ラノベ転生 ―底辺社畜、昔好きだったラノベの世界に転生するも転生先は暗黒系鬱ラノベの世界だった件― 作:哀原正十
学園の出迎えは盛大な物だった。
魔人ガルティアの存在とはそれ程大きかったのだろう。人類が動きを起こす際、真っ先に動きを起こすのは大抵ガルティアだった。人類の監視役。その役目を帯びたガルティアを排除できた今、人類の作戦の幅は大きく広がることだろう。僕たちは人類全体に大きな貢献をしたことになる。人類会議もこれでもう文句は言えないだろう。僕が人類に貢献できる人材であると証明されたのだから。
出迎えの声で特に大きかったのは会長の無事を喜ぶ声だった。色んな所から、
「会長―! よく無事で帰ってきてくれました!」
「会長―! 俺と結婚してください! 俺と!」
「うっ、うっ。俺の天使が死ななくてよかった。よかったよぅ……」
みたいなキモい声が聞こえてきた。うん。会長の人気は凄まじいな。僕をねぎらう声なんて一つも聞こえなかったからね。うん。ケン先輩や、サクラ先輩をねぎらう声はあったけれど。まぁそれだけ先輩方がこれまで学園に貢献してきたという証だろう。だから、特に思う所はなかった。
「アキラ―」
ふいに僕の名前を呼ばれた。反射でそちらの方を向く。そちらには、
「やったわね! 流石アキラ!」
キサラちゃんの眩しい笑顔。僕はキサラちゃんに手を振った。キサラちゃんも手を振り返してくる。おお、なんて嬉しいんだろう。やはり頑張りが正当に報われるのは素晴らしいことだ。うん。
そんな感じで僕たちは学園に凱旋した。やはりこの学園が好きだ。改めてそう思える歓迎だった。
その後のことは手短に語ろう。
「よくやった。闇蔵アキラ。これでもう人類会議が君に関して何か言ってくることもないだろう。君は結果を出したのだからね」
生徒会会議。その場で、僕は学園長から直々にそう言われた。ようやく僕は再びの自由を手に入れた。
「この度は本当によくやってくれた。あの魔人ガルティアがいなくなれば人類も随分動きやすくなる。またその内作戦行動があるだろうがそれまではゆっくり学園生活を送るといい。もう一度言う。よくやってくれた」
僕は再びの愛する学園生活を取り戻した。やはり僕はこの学園が好きなのだ。以前会長が言っていた、この景色があるから戦える、その台詞の意味がちょっと分かった気がした。
隠流サスケは解放と相まって学園直属のスパイとなった。その反則的な隠ぺいの力をこの度の作戦で高く評価されたからだ(ただし頭に爆弾は埋め込まれたまま)。実際、すさまじく有能な力だと思う。これからもその力を学園で振るう関係上顔を合わせることもあるだろう。嫌いな奴ではないのでまぁ仲よくやっていけたらいいなと僕は思っている。
光津キョウ君は今回の戦いでまた一皮むけた。訓練中にもひやりとするような一撃を放つことが度々あった。凄まじい伸び方だ。新しい必殺技も習得したしキョウ君の伸びしろには今後も期待したい。
そして今回の戦いで僕に次いで活躍した会長は。
「アキラく~ん」
その日。
キサラちゃんに今回の一件について話していると、会長が突然やってきた。
「一緒にご飯食べましょー」
らしい。僕は特に断る理由もなかったのでOKした。キサラちゃんが何だか唸っていたけどあれは何だったんだろう?
「美味しかったですねー」
「はい。この食堂どのメニューもレベル高いですよね」
食堂で会長と食事を取った。美味美味。今日のメニューは海鮮丼。冷凍保存された海の幸の旨味が火を噴くデリシャスな一品だった。
「……学園生活、好きですか」
「え? 急に何ですか」
「いえ。アキラくんは学園生活を楽しんでいるように見えるので」
当然だった。あの憧れのヴァルハラ学園で日々を過ごせるのだ。そりゃバイオレンスな日常に辟易とすることもあるが、それでもキサラちゃんやキョウくんや会長と過ごす学園生活は楽しい。
「そうですか。それは良かったです。……ね、アキラくん」
「はい。何ですか」
「実は私あの時、起きてたんです」
僕の全身からぶわっと冷や汗が噴き出た。あの時っていつだ? ズボンを脱いだ時か? ズボンを脱いだ時か? それともズボンを脱いだ時か? それしか思い浮かばない。猛烈に勢いで汗を掻く僕に会長は言った。
「あの、魔人ガルティアと戦っている時、アキラ君の雰囲気が突然変わったように見えました。あれは……何だったのでしょうか」
「それは」
「それは」
僕はほっとしながら答えた。
「あれは、封じられし禁断の力みたいなものなんです。危険で、そう簡単には封印を解けない。そういう類の力を行使したと。そう理解してください」
「なるほど。……危険な力、何ですね」
「はい」
間違ってはいな。あれは危険な力だ。もし僕の意識が戻らなかったら僕は先輩を。
ブルリ。
と僕は体を震わした。イケない想像をしてしまったからだ。先輩は言う。
「分かりました。それ以上は言及しません。この話はこれで終わりにしましょう。……ええ、終わりにしましょう」
会長は何故か顔を赤くして、話題を割けるようにしてそう言った。何なのだろうその反応は。まるで触れたらいけない話題を避けるかのよう。そう言えばどこまで起きていたかっていうのは聞いていなかったな。聞くべきだろうか……。
……やめた。聞かないでおこう。世の中には灰色にしといた方がいいこともある。先輩は何も知らない。それでいいんだ。僕がズボンを降ろしていたことなんて知らなかった。それで、それでいいんだ。
「アキラ君」
「はいっ!」
会長がゴホンと咳払いし真面目な顔を創る。それから、僕の手を握って言った。
「これからも私と一緒に学園のみんなを守っていきましょうね」
ギュッ。
僕の手を握りながら語るその瞳はどこまでも真剣だった。やましい所など何もない。綺麗で、真剣な瞳だ。だから僕も真剣に答えた。
「はい。必ず」
ギュッ、と。
僕もその手を握り返した。会長は微笑んでくれた。色々な重荷を背負っている会長の重圧を僕が少しでも背負ってあげられたらいい。そう思った。
会長もまた、僕の大事な人だから。