れば当然斬れるし炎とかも熱いまま……さて、一輝はどう出るか)
二人を見る束の前で、黒乃が両腕を横に伸ばす。そしてそのままゆっくりと斜めに上げる。
「双方、健闘を祈る。それではー」
斜めに上げた腕を振り下ろし、
「試合、開始!」
試合の始まりを告げる。天才と落第の騎士の、戦いを。
後書きの最初に、
UA2000突破ありがとうございます!
読んでくださる皆様に出来るだけ読みやすい作品を書かせていただいている者としてこれからも精進していきますので、よろしくお願いします。
今回も色々と解釈の上、変更した部分が多いです。
前置きは私が学生(この世界の)で必要な要素を付け加えました。闘技場の数は限定しましたが、物語の都合で変更するかもしれません。
ギャラリーの台詞を少し増やしましたけど……どうでしょうか?口調や文章挟んでみて出来るだけ読みやすくしてみました。
オリジナルの控え室シーンをお追加しました。原作のままでいくと、距離がある分大声を出して会話する二人という(ピーーーー)状態になるので入れました。
(ここまで執筆後、「あ、ステラの爆弾宣言入れるの忘れた」と気づきステラに言わせました)
ステラの回想は……すいません、筆が止まりませんでした。宣言通り、龍馬さんはカットしました。その分、ヴァーミリオン皇国のことを書きました。
幻像形態、実像形態は敢えて名称を変えました。
理由としては幻想と実像では少し違った意味で捉えられるのでは(幻『想』だと心象になる)と考えたからです。
また、幻像形態の内容も変えました。何故なら、『人間』のみのダメージにてしてしまうと「動物は殺してしまうんですがそれはまずいと思う……」となるので、『生物』にしました。
試合開始の掛け声は普通にします。横文字を訳してみたところ、「進みましょう」になったのと「英語で言うか普通……」という考えが。
と、変更点をぐだぐだ書いてしまいごめんなさい。
ただ私が読んでいて違和感及び追加部分を書いただけなので読書中は蚊帳の外へ捨ててください。
それでは、また次回お会いしましょう。
2015.5.23 追記
皆様、もし宜しければ活動報告もご覧になってください。
ちょこちょこ呟いております。