ラノベ転生 ―底辺社畜、昔好きだったラノベの世界に転生するも転生先は暗黒系鬱ラノベの世界だった件― 作:哀原正十
「会長、ルナ会長!」
「うーん、アキラ、くん……?」
「はい、僕です。無事ですか会長」
その後。
ズボンをはき直した俺は何事もなかった風を装ってルナ会長を起こした。当然の判断。果たして会長は不審がることなく僕の言葉に応じるのだった。
「はい。あれ? 魔人ガルティアは?」
「ガルティアは僕が倒しました」
「え? 本当に?」
「はい」
本当です。
その言葉を口にするのは若干ためらいがあったが口にした。僕が倒したことに間違いはない。それに本当のことを口にする意味もこの場ではない。果たしてルナ会長は瞳を潤ませて、
「……アキラ君」
ガバッ!
と、僕に抱き着くのだった。
「か、会長!? 会長?!」
「素晴らしいです……あんなに強い魔人ガルティアを一人で倒すなんて……よく頑張りました」
「うっ」
ズキリ、と胸が痛んだ。だが、この秘密は口にするわけにはいかない。墓まで持っていく覚悟だ。だから僕は言った。
「はい。頑張って倒しました。頑張って」
「う~。偉いです!」
抱きっ。
さらに強く会長は僕を抱きしめた。僕は昇天しそうになった。果たして会長が落ち着くまで、僕は抱き着かれたまま決して自分からその抱擁を解こうとはしなかった。やましい想いはない。断じてない。
「あ、ケン、サクラ。それにキョウくんに、サスケさん」
「おーう。そっちも倒したか」
剣ヶ丘ケン先輩たちの元に戻ると全員無事だった。そこには何匹か魔物の死体が追加されていたがそれだけだった。どうやらさして敵はこなかったらしい。ルナ会長が僕の腕をガシっと掴み、そして持ち上げて言う。
「この闇蔵アキラくんが見事魔人ガルティアを討ち取りました! 私じゃなくて闇蔵アキラくんが!」
「……なんか嬉しそうですね、会長」
「はい。ようやく私に匹敵する、いや越える戦力が現れたのです。私の肩の荷も少しは軽くなったというものです」
(ああ、そうか)
この人は今までその肩に最強の二文字を背負って生きてきたのだ。その重圧たるや相当なものがあっただろう。その重荷を背負える相手が現れたからこそ僕にこれだけ心を赦しているのかもしれない。ようやく会長の僕に対する好意の理由が少しはっきりとした気がした。
「それで、どうやって帰るよ」
「どうやってって……バギーで」
「魔物の大群の中突っ切るのかよ」
「……」
「……」
皆が無言でサスケの方を見た。サスケは狼狽えながらこう言った。
「ひ、一晩あれば魔力が回復するはず、だ。それまでどうか持ちこたえられれば……」
「……どうする、会長」
「そうですね……力技で突破しましょう」
「えっ」
会長は力こぶを作って素晴らしい笑顔で言った。
「インフィニット・アーク!」
ズガァアアアアアアアアアン!
……統制が取れてない故に散発的に襲ってくる魔物を退治しながら30分程チャージしたインフィニット・アークを城の入り口から外に向かって放射状に発射。それだけで視界の中の魔物は殆どいなくなった。会長が額の汗(健康的で眩しい)を拭って言う。
「敵はあらかた片付きましたね。さぁ、バギーで帰るとしましょうか」
「……俺、この作戦に必要あったか?」
サスケが神妙な面持ちで言う。それは僕も思った。多分みんなが思った。でも行くときは会長がここまでの力技で問題を解決できるなんて思わなかったんだ。思わなかったんだよ……。
何とも言えない雰囲気の中、バギーは進む。一路、学園に向けて。何だかんだで魔人ガルティアの討伐を成し遂げたのは本当なのだ。僕は色々思う所もあったが、それでも気楽な思いを、学園への帰路をバギーの中で抱くのだった。