the other ~2番目の騎士~   作:お兄ちゃん

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せめて、今月にもう一話……

お待たせしました。ステラ対一輝の初戦編、終了です。

それでは、どうぞ!


第8話 炎と修羅(後編)

「………………』

 何も聞こえない。誰も動かない。まるで時間が止まったような空間が闘技場内を包む。

『……うそ、ステラさんが負けた?』

『そんな……』

 空気に気圧(けお)され、小声になりながらも言う。

 予想外の展開に、観衆は唖然としていた。

 AランクがFランクに負けたという事実を、受け止められなかった。

 彼ら学園騎士の頂点である『七星剣王』はBランクやCランクがほとんどである。有名な魔導騎士も同じようなランクで占められている。

 だが、Aランクとなると話は別だ。十年に一度の逸材と言われるほど、BとAでは一つ段階が違うだけで総魔力量や質が圧倒的に違う。

 歴史に名を刻む英雄。それがAランク騎士のいるべき場所なのだ。

 その常識が崩れ、皆固まっていた。

『いや、見ろ!刃が当たったところ!』

 と、一人が声を上げ二人の方に指を差す。同時に束も確信する。

(まだ、戦いは終わっていない……か)

 

 

 《陰鉄》の刃はステラの右脇腹にあった。何かに阻まれるように止まったまま。

 一輝にはステラを包む薄い膜が見える。それは、伐刀者(ブレイザー)特有の魔力バリアだった。「……やっぱり、こうなるか」

 《陰鉄》を引き寄せ、後ろへ下がり間合いを開く。止めが当たらなかったとはいえ、《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》の近くにいたため顔が熱く感じた。

「ごめんなさいね、こんな勝ち方で」

 立ち尽くしたまま、ステラが言う。

 魔力はただ攻撃や能力に使われるだけではない。伐刀者のほとんどは、自身の周りに纏わせることで自分を守る盾として使うことが出来る。咄嗟の防御や周囲を守るなど多岐にわたるが、一般にはランクが高いほど強度や範囲が大きくなるとされている。

 ステラの場合は体全体に膜のようにバリアを張り、右脇腹のところに魔力を多くしていた。そのため《陰鉄》を止めた。

「ステラさんは分かってたんだね。僕の力ではそのバリアを破れないって」

「本当は剣だけで勝つつもりだったのに使ってしまった、それだけよ。アタシが才能だけの人間じゃない事を思い知らせてやろうって思ってたのに、まさかここまで追い詰められるなんてね」

 そう言いながら、ステラは《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》を自分の顔の前で掲げる。刀身を見つめながらも一輝のほうを見る。

「認めてあげるわ。この戦いでアタシが勝てたのは、自分の才能があったからだって」

 一輝の剣術がステラに届いた、それをステラ自身が認めた。

 ただ惜しいのは、一輝には剣術の才能しかないこと。これほどまで研ぎ澄まされた技術があれば、魔導騎士でなくても成功しただろう。

(この試合であの人が負けても、『才能には勝てなかった』と言われてもアタシは軽蔑しない。それほどに、強い)

 真紅の瞳を閉じ、見開く。彼女は決めた。

 

「最大の敬意をもって、あなたを倒す」

 

 直後、ステラはリングの縁ギリギリまで跳躍した。一輝と、その後ろの壁に寄り掛かる束の向かい側まで。

(一体何をする気だ?)

 一輝はステラの行動に疑問を感じた。それは束も同じだった。

 《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》の剣先を天井に掲げ、彼女は唱える。戦域を焼き払う《紅蓮の皇女》の最強の《伐刀絶技(ノウブルアーツ)》を。

「蒼天を穿て、煉獄の焔!」

 瞬間、《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》の刀身が明るくなり光の柱へと姿を変えた。

 闘技場の天井を溶かし貫くそれは、煌々たる太陽。ステラを除く場内の全員が、その光に圧倒される。

「なによ……これは……」

「私達とは、違いすぎる……」

 観客席からは恐れにも似た掠れ声を出すものもいた。

「これで本当のおしまい。足掻くのも逃げることも許さない。才能の前に平伏しなさい」

 才能の差を彼に見せつける。絶対的な力をもって。

 

