ラノベ転生 ―底辺社畜、昔好きだったラノベの世界に転生するも転生先は暗黒系鬱ラノベの世界だった件。せっかくなので鬱フラグをへし折って殺されるはずだった女の子たちを助けます― 作:哀原正十
その日、僕は人気のない校舎裏を歩いていた。
あるいはそうしていれば仕掛けてくると思ったのかもしれない。
果たして僕の目論見は当たった。
後ろから歩いてきた生徒がすれ違いざまに袖の下から警棒型の特殊兵装――凶器――を展開し仕掛けてくる。僕は指一本でその攻撃を受け止め、
「なっ!? あっ!」
そのまま敵を組み伏せた。そうして判明した相手は――。
「――袖下キキョウ。いや、2号と言った方が正しいかな」
「くっ、離せ!」
「離す訳ないじゃん。僕に何の用?」
「よくもイルミナティさまを殺したな!」
……やはりか。袖下キキョウ。女。黒のボブカットという見た目に反して字面の醜い髪型をしている事と、袖の下に凶器でも隠していそうな名前が特徴だ。袖下キキョウが僕に尋ねる。
「何故だ! 何故イルミナティさまを殺した!」
「何故って、彼は会長を殺そうとした。そして人類に仇なす大敵、魔人だ。殺す理由には事欠かない」
「ぐっ! それをスパイの立場の貴様が言うか!」
……声がでかい。このままでは誰かに話を聞かれてしまいそうだ。僕は最終手段に出ることにした。
「今から君の記憶を消す」
「えっ?」
「ごめん」
「ちょ、ちょっと待って。いや、イルミナティさまの事を忘れるのはいやぁーっ!」
「……」
僕は罪悪感を刺激されたので少し聞いてみることにした。何故そこまでイルミナティにこだわるのか。
「だって! イルミナティさまは私を可愛がってくださった。まだ初心な乙女だった私をイルミナティさまは手づから開発して……! って何を言わせる!」
「……」
思ったよりくだらない理由だった。R18ではあるが。ていうかあの魔人そんなことしてたのかよ。何か幻滅だな……。
「そ、そういう訳で私はイルミナティさまを殺した貴様を赦せない。あの人は私を育ててくれた。愛してくれた。そのイルミナティさまを……!」
「ああ。うん。じゃ、記憶消すね……」
虚無の魔法の応用だ。相手の脳に直接働きかけて虚無の効果を及ぼす。第1段階の応用でさして難しい魔法でもない。僕が記憶を消そうとすると、
「な、ま、待ってくれ! あの人に育てられた記憶を消されたら私はもう生きていけない。それは、それだけは……!」
「……じゃあ、消すね」
「お願いだから。もう狙わないから! あなたの正体も誰にもばらさないから! お願いします。お願いします!」
「……はぁ」
情に絆された訳ではないが本当に有言実行してくれるなら記憶を消す必要もない。僕は頭に当てた手をどけてため息をついた。
「行きなよ」
「えっ」
「ただし二度目はない」
僕は殺意を籠めてそう言った。ギン、と激しくにらみつける。袖下キキョウはビクッとして、それから立ち上がり身を翻した。
「は、はい! 失礼します!」
タッタッタッ……。
袖下キキョウは去っていった。僕はため息をつき、そして背を翻して自室へと戻るのだった。
「全く、情に絆された訳じゃないが、あくまで合理的判断をしただけだが、面倒くさい状況だよ全く……」
その日の夜。
ピンポーン。
「あ、誰か来たわ」
寮の自室にてキサラちゃんと今日の訓練の復習をしていると、インターホンが鳴らされた。
「はい。今いきます」
本郷タケシか夢川アユムか。そんなことを考えながら、僕が玄関の所まで行ってドアを開けると、そこには意外な人物が立っていた。
「こんばんは。アキラ君。ちょっと今からいいですか」
神宮司ルナ生徒会長からの直接の呼び出しだった。
屋上。
ルナ会長と話すときはいつも、ではないが屋上の率が高い。今日も今日とて屋上にて会話する。
ただ、普段はただの偶然だが、今回は人のいない所を意図して屋上に呼び出しらしかった。
「アキラくん。あなたは一体何者なんですか」
いきなりだった。
咄嗟の返答に窮する僕にルナ会長は続ける。
「その強さもそうですが、何よりあの魔人イルミナティとの会話です」
「やはり、ですか」
「はい。6号、と呼ばれていましたね。裏切り者とも。6号とは何ですか? 裏切り者とは何ですか? 一体あの魔人とはどういう関係だったのですか?」
「それは」
僕が言い淀んでいると会長は続けて、
「実は学園側のアキラ君への容疑はまだ晴れていません。人類会議にも話を通して今後の対応を検討している段階です」
「やはり、ですか」
「はい。でも、私はアキラ君のことを信じたい。でも、無邪気に無根拠に信じるのは違うと思うんです。だから、答えてください。6号とは、裏切り者とは何なんですか?」
「それは……」
嘘を答えるのは簡単だ。その程度の口は回る。だが。
ここまで真摯に向き合ってくれる会長に嘘をつくのは何か違う気がした。だからと言って正直に答えられる問いでもない。僕は俯き、ただ押し黙る事しかできなかった。ルナ会長は寂しそうに、しかし笑って。
「答えられない、ことなんですね。分かりました。私からはこれ以上は何も聞きません。失礼しました」
ザッ、ザッ。
ルナ会長は去っていく。僕はその場に立ちすくみ、うな垂れた。このまま嘘をつき続けることに限界を感じた。だが素直に打ち明けることもできない。僕はどうしようもなく行き詰まっていた。
「僕はこれからどう生きればいいんだろう……」