ラノベ転生 ―底辺社畜、昔好きだったラノベの世界に転生するも転生先は暗黒系鬱ラノベの世界だった件。せっかくなので鬱フラグをへし折って殺されるはずだった女の子たちを助けます― 作:哀原正十
「この学園にスパイがいる」
ある日。
HRの時間。
学園に登校した僕らが真っ先に聞かされたのはその言葉だった。隣の席のキサラちゃんが耳打ちしてくる。
「スパイだって。知ってた?」
「予想はしてた」
「凄い」
ちなみに前の席には本郷タケシと夢川アユムがいる。4マンセルの絆を日頃から深められるようにという配慮だ。それなりに効果はある。実際人柄を知っているかどうかで連携のしやすさは全然違ってくる。と、今は本筋には関係のない話だったか。
閑話休題。
教師の話は続く。
「この前の魔物・魔人の大規模襲撃の時、何故か学園の主要重要施設が内から破壊されていた。現在は修復されているが、魔物が外から襲撃出来ない以上、内部にいる人間の犯行の可能性が非常に高いと結論づけられた。実際、魔人のシンパとなる人間が内部工作を働いた例はソドム学園のナックル事変の例のように実在する。今回の事件もおそらくそうだろう」
「先生、犯人に目星は立っているのですか」
クラスメイトの一人、頭の良さそうな眼鏡をかけた生徒が挙手して尋ねる。教師は果たして頷いた。
「ああ。当日とその前後の人物の流れを整理して不自然な動きをしていた人間を幾人かピックアップしている。該当する人物は」
そうして教師は黒板に該当する人物の名前をピックアップしていった。
「以上の5人だ」
咄嗟に噴き出さなかった僕の忍耐力を褒めて欲しい。何で僕の名前がリストアップされているのか。クラスメイト達がざわざわと僕を見る。本郷タケシがその妙に実写的で濃い目の顔を驚きに見開いて言う。
「アキラ、まさかお前……」
「違う」
夢川アユムがピンクのツインテールの先っぽを弄りながら視線を合わせず、
「あーし、実は前からアキラっちのことどこか胡散臭いと」
「違うから」
「アキラ、私は信じてるわよ」
「キサラちゃん!」
おお、信じる者はキサラちゃんだけだ。教師はため息をついて付け足した。
「最後のアキラは一応だな。あまりにも不審な点が多いが、当日はここで授業を受けていたし、魔人を撃退したし、あまり疑われていない。ただし、その上で幾つか怪しい点があるので一応な。一応」
「はぁ」
一応で疑われるこちらの身にもなって欲しい。でも、以前まで魔人と内通していたのは事実なんだよな……。こう、霊介通信機でちょちょいのちょいと。ちょっと待て。もしその内通の秘密が学園にバレたら。
「闇蔵アキラ。私はお前を信じたい。だからこそ今後の釈明、納得できる言を吐いてくれよ?」
「あ、はい」
……なんだか想定外にヤバイことになってきた。そうだ。僕魔人のスパイじゃん。ちょっと前まではガチでスパイだったじゃん。ヤバイ、ヤバイぞ。疑われている現状はマジでヤバい。路上で柔道はマジヤバイ並にマジヤバイ……!
「それでは今日の授業を開始する。今日の授業は特殊兵装の成り立ちについて――」
授業が開始する。しかし、今日の僕は内的混乱で授業どころじゃなかった。どこか身の入らない気持ちのまま授業を受ける。おお、これからどうすればいいんだ。闇蔵アキラは元魔人のスパイ。その事実を絶対に明るみに出してはいけない。だから僕は決意した。
――完全犯罪を成し遂げてやる。
僕は決意した! もう誰にも止められない!
……半ばヤケクソで、僕は胸にそう堅く決意するのだった。
本当に、どうしてこうなった!