「《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)》!!」

 

 訓練場の天井を焼き切り、切り跡を仄かに赤くさせながら光の剣がゆっくりと振り下ろされ、圧倒的熱量をもって一輝に迫る。

「に、逃げろ!瓦礫に巻き込まれるぞ!」

「めちゃくちゃ過ぎるわこんなの!」

 観客席にいた学生達は悲鳴を上げる者、四つん這いになりながらも必死に階段を上がる者などで混乱しながらも逃げ出す。いくら幻像形態で身体的ダメージが微量であっても、あの熱閃をその身に受けようとする者はいない。

 ただ二人を除いては。

 

 

 束は突然現れた光の柱を見て思った。誰かがあんな感じの必殺技を使っていたな、と。

 束が頭に浮かべるその技はステラと同じ、直線上の全てを消し飛ばすもの。人に向けて撃つものではない。

 だからその光の柱を、束は気に入らなかった。

 今まで剣術のみで一輝と勝負した。しかし負けそうになったら自分の能力という有利な力で叩きのめす。それが許せなかった。

(最大の敬意?こんなのただの力押し、一方的な暴力ってものだろ)

 いっそ乱入してステラを止めると考えたが、それは介添人(セカンド)のルールに反してしまう。ならどうすればいいのか。束は襲い来る熱を顔に感じながら考える。

 ふとある考えが浮かんだ。

(……戦闘行為の介入は出来ないんだよな、確か)

 ニヤリと笑う。左半身を前に出しながらも、両足に黒い靄が包む。そして一輝に指示を飛ばす。

「イツキ、右に行け」

 

 光の剣が迫る中、一輝は微笑んだ。《陰鉄》を自身に寄せながら、自身を阻む一つの試練に立ち向かうことをやめない。

 一輝はまだ諦めていなかった。絶対的な力を前にしても、一輝に自分を貫くために為すべきことがある限り、引き下がるわけにはいかない。あの頃に決めた誓いを。

(さて、どうすべきなのかな……)

 打ち合おうにもあの光の柱では一瞬で飲み込まれ、一瞬で勝負が決まるだろう。かといって軌道から逃げようにも間に合うかどうか。

 一輝が何とか打開出来る方法を思索していると、

「イツキ、右に行け」

 と束から声を掛けられた。一輝はどういう事かと聞こうとするが、遮るように言葉を続ける。

「まあ騙されたと思ってやってみろ。お前がまだ勝負を諦めていないならな」

 束が放った最後の言葉に一輝は少し空いた口を閉じ、引き締められる。彼は思った。自分を信じてくれる友達が自分の為にこうやって助言してくれる。今もこうやって手を差し伸べてくれる。自分を支えてくれる人がいる、と。

 それを信じて一輝は、

「了解」

 右へステップし、柱の軌道から外れる。

 直後、束を横目ではあるが、確認することが出来た。左半身を前に出し左手は拳にした構えで、熱閃の柱を睨んでいた。

 一輝が見たのは、そこまでだった。

 

「さて」

 ゆっくりと左手を体に引き寄せ、態勢を整えた。一瞬でもタイミングがずれたらよくて幻像形態による気絶、悪くて目が覚めなくなるだろうと束は考える。それでも軽い気持ちだった。

(少し驚かせてやろう)

 右足に魔力を纏わせ完全に覆ったのを目視で確認し、あとは時が来るのを待つ。

 一秒…まだ遠い。顔に熱さが覆う。

 二秒…もう少し。痛い。焼かれている。

 三…熱閃が頭上に来た瞬間、束は右脚を限界までー

 

「ーーーっは!」

 

 蹴り上げた。

 足に込めた魔力と柱の熱が火花と金属が擦れる音を響かせる。そして巨大化した《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》の刀身に当てた右足に力を入れ勢いを殺すことなく、

「おぉぉらっ!」

 強引に左へ振り抜く。熱閃の柱は束の頭上から強制的に軌道を変えられ、直線から急激なカーブに焼けた跡を残して観客席を斬った。

 右足から微かに上がる煙を見ながら束はゆっくりと元の場所に戻る。同時に光の柱の輝きがだんだん消えていく。

「あとは、イツキの仕事だ」

 

