ラノベ転生 ―底辺社畜、昔好きだったラノベの世界に転生するも転生先は暗黒系鬱ラノベの世界だった件。せっかくなので鬱フラグをへし折って殺されるはずだった女の子たちを助けます― 作:哀原正十
螺旋階段を上って校舎の屋上へと向かう。
結局僕は校舎の屋上へと向っていた。深い理由はない。ただ、何となく人のいなさそうな所に行きたかったのと、もう一つ。
なんとなく、あのキャラがいるんじゃないかという気がしていたから。
螺旋階段を上り終えて扉の前に立つ。僕はその扉を緩く押した。
「ううぅっ!」
「!」
……とんでもない姿を見てしまった。
僕は心臓をバクバクさせながら扉を開けた体勢のままで固まっていた。
――生徒会長、神宮司ルナ。
白色の長髪。鋼鉄のような無表情。そして天使のように整った美貌。だが、今その美貌は大きく無表情を崩し、両目から大粒の涙をポロポロと流して、慟哭していた。
そのキャラのイメージに反する姿に僕は情けないことに魅入ってしまった。あんまり美しかったからだ。まるで天使のように。清らかな雰囲気を纏い、美しい虹の宝石を瞳からポロポロ零す。その姿が、天使としか形容の仕様がない程美しかったからだ。
(――設定資料集に神宮司ルナは屋上で黄昏るのが好きと書いてあったからもしやと思いきや本当にいた。しかも、泣いている……美しい……)
「っ! そこにいるのは誰ですか!」
生徒会長がこちらにハッと気づき、涙を腕で拭って振り向く。僕は反射的に逃げようとしてしまうも、
「逃がしません!」
「!」
僕の目の前に突如として巨大な鏡が現れ、僕の退路を防ぐ。ザッザッと距離を詰めてくる生徒会長に僕は諦めて相対することにした。
「あなたは……数日前魔人を討伐した生徒ですね」
生徒会長の神宮司ルナは僕のことを覚えていた。僕は「はい」とだけ答えた。生徒会長は僕の肩をガッと掴んで、
「今見たものは忘れなさい。これは命令です」
「は、はい……」
有無を言わさぬ迫力があった。だが、それでも気になるものは気になる。だから僕は尋ねてみる。
「あの、なんで泣いていたんですか?」
「……」
眼光が鋭くなる。だが、僕は引かない。おお、闇蔵アキラブレインが働く。闇蔵アキラはこ狡いことは大得意だ。
「正直に教えてくれたら誰にも言いませんから」
「……本当ですか?」
「はい。誓って」
本当だ。別に教えてもらえなくたって誰にも言うつもりはない。ただ、どうしても気になって仕方がない。
なんで、あんな哀しそうな表情で涙を流していたのか。
「……その言葉、信じますよ」
「はい」
僕が強く頷くと、生徒会長はおずおずと話し始めた。
「……単純な話ですよ」
髪を手で搔きながら、生徒たちが群生する校舎下を見ながら。
「この前の戦いで多くの生徒が死んでいったことがたまらなく悲しかったからです」
「あ……」
僕の脳裏に一つの光景が浮かぶ。
【誰か、誰かハルカを助けてくれよォーーーッ!】
(……そうか。あの悲劇は光津キョウくんにだけ起きた悲劇じゃない。他にも無数の、同じような悲劇が生まれていたんだ。それを生徒会長は悲しんでいたんだ……)
「死。ありふれた言葉ですが、これほど悲しい概念もありません。親しい人と永遠に会えなくなる。こんな哀しいことが他にありますか。そんな悲劇が無数に生まれた。そのことが悲しくて悲しくて……誰もいないこの場所で泣いていたのです。それだけのことです」
「会長……」
生徒会長神宮司ルナ。
きっとこの人はとても純粋で、とてもいい人なんだろうなと思った。
その能力に関係なく、死んでいいような人間じゃないと、そう思った。
でも……。
「……先輩は」
「はい」
「もし間近に死が迫っているとしたらどうしますか」
この人を助けて。そして。
また光津キョウ君みたいな悲劇が増えるなら。
「決まっています」
僕はどうしたらいいんだろう。
「最後の最後まで死に抗うだけです」
「抗う」
「はい。抗います。それが生きている人間の定めですから」
「!」
生きている限り、死に抗う。
当たり前で、でも、その価値観は、僕の胸に新鮮な輝きを伴って響いた。
(そうか。抗っていいのか……)
「もう話はいいですか? 約束通り話しましたよ。ここで私が泣いていたことは絶対の秘密ですよ」
「はい。墓場の下まで持っていきます」
「よろしい。では、失礼します」
タッ、タッ……。
生徒会長は螺旋階段を下っていく。屋上に残された僕は風に吹かれながら思う。
(死に、抗う。それが生きている人間の定め、か……少しだけ、もやもやが晴れた。でも、まだだ。まだ話さなきゃいけない相手がいる)
僕もまた階段を下る。一つの決意を胸に秘めて。
(光津キョウ君と話さなければならない)