 

 振り抜いた剣が輝きを少しずつ戻りながら本来の刀身の長さに戻るのを、ただ見ているしかできなかった。

(何よ……今の……)

 ステラは、先程の出来事をまだ信じられなかった。

 《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)》。自身がもつ最大の魔力を込めた最強の《伐刀絶技(ノウブルアーツ)》なはずだった。

 それを、一発の蹴りで捌かれる、しかもあの高温の光を蹴り上げるなど思いもしなかった。

 元に戻った《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》の剣を上げ、刀身を見つめる。

 上を目指す為。そして自分よりも強い相手を見つける為にステラは日本に来た。その強い相手がこんなにすぐに()()も見つけた。

(面白い、すごく面白いわ!)

 髪がうねり、燐光が散る。ステラの感情は昂ぶっていた。

「楽しそうだね」

 先に避けて態勢を立て直した一輝が声を上げる。

「こんな風にアタシの技を捌かれるなんてね……驚いたわ。あの人も、強いんでしょ?」

 束を指差すステラ。

「本気になったところはないけどね。束君は強いよ」

「それで、これで終わりなの?アナタは」

 一輝の方へ剣先を向ける。それを一輝は困った顔をしながら《陰鉄》を軽く振る。振り上げた刀を止め、

「じゃあ、僕もそろそろ見せるべきかな」

 正眼に構える。

 

「最弱を以て、最強を打ち破るーその瞬間を!」

 

 瞬間、一輝の全身と《陰鉄》の刀身が炎のように揺らめき青く輝く。可視化出来る程の高密度の魔力が一輝の体から放出されているのだ。

 魔力を放出し、固まったように動かなくなる一輝に対してステラは構える。何が来てもすぐに反撃ができるように。

 動かなくなる二人、数秒が十倍に感じるぐらいに長く待った。一輝がかなり離れた位置にいるのは変わらない。ステラは瞬きをする。

 

 眼前で刀を振り被る一輝が迫っていた。

 

「!?」

 一瞬の出来事に、ステラは固まってしまう。咄嗟に左へ剣を薙ぎ払うが体を後ろへ反らされ躱される。その後も縦、横、斜めへ剣を振るうも剣の間を縫いながら回避し続ける一輝。

 頭を狙って剣を振っても軽く躱し体を狙っても上体を下げつつ刀で受け流される。追いつけることが出来ないどころか、剣も視線もついて行かない。それぐらいに速く一輝は動いているのだ。

(速すぎる!なんなのよこの力は!?)

 ステラは大振りに大剣を振り回し、一輝から距離を離す。一輝も動きを止め先程と同じ位置で止まる。

「その速さにスピード、移動速度の強化があなたの異能かしら?」

 ステラは一輝の能力を予測する。一瞬で距離を詰める、常人離れした反応速度から予測だった。

 その問いに一輝は困り顔になりながらも答える。

「そういう能力があれば楽なんだけどね……残念ながら僕の能力はそんなに凄いものじゃないよ」「嘘ね。だったらそんなに動きが急に速くなるわけがないわ」

「それは、ただの身体能力を倍加しているだけだからね」

 身体能力倍加ーー伐刀者の能力の中で最も基礎的な能力である。

 伐刀者は基礎的な身体能力だけでなく、魔力を放出することで怪力や俊足など超人的な力を得る

 大部分の騎士は自身を鍛えるのではなく、魔力の放出を自在に操れるようにしている。

 事実、ステラはその能力を使っている。主に力で押し切る時に使う時が多く、強化倍率も十倍近くにもなる。

 能力としてはFランクである一輝でも身につけられる力である。

 だがそれでも、ステラはその言葉を信じられなかった。

「今の動き、確実に十倍以上に跳ね上がっているわ。それにそれだけの魔力があなたにあるとは思えない」

 そのステラの指摘に、刀を握る手を持ち替えながら一輝は小さく微笑む。

「確かにそうだ。普通に使っているならこんな風にはならないだろう。でも僕はこの力を全力で使っているから、今こうやってステラさんと渡り合えている」

「全力?そんな心構えで能力が上がるわけないでしょ!」

「……心構えじゃない、全力だって言ってるだろ?」

 一輝の目に力が入り、ステラを見る。ステラはその目を見返しながら剣を振り上げ、《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》に炎を纏わせる。

 そのまま大剣を下ろし、炎による攻撃を始める。

 

 

(全力っていうのは事実だよ、皇女さん)

 一輝に攻撃を行い、牽制するステラを見ながら束は心の中で呟く。

 一輝が行っているのは、ただの身体能力の倍加ではない。全力、自身の魔力全てを使って行っているのだ。

 生き物が本能的に生きようとする力、生存本能。リミッターともいうその力に手をつけている。

 この技を初めて使った後、一輝が話していた。

『人が全力疾走すると言って走っても、その人の限界まで走っても余力が残っている。その余力を使えば誰にも負けない力を使えると思うんだ』と。

 どれだけ全力を尽くしても残る。生物として、生きるための最低限の機能を失わないように。

 それを自分の意志で無視し、本当の全力を使うことが出来るのなら。

 一輝は天才だが、人が思う天才とは程遠い。それに天才も努力しているからその差は埋まることはない。

 一輝もそれは弁えている。だが、諦めなかった。自分の道を突き進み自分にしか出来ない力を得た。

 持続時間は、僅か一分。その一分の間は誰にも負けない、誰にでも勝てるようになる。

 それが一輝の答えだった。自分の魔力を絞りきり、何十倍もの強化倍率に能力を引き上げる黒鉄一輝の伐刀絶技ーーー

 

「それがイツキの、《一刀修羅(いっとうしゅら)》だ」

 

 束は左手に持っている、制服の胸ポケットに入れていたストップウォッチのタイマー画面を確認し再び一輝の方を見る。

「あと、二十八秒……急げよイツキ」

 

 

 炎の攻撃を躱しながら、一輝は反撃の隙をうかがっていた。

 《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》を振るごとにこちらに襲いかかる炎。熱気と光でなかなか近づくことが出来ない。

 しかし、一輝はすでにステラの隙を見つけていた。

 大剣を振った後に刀身の向きを変え、腕に力を入れ再び振るう。その刀身の向きを変える時こそ、反撃の隙だ。

 そして今ステラが大剣を振り上げた瞬間に一輝は地面を蹴り、加速した。

「くっ……!」

 それに気付いたステラは防御を行おうとするが振り上げてしまった大剣の重さで上手く態勢をを立てることが出来ない。

 ようやく攻撃の態勢にするが、遅かった。一輝はさっきと同じように眼前に迫っていた。

 炎を掻い潜り、視認できない速度でステラの懐に踏み込み、

 

 ステラ右袈裟で斬り下ろした。

 

 直後、ステラの服が切り口に沿って軽く赤く染まり、足下が崩れるような感覚と同時に視界がぼやける。《幻像形態》による、軽微の怪我と意識のカットのよるものだ。

 そのまま、ステラは膝から崩れ落ちる。

「勝負あり!勝者、黒鉄一輝!」

 黒乃が勝者の名を告げると同時に束はストップウォッチを止め、右ポケットから手で包めるぐらいの大きさの石を取り出して一輝の元に駆け寄る。

介添人(セカンド)の権限により、選手の治療を行います!」

 そう宣言し、一輝の額に右手を当て石を当てる。

 石を当ててすぐに一輝の体が崩れ落ち、束が支える。

「理事長!二人をすぐに保健室へ!」

 ステラを肩で抱える黒乃に束は言った。

「いや、カプセルを使うほどではない。このまま黒鉄の部屋に運ぶぞ」

 そう言いながら黒乃は一輝が出できた入場口に向かう。束もそれに付いて行く。

 

 こうして、炎と修羅の戦いは一輝の勝利で幕を閉じた。

 




魔力が人が生まれ持った運命の重さに比例するとは思えない。

どうも皆さん、お兄ちゃんです。
初長話、初戦闘描写……ホント疲れました。早くこの話を完結させようという思いで書きました。
どこか変な部分があればなんでもいいので教えていただければ、幸いです。
何とか説明口調は直しましたけど、難しいですね……

それでは次回は一輝の過去、秘密が明かされます。
ではノシ

追記 最弱は「さいじゃく」とそのままのかなで読んでください
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